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第四章:プリンセス、聖都に舞う
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翌朝、ギルドはいつもの雰囲気を取り戻していた。討伐隊を讃える声や迅速な解決を喜ぶ声がそこかしこから聞こえてくる点を除けば、概ねいつも通りだと思う。
……そう言い切れるほどこのギルドの利用歴は長くないのだけれど……。
私もいつも通り気配遮断を使った状態でワードさんの窓口へ向かう。
昨日のゴタゴタのせいで討伐と収集クエストの報告をし忘れていたのでそれを済ませておかなくてはいけない。特に期限のあるクエストではないので急がなくてもいいのだけれど、順番に消化していかないといつまで経っても本来のランクのクエストを受けられない。
それはとても効率が悪い。なので足取り軽く担当さんのところへ向かうのでした。(まる)
それにしてもいつ見てもワードさんの所は誰もいないけれど……まさか担当冒険者が私一人とかないわよね……? ちょっと怖くて聞けないわこれは……。
「おはようございますワードさん」
「あ、お、おはようございます。キラリさん」
少し慣れたのかしら、いつもより驚きが小さかった気がする。気配遮断からの呼びかけって相当びっくりすると思うのだけど……まぁそう思いながらやってる私も私だけれども、変な人に絡まれたくないのだから仕方がないわよね。
魔法とフード付きマントで気配と顔を隠して忍び寄る……まるでアサシンね。魔法暗殺者ーーマジカルアサシンキラリちゃん……変なラノベみたいだわ。笑えない。
「もうご存知かもしれませんが例の木の討伐が完了していますので、森への立ち入りはいつも通りに戻っています。ご安心ください」
「さすがですね。昨日の今日で解決しているだなんて。さすが王都の冒険者ですね」
取り敢えず適当に持ち上げておこう。低ランクの駆け出し冒険者らしく……ね。
「いえ、実は討伐隊が到着した時には既に枯れてしまっていたようなんです。恐らく急激に成長する代わりに短命だったのでしょう。回収された実もどうも芽吹かないようですし……」
「それは……なんだか少し寂しい話ですね……」
自分でやった事とはいえ生物の根源的な部分だけになんだか切なくなる。
「そう……ですね。せっかくこの世に産まれたのに次の世代へと繋ぐ役目を担えない……確かに悲しいことかもしれませんね。ですが僕達人間にとっては幸いです。優秀な冒険者があっさり捕まってしまうほどでしたからね」
「そうですね……」
私も捕まりましたーーとは言えませんが、確かに強力な幻覚作用でした。私って結構耐性が高いと思うのだけれど、あっさりだったものね。油断大敵あんど装備品はしっかり装備しましょう! ということね。
でもまぁまさかゲーム同様装備しなくちゃ効果を発揮しないとはね……一体どういう原理なのかしら? なので今日からは左手薬指に銀の指輪が輝いています。
見てるだけで気分が上がるのよ。うふふ。
ーーさて本題に入りましょう。
「それではきらりさん、先日のオーナル草の件でお話があるのですが、今から大丈夫ですか?」
と思ったら先手を取られてしまいましたね。
そういえばあの時の報酬はお預け状態だった。素材のレア度が高すぎてすぐには判断できずギルドで一度預かってもらうことになった。その判断がついたのだと思う。
お金は……あっても困らないけれど、ランクアップが早まれば嬉しいのにな……。
勿論時間は大丈夫なのでそのように伝えると、ワードさんは立ち上がり奥の部屋へと私を案内していきます。
向かうのは初日に主任に連れ込まれた半個室ではなく完全な個室の方みたい。これはまさか!? ギルド職員に襲われるイベントか!?
ーーなんて、ワードさんに限ってそれはないか。
ゲームだと特定の条件を満たすと奥のミーティングルームに連れ込まれてエ○チするというイベントがあった。
ギルドから追放するとかなんとか脅されて仕方なく受け入れる。必死に声を殺して耐える美少女をバックから突きまくるというシーンがなかなか欲情する……俺くん……いい趣味してるわ……ホント。
でもね私はその必死で耐える方の役なので、お断りしますね……ちょっと興味はあるけれど……。
個室の中には卑猥な道具がーーあるはずもなく。
「ど、どうかしましたか?」
「いいえ。どうもしていませんよ」
危ない危ない。ほんの少し期待していたのがバレてしまうわ。
「どうぞ、こちらにかけてください。部長を呼んできますね」
「ーーあ、はい」
どうやら偉い人が出てくるみたいだけど……あ、やだ! ちょっと待って!
部屋を出ようとするワードさんに慌てて待ったをかけた。
「あの、ワードさん!」
「は、はい」
「あの……ですね。えっと、その、あの花の採取方法についてはどうなって……」
偉い人にも伝わっているのか。そこは重要だと思うの。だって……恥ずかしいじゃない?
