魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第一章:プリンセス、冒険者になる

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 基本的にジェイクさんがヘイトを取りキマイラの攻撃を捌きながらカウンターを繰り返す。
 それを援護するようにラーサスさんが立ち回りつつ時折炎の魔法で大きなダメージを重ねていく。
 ミレーヌさんと私は後衛としてそのフォローと援護射撃。というか私は殆ど何もしていない。こんな事なら多少は攻撃魔法を使えるとか言っておけばよかった。使えないとは言っていないけれど、いつのまにか回復・補助専門のようになっていた。
 もちろん出番が来れば全力で治癒しますけどね。

 戦闘開始直後からの優位な状況がずっと継続している今討伐は時間の問題だろう。
 キマイラの咆哮もだんだん弱々しくなっているような気がする。

「頑張って……」

 思わず応援の言葉が溢れた。
 キマイラの前足攻撃を盾で逸らせてバトルハンマーを振るう。骨を砕く音。吠えるキマイラ。
 時間の問題。そんなフレーズが頭よぎった。

「ーー!?」

 その事に気が付いたのは連撃を受けてジェイクさんが弾き飛ばされた時だった。しっかりと盾で受けたから怪我はしていないようだけれど、問題なのはそこじゃない。

「なんで!?」

 どうして!?
 右を振るった!?
 死に物狂いになった?
 いいえ、そういう感じではない。もっとこう何というか落ち着きを取り戻していくような感じ……。
 
 右足は最初にジェイクさんが砕いて以降満足に使えていなかった。
 ついさっきまでは確かに庇うようにしていてたのに……。実際左だけだったから攻撃も単調で対処しやすかった。そう見えていた。
 それなのに右が加わり出した事でジェイクさんが防戦一方になっている!?
 キマイラの方に余裕が出来たことで尻尾がラーサスさんに振るわれるようになり、そちらもリズムが悪くなった。
 今までこちらが優勢に戦っていたのに急に劣勢へと転じた。

「どうして急に……?」

 原因を探ろうとキマイラを観察する。
 どう見ても右足が完治しているように思える。それほど自在に振るわれている。
 左右の足からの攻撃でジェイクさんが防戦一方になると尻尾がラーサスさんを追い回す。
 獅子の頭はジェイクさんをしっかりと睨みつけてーー!?

「目がっっ!! ミレーヌさん!! 目が治ってる!!」

 直後に矢が飛んだが難なく前足で撃ち落とされてしまった。
 どういう事、いつのまにか目まで回復している!? キマイラに自己再生能力とかあったっけ?

ガァァオォォォォォ!!
バァァァァァァッッ!!!

「「ーー!?」」

 二重の咆哮。次の瞬間キマイラの前に無数の炎の矢が出現した。魔法までーー!?

「ーーあっ! 『魔法障壁マナフィールド』!!」

 慌てて展開した魔法攻撃を防ぐ光の壁に次々と炎の矢が突き刺さり小さく爆発する。
 私の魔法レベルなら完璧にシャットアウトできるから心配はいらない。それでも雨のように降り注ぐと生きた心地がしない。

「ミレーヌさん……」

 無数の炎の矢は私たちだけでなく前衛として戦う二人にも降り注いでいるはず。いくら魔法耐性をアップさせていても魔法障壁のように無効化できるわけじゃない。
 被弾すれば少なくないダメージを受けてしまう。

「ジェイクさん! ラーサスさん!!」

 障壁で爆ぜる炎の矢が邪魔で見えない!?
 どうする? 魔法を使うべき? 仲間の命よりも己の秘密が大切!?

 ポンポン……。

「何ですかっ!?」

 肩を強く叩かれて思わず大きな声が出てしまった。驚いたような表情。

「……ごめんなさい」

 ミレーヌさんだって不安なはずなのに、私まで冷静さを欠いてはいけない。
 落ち着かなくちゃ。大丈夫。二人は死んだりしない。たくさん補助魔法をかけたわ! 
 大丈夫! だから落ち着いて。落ち着きなさいキラリ……。

 ポンポン。

「………………」

 顔を上げればミレーヌさんが頷いた。
 まるで「大丈夫よ」そう伝えようとしているみたいだった。

「あっ……」

 そして剣を握る手に触れられて初めて指先が白くなるくらいに強く握りしめていることに気がついた。

「大丈夫……なんですか?」

 私の問いにミレーヌさんは小さく頷いた。
 今はその言葉を信じるしかない。でも不思議と不安な気持ちは薄れていった。同時に焦りや苛立ちも……。

 炎の雨がようやく終わりを迎えた。
 クリアになる視界の中に……盾に身を隠して微動だにしないジェイクさんの姿が見えた。

「ーージェイクさん!!」

 ハンマーを握る手が動いた。無事みたい? よかった!!

「ーーあっ!? ラーサスさんは!?」

 どこにも姿が見当たらない……。
 そんなまさか!?
  跡形もなく消し飛ばすような魔法じゃない。でもあれだけの数だともしかして……。

 ギャォオオオオオオオオ!!??

「なっ、何!?」

 なんなの!? 急にキマイラが苦しそうな声を!?
 直後にキマイラの腹部で上がる爆炎。飛び出してくる人影。
 まさか!! お腹の下に隠れてやり過ごしたの!?

 バァァァァッッ!!

 またキマイラが吠えた。よく見れば乱れた鬣……じゃない!? 体毛!? ああっっ!? やっと最初の違和感に気がついた!!

 ーーあれ雌じゃない!?

 隠れていた山羊の頭も……むむっ!? 立派な角がある!? あれ? やっぱり雄? それとも山羊って雌にも角があるの?
 まぁいい。
 雄でも雌でもどっちでも関係ない。どっちだろうと討伐すればいいのよ!!
 ライオンにヤギとくればこの分だと尻尾の蛇も現実なのよね? じゃぁアレって頭で殴りつけてるって事?
 ……ちょっと蛇の扱い酷くないかしら?

 トントン!

「ーーはい!!」

 ミレーヌさんに肩を叩かれて、ジェイクさんの方を指さされる。見ればジェイクさんはまだ盾に身を隠したままだ。
 あ、そうか、私の仕事!! 回復係なんだった!! キマイラウォッチングしてる場合じゃなかった!

「すみません! すぐ行きます!!」

 返事と同時に駆け出した。
 ラーサスさんの攻撃でキマイラはそちらに気を取られている。今のうちに!

「ジェイクさんっっ!! 回復します! ヒーリング!!」

 鎧のあちこちに焼け焦げた跡がある。

「助かる……」
 
 弱々しい声。膝をついた防御姿勢のまま動こうとしないけれど大怪我はしていないように見える。でも動けないって事は見た目以上にダメージを受けている証拠。

「ジェイクさん……」
「……心配ない。無事だ。お前の魔法のおかげだな……」

 声にいつもの調子が戻った。

「よかった……。死んじゃうかと思いました。でも少しでもお役に立てたのなら……よかったです」
「なんだ、泣いてるのか?」
「な、泣いてなんていません! 安心しただけです!!」
「おう、心配かけたな」

 また頭を撫でられた。
 そうやってすぐ子供扱いするんだから……。
 でも不思議と嫌じゃなくて、ホッとしてしまう自分に驚いた。
 何だろう、私もしかしてジェイクさんに……父性を感じてる?
 恋じゃないのかよ!? って思わず自分で突っ込みたくなってしまった。
 まぁ恋はない。いいところ父親的な感じだろう。本人に言うと嫌がられそうだ。俺はまだそんな歳じゃないーーって。
 でもさ、あなたの娘さんの方が年近いんですけど私……。

「ーーあっ!!」
「どうした?」

 安心したらあの嫌な予感のことを思い出した。一体何に不安を抱いているのか。何が原因だったのか。今度こそちゃんとしなくちゃいけない。
 冒険はそんな甘いものじゃないとわかったから。

