上 下
5 / 27

4話 父上の愛

しおりを挟む
「私の娘がどうした?」

 後ろを振り返る。この声は父上だ。あぁついにこの時が来てしまった。体を縮めて丸くなる。

「その前に国王陛下、ウィリアム王子、ネオ男爵令嬢は中へ。ロアナはその顔ではパーティーには参加できない。家に帰りなさい」
「はい。父上」

 これで終わりなのだ。父上は一瞬ため息をついた。私に絶望し後日勘当されるだろう。父上には落ちぶれた姿など見せまいと最後まで我慢してお辞儀を一つすると顔を前髪だけじゃなく手でも隠しながら出入口から出ていく。

「帰ってちょうだい」

 自分の馬車に乗り込むと前に御者がいるにも関わらず席に突っ伏して泣いた。

なぜ私がこんな目に合わなければいけないの。なぜ私は父上を満足にしてあげられないの。

 そんな自分を責める言葉ばかりが出てきた。

私は生きている意味などないのだわ。

「お嬢様、着きました」
「...えぇ」

 馬車を降りる。降りる時にいつもお礼を言うはずの私もその時ばかりは忘れていた。それくらい父上に勘当される事実が私の中で大きかった。

「ただいま戻りました」
「ロアナお嬢様、どうされたのですか?お早いお帰りですね」

 使用人の1人に話しかけられる。下を向いて俯いていると何かを察したのかすぐに自分の部屋へ連れられてパーティー用のドレスから寝巻きに着替えさせられる。

「お嬢様、こちらで目元を温め下さい。腫れてしまいます」
「...何から何までありがとう。世話になったわね」

 せめて今までのお礼を言っておこうと使用人が扉から出ていく直前に慌てて言う。父上や母上もこんな慌ててお礼を言うしか出来ない私の引っ込み思案な性格が愛してくれない理由なのかしら。

 もう近いうちには勘当されるのだ。父上からそんなことを告げられるなんて考えるだけで辛い。それなら命をもうたってしまうのも手かもしれないわね。

「確か...ここに、あったはず」

 本棚の奥に手を伸ばして探す。幼い頃に拾った本だ。父上や母上が来た時もし知らない本が本棚にあって拾ったと知られれば貴族として恥ずかしいと捨てられるかもしれないと思い隠してあったものだ。これは何故か捨てられなかった。可愛い表紙に目を惹かれたのもある。だがそれ以外にこんな分厚い本なのにたった一ページしか書かれていないのだ。魔法だと説明に書いてあるが何の魔法かは書かれておらず注意書きに《この魔法を使ったものは命を落とす可能性が限りなく高い。切羽詰まった場合に使うべし》と書いてある。よく分からないが多分成功はしないだろう。だから呪文を唱える。

「エル...リオル...ロシアンシア...ディ...セプション」

 噛まずに言えた。その瞬間、体が光を放ち体の奥から何か熱く痛いものがくるような感覚に陥った。尋常ではないほどの痛みにおそわれ自分の部屋の床に倒れ込む。それと同時に本が落ちて砂のように散っていったのも見えた。

 それを最後に暗闇に意識は落ちていった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する

白バリン
ファンタジー
 田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。  ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。  理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。  「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。  翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。  数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。  それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。  田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。  やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。  他サイトでも公開中

嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが 抱き合う姿を目撃して倒れた後から。 私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。 のんびり更新。

魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです

ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。 侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。 アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。 同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。 しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。 だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。 「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」 元々、これは政略的な婚約であった。 アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。 逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。 だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。 婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。 「失せろ、この出来損ないが」 両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。 魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。 政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。 だが、冒険者になってからも差別が続く。 魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。 そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。 心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。 ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。 魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。 その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。 何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。 これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。

ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~

飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』  ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。 ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。 ※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

悪役令嬢は頑張らない 〜破滅フラグしかない悪役令嬢になりましたが、まぁなるようになるでしょう〜

弥生 真由
恋愛
 料理が好きでのんびり屋。何をするにもマイペース。そんな良くも悪くも揺らがない少女、 陽菜は親友と共に事故にあい、次に目覚めたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていた。  この悪役令嬢、ふわふわの銀髪に瑠璃色の垂れ目で天使と見紛う美少女だが中身がまぁとんでも無い悪女で、どのキャラのシナリオでも大罪を犯してもれなくこの世からご退場となる典型的なやられ役であった。  そんな絶望的な未来を前に、陽菜はひと言。 「お腹が空きましたねぇ」  腹が減っては生きてはいけぬ。逆にお腹がいっぱいならば、まぁ大抵のことはなんとかなるさ。大丈夫。  生まれ変わろうがその転生先が悪役令嬢だろうが、陽菜のすることは変わらない。  シナリオ改変?婚約回避?そんなことには興味なし。転生悪役令嬢は、今日もご飯を作ります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...