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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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「どうした、早く立て」
確実に虐めにきてるわね。私が一体何をしたっていうの? ニヤニヤと相変わらず人の悪い笑みを浮かべる天空王クアラ。褐色の肌の金髪美女。そして巨乳。もちろんスタイル抜群だった。スウォンという年頃の娘がいるにもかかわらずあの容姿。普通に若い。同じ巨乳の聖女様と同じくらいの年に見える。私たち魔族も数百年若いままだけど……天空王もそういう種族なのかもしれない。まさか見た目通りの年齢ってことはないわよね……?
それはともかく、さすがに沢山のギャラリーがいる場所で裸で戦う気は無い。
「服くらい着させてください!」
「ん? 何だ? 恥ずかしいのか? 散々痴態を晒した後でか? いや、そうか、鎧の中だから声だけだったな。そういう事なら仕方がない、特別にいいものを用意してやろう」
態々私の羞恥心を煽りにきたわね……このババァ……。絶対口にはできないけれど、心の中でくらい叫ばせて。あのニヤケ顔……今に見てなさいよ……。シーラ様が継承したらあなたはただの人だからね!?
「ほら、これを着るといい」
そう言って投げ渡されたのは黒っぽい……シャツ?
受け取って広げてみると……。
「………………」
天空王を睨みつける。
「正気ですか?」
「裸がいいならそれでも構わんが?」
「自分のーー」
「そんな時間はない。すぐに第三戦を始める!」
言い終わる前にそんな事を言い出しやがった!!
ふざけるな!!
でもとりあえず裸よりマシなので座ったまま前を隠して足を通して、腕を通して……。
こ、これは……。
なんて卑猥なのよ!? いえ、待って! 私はまだ十六。そうよ、これを着ていてもおかしくはないのよ!? しかもこれダブルフロントの旧スクじゃない……。変にビキニとかよりはいいけど、何故かしら変態感が増すような気がするのは……。でもまぁしっかり裏地もある普通のスク水だからいいわ。いいことにしましょう!! あとで考えなくちゃいけないのは俺くんのことよね。スク水の事詳しすぎない!?
「……シーラ様……恥ずかしいのであまり見ないでください……」
「あ、う、ごめんなさい、キラリさん……」
慌てて視線を逸したけど、その横顔が真っ赤になっていた。うふふ……意外とこういうのもいいかもしれない……。これこのまま貰ってもいいのかしら……?
「いい格好だな? さぁさっさと始めようか。次の相手はセロ、お前の部下だ」
「やっとか、こんな小娘にいいようにやられやがって情けねぇ……。おいリンド、出番だ! ぶっ殺してこい!」
青龍の継承者セロ……見た目通り豪快で粗暴なセリフ。その従者、青い髪の少年。
一見弱そうに見えるけれど、従者の中で一番強大な力を感じたのは実はこの子からだった。
「それでは第三戦、始め!!」
天空王の掛け声がかかり緊張感が増す。
今回は気を引き締めていこう。またさっきみたいな目には遭いたくない。油断じゃないけれど……やっぱり油断かしらね。結局そのせいでエッチな声を聞かれるやら、裸を晒されるやら……スク水で戦うハメになるやら散々なのよ。
「ーー『氷の矢』」
魔法改変で常識的な数に調整して放つ。拡張すれば二十や三十はおかしくはない……はず。
さぁ、当たるとちょっと痛い私の魔法をどうするかしら?
少年は特に大した動きは見せず、氷の矢をその身に受けた!?
「え、ちょっと!?」
思わず駆け寄りそうになったけど、これは立派な試合。避けもしないのは受けても平気だということ。
「……ちょっと痛いし……」
いや、ちょっとって本気でちょっとじゃないのよ!? 普通に数百のダメージを受けるはずなんだけど……?
「………………」
普通に全部受けて、ほぼダメージなし?