「……あの、ジェイクさん。教えてください! 何故敗走したのかを!! 皆さんは相当な熟練冒険者です。この戦闘を見ていてもわかるくらいすごく強いです!!」

 そう、かなり強い。戦う前はレベル的に難しいと判断したけれど、実際キマイラとの戦いでは十分な勝機を見いだせていた。
 今は反撃を受けて立て直し中だけれど、ずっと優位に戦闘を進めてきた。
 前回もレベル5相当の魔法使いがいたわけだから十分勝てたはず。それなのに結果的には敗北を喫し、犠牲者まで……。
 何故? その部分に私が感じる嫌な予感の理由があるような気がしてならない。だから、聞きにくいことだけど聞かなくちゃいけない。

「……痛いところにズバッと切り込んできたな……」

 声がいつもの調子じゃない。やっぱり即席の仲間に過ぎない私が踏み込んじゃいけない部分だったのかもしれない。少し後悔してる。

「ごめんなさい。でも何かすごく嫌な予感がするんです。辛い思い出でしょうけど教えてください。すみません……」
「いやいい。責めるつもりはない。それに本当ならここにくる前に話しておくべきだった。俺の方こそ悪かった。すまない」
「いいえ……」

 大切な仲間を失ったのだから話したくない気持ちもわかる。
 だから誰も責められない。責めたくない。だけど今はちゃんと聞かなくちゃいけない。大切な仲間を救うために。

「一匹目は全員無事だったんだ。辛うじてな。強かったが何とか討伐した。クエストクリア。あとは帰るだけだったんだが……。二匹目がいやがった。それも一匹目よりも大きい奴だ。ただでさえ俺たちに連戦する余力はなかったってのにより大きな個体を相手に戦えるわけがねぇ」

 ドンッ!

 叩きつけたバトルハンマーが大地を抉る。

「それであいつは……アリーシャは自分の命を代償に魔法を使った。俺たちを逃す為にっっ!!」
「それは……」

 最後の手段として生命力を使って魔法を行使することができる。でも、それは本当に命がけの行為で……。

「まさか二匹もいるなんてな……。そんな事は予想もしてなかった。アイツらは基本的に単独で生活しているはずだからな……。それが二匹。仲間を犠牲にしてようやく逃げだせた。っっ情けねぇ!! ミレーヌに申し訳ねぇ。アリーシャはアイツのたった一人の家族だったのに……。拒むミレーヌを無理やり連れて逃げた。アリーシャがそれを望んだ。命に変えても妹を守りたいと願った……」

 思わず抱きしめてしまいそうになった。

「……後悔はしてる。俺がもっと強ければってな。仲間を守る盾が俺の役割なのにそれを出来なかった。悔しかった。でもな、仲間を守りたいって気持ちは俺もアイツもかわらねぇ。あの時あの場で仲間を守る力があったのはアイツだった。ただそれだけのことだ。俺に力があったら同じ事をしたかもしれん。仲間の為に命を張れる……。今もアイツは俺たちの仲間だ。最高のな!!」

 でも堪えた。

「ーー泣くなバカ。今はお前の事も同じように思ってる。大事な仲間。ま家族みたいなもんだ。よし、俺は前線に復帰する。お前はミレーヌの側へ戻れ!」

 そう言って立ち上がったジェイクさんの手を掴んだ。

「お、おい? どうした? 手を離してくれ」

 戸惑いの声を上げるジェイクさん。でも今はそれどころじゃない。あと少し、あと少しで繋がる。なんだろう、何かが引っかかるのよ。でも何が引っかかるのか……とても重要な事だと思うのだけど……。

「おい、どうしたんだ? 今更怖くなったのか? だが今は堪えてくれ。後ろで、ミレーヌの所で待ってろ。今度こそ家族はやらせねぇ! もう二度と仲間に辛い思いはさせたくねぇ! だからお前も頑張れ!!」

 仲間。家族。家庭……複数のキマイラが一つ所にいる。まるで家族のように……。ああっっ! そうか! そういうことか!!
 炎の魔法や回復魔法まで使い周囲の家畜や畑を荒らす魔獣。それが何体もいる。
 こんなのもうそれしかない! 

