71 / 278
第二章:プリンセス、岐路に立つ
(28)
しおりを挟む
抱き締めていた腕を緩めると、真っ赤な顔をしたリンド少年と目があった。
「お帰り、リンドくん」
「……お姉ちゃん……」
私の無事な姿を見て安心したような表情になる。そして彼は青龍セロの方を向いた。
「セロ様……僕は……負けたのですか?」
「………………」
セロは何も言わない。ただ私を睨みつけている。
「リンド、お前にかけられた眷属支配は解かれた。お前を殺さずに勝ちたいとシーラの従者キラリが望みその通りに成し遂げた。故にシーラとその従者の勝ちだ。次代の天空王はシーラに決まりだ」
「そうですか……セロ様、申し訳ありません」
リンドがセロの元へ歩み寄り跪く。
それは王に仕える騎士のような姿に見えた。
「……めん」
「セロ様?」
「俺は認めん!」
セロが突然大声を上げた。
「セロ様! おやめください!!」
「ーーどけ!」
「セ……ロ……様……ゴボッ……」
「ーーリンドくん!?」
背中から真っ赤な手が突き出している。
「セロ! 血迷ったか!?」
「黙れ! そもそも一番力のある者が王に相応しい。このような茶番で決めることが間違いなのだ!!」
血に塗れたリンド少年を無造作に投げ捨てて青龍セロが天空王を睨む。
「愚かな……セロよ貴様の様な者に天空王は継承せん。この場で滅してくれよう!」
「ふん! 継承など不要だ! 貴様を殺して天空王の力を奪えばいいだけだ!!」
「どうしようもない男だな貴様は……それでは力は奪えんし、そもそもどうやって私に勝つ気なのだ……」
天空王の言葉を裏付けるかの様に他の継承者は誰一人としてこの事態に動揺していない。それどころか憐れむような視線を青龍セロに向けている。
こっちは放っておいても大丈夫みたい。だったらリンドくんを……。
「ーーこうするんだよ!!」
「キラリーー!!」
「ーー!?」
なに!? なんで私!? 首を掴まれて吊り上げられる。
「あ、が……」
凄い力! 息が……。シーラ様……。
「ーー動くな! 動けばこのまま首を握り潰す!!」
「くっ……」
「なるほど、今度はその者を支配するつもりか? 確かにあの魔法なら私に勝てるかもしれんな……」
「そうだ! あれなら、あの魔法ならこの世の全てを俺の物にできる!! 天空王の力すら凌駕する!!!」
「……は、な……せ……」
力が……入らない……。
「今楽にしてやる……古の血に宿る神獣の力……」
血を飲まされた……。
「あ……」
喉が焼けるように熱い!
それが全身に広がっていく……。
体が痺れて……意識が朦朧とする……。
声が聞こえる……。
私に従えと静かに迫る声……。
何も考えられなくなる……。
声が私にするべき事を教えてくれる……。
声に従えばいいの……?
でも私は誰も殺したくない……。
それでも殺さなくちゃいけないの……?
声が私に迫る……。
従えと……。
殺すのではない、救うのだと……。
生の柵から解き放ち救うのだと……。
「あ、あ……」
「俺の声に従え!」
頭に響く声と重なる声がする。
私の思考に干渉するこの忌々しい声と目の前の青龍セロの声が重なる。
もう息ができる。掴まれていた首が痛い。私に入った力の宿る血が暴れている。
「さぁ、天空王を殺せ!」
目の前の男は一体何を言っているのだろうか?
暴れる血が次第に馴染んでいく。
私の体に無理やり力を流し込んでくる。
これが神獣の力? これが、こんな力があの小さな体で暴れていたの?
傷ついたリンドくんに目を向ける。スウォン? 朱雀の力を宿す少女が側にいた。助けようとしているの? 朱雀ーー再生の力ーー彼女なら救えそうね。
救えないのはーーこの男だ!