「こんな弱いのじゃ僕には効かないよ?」
うわー生意気そうな口調だわ。それと顔を逸らしながらもチラチラこちらを見る様子がなんとも思春期の少年ぽい……。お陰で余計に恥ずかしいんですけどね。
男の人はわかってないみたいだけど、見られている視線って結構気がつくものなのよ……。胸とか、足とか、お尻とかアソコとか……エ○チ……。
キッと睨むと慌てて顔を背けた。全く!!
「ーーだったらこれならどう? 『氷の槍』!!」
今度は威力を調整した。もちろん槍の本数も増やして十の氷槍を一つずつ放つ。
「あ、ちょっと痛い」
それを素手で受け止める少年。
ちょっと痛い……ってお姉さんこれはそういうレベルじゃないと思うの。この子、かなりの防御力を持っているみたい。しかも装備品ではなくこの子自身が……。どう見ても普通の布の服だものね。何者?
「じゃぁ、今度は僕から行くねーー」
素早い踏み込みから腕が振るわれた。避けられなくはない。よく見て対処すれば大丈夫。
横薙ぎのそれに気を取られた瞬間ーー!!
「ぅぐぅっ!!」
私の体は吹き飛んでいた!?
受けた衝撃から腹部に攻撃を受けたことはわかる。でも何をされたのかは見えなかった。腕を振り払う横の動きに視線を誘導された。
「いたい……」
どうにか足から着地して打撃を受けたお腹を押さえる。痛みはあるし、怪我もするけれど、その程度と生命力の減少度合いが一致しないという不思議な状況。
今も痣とかできてそうなくらい痛いのに、多分生命力は減っていない。正確なところはステータスを見ないとわからないけれど、感覚的に把握はできる。
「見かけより丈夫なんだねお姉ちゃん。じゃぁ次はもう少し力を入れるね」
楽しそうに腕をグルングルンと回してそんな事を言ってくるリンド少年。
まったく女の子のお腹を蹴っ飛ばす(たぶん)なんて酷い子ね。それにそもそも女の子には優しくしなさいって教わらなかったのかしら? ちょっとお仕置きが必要じゃないかしら?
「よいしょっと!」
油断か慢心か再度正面から迫り来るリンド少年……。多少攻撃を受けたところでダメージは受けないけれど……痛い。結構痛い。さっき蹴られたところは今もズキズキと痛む。
「『魔力の盾』」
顔に向かって突き出された拳を魔力の盾が受け止めて鈍い音を立てた。透明なシールド越しに見るその拳は迫力満点。
それにしても、今度は顔!? 女の子の顔狙う!?
「このガキンチョは……」
そうする間も次々と蹴りを拳を振るうリンド少年。その全てを左右に生み出した魔力の盾で受け止める私。
勝負は若干の膠着状態。
さてどうしようかしらね……。
「凄いねそれ、僕が殴っても壊れないなんて!」
興奮した様子の少年は益々打撃の速度を上げて行く。
さすがに私の方も盾にこめる魔力を上げている。無拡張状態だと破壊されているかもしれない。
さすが強い。時折攻撃魔法を放ってみるけれど平然と受けてそして気にもしていない。
普通の魔法では殆どダメージは通りそうにない。
面倒ね……。
「何をしている! リンド! さっさとそいつをぶっ殺せ!!」
膠着状態に痺れを切らしたのは私たち当人ではなく、青龍の力を宿す継承候補者、セロだった。
そうよね、確かに気短そうだものね……。
「ーー目の前のその女は敵だ! 敵は全力で屠れ!!」
そんなセロの大きな声が響いた。
「ぐっ……わかって、ますよ……。それじゃいくよ、お姉ちゃん!」
「ーーくぅっ!? 速い!? そして重いっ!!」
先ほどよりも速く重く鋭い攻撃が私が展開する魔力の盾に叩き込まれる。砕けた端から即時再展開して受け止めるけど……あ、う、くっ……。
「あぅ……げほっ……」
捌き切れなかった拳がお腹にめり込んだ。
「ごめんね、死んでくれるーー」
