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第2章

シャルロッテに呼び出される

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「俺が外交官か……」

 あのクロード王子との決闘から3日後——
 国王から外交官を任されてしまう。
 俺は寮のベッドでゴロゴロしながら、
 
 (正直、めんどくさいわ……)

 モブの俺はモブらしく、あまり目立たないように生きたいわけで。
 それに原作に設定では、外交官をやるのは攻略対象のクロード王子だ。
 完全に攻略対象の役割を取ってしまっている……

 (あくまで怠惰に、まったりやっていきたい……)

 同じ準男爵の令嬢――いや、平民の女の子でいいから嫁さんを1人もらう。
 それから2人で、田舎の領地でスローライフを送りたい。
 これぞ、モブ人生だ。

 ――ガラっ!

「シドさん……っ! これを見てください……っ!」

 アリシアが俺の部屋に入って来る。

 (ていうか、部屋に鍵をかけていたはずなのに……?)

 しばらく寝ようと思って、部屋に鍵をかけていたのだが。

「アリシア……どうしたの?」
「シドさんが学院新聞に載っているんです」

 アリシアが学院新聞を俺に渡す。
 毎月発行されている学院新聞。
 今月の学院のニュースを伝える新聞だ。

「えーと……【準男爵令息のグランディが、イキりまくっていたクロード王子殿下に勝利!】って、おいおい……」

 王族相手に「イキりまくっていた」とか、書いちゃっていいのか……。

「あと、ここも読んでください……っ! すっごくおもしろいですよ!」

 アリシアが、新聞の裏面を指さす。

「なになに……【侯爵令嬢のファルネーゼ、グランディの下僕に決定! ざまぁwww】って……酷いな」
「あたし、めちゃくちゃ笑ってしまいましたよ!」
「そ、そうか……」

 学院新聞に【ざまぁwww】なんて書いて大丈夫なのか……
 この学院の新聞部が心配になるな。

「さすがにファルネーゼが可哀想というか……」
「えっ? 全然そんなことないですよ~~っ!」

 侯爵令嬢としてプライドの高いファルネーゼが、格下の準男爵令嬢の下僕になる。
 ファルネーゼにとって、これ以上の屈辱はないだろう。
 それにファルネーゼは悪役令嬢として、学院生のヘイトを稼ぎまくっていた。

 (周囲から【ざまぁwww】と思われるのも仕方ないか……)

「でも……ファルネーゼ様をシドさんの側に置くのはちょっと……」

 アリシアが不安そうな表情をする。

「たしかに、ファルネーゼがいつも近くにいるのは、めんどくさいかも……」

 いろいろ口うるさそうだしな、ファルネーゼ。

「いえ、そういう意味じゃなくて……」
「えっ? じゃあどういう意味――」

 アリシアの顔がなぜか赤くなって、

「と、とにかく! シドさんの側にいるのは、わたしですからね……っ!」

 ――コンコン。

 部屋のドアをノックする音がする。

「今度は誰だろう……?」

 俺がドアを開けると、

「お休み中、失礼します。グランディ様にお話しがあります……」

 ドアの外に立っていたのは、メイドさんだった。

「わたくしは、第1王女シャルロッテ様のメイド、アンナ・シャドウネスです」
「シャドウネス……」

 アンナ・シャドウネスは、第1王女のシャルロッテの腹心の部下だ。
 シャドウネスは、たしか王家に仕える暗殺者一族。
 そして第1王女シャルロッテは、クロード王子√で主人公アリシアに嫉妬するキャラだ。
 クロード王子はアリシアと婚約するが、2人の婚約に反対しまくるのがシャルロッテ。
 つまり、どちらかと言うと、原作でシャルロッテは「ヘイトキャラ」だ。

「明日、午後6時に王宮に来てください。姫様がグランディ様とお話したいそうです」

 (こんなイベント、原作にはなかったぞ……)

「……どんなお話ですか?」

 アンナはチラリと、アリシアのことを見て、

「ここでは話せません。姫様はグランディだけに直接、お話したいことがあるのです」

 つまり、アリシアがいるからここでは話せない、ということらしい。
 どうやら秘密の話があるみたいだ。

 (これは断れる雰囲気じゃないな……)

「……わかりました。行きましょう」
「ありがとうございます。明日、お迎えに行きます」

 アンナは、深々と俺に頭を下げた。

 (知らないうちに面倒事に巻き込まれたみたいだ……)

 ★

「来ていただいてありがとうございます。グランディさんとお会いできるの、すごおおおおおおおおおおおおく楽しみにしてました……っ!」

 俺はアンナに連れられて、王宮に連れて行かれた。
 第1王女シャルロッテ――原作では、主人公アリシアと攻略対象クロード王子の仲を邪魔するキャラだ。
 重度のブラコンで、アリシアに嫉妬しまくるわけだ。

「さあ……召し上がってください! グランディさん!」

 すげえ豪華か食事が並んでいる。

 (いったい俺みたいなモブに何の用だろう……?)

 ところで。

「はい! いただきますわ! シャルロッテ様……っ!」

 なぜかファルネーゼも着いてきてわけで。

「どうしてファルネーゼもいるんだよ……?」
「ファルネーゼ様は、グランディ様の【下僕】です。仕方なく連れてきました」

 アンナが淡々と答える。
 原作では、ファルネーゼはシャルロッテと仲がいい。
 一緒になってアリシアをいじめるキャラのはずだが――

「あ、この食事はグランディさんのために用意したものです。【下僕】の方は触れないでください」
「え……っ?」

 ファルネーゼが絶句する。

「でも……あたしは侯爵令嬢ですよ? 王族の方とも交流がありまして……」
「今はグランディさんの【下僕】さんでしょう? グランディさんの【おまけ】ですから、イヤイヤですがお呼びしたのです」
「そ、そんな……っ!」

 めちゃくちゃショックな顔をするファルネーゼ。
 泣きそうになっている……

 (ちょっとかわいそうかもしれない)

 原作のキャラ設定では、ファルネーゼは王族のシャルロッテと仲がいいのを自慢していた。
 自分のバックには第1王女のシャルロッテがついていると言って、イキりまくる。
 それでプレイヤーのヘイトを稼いでいたのだが……

 (完全に原作の設定が崩壊している……)

「下僕さんのことは置いておいて……実は今日、グランディさんを呼んだのは、グランディさんにわたしの味方になってほしいのです」
「味方……?」
「ええ。クロードお兄様がグランディさんに負けた今、王位継承者はわたしと、エドモント公爵の2人になりました」

 エドモント公爵――この乙女ゲームの黒幕キャラだ。
 裏で魔王と手を組み、王位を狙っているキャラだ。
 原作ではクロード√で、最後にラスボスとしてアリシアと対決するのだが……

「エドモント公爵は、冒険者ギルド【栄光の剣】を買収しました。これからエドモント公爵は、わたしに暗殺者を差し向けてくるでしょう。そこで――」

 ガタっと、シャルロッテは椅子から立ち上がる。

「圧倒的に不利な状況から、逆転勝利を収めたグランディさんの強さ……ぜひわたしの護衛になっていただきたいのです!」
「なるほど……」

 エドモント公爵は、Sランク冒険者ギルドを手に入れた。
 だから高ランクの冒険者を自分の好きなように操れる。

 (原作の展開に介入したくないな……)

「すみません。お断り――」
「ありがとうございます……っ! 引き受けてくださるなんて、さすがグランディさん!」
「いや、そうじゃなくて――」
「すっごおおおおく強いグランディさんに守ってもらえるなんて、あたしはとっても嬉しいですわ!」

 (こ、断れない……!)

「グランディ様、一緒に姫様を守りましょう。これからよろしくお願いします(もう諦めてください)」

 ポンっと、アンナが俺の肩を叩いた。

「グランディ、やったじゃない。シャルロッテ様の護衛になれたのよ!」

 ファルネーゼも喜ぶ。

 (外堀を埋められてしまった……)

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