「キラリと言ったな……俺の声に従え! さぁ! 天空王を殺せ!!」
醜く歪んだ欲望にまみれた顔。
どうして奪う事をよしとするのか……。
もっと別の手段を取れるはずなのに、安易に奪おうとするのは何故なのか。
人の業の深さは本来ならこの様な欲望に染まらぬはずの神獣の一族すら変えてしまうというのか……。
だったら私はその因果を断ち切る。今ここでこの者の悪意を挫く。
霞みがかっていた意識と視界を私自身の手に取り戻す。
如何に強力な毒物でも私の体は消化吸収してしまう。確かに多少のタイムラグはあるだろうけれど、この世界の裏ボスとも言えるスライムの種族特性は伊達じゃない。
だから私はきっぱりと笑顔で断言する。
「……お断りよ」
「なんだと!?」
「あなたの言葉になんて従えないわ」
「何故だ!? どうなっている!? 確かに血を飲ませた! 眷属支配を施したはずだ!?」
動揺して隙だらけだ。セロの力は厄介なのでこの隙は有難く利用させてもらう。
目の前の男に手を触れてーー。
「ーー『束縛の蔦』!」
魔力で編まれた蔦がセロを絡めとり縛り上げる。
「くっ、こんな物!!」
「無駄よ……」
引き千切ろうと力を込めても、魔力を込めてもこの蔦は切れない。
「何だこれは!? 何故切れない!?」
「それはね……」
この男には分からせなければならない。
「貴方が……弱いからよ」
足を払って倒す。
「うぐっ! 馬鹿な!?」
「だって……眷属支配も出来ず、私の魔法にも抗えない……」
表情を消して愚かな男の顔を見下ろす。束縛の蔦は全身を拘束しセロに身じろぎひとつさせない。
「『煉獄の火炎』!」
炎の魔法で焼くつもり?
「ーーだから無駄よ?」
己を包み込む炎が一瞬で消える。
「な……!?」
「言ったでしょう? 貴方は弱いって……」
蔦はほんの僅かすらも焼けていない。
「私の魔力を上回らない限り何をしても無駄よ」
「馬鹿な! 馬鹿な!! 馬鹿なっ!!! 認めん! 認めん!! 認めんぞ!!! 俺が最強だ! 天空王の力を得て世界を支配する!! この俺が、この俺がぁっ!!」
セロの体から急激に魔力のオーラが迸り、その身を包み込む。青いオーラがまるで龍の様にセロの体に絡みつく。
「オォォォォォ!!!」
叫び声に呼応するかのように肉体が膨張し巨大化ーーまさか獣化!! シーラくんが白虎に変身できるようにセロは……青龍に!?
絡みついた青いオーラが透き通る様な鱗に変化してセロの体を包み込んでいく。
やがて膨れ上がる肉体が蔦の束縛を引きちぎり、龍……いいえ竜へと変じた。
ここへ来るときにみた飛竜が今また目の前に姿を現した。
「どうやって生きながらえたか知らんが今度は確実に殺す!!」
ああ……やっぱりあの時の飛竜はこいつだったのか。シーラくんの表情が気になっていたんだ。
「セロ!! 愚かな真似はよせ!!」
天空王の叱責の声。
しかしセローー青竜は僅かに首を揺らすとそちらに灼熱のブレスを吐き出した。
ものすごい熱量に直接浴びていないのに体が焼けそうだ。咄嗟に『水の抱擁』の魔法を使っていなければ膨大な熱気で息をするだけで肺が焼かれていたかもしれない。
あちらの様子はわからない。まさか天空王があっさりやられるとは思えないけれど、竜の力は桁違いだから……。
「グルァァァァッッッ!!」
口元に炎の残照を燻らせた青い竜が天井に届こうかという高さから私を見下ろしている。
黒く濁ったその双眸からはもは目の前の敵ーー私を殺すことしか考えていないのではないかと思わせられる。
サファイアのように煌めく鱗は飛龍といえど竜の貫禄を十二分に発している。
睨み合う竜と人。
「ーーキラリ! 逃げろ!!」
シーラくん!?
愛しい人の鬼気迫る声が止まった時間を動かした。
睨み合いは終了。竜の顎が迫り来る!
「ーーえいっ!!」
未だ浮遊していたアクアキューブで竜の頭を横殴りにするが煩わしげに首を振るっただけで弾き飛ばされた。
そもそもの力に開きがありすぎるわよ!!
「ガァァァァ!!」
「キラリーー」
振り下ろされた腕。床を打ったその衝撃で軽く吹き飛ばされたけど、私は無事。
さすがにこれを受け止めていたらどうなったか分けらないけれど、避けるだけならいくらでも手段はある。
続けざまに迫る極太の尾による横薙ぎをアクアキューブを使ってやり過ごした。空を裂く轟音には鳥肌が立つけど、本気のアクアキューブなら遅れを取ることはなさそうだ。
「グルァァァァッッッ!!!」
口元に魔力が集まっている! ブレス攻撃!!