一度押し切られてしまうともうどうしようもない。高速で繰り出される打撃を亀のように盾に隠れて耐えるしかない。自身を包み込むように展開した魔力の盾。その上から全身を殴打された私はあっさりと壁まで飛ばされて背中から叩きつけられた。
衝撃に息がつまる。
いくら盾の上からでも抜けてきた衝撃でかなりのダメージを受けている。
冗談じゃない。私の防御力を抜けかねない高威力の攻撃。背中を冷たい汗が伝う。
魔法による補助がなければいくらおかしなステータスの私でも生命力を削られていただろう。
逆にいえばこれだけの事をされても生命力が減っていない私って……。
ただしそれとは別に痛みだったり受け止めた際の衝撃や痺れはしっかり体に残っている。
もう、アザとかになったらどうするのよ……。
「……これでも倒せないんだね……強いねお姉ちゃん。でも、ダメだよ……これ以上はホントに死んじゃうよ……」
壁に身を委ねて対峙する私と目の前の悲しそうな声の少年。彼は……。
「ーーリンドーー殺せ」
またセロの無粋な声が響いた。そして苦しそうに呻き声をあげるリンド少年。
「うぐっ……」
少年の体がビクンと震えて、腕の筋肉が異様に盛り上がる。さすがに様子がおかしい。何かがなされた。
何をしたの!? セロを睨む。
答えるはずがないけれど、浮かべた笑みが嫌な予感を確信に変えた。
「お、姉……ちゃん……降参……して……」
目の前の少年が掠れる声で告げた言葉。その意味を理解する前に私の体を衝撃が突き抜けた。
ごぉぅ……!?
「んぐっ……」
な、に……?
背中を打った? 息がつまる……。
視界がグルンと回ったと思えば私は何かに叩きつけられていた。血の味がする。
殴られた……?
そして吹き飛ばされた?
ついさっきまで立っていた場所から一瞬でここまで吹き飛ばされた。そして床に激突、その衝撃で一時呼吸ができなかった。
今起こったこと。そうなった原因は彼ーーリンド少年だ。多分殴り飛ばされたんだと思う。
全てが速すぎて何も見えなかった。
「痛っーー」
右腕が酷く痛む。関節がおかしい。折れている?
「ガァァァァァァ!!」
青い髪が逆立ち獣のような咆哮を上げて立つ……竜人? 膨れ上がって何倍もの太さになった剥き出しの腕や脚には青い鱗が見える。
なるほど、なんらかの方法でセロに宿る青龍の力が流れ込んでいるのだろう。しかもその力の制御は出来ていないーーもしくは力の出どころであるセロによって支配されている。そんなところだろうか。
「グルァァァァッッッ!!!」
まるで獣のような咆哮。
これはちょっと……嫌な展開ね……。自我のない相手と戦うのは後味が悪いことになりそうだわ……。
「ガァァァァ!!」
再び咆哮、そしてまた吹き飛ばされる!
全く見えなかった。速やすぎる!?
このままサンドバッグになるわけにはいかない。まずは戦いと呼べる状態に戻さなきゃ。
「ーー『重力制御』!」
選択した魔法は重力制御。俺くんの世界で実現できたならまさに夢のような事がたくさん現実になるだろう。
発動した魔法が私を中心に直径100メートルの範囲内の重力を二倍に引き上げる。単純に考えれば速度は半減する。そしてこの魔法、術者と任意の対象はその効果から除外することができる。つまり相手だけが一方的に不利になるという。さすがファンタジー世界だわ。お陰で助かるけれども。
「ガ、ガァァァァ!!」
加重に抗い咆哮する。でもそう簡単に私の魔法には抵抗できないわよ!
「『神々の祝福』!」
それと三倍じゃキツそうなのでステータスを五倍に増加する。これでも速さと知力以外は大したステータスじゃないのが辛い。
あとはリンド少年を無力化する為の段取りね。あと腕も直さなきゃ。本当痛いし。
「『水の方陣』」
正面に三つ一メートル四方の水の立方体を生み出す。これで抑え込めればいいけれど……。竜人、ドラゴンのチカラを宿す人間。相当でしょうね。でも、私は負けないわよ! さぁ、かかってきなさい!!