「そ、それはですね……あの、冒険者の手の内を全ては明かせないとかなんとか理屈をこねまして伏せてあります。ただ……」
ワードさんはそこで言いづらそうに言葉を濁しはじめた。何となくだけれど想像はできる。でも一応確認しておく。思い込み厳禁。私は学習する女なのよ。
「……ただ?」
「あのですね。再度採取できる可能性は含ませてあります。場合によっては何度かお願いするかもしれんせんが、素材の価格が価格なだけにそれほど多くはご依頼出来ないと思いますので……どうか……」
うん。そういうものよね。確認した時は大体予想通りなのよ。まぁそれはともかく……。
「えっと……ワードさんのえっち……」
一瞬で真っ赤になってあたふたと慌てるところが可愛いかも。
「ち、ち、ち、違います! ぼ、ぼくはそういうつもりでは!!」
「うふふ。冗談ですよワードさん♪ 勿論必要ならお引き受けしますけど……でも……そうですね。一人でするのは寂しいのでその時は……手伝ってくれますか?」
少し胸を強調して上目遣い。さすがにあざと過ぎたかしら?
「なっ!?」
……そうでもなかったみたい。ただでさえ真っ赤なのにそこから更にもう一段階真っ赤になって慌てる姿は……やっぱり可愛いと感じてしまう。
「あ……」
「こ、これは、違います! 違いますから!! 想像してませんから!!」
……想像しましたね?
でもまぁ、鼻血が大変そうなので許してあげましょう。
「どうぞ。使ってください」
ーーと乙女の嗜み、ティッシュを差し出しておく。
これでも良家の子女ですからね私は。
その割に年上の男性をからかうというのはどうなのかしらと思わなくもない。うん。俺くんのせいにしておこう。
その後落ち着いたワードさんが上司の人を呼びに行き、例の黄金の花の報酬ーーさすがSランク素材。何と百万レンも貰ってしまった。
金額が金額なだけに通常の受付で渡すことが出来なかったみたい。若い女の子のソロ冒険者に大金だなんてまさしくカモネギ。タチの悪い奴らに狙ってくださいというようなものである。
一応そういったことがないようにと配慮してくれたみたいなのだけれど、私が先日の討伐と収集の結果を提出したところ、必要なかったかもしれないと苦笑されてしまった。
上司の人はワードさんに優秀な冒険者のようだ、しっかりとサポートしなさい。そのように声を掛けて退室していった。
四十代と思しきナイスミドルのおじさまだった。
ギルドの職員ってみんなあんな風に逞しいのかしら……と思いかけたけれど、目の前の人を見て思い直した。やはり個人差があるという事ね。
……そう言い切れるほどこのギルドの利用歴は長くないのだけれど……。
私もいつも通り気配遮断を使った状態でワードさんの窓口へ向かう。
昨日のゴタゴタのせいで討伐と収集クエストの報告をし忘れていたのでそれを済ませておかなくてはいけない。特に期限のあるクエストではないので急がなくてもいいのだけれど、順番に消化していかないといつまで経っても本来のランクのクエストを受けられない。
それはとても効率が悪い。なので足取り軽く担当さんのところへ向かうのでした。(まる)
それにしてもいつ見てもワードさんの所は誰もいないけれど……まさか担当冒険者が私一人とかないわよね……? ちょっと怖くて聞けないわこれは……。
「おはようございますワードさん」
「あ、お、おはようございます。キラリさん」
少し慣れたのかしら、いつもより驚きが小さかった気がする。気配遮断からの呼びかけって相当びっくりすると思うのだけど……まぁそう思いながらやってる私も私だけれども、変な人に絡まれたくないのだから仕方がないわよね。
魔法とフード付きマントで気配と顔を隠して忍び寄る……まるでアサシンね。魔法暗殺者ーーマジカルアサシンキラリちゃん……変なラノベみたいだわ。笑えない。
「もうご存知かもしれませんが例の木の討伐が完了していますので、森への立ち入りはいつも通りに戻っています。ご安心ください」
「さすがですね。昨日の今日で解決しているだなんて。さすが王都の冒険者ですね」
取り敢えず適当に持ち上げておこう。低ランクの駆け出し冒険者らしく……ね。
「いえ、実は討伐隊が到着した時には既に枯れてしまっていたようなんです。恐らく急激に成長する代わりに短命だったのでしょう。回収された実もどうも芽吹かないようですし……」
「それは……なんだか少し寂しい話ですね……」
自分でやった事とはいえ生物の根源的な部分だけになんだか切なくなる。
「そう……ですね。せっかくこの世に産まれたのに次の世代へと繋ぐ役目を担えない……確かに悲しいことかもしれませんね。ですが僕達人間にとっては幸いです。優秀な冒険者があっさり捕まってしまうほどでしたからね」
「そうですね……」
私も捕まりましたーーとは言えませんが、確かに強力な幻覚作用でした。私って結構耐性が高いと思うのだけれど、あっさりだったものね。油断大敵あんど装備品はしっかり装備しましょう! ということね。
でもまぁまさかゲーム同様装備しなくちゃ効果を発揮しないとはね……一体どういう原理なのかしら? なので今日からは左手薬指に銀の指輪が輝いています。
見てるだけで気分が上がるのよ。うふふ。
ーーさて本題に入りましょう。
「それではきらりさん、先日のオーナル草の件でお話があるのですが、今から大丈夫ですか?」
と思ったら先手を取られてしまいましたね。
そういえばあの時の報酬はお預け状態だった。素材のレア度が高すぎてすぐには判断できずギルドで一度預かってもらうことになった。その判断がついたのだと思う。
お金は……あっても困らないけれど、ランクアップが早まれば嬉しいのにな……。
勿論時間は大丈夫なのでそのように伝えると、ワードさんは立ち上がり奥の部屋へと私を案内していきます。
向かうのは初日に主任に連れ込まれた半個室ではなく完全な個室の方みたい。これはまさか!? ギルド職員に襲われるイベントか!?