わかりやすい予備動作のおかげで私とセロとを遮る様に新たに生み出した無数のアクアキューブによって壁を作り出す。
全てを焼き尽くす竜の火炎ですらいとも容易く耐え切ってみせた。
もちろん火炎だけでなく、苛立たしげに振り回す腕も尾も受け止めて、それでもなお微動だにしない。
背後から驚愕の声が聞こえた。
「シーラくん……今から本気でやるね……」
私は小さく言葉を紡ぎ、アクアキューブに指令を下す。
立方体の一片を鋭く尖らせていくとそれは角錐となり、私が言うのもなんだけれどその切っ先は恐ろしいくらいに鋭利でゾッとする。
今から私はこの鋭利なもので欲望に我をなくした青き竜を討伐する。
全てを薙ぎ払う竜の攻撃の全てを私は魔法で受け止めた。
アクアキューブ改めアクア……ピラミッドで……。俺くんの知識を持つ私にはその表現はギャグにしか思えないけれど、角錐がそう言うんだから仕方がない。ファ○オとかスフ○ンクスとかとは一切関係ない。
実際にそれをみてもあれを想起はしないだろう程には鋭く突出した棘の様に変化したキューブを一つ、二つ、三つ、四つ……抗えなくなるまで打ち込み続ける。
鋭い棘はあらゆる攻撃を無力化するはずの竜の鱗を易々と突き破りその身に深々と突き刺さっていく。その無数の棘の様な様相からこの形態のアクアキューブを水の棘ーーアクアソーンと命名する。なんかその方がかっこいいから!
やがてそこには無様に床に貼り付けられた竜が一匹。いいえ、今や竜の姿も維持できずに人の姿に戻り行く愚かな男が一人。
「ガハッッ……バ、カな……」
見るも無残な姿わ晒して這いつくばるセロ。
「たかが小娘一人にも勝てないあなたが世界を手のすることなんて不可能よ……『虚空』……」
掲げた掌に全てを無に帰す闇を生み出す。
今度は本気の虚空終焉。
それは直径数メートルに及ぶ闇の、無の塊。
見世物と違って本物は一味違う。
その威圧感はすぐ側にいる者の理性を刈り取る。
恐怖で支配する。
この魔法の前では全てのものは等しく無力だ。
故に究極。
「それじゃ……さようなら……」
掲げた手をゆっくりと降ろしていくーー。
「お帰り、リンドくん」
「……お姉ちゃん……」
私の無事な姿を見て安心したような表情になる。そして彼は青龍セロの方を向いた。
「セロ様……僕は……負けたのですか?」
「………………」
セロは何も言わない。ただ私を睨みつけている。
「リンド、お前にかけられた眷属支配は解かれた。お前を殺さずに勝ちたいとシーラの従者キラリが望みその通りに成し遂げた。故にシーラとその従者の勝ちだ。次代の天空王はシーラに決まりだ」
「そうですか……セロ様、申し訳ありません」
リンドがセロの元へ歩み寄り跪く。
それは王に仕える騎士のような姿に見えた。
「……めん」
「セロ様?」
「俺は認めん!」
セロが突然大声を上げた。
「セロ様! おやめください!!」
「ーーどけ!」
「セ……ロ……様……ゴボッ……」
「ーーリンドくん!?」
背中から真っ赤な手が突き出している。
「セロ! 血迷ったか!?」
「黙れ! そもそも一番力のある者が王に相応しい。このような茶番で決めることが間違いなのだ!!」
血に塗れたリンド少年を無造作に投げ捨てて青龍セロが天空王を睨む。
「愚かな……セロよ貴様の様な者に天空王は継承せん。この場で滅してくれよう!」
「ふん! 継承など不要だ! 貴様を殺して天空王の力を奪えばいいだけだ!!」
「どうしようもない男だな貴様は……それでは力は奪えんし、そもそもどうやって私に勝つ気なのだ……」
天空王の言葉を裏付けるかの様に他の継承者は誰一人としてこの事態に動揺していない。それどころか憐れむような視線を青龍セロに向けている。
こっちは放っておいても大丈夫みたい。だったらリンドくんを……。
「ーーこうするんだよ!!」
「キラリーー!!」
「ーー!?」
なに!? なんで私!? 首を掴まれて吊り上げられる。
「あ、が……」
凄い力! 息が……。シーラ様……。
「ーー動くな! 動けばこのまま首を握り潰す!!」
「くっ……」
「なるほど、今度はその者を支配するつもりか? 確かにあの魔法なら私に勝てるかもしれんな……」
「そうだ! あれなら、あの魔法ならこの世の全てを俺の物にできる!! 天空王の力すら凌駕する!!!」
「……は、な……せ……」
力が……入らない……。
「今楽にしてやる……古の血に宿る神獣の力……」
血を飲まされた……。
「あ……」
喉が焼けるように熱い!
