上 下
16 / 27
第1章

シドさんは好きな子いるのかな? アリシア視点

しおりを挟む
【アリシア視点】

「あと少しでボスですね……っ!」

 コクリと、シドさんがうなずく。
 あたしたちはダンジョンのボスフロアの近くまで来た。
 雑魚モンスターのゴブリン・ゾンビを狩りながら、少しずつレベルを上げる。
 それで魔力を上げて、結界魔法の持続時間を伸ばした。
 でもそんなことより、あたしが気になるのは――

 (あたしの胸を見てくれたかしら……?)

 上手く手をつないで、上手くコケたつもりだ。
 ……いや、ちょっとわざとらしかったかもしれない。

 (ファルネーゼ様には、絶対に負けないんだから……っ!)

 ファルネーゼ様は、シドさんに興味を持っている。
 100%間違いない。
 シドさんを嫌っているように見せながら、実はシドさんのことを――
 これは乙女の勘だ。
 たぶんファルネーゼ様は、自分に立ち向かってくるシドさんに、特別な感情を抱いた。
 だからシドさんを、自分の物にしたいのだ。

 (シドさんは……あたしが手に入れる)

 あたしがファルネーゼ様に勝っているところは、「ここ」だ。
 自分の胸をあたしは触る。
 ここは絶対に勝っている自信がある。
 これは乙女の戦いだ。
 もっと胸をシドさんに近づけないといけない。
 それと……もっともっとシドさんにあたしをアピールしないと!
 あと、賭けにシドさんが勝ったら、ファルネーゼ様には「土下座」してもらおう。
 そのために、ファルネーゼ様の外堀をどんどん埋めなきゃいけない。

 (絶対に逃がさないわ……っ!)

 ファルネーゼ様が誓約を破れないようにするためには……
 誓約の代償をとても大きくすればいい。
 たしかにシドさんの言う通り、誓約は破ることができる。
 でもその時は、代償を支払わないといけない。
 そして代償は、こちら(シド)が設定できる。
 ファルネーゼ様に課す代償を、あたしはコッソリいじっておいた。
 絶対に失うわけにはいかないものを、代償にしておいた。

 それは――爵位だ。
 ファルネーゼ様にとって一番大事なものは、「公爵令嬢」という地位。
 シドさんは100万ゴールドを代償にしていたけど、ファルネーゼ様は爵位を大切にしている。
 今まで侯爵令嬢の地位を振りかざして、人をいじめてきた。
 だが、侯爵令嬢の地位を失えば、取り巻きの人たちも離れていくだろう。

 (絶対に裸で踊ってもらうんだから……っ!)

 何があっても、シドさんをファルネーゼ様に勝たせる。
 そして、恋もあたしが勝つんだ……っ!

 (シドさんは今、好きな女の子いるのかな……?)

 すごく聞きたいけど、怖くて聞けない……
 もしもシドさんに他に好きな子がいたとしても、あたしは大丈夫。
 すごく、すごく辛いけど……
 あたしは二番目でも構わない。
 シドさんだけが、あたしを助けてくれた。
 だからあたしはシドをずっと側で守り続けたい――

 ★

【シド視点】

「あれがアンデッド・キング……っ!」

 一言で言うと、でかいゾンビだ。
 背中に大きな剣をしょっている。
 ボスフロアに足を踏み入れた俺たち(シド、アリシア)は、アンデッド・キングの様子を伺っていた。
 アンデッド・キングは、まだ俺たちの存在に気づいていなかった。
 後ろの台座に、【聖なる杖】が見える。

「よし。ふいをつけるぞ」
「はい! やってしまいましょう!」

 やけにやる気満々のアリシア。
 負けそうな戦いのはずなのに、アリシアがいると勝てる気がしてきた。

「ふふふ……愚かな人間よ。我はもう気づいているぞ」

 ドンっ! 
 アンデッド・キングは飛び上がって、俺たちの目の前に来た。

「きゃあああああっ! シドさん助けて……っ!」

 アリシアが俺に抱き着く。
 ふにょん!