「ーー間違いない!」
「ホントどうしたってんだよ!? おい正気に戻れ!?」
「うるさいバカ! 私は正気よ!! あと私の予想通りだとしたらまずい!!」
「なにっ!?」

 この状況、条件には心当たりがある。
 ああっもうっっ!! そうよ、どうして気がつかなかったのよ!! 情報さえあればすぐに気がついてもおかしくなかったのに……。
 変に遠慮してここまで敗走の原因を聞かなかった。聞けなかったことがここまで悪い方に働くだなんて……。
 聞いていれば。聞いてさえいれば気が付いたはず。
 このイベントに!! 数十年周期で巡るキマイラの一大繁殖イベント!!
 これは恐らく二、三体じゃ済まない。今この洞窟に近隣エリアのキマイラ達が集合してるはず。
 そしてそれはつまりここに王がいるということ。キマイラたちの王ーーキングキマイラが!!
 強力な個体が繁殖期に入った時に発生すキマイラの婚活パーティー……っていうかキングキマイラがやりたい放題種付けする孕ませパーティー!!(ひどっ!?)
 ああっっ!! とんでもない依頼に関わってしまったっ!!
 これはもうとやかく言ってる場合じゃない。

「ーージェイクさん! 今すぐミレーヌさんのところまで下がってください。ラーサスさんの後退は私が援護します!」
「何だ、おい、どういう事だ!?」
「いいから、今は言う通りにしてください! あとで説明します!!」

 説明は後回し。私の手が届く範囲にみんなを集めないと。今はそれが最優先。
 戦場に向けて一気に走る。

「ラーサスさん! 一旦下がってください!! 援護します!!!」
「キラリくん!?」

 声を限りに叫び、魔法を発動させる。

「アイスボルト!!」

 私の頭上に無数の氷の矢が出現する。狙いは足止め。

「今のうちに下がってください!!」
「………………」
「早くっ!!」
「わかった」

 ここまでの間ラーサスさんはキマイラのそばで付かず離れずの牽制をしてくれていた。
 ありがとうございます!
 でも私の想像通りの事態ならこのままではいけない。連戦するのにステータス二倍じゃ足りない!! いいえそういう問題ですらないかもしれない。だから一度集合しなくちゃいけない。

 ガァオォォォォォォ!!!!
 バァァァァッッゥゥ!!!!

 炎の矢!? キマイラの叫び声と同時にまた炎の矢が出現した。それがちょうど私が放った氷の矢とぶつかり合い打ち消しあっていく。

「もう一度!! 『氷の矢アイスボルト』!」

 今度は威力を拡大した。魔法で私に対抗するなんて無謀もいいところよ!
 炎と氷が激しくぶつかり合い小さな破裂音を洞窟中に響かせる。
 数が多い!? まさかーー!?

「ーー急いで! ラーサスさん!!」

 炎と氷が飛び交う中をこちらに向かって走ってくる。

 グギャァァァァォォッッ!!!!

「なんだとっ!? 奥からもう一体だと!?」

 背後からジェイクさんの大声!
 私の想像通りに現れた二体目、そしてその奥にはもう一体、三体目のキマイラが見えていた。

「なっ……三体だと!?」
「一体どうなっている!?」

 急な状況の変化に皆が戸惑っている。これはもう隠してる場合じゃない。

「ラーサスさん手を!!」

 伸ばした私の手に彼の手が触れた。

「『覚醒の光ブレイブフォース』!!」
「ーー!?」

 言いたいことはあるかもしれないけれど、今はそれどころじゃない!!

「走ってください!! 一度通路まで引きます!!」
「あ、ああ分かった」

 とにかく集合。あの二人にも魔法を。
 私のステータスは最初から全力で増幅済み。そうでもしないと一人だけ足手まといになってしまう。
 だから体は慣れている。以前のような失態はしない!

「アイスボルト!!」

 キマイラの接近を許さないよう氷の矢で弾幕を張る。
 全力疾走ーーじゃなくても早すぎるっっ!?