それが全身に広がっていく……。
体が痺れて……意識が朦朧とする……。
声が聞こえる……。
私に従えと静かに迫る声……。
何も考えられなくなる……。
声が私にするべき事を教えてくれる……。
声に従えばいいの……?
でも私は誰も殺したくない……。
それでも殺さなくちゃいけないの……?
声が私に迫る……。
従えと……。
殺すのではない、救うのだと……。
生の柵から解き放ち救うのだと……。
「あ、あ……」
「俺の声に従え!」
頭に響く声と重なる声がする。
私の思考に干渉するこの忌々しい声と目の前の青龍セロの声が重なる。
もう息ができる。掴まれていた首が痛い。私に入った力の宿る血が暴れている。
「さぁ、天空王を殺せ!」
目の前の男は一体何を言っているのだろうか?
暴れる血が次第に馴染んでいく。
私の体に無理やり力を流し込んでくる。
これが神獣の力? これが、こんな力があの小さな体で暴れていたの?
傷ついたリンドくんに目を向ける。スウォン? 朱雀の力を宿す少女が側にいた。助けようとしているの? 朱雀ーー再生の力ーー彼女なら救えそうね。
救えないのはーーこの男だ!
「キラリと言ったな……俺の声に従え! さぁ! 天空王を殺せ!!」
醜く歪んだ欲望にまみれた顔。
どうして奪う事をよしとするのか……。
もっと別の手段を取れるはずなのに、安易に奪おうとするのは何故なのか。
人の業の深さは本来ならこの様な欲望に染まらぬはずの神獣の一族すら変えてしまうというのか……。
だったら私はその因果を断ち切る。今ここでこの者の悪意を挫く。
霞みがかっていた意識と視界を私自身の手に取り戻す。
如何に強力な毒物でも私の体は消化吸収してしまう。確かに多少のタイムラグはあるだろうけれど、この世界の裏ボスとも言えるスライムの種族特性は伊達じゃない。
だから私はきっぱりと笑顔で断言する。
「……お断りよ」
「なんだと!?」
「あなたの言葉になんて従えないわ」
「何故だ!? どうなっている!? 確かに血を飲ませた! 眷属支配を施したはずだ!?」
動揺して隙だらけだ。セロの力は厄介なのでこの隙は有難く利用させてもらう。
目の前の男に手を触れてーー。
「ーー『束縛の蔦』!」
魔力で編まれた蔦がセロを絡めとり縛り上げる。
「くっ、こんな物!!」
「無駄よ……」
引き千切ろうと力を込めても、魔力を込めてもこの蔦は切れない。
「何だこれは!? 何故切れない!?」
「それはね……」
この男には分からせなければならない。
「貴方が……弱いからよ」
足を払って倒す。
「うぐっ! 馬鹿な!?」
「だって……眷属支配も出来ず、私の魔法にも抗えない……」
表情を消して愚かな男の顔を見下ろす。束縛の蔦は全身を拘束しセロに身じろぎひとつさせない。
「『煉獄の火炎』!」
炎の魔法で焼くつもり?
「ーーだから無駄よ?」
己を包み込む炎が一瞬で消える。
「な……!?」
「言ったでしょう? 貴方は弱いって……」
蔦はほんの僅かすらも焼けていない。
「私の魔力を上回らない限り何をしても無駄よ」
「馬鹿な! 馬鹿な!! 馬鹿なっ!!! 認めん! 認めん!! 認めんぞ!!! 俺が最強だ! 天空王の力を得て世界を支配する!! この俺が、この俺がぁっ!!」
セロの体から急激に魔力のオーラが迸り、その身を包み込む。青いオーラがまるで龍の様にセロの体に絡みつく。
「オォォォォォ!!!」
叫び声に呼応するかのように肉体が膨張し巨大化ーーまさか獣化!! シーラくんが白虎に変身できるようにセロは……青龍に!?
絡みついた青いオーラが透き通る様な鱗に変化してセロの体を包み込んでいく。
やがて膨れ上がる肉体が蔦の束縛を引きちぎり、龍……いいえ竜へと変じた。
ここへ来るときにみた飛竜が今また目の前に姿を現した。
「どうやって生きながらえたか知らんが今度は確実に殺す!!」
ああ……やっぱりあの時の飛竜はこいつだったのか。シーラくんの表情が気になっていたんだ。
「セロ!! 愚かな真似はよせ!!」
天空王の叱責の声。
しかしセローー青竜は僅かに首を揺らすとそちらに灼熱のブレスを吐き出した。
ものすごい熱量に直接浴びていないのに体が焼けそうだ。咄嗟に『水の抱擁』の魔法を使っていなければ膨大な熱気で息をするだけで肺が焼かれていたかもしれない。
あちらの様子はわからない。まさか天空王があっさりやられるとは思えないけれど、竜の力は桁違いだから……。
「グルァァァァッッッ!!」
口元に炎の残照を燻らせた青い竜が天井に届こうかという高さから私を見下ろしている。
黒く濁ったその双眸からはもは目の前の敵ーー私を殺すことしか考えていないのではないかと思わせられる。
サファイアのように煌めく鱗は飛龍といえど竜の貫禄を十二分に発している。
睨み合う竜と人。
「ーーキラリ! 逃げろ!!」
シーラくん!?
