魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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 お腹の奥深くからジンジンと痛みにも似た疼きが湧き上がってくる。
 ずっと聞こえていた音は止んで今はとても静かになった。
 興奮が冷めてくると少し肌寒さを感じたのだけれど、体を震わせたらすぐに毛布がかけられた。
 多分少しの間私は意識を失っていたと思うのだけれど、気がつくと彼女の攻めから解放されていた。
 裸のまま放って置かれたのは少し酷いと思ったけれど、すぐ側で膝を抱えて蹲る彼女に文句も言えず、黙って毛布にくるまっている。
 時々こちらを伺っているようだけれど……どうしようかしら……どちらかと言えば泣きたいのは襲われた私の方だと思うのだけれど、どうも彼女ショックを受けている様子なのよね。
 まぁ、普通はそうよね。途中からどうも様子がおかしかったし……考えたくはないけれど、多分私のスキルのせいよね。誘惑レベル10だものねー。百合~の方も5レベルだったかしら? 普通の女の子に抵抗できるとは思えない……というか、今までこんな事はなかった。お店の人にいきなり襲われるなんて……もしかして、裸になったから? それで誘惑の効果が発動した? あれは別に誘った訳ではないと思うのだけれど、スキルが状況を判断するとは思えないから、裸になる=相手を誘っている。故にスキルが効果を発揮した。
 多分そういう事だろうと思う。今毛布を脱いで彼女に近付けばわかるかもしれないけれど、またさっきみたいな事は……別に嫌じゃないけど、彼女がね? これ以上は可哀想よ……ね。
 ああ……駄目だわ。こうして自分に言い聞かせておかないと体が勝手に動いてしまいそう。
 とにかくこの場を納めて宿に帰らないとね。

「ーー癒しの光」

 まずは失った体力の回復。スタミナまで回復するこの魔法ホントに便利だわ。まぁ、アレを連戦する為だと思うと少し複雑だけども。
 それから、服を着ないといけないのだけれど……毛布の中で着替えるのは大変ね。でも今は我慢して……。

 よし。着替え終了。もちろん濡れ濡れ下着は交換済みよ。流石にアレをそのまま履くのは私でも嫌だわ。
 それでは彼女の方をなんとかしましょうかねー。

「店員さん?」

 私の呼び掛けにびくりと体を震わせた。やっぱりちょっと怯えているみたい。

「顔を上げてくださる?」

 膝を抱える手に力が入る。顔は……上げてくれそうにない。下着を買いに来た十代の少女に襲いかかってあんな事をしたら……確かにどうしていいかわからないわよね。その気持ちは十分理解出来るのだけれど、このままずっとこうしているわけにはいかない。

「ーーねぇ、いつも先程のような事をするのかしら?」
「ーーし、しません!!」

 思わず反論。そんな感じで顔を上げてしまった彼女。私と目が合うと視線が泳ぎだして、泣きそうになる。

「そう? でもとても気持ちが良かったから慣れているのかと思ったわ。うふふ……」

 下顎に指を当て小首を傾げる。なんで私が淫乱娘みたいな役どころを演じなければいけないのかしら……間違ってはいないけれど、認めたくはないのよ、一応。

「え、あ、いやあの……」
「驚いた? 別にアレくらいは平気よ? いきなりだったから驚いたけれど……。あなたは先程が初めてなの?」
「もちろんです! か、彼ともそんなにはした事なくて……なのに女の子にあんな事をしてしまうなんて……私、私……」

 いやいや、あなたの性事情はいいのよ別に。彼とは勝手に仲良くしてちょうだい。

「ごめんなさいね。もしかしてだけれど、私が服を脱いだあたりから変な気持ちにならなかったかしら? 例えば……目の前の女の子を抱きしめたいとか? この肌はどんな手触りだろうとか?」
「………………あの、普段もお客様をお褒めするので肌やスタイルなんかには気を配るんですけど……さっきは何というか、私自身が触れたくて、触り心地を知りたくて……それで……」

 自分で自分がわからない。そんな様子で少しづつ話してくれる。多少誘導している気はしなくもないけれど、それは仕方がないわよね。

「それで私を襲ってしまったわけね」
「あ、その……ごめんなさい。謝って済む事ではないかもしれませんが……」

 土下座でもしそうな勢いで床に手をついて頭を下げるーーというか、床に座っている今だとそのまま土下座ね。こちらにもそういう文化があるのかしら、どうかな……。

「そっか……それじゃ気にしなくていいわよ」
「えっ!?」
「先程の事は忘れなさい。あなたは悪くない……とまでは言わないけれど、あなたのあの行動の引き金は私にあるみたいだから」
「え、何で? 何がどういう事……なんですか?」
「んーあなた女の子にああいう事をするの初めてでしょう?」
「は、はい。もちろんです。あの彼とも……」

 だから、それはいいのよ。

「そんな子でも私に引き寄せてしまう……どう言えばいいかしら……そうね、ある意味呪いのような力が私にあるのよ。多分、サイズを測る為に脱いだのがいけなかったのだと思うわ。そのせいで私の力が誤作動というか、あなたを誘惑していると判断したのね。あの時あなたは私の事しか考えられなくなっていたでしょう?」
「………………」
「だからいいわよ。気にしないで忘れて。幸いあなたの方は酷い目に遭わなかったでしょう?」
「それは……私が酷い事をしたからで……」
「だから、私がそれを気にしていないし、そもそもあなたの行動にも私の呪いが影響を与えたと思うの。だからあなたは悪くないわ。ね? 虫にでも刺されたと思って忘れてしまいなさい。あとは……そうね。あなたに迷惑をかけてしまったお詫びに先ほどの下着を買って帰るわ。お会計していただける?」

 立ち上がって彼女の手を引き立ち上がらせる。

「測ったサイズは覚えている? 覚えてなければーー」
「お、お、お、覚えています! 大丈夫です!!」

 慌てて手を引いて私から離れようとする。流石にそれは少しショックだわ……。

「ご、ごめんなさい!? ぁの……そういうつもりでは……」
「気にしなくてもいいわ。また……そう考えたら怖いわよね。その気持ちはわかるわ。だから気にしないで。ほら、お会計」
「は、はい。少々お待ちくださいーー」

 足早にレジに向かう彼女について行く。
 ハァ……どうしてこうなったのかしら。
 可愛い下着を買えたのは嬉しいのだけれど、彼女には申し訳ない事をしてしまったわね。
 まさか、こんな形で誘惑スキルが影響するだなんて……。アンはいつも平気なのかしら……?
 あとで聞いてみましょう。それと、人前で裸は厳禁ね……私から脱ぐことはないとは思うけれど……。
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