ーーなんて、ワードさんに限ってそれはないか。
ゲームだと特定の条件を満たすと奥のミーティングルームに連れ込まれてエ○チするというイベントがあった。
ギルドから追放するとかなんとか脅されて仕方なく受け入れる。必死に声を殺して耐える美少女をバックから突きまくるというシーンがなかなか欲情する……俺くん……いい趣味してるわ……ホント。
でもね私はその必死で耐える方の役なので、お断りしますね……ちょっと興味はあるけれど……。
個室の中には卑猥な道具がーーあるはずもなく。
「ど、どうかしましたか?」
「いいえ。どうもしていませんよ」
危ない危ない。ほんの少し期待していたのがバレてしまうわ。
「どうぞ、こちらにかけてください。部長を呼んできますね」
「ーーあ、はい」
どうやら偉い人が出てくるみたいだけど……あ、やだ! ちょっと待って!
部屋を出ようとするワードさんに慌てて待ったをかけた。
「あの、ワードさん!」
「は、はい」
「あの……ですね。えっと、その、あの花の採取方法についてはどうなって……」
偉い人にも伝わっているのか。そこは重要だと思うの。だって……恥ずかしいじゃない?
「そ、それはですね……あの、冒険者の手の内を全ては明かせないとかなんとか理屈をこねまして伏せてあります。ただ……」
ワードさんはそこで言いづらそうに言葉を濁しはじめた。何となくだけれど想像はできる。でも一応確認しておく。思い込み厳禁。私は学習する女なのよ。
「……ただ?」
「あのですね。再度採取できる可能性は含ませてあります。場合によっては何度かお願いするかもしれんせんが、素材の価格が価格なだけにそれほど多くはご依頼出来ないと思いますので……どうか……」
うん。そういうものよね。確認した時は大体予想通りなのよ。まぁそれはともかく……。
「えっと……ワードさんのえっち……」
一瞬で真っ赤になってあたふたと慌てるところが可愛いかも。
「ち、ち、ち、違います! ぼ、ぼくはそういうつもりでは!!」
「うふふ。冗談ですよワードさん♪ 勿論必要ならお引き受けしますけど……でも……そうですね。一人でするのは寂しいのでその時は……手伝ってくれますか?」
少し胸を強調して上目遣い。さすがにあざと過ぎたかしら?
「なっ!?」
……そうでもなかったみたい。ただでさえ真っ赤なのにそこから更にもう一段階真っ赤になって慌てる姿は……やっぱり可愛いと感じてしまう。
「あ……」
「こ、これは、違います! 違いますから!! 想像してませんから!!」
……想像しましたね?
でもまぁ、鼻血が大変そうなので許してあげましょう。
「どうぞ。使ってください」
ーーと乙女の嗜み、ティッシュを差し出しておく。
これでも良家の子女ですからね私は。
その割に年上の男性をからかうというのはどうなのかしらと思わなくもない。うん。俺くんのせいにしておこう。
その後落ち着いたワードさんが上司の人を呼びに行き、例の黄金の花の報酬ーーさすがSランク素材。何と百万レンも貰ってしまった。
金額が金額なだけに通常の受付で渡すことが出来なかったみたい。若い女の子のソロ冒険者に大金だなんてまさしくカモネギ。タチの悪い奴らに狙ってくださいというようなものである。
一応そういったことがないようにと配慮してくれたみたいなのだけれど、私が先日の討伐と収集の結果を提出したところ、必要なかったかもしれないと苦笑されてしまった。
上司の人はワードさんに優秀な冒険者のようだ、しっかりとサポートしなさい。そのように声を掛けて退室していった。
四十代と思しきナイスミドルのおじさまだった。
ギルドの職員ってみんなあんな風に逞しいのかしら……と思いかけたけれど、目の前の人を見て思い直した。やはり個人差があるという事ね。
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