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第1章

わたしは完璧な王子なのに……! クロード視点

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【クロード王子視点】

「父上……いえ、国王陛下。ご機嫌うるわしく」

 ここは王宮の、謁見の間だ。
 今日、わたしは父上である国王陛下に呼び出された。
 なぜか父上の表情が険しい……

 (何もやらかしていないはずだが……)

「クロード、我が息子よ。今日、お前を呼びしたのは、他でもない。例の【決闘】の件だ」

 ギロリと、父上がわたしを睨む。

 (えっ? もしかして怒っている……?)

「……グランディとの決闘のこと、ですか?」
「そうだ。なぜ準男爵令息ごときと、決闘などするのだ?」
「それは……グランディが身の程知らずにも、【統率者】に立候補したからで――」

 一瞬、間があった後……

「バッカもおおおおおおおおんっ!」

 父上が王笏を床に投げつけた。

「ひい……!」
 ついビビってしまうわたし。
 父上はキレ出したら止まらないのだ。

「……我が王家の家訓はなんだ?」
「えっ? 【王族たる者、常に強者であれ】ですか……?」
「違う! それじゃないほうだ!」

 (それ以外に家訓ってなかったような……?)

 ときどき父上は理不尽だ。
 父上は弱小国であったこの国を建て直した。
 自分たちと同じ弱小国に侵攻して、海外領土を増やした。
 その好戦的な性格から、【獅子王】の異名を持つ。
 だから昔からいる重臣たちも、父上には誰も逆らえない。

 (マジで何かわからないだが……)

 父上の言う「王家の家訓」は、次々新しいものが作られる。
 だから数が多すぎて覚えられないのだ。

「……わ、わかりません」
「バッカもおおおおおおおおおおおおおんっ!」
「ひい……っ!」

 父上がまたブチキレる。

「はあはあ……このバカ息子が。本当にわからぬのか?」
「はい。わかりません……」
「それは……【王族たる者、戦わずして勝つ】だ!」

 (そんな家訓、聞いたことないのだが……)

 父上の中で、また新しい家訓が誕生したらしい。

「戦わずして勝つのが、戦争の基本だ。そんなこともわからぬとは……この無能王子がぁ!」

 (クソ……っ! わたしは完璧な王子のはずなのに……!)

 グランディのせいで、わたしが父上にキレられるとは――
 なんと理不尽なのか!

「す、すみません……父上」

 王子のわたしは、頭を下げる。
 重臣たちもいる前で、屈辱的すぎる……
 だが、いずれわたしが王座につく。
 わたしは王位継承権第1位だ。
 他に将来の王座を脅かす者はいない。
 我が妹のシャルロッテは王位継承権第2位だが、本人は女王になるつもりがない。

「王座はお兄様に譲りますから」

 いつもそう言ってくれている。

 (うんうん。なんて良い妹なんだ……っ!)

 それに比べて我が父上は――

「おい! 聞いておるのか! 無能王子!」

 さっきからわたしを「無能王子」と連呼する父上。
 周りの重臣たちも呆れている……

 (ふう。我が父上ながら、息子の有能さに気づかないとは愚かな……)

 わたしは父上にバレないように、心の中でため息をつく。

「はい……父上」
「当然、決闘に勝つことはできるのだろうな?」
「もちろんです」

 わたしは父上に即答する。
 これは確信を持って言える。
 わたしは――グランディに勝つ。
 ゆるぎない真実。絶対の自信。
 どれだけ父上に問い詰められても、決して崩れることはない。

「えらい自信ではないか。さて、その根拠はどこにある?」
「根拠、ですか……?」

 父上が意地悪な笑みを浮かべる。

 (まったく醜悪な国王だ……)

 わざわざ【わかりきっていること】を尋ねてくるなど――父上も性格が悪い。

「さあ、お前が準男爵令息に勝てる、という根拠は何だ?」
「それは……わたしが、王子だからです!」

 自分が【王子】であること。これ以外の根拠がどこにある?
 正しすぎる、完璧な回答だ。
 だがしかし。

「バッカもおおおおおおおおおおんっ!!」
「?!」

 父上の怒りが爆発する。
 しかも、さっきより激しく。
 顔が鬼のように真っ赤になって……!

 (ど、どうしてだ……?)

「お前が【王子】であることなど、お前が勝つ根拠にならん!」
「しかし……わたしは王族です。魔力は準男爵令息の数倍上……負けることなどあるはずは――」

 はあ、やれやれ……と、父上が呆れた表情になる。

「たしかに確率としては、お前が勝つ可能性が高い。だが、戦(いくさ)に絶対はない。その準男爵令息は、お前に勝つための策を打っているに違いない」
「しかし……グランディに策などあるはず――」
「バカもん! グランディとやらは、お前の慢心を突いてくる。何か仕組んでいる。お前は、グランディの策にどう対抗するつもりだ?」
「お言葉ですが、グランディにはどうせ何もできません……。あいつに味方する学院生などいませんし、わたしには魔術師長と騎士団長がついています。グランディは、すでに詰んでいます」
「……なるほど。お前は王子だというのに、戦いに際して無策なのか……。どうやら育て方を間違えたらしい」

 父上は天を仰いだ。

 (ぐ……っ! いくら何でも、実の息子に対して言いすぎじゃないか……?)

「まあいい。お前が何もせずともグランディに勝てるというのなら、その言葉を信じよう。だが、万が一、王子であるお前が準男爵令息に負けることがあれば――」
「はい。わかっています」

 わたしを王位継承者から外す、ということだろう。

「わかっているのなら、それでよい。王族が負けるなど、恥もいいところだ。貴族たちの笑い者になる。王子のお前が負けることは、絶対に許されない」
「絶対に勝ちます」

 わたしは強く断言する。
 自分が負ける未来など、全然想像できないからだ。

「父上、お兄様は勝ちますわ。準男爵令息ごときに、王子であるお兄様が負けるわけないですもの」

 横からずっと黙っていたシャルロッテが、口を開いた。
 いつも絶対に父上に口答えなどしない妹だ。

 (兄の味方をしてくれるなんて……なんて優しい妹なんだ!)

 健気にも応援してくれるシャルロッテを見て、目頭が熱くなってしまう。

「シャルロッテがそこまで言うなら、わたしもクロードの勝利を信じよう。決闘はわたしも見に行くから、そのつもりでな」
「はい……! 必ずや、王族らしい華麗な勝利をご覧に入れましょう!」
 
 ★

【シャルロッテ視点】

「お兄様はたぶんグランディに負けるわ……」

 あたしは独り言をつぶやく。
 王宮のあたしの部屋。
 あたしは紅茶を飲みながら、窓の外を眺めていた。

「姫様がそう思うのなら、きっとクロード殿下は……」

 メイドのアンナが、あたしの独り言を拾ってくれた。

「そうね。でも、お兄様の勝敗よりも面白いのは――」
「あら。また姫様の悪い癖ですね?」

 ふふと、アンナが微笑を浮かべる。

「違うわよ。ただ、圧倒的に不利な戦いを挑むなんて、どんな秘策があるんだろうと思って。あたしの将来の、参考になるとね」
「では、グランディ様を調査すればいいですか?」
「さすがあたしのメイド。察しがいいじゃない」
「わたしは姫様の【剣】ですから」

 アンナはあたしのメイドであり、参謀でもある。
 実は暗殺者一族――ネクロス家の娘。アンナ・ネクロス。
 あたしが一番信頼している人間だ。

「もしもグランディ様がクロード殿下に勝てば、姫様が王位に近づきます」
「そんなことはたぶんないけど、もしもの時は……」

 あたしは小さな声で言う。

「グランディ様を、姫様の味方にするのですね」
「そうよ。有能な人材はこちら側に引き込まないとね」
 
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