乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳

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第1章

王族に完勝してしまう

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「ファイアボール……っ! ファイアボール!」

 フェルド魔術師長が、ファイアボールを連打する。

 ――どおおおおおおんっ!

 (やっぱり全然効いてないな……)

 俺は何度も炎に包まれるが、ノーダメージで。

「すまん。もう【不死鳥の杖】を使ってくれないか?」

 俺はフェルド魔術師長が地面に突き刺した、不死鳥の杖を指さす。
 不死鳥の杖を使えば、フェルド魔術師長は最強の炎属性魔法【ヘルファイア】が使える。
 Sランクモンスターでも、瞬殺できる攻撃魔法だ。
 このゲームの炎属性魔法では、一番火力がある。
 だが、ヘルファイアは不死鳥の杖を装備しないと使えないわけで。
 それに、別の問題もあって――

「ぐ……き、貴様の指図など受けない!」
「いや、こっちも反撃するからさ。不死鳥の杖を装備してもらわないと……」

 不死鳥の杖は、魔法防御力も強化する。
 アリシアの【聖なる杖】のバフ効果で、俺はチート級の魔力を得た。

 (お前が死ぬからだよ……! いいから早く装備してくれ~~っ!)

 いくら決闘とは言え、相手を殺すのは良くない。
 一応、決闘相手を殺しても罪に問われないが、後味が悪い。

「お、俺が準男爵ごときの命令を受けるか! 俺は公爵だ! 貴様の魔法で死ぬわけがないだろう……っ!」

 頑なに俺の助言を受け入れないフェルド魔術師長。

 (うーむ。どうしたものか……)

「シドさん。フェルドさんが装備を拒否しています。さっさとヤッちゃいましょう♪」
 ニコニコ笑うアリシア。

「……それもそうだな。魔力を少しくれ。本当に、少しでいいから」

 今よりほんの少し、魔力をもらえればフェルド魔術師長を倒せる。
 本当に、今より少しだけ強化されたらいい。

「わかりました。――魔力供給!」

 アリシアが聖なる杖を軽く振ると、俺は青白い光に包まれる。

「はい! すこーしだけ、魔力を足しておきました♪」
「ありがとな」
「クソ! 俺を無視するな……っ! ファイアボール! ファイアボール!」

 どんどんファイアボールが俺に当たりまくるが……やっぱり全然効かない。
 俺はフェルドに近づいていく。

「く、来るな! 来るな……っ!」

 ファイアボールを撃ちまくるフェルド魔術師長。

 (早く不死鳥の杖を使ってくれ~~っ!)

 決闘相手は公爵と王族だ。
 いくら生死を賭けた決闘であるとはいえ、あまりお偉いさんをボコりすぎるとマズイ。
 あとで俺の実家に、迷惑がかかるかもしれない。
 最近知ったのだが、シドくんには妹がいるみたいだ。
 俺がクロード王子たちを一方的にボコれば、弱小貴族のグランディ家は潰されるかも……

 「ギリギリの戦いをして、ラッキーで勝てた」

 これが俺の理想なわけだが――

「くう~~…っ! し、仕方ない……。準男爵にコイツを使うのはムカつくが」

 フェルド魔術師長が、不死鳥の杖を握る。

 (やった……! これでギリギリの戦いができる!)

 不死鳥の杖の力で、フェルド魔術師長の魔力が上がる。
 それで「ギリギリの戦い」ができる……!

「死ね! ヘルファイア……!」

 最強の炎属性魔法――ヘルファイアが放たれる。
 黒い巨大な炎。
 不死鳥の杖から、俺に向かって真っ直ぐ。

 (さすがに手で防ぐか……)

 これまでのファイアボールみたいに、ノーガードはまずいだろう。
 俺が右手で顔を覆うと、

 ――しゅん。

 ヘルファイアが、消えた……!?

「な……っ! 俺のヘルファイアが、跡形もなく……」

 フェルド魔術師長が驚く。

 (これはいったい……?)

 そして消えたと同時に――
 ヘルファイアが、俺の左手から……出てきた!

「な、な、な、なんで……? あああああああああああああああああああ!」
 直撃する、ヘルファイア。
 フェルド魔術師長が、吹っ飛んでいく。
 宙に舞って、落ちる。

「がはああああぁ……」

【噓でしょ……! フェルド様が負けるなんて……】
【あり得ない、絶対にあり得ないだろ……】
【あたしのフェルド様があああああああぁ! グランディ死ねえええええっ!】

 フェルドファンの令嬢から、悲鳴が上がる。

「いったいどうして……?」

 俺自身もわからない。
 突然、ヘルファイアが俺の手から……?

「上手くいきました!」

 アリシアが喜びの声を上げる。

「……? まさか、魔法反射を付与した?」
「さすがシドさんです! あと、威力を2倍にする【倍化】も付与しちゃいましたー!」
「ま、マジかよ……」

 俺はフェルド魔術師長に駆け寄る。無事を確かめるために。

「あうぅ……」

 立派な魔術師の服はボロボロ。
 口をパクパクさせて、気絶している……

 (よかった。なんとか生きてるみたいだ)

 準男爵令息が、公爵令息を決闘で殺害――なんてことになったらヤバかった。

【グランディのクソ野郎~~っ!】

 全学院生から、罵倒される俺。
 魔術師長に勝利したのに、まったく褒められていないわけだが……
 モブがイケメンをぶっ飛ばしたのだから、しょうがないか。

「!! シドさん! 危ない……っ!」

 アリシアが叫ぶ。

「死ね。グランディ」

 ユリウス騎士団長が、俺の背後に回る。
 【王者の剣】を振り下ろす――が。

 ――バキンっ!

 このゲーム最強の剣が、折れた。
 しかも、俺の左手で。

「わ、わ……我が公爵家に代々伝わる剣が……」

 と、絶望するユリウス騎士団長に、

 (今がチャンスだ……!)

 俺は首筋に、軽く手刀を喰らわす。

 ——ポンっ。

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 女の子みたいに叫ぶ、ユリウス騎士団長。

 (あれ? すげえ軽くやったはずなのに……)

「がは……」

 ユリウス騎士団長は、倒れた。

 (さすがに死んでないよな……?)

 俺はユリウス騎士団長を覗き込む。

「ひゅーひゅー……!」

 うん。呼吸はあるようだ。
 ギリギリ生きているらしい。

【きゃあああああ! ユリウス様あああああぁ!!】
【ユリウス様を返してえええ!】
【グランディ! 殺してやるわ……っ!】

 ユリウス騎士団長のファンが、悲鳴を上げる。
 そして、俺への罵声の数々。

 (完全に悪役になってしまった……!)

「グランディ……貴様。よくもわたしの親友を……」

 クロード王子が、右手を俺に向ける。

「ライトニングフレア……っ!」

 ライトニングフレア――勇者の血を引く王家の者だけが使える、雷属性魔法。
 ゲーム本編でも、ボス戦でよく使う魔法だ。
 威力が高いし、攻撃範囲も広い。

「はっはっは……! 逃げられんぞ! グランディ!」

 鋭い雷撃が俺に迫る。

 (ヤバい……これは、アリシアも巻き込まれるぞ!)

 俺はアリシアのほうへ走る。
 代わりに俺が被弾すれば……!

「……本当に優しいんですね。シドさん。大好きです」

 (え……っ?)

 ぼぞっと、アリシアが言うと、

「……魔力吸収」

 ――しゅん。

 ライトニングフレアが消える。

 (よし……うまく行った!)

「ど、どうしたんだ……っ?」
「ふふ。殿下の魔力を吸収しました。これで魔法はもう使えません」

 アリシアが言う。

「なに……?!」
「それから、殿下の魔力をシドさんに与えます」

 緑色の光に、包まれる俺。

「では、シドさん。ライトニングフレアを使ってみてください」
「でもなあ……」

 使ってしまうと、クロード王子に完勝してしまう。

「シドさん……ちゃんとトドメを刺さないと!」

 (トドメって……)

「ライトニングフレア! ライトニングフレア! クソ! 魔法が出ない!」

 クロード王子は魔法を発動しようとするが、全然発動しない。

「――グランディ殿。我が息子の負けだ。もう許してもらえないか」
「あなたは……!?」

 観戦に来ていた国王陛下が、やって来る。

「力の差は歴然。クロードは敗北した。審判よ。グランディ殿の勝利を宣言せよ」
「父上! わたしは負けていない――」
「愚か者! どう見てもお前の負けだ! 黙っておれ!」

「……勝者、グランディ男爵令息!」

「……いやあああああああああああああああああああああああああ!!」

 ファルネーゼが叫んだ。


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