確実に虐めにきてるわね。私が一体何をしたっていうの? ニヤニヤと相変わらず人の悪い笑みを浮かべる天空王クアラ。褐色の肌の金髪美女。そして巨乳。もちろんスタイル抜群だった。スウォンという年頃の娘がいるにもかかわらずあの容姿。普通に若い。同じ巨乳の聖女様と同じくらいの年に見える。私たち魔族も数百年若いままだけど……天空王もそういう種族なのかもしれない。まさか見た目通りの年齢ってことはないわよね……?
それはともかく、さすがに沢山のギャラリーがいる場所で裸で戦う気は無い。
「服くらい着させてください!」
「ん? 何だ? 恥ずかしいのか? 散々痴態を晒した後でか? いや、そうか、鎧の中だから声だけだったな。そういう事なら仕方がない、特別にいいものを用意してやろう」
態々私の羞恥心を煽りにきたわね……このババァ……。絶対口にはできないけれど、心の中でくらい叫ばせて。あのニヤケ顔……今に見てなさいよ……。シーラ様が継承したらあなたはただの人だからね!?
「ほら、これを着るといい」
そう言って投げ渡されたのは黒っぽい……シャツ?
受け取って広げてみると……。
「………………」
天空王を睨みつける。
「正気ですか?」
「裸がいいならそれでも構わんが?」
「自分のーー」
「そんな時間はない。すぐに第三戦を始める!」
言い終わる前にそんな事を言い出しやがった!!
ふざけるな!!
でもとりあえず裸よりマシなので座ったまま前を隠して足を通して、腕を通して……。
こ、これは……。
なんて卑猥なのよ!? いえ、待って! 私はまだ十六。そうよ、これを着ていてもおかしくはないのよ!? しかもこれダブルフロントの旧スクじゃない……。変にビキニとかよりはいいけど、何故かしら変態感が増すような気がするのは……。でもまぁしっかり裏地もある普通のスク水だからいいわ。いいことにしましょう!! あとで考えなくちゃいけないのは俺くんのことよね。スク水の事詳しすぎない!?
「……シーラ様……恥ずかしいのであまり見ないでください……」
「あ、う、ごめんなさい、キラリさん……」
慌てて視線を逸したけど、その横顔が真っ赤になっていた。うふふ……意外とこういうのもいいかもしれない……。これこのまま貰ってもいいのかしら……?
「いい格好だな? さぁさっさと始めようか。次の相手はセロ、お前の部下だ」
「やっとか、こんな小娘にいいようにやられやがって情けねぇ……。おいリンド、出番だ! ぶっ殺してこい!」
青龍の継承者セロ……見た目通り豪快で粗暴なセリフ。その従者、青い髪の少年。
一見弱そうに見えるけれど、従者の中で一番強大な力を感じたのは実はこの子からだった。
「それでは第三戦、始め!!」
天空王の掛け声がかかり緊張感が増す。
今回は気を引き締めていこう。またさっきみたいな目には遭いたくない。油断じゃないけれど……やっぱり油断かしらね。結局そのせいでエッチな声を聞かれるやら、裸を晒されるやら……スク水で戦うハメになるやら散々なのよ。
「ーー『氷の矢』」
魔法改変で常識的な数に調整して放つ。拡張すれば二十や三十はおかしくはない……はず。
さぁ、当たるとちょっと痛い私の魔法をどうするかしら?
少年は特に大した動きは見せず、氷の矢をその身に受けた!?
「え、ちょっと!?」
思わず駆け寄りそうになったけど、これは立派な試合。避けもしないのは受けても平気だということ。
「……ちょっと痛いし……」
いや、ちょっとって本気でちょっとじゃないのよ!? 普通に数百のダメージを受けるはずなんだけど……?
「………………」
普通に全部受けて、ほぼダメージなし?
「こんな弱いのじゃ僕には効かないよ?」
うわー生意気そうな口調だわ。それと顔を逸らしながらもチラチラこちらを見る様子がなんとも思春期の少年ぽい……。お陰で余計に恥ずかしいんですけどね。
男の人はわかってないみたいだけど、見られている視線って結構気がつくものなのよ……。胸とか、足とか、お尻とかアソコとか……エ○チ……。
キッと睨むと慌てて顔を背けた。全く!!
「ーーだったらこれならどう? 『氷の槍』!!」
今度は威力を調整した。もちろん槍の本数も増やして十の氷槍を一つずつ放つ。
「あ、ちょっと痛い」
それを素手で受け止める少年。
ちょっと痛い……ってお姉さんこれはそういうレベルじゃないと思うの。この子、かなりの防御力を持っているみたい。しかも装備品ではなくこの子自身が……。どう見ても普通の布の服だものね。何者?
「じゃぁ、今度は僕から行くねーー」
素早い踏み込みから腕が振るわれた。避けられなくはない。よく見て対処すれば大丈夫。
横薙ぎのそれに気を取られた瞬間ーー!!
「ぅぐぅっ!!」
私の体は吹き飛んでいた!?
受けた衝撃から腹部に攻撃を受けたことはわかる。でも何をされたのかは見えなかった。腕を振り払う横の動きに視線を誘導された。
「いたい……」
どうにか足から着地して打撃を受けたお腹を押さえる。痛みはあるし、怪我もするけれど、その程度と生命力の減少度合いが一致しないという不思議な状況。
今も痣とかできてそうなくらい痛いのに、多分生命力は減っていない。正確なところはステータスを見ないとわからないけれど、感覚的に把握はできる。
「見かけより丈夫なんだねお姉ちゃん。じゃぁ次はもう少し力を入れるね」
楽しそうに腕をグルングルンと回してそんな事を言ってくるリンド少年。
まったく女の子のお腹を蹴っ飛ばす(たぶん)なんて酷い子ね。それにそもそも女の子には優しくしなさいって教わらなかったのかしら? ちょっとお仕置きが必要じゃないかしら?
「よいしょっと!」
油断か慢心か再度正面から迫り来るリンド少年……。多少攻撃を受けたところでダメージは受けないけれど……痛い。結構痛い。さっき蹴られたところは今もズキズキと痛む。
「『魔力の盾』」
顔に向かって突き出された拳を魔力の盾が受け止めて鈍い音を立てた。透明なシールド越しに見るその拳は迫力満点。
それにしても、今度は顔!? 女の子の顔狙う!?
「このガキンチョは……」
そうする間も次々と蹴りを拳を振るうリンド少年。その全てを左右に生み出した魔力の盾で受け止める私。
勝負は若干の膠着状態。
さてどうしようかしらね……。
「凄いねそれ、僕が殴っても壊れないなんて!」
興奮した様子の少年は益々打撃の速度を上げて行く。
さすがに私の方も盾にこめる魔力を上げている。無拡張状態だと破壊されているかもしれない。
さすが強い。時折攻撃魔法を放ってみるけれど平然と受けてそして気にもしていない。
普通の魔法では殆どダメージは通りそうにない。
面倒ね……。
「何をしている! リンド! さっさとそいつをぶっ殺せ!!」
膠着状態に痺れを切らしたのは私たち当人ではなく、青龍の力を宿す継承候補者、セロだった。
そうよね、確かに気短そうだものね……。
「ーー目の前のその女は敵だ! 敵は全力で屠れ!!」
そんなセロの大きな声が響いた。
「ぐっ……わかって、ますよ……。それじゃいくよ、お姉ちゃん!」
「ーーくぅっ!? 速い!? そして重いっ!!」
先ほどよりも速く重く鋭い攻撃が私が展開する魔力の盾に叩き込まれる。砕けた端から即時再展開して受け止めるけど……あ、う、くっ……。
「あぅ……げほっ……」
捌き切れなかった拳がお腹にめり込んだ。
「ごめんね、死んでくれるーー」
一度押し切られてしまうともうどうしようもない。高速で繰り出される打撃を亀のように盾に隠れて耐えるしかない。自身を包み込むように展開した魔力の盾。その上から全身を殴打された私はあっさりと壁まで飛ばされて背中から叩きつけられた。