「ーーっと、ミレーヌさん!!」

 呼びかけて、抱きとめてもらった。
 一瞬倒れそうになるけれど体に触れた瞬間に魔法を発動させるとミレーヌさんは上昇した身体能力で私を見事に受け止めてくれた。

「ーージェイクさん手を!!」

 彼の手が触れた瞬間にステータス三倍の魔法を発動させる。
 これで三人のステータスを三倍に引き上げた。
 全員集合。ここからが本番だ。

「全員のステータスを更に上昇させました。でもくれぐれも無茶はしないでください! そして今ここは、この水晶の洞窟はキマイラの繁殖場所になっています!! だからアイツらは三体どころかもっと沢山いるはずです!!」

 イベントだとは言えないので繁殖期だという事を伝える。もしかしたら聞いたことくらいはあるかもしれない。

「「ーー!!」」

 そして数だけじゃない。
 ここにはキマイラを圧倒的に上回る強力な魔獣。キングキマイラがいる!!
 能力的には二倍から五倍。完全にボスモンスターだ。

「くそッ……」
「この時期のキマイラは普段よりも強敵です。通常よりも強力な魔法と回復魔法まで使いこなします。更に今はまだ使われていませんが毒のブレスがあるはずです。ラーサスさん、どうしますか?」

 キングキマイラが近くにいる時、キマイラは一段階強力になる。どういう仕組みなのかはわからないけれど。通称リーダースキルと呼ばれていた。
 なんで敵側に設定されているのか不思議だけれどキングがいる事で各個体の戦闘能力が引き上げられるのだ。
 このまま戦闘を続けると普通の冒険者なら全滅確定。いくらなんでもキマイラみたいな強力な魔獣と連戦とか乱戦とかありえない。
 ……でも私がいるから多分なんとかなる。
 なんとかなるけれど、それは私が全力で魔法を行使することが必須となる。
 撤退するなら、そこまでしなくてもいい。すでにレベル8魔法の『覚醒の光』を使ったから、そのレベルにあることは知られてしまったけれど、別にそれは大した問題じゃない。それよりもアイスボルトの方が問題かもしれない。あの手の魔法は基本的にスキルレベルと同数の矢を作り出すから……。いったい相手の炎の矢の何倍生み出したでしょうね……。

「ーーラーサス!! 相手が多すぎる! 引くしかない!!」
「わかっている!」

 決断するのはリーダーの仕事だからみんなは彼の判断を待つ。
 行くか引くか。今はその二択だ。

「アイスボルト!」

 話がまとまるまでの時間稼ぎ。私達の頭上に生み出された百本の氷の矢が次々と飛んでいく。

「………………」
「それで、どうしますか!?」

 何か言いたそうな目をしているけれど、今はそれどころじゃないでしょ!? リーダーなんだからしっかりしてください! そういう気持ちでラーサスさんの目を見つめた。

「……魔法で牽制しながら撤退する。先頭はジェイク頼む。ミレーヌも一緒に行ってくれ。俺とキラリは魔法で牽制する」

 賢明な判断です。私もその判断を支持します。

「任せておけ」
「ミレーヌさん、気をつけてくださいね」

 いくら魔法で強化しているとはいえ一番レベルが低いのがミレーヌさんだ。私は例外として彼女が最もダメージを負いやすい。

「ーー!? 急ぐぞ!! まだ増えそうだ!!」

 キマイラの咆哮が荒れ狂っている。見える範囲でも……すでに四体のキマイラがいる。多分全部雌。これはもう繁殖期で間違いなさそうだ。
 現在交戦状態なのは最初の一体だけだけど、乱入は時間の問題だろう。
 絶対絶命。次々に現れる大型魔獣を相手にこのような広い場所ではとても立ち向かえない。せめてある程度狭い通路まで戻ればキマイラの迎撃も容易になるし、各個撃破も不可能ではない。
 そして新たに遭遇する可能性も低くなる。撤退であれば二層まで逃げられれば確実に生還する事ができるだろう。
 逃げるとするとこの階層の構造が厄介だ。何せ何処にでも通じているのだから……。

「アイスボルト!」

 再度氷の矢で弾幕を形成する。キマイラの炎の矢は現状完璧に相殺できている。これなら……。

 通路に向かった二人から悲鳴が上がった。

「くそっ!! ラーサス!!」
「ーー!?」

 そちらを見れば……。
 なんて事!?
 向かおうとしたその通路から新たなキマイラが姿を現していた!! それも二体。

 私たちから逃げるという選択肢がなくなった。


ーーーーー
2021.02.24改稿
色々と補足していたら文字数が……。
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