 (背中に柔らかいものが……!)

 ていうかアンデッド・キングってしゃべるんだな。
 ゲームだと特に会話なく、戦闘が開始したから、アンデッド・キングがしゃべって少しびっくりだ。

「むむ……貴様ら、レベルが低すぎるぞ。我と戦うには雑魚すぎるのではないか?」

 うん。ずばり正解だ。
 シナリオ後半のダンジョンだから。
 低レベルクリアとか縛りプレイでもしない限り、俺たちのレベルじゃ来ない。

 (しかも乙女ゲーで縛りプレイなんて誰もしないし……)

 だがこのゲーム、乙女ゲ―でありながら、戦闘システムはかなり本格的だ。
 きちんとレベルを上げて、装備を整えないとボスを倒せないようになっている。
 だからアンデッド・キングさんが驚くのは、ゲーム的に正しい態度だ。

「ふっふっふ! 我の養分となれい……!」

 アンデッド・キングはいかにも悪役っぽく笑って、でかい剣を振り上げる。

「死ねっ! 死狼剣……!」

 でかい剣を振り下ろす――
 死狼剣は、アンデッド・キングの必殺技。
 今の俺たちが喰らえば即死だ。

 だがしかし。

「ぐ……がはァ!!」

 アンデッド・キングの足が崩れる。

「な……なんだ?! いったい何が起こって……?」

 動揺するアンデッド・キング。
 顔はゾンビだから表情はわからないが。

「やりましたね! シドさん!」

 アリシアがすげえ喜ぶ。

「ああ。引かってくれてよかった」
「貴様ら……何をした?」

 さっきのアリシアの悲鳴は演技。
 隙をついて、足元に聖水を撒いておいた。
 聖水がアンデッド・キングの足を溶かしたのだ。

 あとは、少し離れたところから――

「聖水を投げまくる!」
「ぎゃああああああああああああ!!」

 (ヤバい……ちょっと楽しいんだが)

 無抵抗のアンデッド・キングに、聖水をぶつけまくる俺たち。
 これじゃ、どっちが悪役かわからないな……

「があああああァ……」

 アンデッド・キングは倒れた。

【レベルアップしました!】
【レベルアップしました!】
【レベルアップしました!】

 鳴りやまない、レベルアップ音。

 (すげえ気持ちいい……!)

「やった! すごくレベルが上がりますね……っ!」

 またアリシアが俺に抱き着く。
 ふにょん! ふにょん!
 さっきよりも強く、アリシアの胸が俺に当たりまくる……!

 (やっぱりアリシアの胸はでかいな)

 俺はアリシアの胸の豊かさを実感するのだった。

「かなりレベルアップできたな」

 まだ序盤でスライムを倒しているような段階なのに、後半のダンジョンボスを倒した。
 あり得ない量の経験値が入ったから、だいぶ強くなった。

「よし。あとは聖なる杖をゲットしようか」
「はい!」

 俺たちは聖なる杖のある台座に近づく。
 聖なる杖は主人公専用アイテムだ。
 装備すれば、味方全員の魔力を大幅に強化できる。

「これでクロード王子をボッコボコにできますね……!」



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

物語の悪役らしいが自由にします

名無シング
ファンタジー
5歳でギフトとしてスキルを得る世界 スキル付与の儀式の時に前世の記憶を思い出したケヴィン・ペントレーは『吸収』のスキルを与えられ、使い方が分からずにペントレー伯爵家から見放され、勇者に立ちはだかって散る物語の序盤中ボスとして終わる役割を当てられていた。 ーどうせ見放されるなら、好きにしますかー スキルを授かって数年後、ケヴィンは継承を放棄して従者である男爵令嬢と共に体を鍛えながらスキルを極める形で自由に生きることにした。 ※カクヨムにも投稿してます。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...