衝撃に息がつまる。
いくら盾の上からでも抜けてきた衝撃でかなりのダメージを受けている。
冗談じゃない。私の防御力を抜けかねない高威力の攻撃。背中を冷たい汗が伝う。
魔法による補助がなければいくらおかしなステータスの私でも生命力を削られていただろう。
逆にいえばこれだけの事をされても生命力が減っていない私って……。
ただしそれとは別に痛みだったり受け止めた際の衝撃や痺れはしっかり体に残っている。
もう、アザとかになったらどうするのよ……。
「……これでも倒せないんだね……強いねお姉ちゃん。でも、ダメだよ……これ以上はホントに死んじゃうよ……」
壁に身を委ねて対峙する私と目の前の悲しそうな声の少年。彼は……。
「ーーリンドーー殺せ」
またセロの無粋な声が響いた。そして苦しそうに呻き声をあげるリンド少年。
「うぐっ……」
少年の体がビクンと震えて、腕の筋肉が異様に盛り上がる。さすがに様子がおかしい。何かがなされた。
何をしたの!? セロを睨む。
答えるはずがないけれど、浮かべた笑みが嫌な予感を確信に変えた。
「お、姉……ちゃん……降参……して……」
目の前の少年が掠れる声で告げた言葉。その意味を理解する前に私の体を衝撃が突き抜けた。
ごぉぅ……!?
「んぐっ……」
な、に……?
背中を打った? 息がつまる……。
視界がグルンと回ったと思えば私は何かに叩きつけられていた。血の味がする。
殴られた……?
そして吹き飛ばされた?
ついさっきまで立っていた場所から一瞬でここまで吹き飛ばされた。そして床に激突、その衝撃で一時呼吸ができなかった。
今起こったこと。そうなった原因は彼ーーリンド少年だ。多分殴り飛ばされたんだと思う。
全てが速すぎて何も見えなかった。
「痛っーー」
右腕が酷く痛む。関節がおかしい。折れている?
「ガァァァァァァ!!」
青い髪が逆立ち獣のような咆哮を上げて立つ……竜人? 膨れ上がって何倍もの太さになった剥き出しの腕や脚には青い鱗が見える。
なるほど、なんらかの方法でセロに宿る青龍の力が流れ込んでいるのだろう。しかもその力の制御は出来ていないーーもしくは力の出どころであるセロによって支配されている。そんなところだろうか。
「グルァァァァッッッ!!!」
まるで獣のような咆哮。
これはちょっと……嫌な展開ね……。自我のない相手と戦うのは後味が悪いことになりそうだわ……。
「ガァァァァ!!」
再び咆哮、そしてまた吹き飛ばされる!
全く見えなかった。速やすぎる!?
このままサンドバッグになるわけにはいかない。まずは戦いと呼べる状態に戻さなきゃ。
「ーー『重力制御』!」
選択した魔法は重力制御。俺くんの世界で実現できたならまさに夢のような事がたくさん現実になるだろう。
発動した魔法が私を中心に直径100メートルの範囲内の重力を二倍に引き上げる。単純に考えれば速度は半減する。そしてこの魔法、術者と任意の対象はその効果から除外することができる。つまり相手だけが一方的に不利になるという。さすがファンタジー世界だわ。お陰で助かるけれども。
「ガ、ガァァァァ!!」
加重に抗い咆哮する。でもそう簡単に私の魔法には抵抗できないわよ!
「『神々の祝福』!」
それと三倍じゃキツそうなのでステータスを五倍に増加する。これでも速さと知力以外は大したステータスじゃないのが辛い。
あとはリンド少年を無力化する為の段取りね。あと腕も直さなきゃ。本当痛いし。
「『水の方陣』」
正面に三つ一メートル四方の水の立方体を生み出す。これで抑え込めればいいけれど……。竜人、ドラゴンのチカラを宿す人間。相当でしょうね。でも、私は負けないわよ! さぁ、かかってきなさい!!
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