愛しい人の鬼気迫る声が止まった時間を動かした。
睨み合いは終了。竜の顎が迫り来る!
「ーーえいっ!!」
未だ浮遊していたアクアキューブで竜の頭を横殴りにするが煩わしげに首を振るっただけで弾き飛ばされた。
そもそもの力に開きがありすぎるわよ!!
「ガァァァァ!!」
「キラリーー」
振り下ろされた腕。床を打ったその衝撃で軽く吹き飛ばされたけど、私は無事。
さすがにこれを受け止めていたらどうなったか分けらないけれど、避けるだけならいくらでも手段はある。
続けざまに迫る極太の尾による横薙ぎをアクアキューブを使ってやり過ごした。空を裂く轟音には鳥肌が立つけど、本気のアクアキューブなら遅れを取ることはなさそうだ。
「グルァァァァッッッ!!!」
口元に魔力が集まっている! ブレス攻撃!!
わかりやすい予備動作のおかげで私とセロとを遮る様に新たに生み出した無数のアクアキューブによって壁を作り出す。
全てを焼き尽くす竜の火炎ですらいとも容易く耐え切ってみせた。
もちろん火炎だけでなく、苛立たしげに振り回す腕も尾も受け止めて、それでもなお微動だにしない。
背後から驚愕の声が聞こえた。
「シーラくん……今から本気でやるね……」
私は小さく言葉を紡ぎ、アクアキューブに指令を下す。
立方体の一片を鋭く尖らせていくとそれは角錐となり、私が言うのもなんだけれどその切っ先は恐ろしいくらいに鋭利でゾッとする。
今から私はこの鋭利なもので欲望に我をなくした青き竜を討伐する。
全てを薙ぎ払う竜の攻撃の全てを私は魔法で受け止めた。
アクアキューブ改めアクア……ピラミッドで……。俺くんの知識を持つ私にはその表現はギャグにしか思えないけれど、角錐がそう言うんだから仕方がない。ファ○オとかスフ○ンクスとかとは一切関係ない。
実際にそれをみてもあれを想起はしないだろう程には鋭く突出した棘の様に変化したキューブを一つ、二つ、三つ、四つ……抗えなくなるまで打ち込み続ける。
鋭い棘はあらゆる攻撃を無力化するはずの竜の鱗を易々と突き破りその身に深々と突き刺さっていく。その無数の棘の様な様相からこの形態のアクアキューブを水の棘ーーアクアソーンと命名する。なんかその方がかっこいいから!
やがてそこには無様に床に貼り付けられた竜が一匹。いいえ、今や竜の姿も維持できずに人の姿に戻り行く愚かな男が一人。
「ガハッッ……バ、カな……」
見るも無残な姿わ晒して這いつくばるセロ。
「たかが小娘一人にも勝てないあなたが世界を手のすることなんて不可能よ……『虚空』……」
掲げた掌に全てを無に帰す闇を生み出す。
今度は本気の虚空終焉。
それは直径数メートルに及ぶ闇の、無の塊。
見世物と違って本物は一味違う。
その威圧感はすぐ側にいる者の理性を刈り取る。
恐怖で支配する。
この魔法の前では全てのものは等しく無力だ。
故に究極。
「それじゃ……さようなら……」
掲げた手をゆっくりと降ろしていくーー。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【R18】転生先のハレンチな世界で閨授業を受けて性感帯を増やしていかなければいけなくなった件
yori
恋愛
【番外編も随時公開していきます】
性感帯の開発箇所が多ければ多いほど、結婚に有利になるハレンチな世界へ転生してしまった侯爵家令嬢メリア。
メイドや執事、高級娼館の講師から閨授業を受けることになって……。
◇予告無しにえちえちしますのでご注意ください
◇恋愛に発展するまで時間がかかります
◇初めはGL表現がありますが、基本はNL、一応女性向け
◇不特定多数の人と関係を持つことになります
◇キーワードに苦手なものがあればご注意ください
ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり
◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる