上 下
25 / 27
第2章

シャルロッテに呼び出される

しおりを挟む
「俺が外交官か……」

 あのクロード王子との決闘から3日後——
 国王から外交官を任されてしまう。
 俺は寮のベッドでゴロゴロしながら、
 
 (正直、めんどくさいわ……)

 モブの俺はモブらしく、あまり目立たないように生きたいわけで。
 それに原作に設定では、外交官をやるのは攻略対象のクロード王子だ。
 完全に攻略対象の役割を取ってしまっている……

 (あくまで怠惰に、まったりやっていきたい……)

 同じ準男爵の令嬢――いや、平民の女の子でいいから嫁さんを1人もらう。
 それから2人で、田舎の領地でスローライフを送りたい。
 これぞ、モブ人生だ。

 ――ガラっ!

「シドさん……っ! これを見てください……っ!」

 アリシアが俺の部屋に入って来る。

 (ていうか、部屋に鍵をかけていたはずなのに……?)

 しばらく寝ようと思って、部屋に鍵をかけていたのだが。

「アリシア……どうしたの?」
「シドさんが学院新聞に載っているんです」

 アリシアが学院新聞を俺に渡す。
 毎月発行されている学院新聞。
 今月の学院のニュースを伝える新聞だ。

「えーと……【準男爵令息のグランディが、イキりまくっていたクロード王子殿下に勝利!】って、おいおい……」

 王族相手に「イキりまくっていた」とか、書いちゃっていいのか……。

「あと、ここも読んでください……っ! すっごくおもしろいですよ!」

 アリシアが、新聞の裏面を指さす。

「なになに……【侯爵令嬢のファルネーゼ、グランディの下僕に決定! ざまぁwww】って……酷いな」
「あたし、めちゃくちゃ笑ってしまいましたよ!」
「そ、そうか……」

 学院新聞に【ざまぁwww】なんて書いて大丈夫なのか……
 この学院の新聞部が心配になるな。

「さすがにファルネーゼが可哀想というか……」
「えっ? 全然そんなことないですよ~~っ!」

 侯爵令嬢としてプライドの高いファルネーゼが、格下の準男爵令嬢の下僕になる。
 ファルネーゼにとって、これ以上の屈辱はないだろう。
 それにファルネーゼは悪役令嬢として、学院生のヘイトを稼ぎまくっていた。

 (周囲から【ざまぁwww】と思われるのも仕方ないか……)

「でも……ファルネーゼ様をシドさんの側に置くのはちょっと……」

 アリシアが不安そうな表情をする。

「たしかに、ファルネーゼがいつも近くにいるのは、めんどくさいかも……」

 いろいろ口うるさそうだしな、ファルネーゼ。

「いえ、そういう意味じゃなくて……」
「えっ? じゃあどういう意味――」

 アリシアの顔がなぜか赤くなって、

「と、とにかく! シドさんの側にいるのは、わたしですからね……っ!」

 ――コンコン。

 部屋のドアをノックする音がする。

「今度は誰だろう……?」

 俺がドアを開けると、

「お休み中、失礼します。グランディ様にお話しがあります……」

 ドアの外に立っていたのは、メイドさんだった。

「わたくしは、第1王女シャルロッテ様のメイド、アンナ・シャドウネスです」
「シャドウネス……」

 アンナ・シャドウネスは、第1王女のシャルロッテの腹心の部下だ。
 シャドウネスは、たしか王家に仕える暗殺者一族。
 そして第1王女シャルロッテは、クロード王子√で主人公アリシアに嫉妬するキャラだ。
 クロード王子はアリシアと婚約するが、2人の婚約に反対しまくるのがシャルロッテ。
 つまり、どちらかと言うと、原作でシャルロッテは「ヘイトキャラ」だ。

「明日、午後6時に王宮に来てください。姫様がグランディ様とお話したいそうです」

 (こんなイベント、原作にはなかったぞ……)

「……どんなお話ですか?」

 アンナはチラリと、アリシアのことを見て、

「ここでは話せません。姫様はグランディだけに直接、お話したいことがあるのです」

 つまり、アリシアがいるからここでは話せない、ということらしい。
 どうやら秘密の話があるみたいだ。

 (これは断れる雰囲気じゃないな……)

「……わかりました。行きましょう」
「ありがとうございます。明日、お迎えに行きます」

 アンナは、深々と俺に頭を下げた。

 (知らないうちに面倒事に巻き込まれたみたいだ……)

 ★

「来ていただいてありがとうございます。グランディさんとお会いできるの、すごおおおおおおおおおおおおく楽しみにしてました……っ!」

 俺はアンナに連れられて、王宮に連れて行かれた。
 第1王女シャルロッテ――原作では、主人公アリシアと攻略対象クロード王子の仲を邪魔するキャラだ。
 重度のブラコンで、アリシアに嫉妬しまくるわけだ。

「さあ……召し上がってください! グランディさん!」

 すげえ豪華か食事が並んでいる。

 (いったい俺みたいなモブに何の用だろう……?)

 ところで。

「はい! いただきますわ! シャルロッテ様……っ!」

 なぜかファルネーゼも着いてきてわけで。

「どうしてファルネーゼもいるんだよ……?」
「ファルネーゼ様は、グランディ様の【下僕】です。仕方なく連れてきました」

 アンナが淡々と答える。
 原作では、ファルネーゼはシャルロッテと仲がいい。
 一緒になってアリシアをいじめるキャラのはずだが――

「あ、この食事はグランディさんのために用意したものです。【下僕】の方は触れないでください」
「え……っ?」

 ファルネーゼが絶句する。

「でも……あたしは侯爵令嬢ですよ? 王族の方とも交流がありまして……」
「今はグランディさんの【下僕】さんでしょう? グランディさんの【おまけ】ですから、イヤイヤですがお呼びしたのです」
「そ、そんな……っ!」

 めちゃくちゃショックな顔をするファルネーゼ。
 泣きそうになっている……

 (ちょっとかわいそうかもしれない)

 原作のキャラ設定では、ファルネーゼは王族のシャルロッテと仲がいいのを自慢していた。
 自分のバックには第1王女のシャルロッテがついていると言って、イキりまくる。
 それでプレイヤーのヘイトを稼いでいたのだが……

 (完全に原作の設定が崩壊している……)

「下僕さんのことは置いておいて……実は今日、グランディさんを呼んだのは、グランディさんにわたしの味方になってほしいのです」
「味方……?」
「ええ。クロードお兄様がグランディさんに負けた今、王位継承者はわたしと、エドモント公爵の2人になりました」

 エドモント公爵――この乙女ゲームの黒幕キャラだ。
 裏で魔王と手を組み、王位を狙っているキャラだ。
 原作ではクロード√で、最後にラスボスとしてアリシアと対決するのだが……

「エドモント公爵は、冒険者ギルド【栄光の剣】を買収しました。これからエドモント公爵は、わたしに暗殺者を差し向けてくるでしょう。そこで――」

 ガタっと、シャルロッテは椅子から立ち上がる。

「圧倒的に不利な状況から、逆転勝利を収めたグランディさんの強さ……ぜひわたしの護衛になっていただきたいのです!」
「なるほど……」

 エドモント公爵は、Sランク冒険者ギルドを手に入れた。
 だから高ランクの冒険者を自分の好きなように操れる。

 (原作の展開に介入したくないな……)

「すみません。お断り――」
「ありがとうございます……っ! 引き受けてくださるなんて、さすがグランディさん!」
「いや、そうじゃなくて――」
「すっごおおおおく強いグランディさんに守ってもらえるなんて、あたしはとっても嬉しいですわ!」

 (こ、断れない……!)

「グランディ様、一緒に姫様を守りましょう。これからよろしくお願いします(もう諦めてください)」

 ポンっと、アンナが俺の肩を叩いた。

「グランディ、やったじゃない。シャルロッテ様の護衛になれたのよ!」

 ファルネーゼも喜ぶ。

 (外堀を埋められてしまった……)

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

物語の悪役らしいが自由にします

名無シング
ファンタジー
5歳でギフトとしてスキルを得る世界 スキル付与の儀式の時に前世の記憶を思い出したケヴィン・ペントレーは『吸収』のスキルを与えられ、使い方が分からずにペントレー伯爵家から見放され、勇者に立ちはだかって散る物語の序盤中ボスとして終わる役割を当てられていた。 ーどうせ見放されるなら、好きにしますかー スキルを授かって数年後、ケヴィンは継承を放棄して従者である男爵令嬢と共に体を鍛えながらスキルを極める形で自由に生きることにした。 ※カクヨムにも投稿してます。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...