弟に逆らえない皇帝は軟禁されています

三話 皇帝の父

「やだ！やだ！やだ！助けて！誰か」

　僕は自分が何を叫んでいるのかも分からず痺れた足を必死に動かしながら扉の方へ向かう。やっぱり僕は馬鹿なのだろう。お仕置きが厳しくなると分かってて抵抗することをやめない。

「逃げちゃダメだよ」
「ひっ」

　真後ろまで迫る悪魔。怖くなり扉を背に座り込む。不意にガチャっという音がして扉が開く。扉に寄りかかっていた僕は後ろに倒れる。

「何しに来たの？父さん」
「鍵を返しに来ただけだ。お前が言ったのだろ？」

　そう言うと父上は鍵を出し弟に渡す。これでもう弟しか鍵を持っている人物はいなくなった。

「父さんは隠居して余生を過ごすんだっけ？」
「あぁそうだ。前に言った時に空気が澄んでいて景色も綺麗でな」

　親子の普通の会話。その間で倒れている皇帝である僕。普通でないその状況に二人は普通の光景であるかのように話をする。人払いがいつもされている僕の部屋の周りには誰もいない。

「そう。良かったね」
「父上助けてくださいっ」

　僕は最後の思いをかけ父上の足にすがりつく。皇帝のマントが揺れる。

「ごめんな。私には助けることはできない」
「そんな...」

　唯一の希望が打ち砕かれる。父上は弟に目配せをすると弟は頷いた。扉を閉め私を抱き抱えソファーへと連れていく。僕を座らせると向かいに座る。僕はただ泣くことしか出来なかった。弟が僕のすぐ隣に座る。存在自体が怖かった。

「弟の言うことは全て聞きなさい。言えることはそれだけだ。抱きしめてもいいかい？」