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第1章

ファルネーゼ様の裸を見たいですか?

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「よし。ダンジョンに入るぞ!」
「はい……っ! シドさん!」

 俺とアリシアはブラック・フォレストにある隠しダンジョン――【暗黒の森林】へと入った。
 魔力の強いアリシアを先頭にして、聖水をかける。
 これで雑魚モンスターは寄って来なくなった。

「このまま最短でボスを目指すぞ」
「はい!」

 森の中にあるダンジョンだからか、周囲はすげえ暗かった。
 照明魔法を使いながら、下の階層へ進んでいく。

「暗いですね……はぐれないように、手を繋ぎましょう!」
「えっ? 手を繋ぐのか?」
「そっちのほうが安心だと思って……シドさんはもしかして、あたしと手を繋ぐの嫌ですか?」
「いや、全然嫌じゃないけど……」
「でしたら、しっかり手を繋ぎましょう!」

 「しっかり」という言葉を妙に強調するアリシア。
 俺の気づかないうちに、さっとアリシアが俺の手を握る。

 (すべすべの手だな……)

 照明魔法にアリシアの白いきれいな手が照らされていた。

「シドさんの手……おっきくってあったかいです……」

 アリシアは俺の手をぎゅっと握る。

「なんだかこれ、デートぽっいですね」
「えっ? デート……うわぁ」

 アリシアが石につまずいてこけた。
 手を繋いでいた俺も一緒にこけてしまう。

「…………あっ!」

 俺の顔にすごく柔らかいものが。 
 顔が挟まれてすごく気持ちよくて。

「ご、ごめんなさい! シドさんがあたしの下に……」

 ふにょん、ふにょん!
 アリシアの身体が揺れると、もっと顔に押しつけられて――

「ほ、本当にごめんなさいっ! あたしがドジだから」

 アリシアはやっと俺の身体からどいた。

「いや……大丈夫。ただの事故だし」

 事故でおっぱいに顔を潰されることに。

 (うん。悪くない事故だ……)

「はい。あたしの手に捕まってください」

 アリシアが俺の手をつかんだ。

「ありがとう」

 またアリシアは俺の手をしっかりと握る。

「では……先に進みましょう」
 
 ★

 俺たちは雑魚モンスターをなるべく避けながら、ボスフロアを目指す。
 ただ……雑魚の中でも弱いモンスターは狩って、レベルを少しでも上げる。

「シドさん。ファルネーゼ様は、本当に何でもするのでしょうか……?」

 次のフロアに降りた時、アリシアがふと俺に話しかける。

「どうだろうな……? ファルネーゼのことだから、約束を反故にするからもな」

 俺は自分の左手に刻まれた、【誓約の刻印】を見た。
 一応、ファルネーゼとは誓約魔法【ゼイウス】を結んだ。
 誓約は貴族社会では重んじられるから、誓約を破れば白い目で見られることになる。名誉こそ、貴族の命だからだ。
 だが、誓約自体は破れないわけじゃない。
 99%以上の確率で、ファルネーゼは約束を反故にするだろう。

「酷いですね……何でもするとお約束したのに」
「そうだな。でも、ファルネーゼの性格を考えると、あり得ないことじゃない」

 あのクソ最悪な性格を思うと、約束を破るなんてきっと平気だ。
 だけど……俺としては、ファルネーゼに負けを認めさせればいい。
 ファルネーゼが誓約を破れば、それは結局、俺との賭けに「負けた」ことになる。
 周りのクラスメイトたちが証人だ。
 それに俺も、ファルネーゼの足を舐めずに済む。

「まあ俺は、アイツがこれ以上、アリシアをいじめなくなればそれでいいよ」
「ありがとうございます。シドさんは優しいんですね……。でも、不公平じゃないですか? ファルネーゼ様が賭けに負けても何にもないなんて……!」

 アリシアが唇を噛んだ。

「そう言われると、そうかもしれない」

 俺が負ければファルネーゼの足を舐めることになるが、ファルネーゼが負けても何もない。
 たしかに不公平と言えば、不公平かもしれない。

「ファルネーゼ様は、ご自分で【何でもする】と言ったのです。何かしてもらわないと、不公平ですよ……っ! シドさんが勝ったら、何かしてもらいましょう!」

 ずいっとアリシアが顔を近づけて、俺に力説する。

「そうだな……」

 でも、ファルネーゼにしてもらいたいことなんて、ないしな……

「あっ! たしかファルネーゼ様は、【裸で踊る】と言ってましたね……。だったら、ファルネーゼ様に裸で踊ってもらうのはどうでしょう!」

 ニコニコしながら言うアリシア。

「いや、それはちょっと……」

 ファルネーゼは自分から【裸で踊る】と言っていた。
 だが、女の子を裸にして踊らせるのは、いろいろ問題が……

 (ていうか、女の子のアリシアが言うことか?)

 そして次にアリシアは、すごいことを俺に聞いてきた。

「シドさんは……ファルネーゼ様の裸、見たくないんですか……?」
「えっ?」
「ほら……! ファルネーゼ様って、見た目(だけ)はかわいいですし……す、すみませんっ! あたし、さっきからなんてことを言って……っ!」

 自分で言った後に、アリシアは顔を真っ赤にする。
 ようやく自分がヤバいことを言ってたと、気づいたらしい。

「別に見たくないよ。ファルネーゼの裸なんて……」
「ほ、本当ですか?」
「うん。本当だよ」
「(ほ……っ! よかったあ……)」

 胸をなで下ろすアリシア。

「……何か言ったか?」
「いいえ! 何でもありませんっ!」

 アリシアは「あわわっ!」と慌てる。
 明らかに何かありそうな感じだけど……
 アリシアに【ファルネーゼの裸】について言われたから、いろいろ想像してしまう。

 (ファルネーゼって、おっぱい小さそうだよな……)

「シドさん。今、邪悪なことを想像しませんでしたか?」

 じっと、アリシアが俺を見つめてくる。

「いや、何も想像してないって……」
「ま。あたし、ここはファルネーゼ様に勝ってますから!」

 ふんすっと、アリシアが胸を張る。
 ででんっと、俺の目の前におっぱいが迫ってきて――

「勝ってますよね、勝ってますよね……? シドさん?」

 不安そうな表情で俺に尋ねるアリシア。
 たしかにファルネーゼより全然勝っているな……
 ここはアリシアの大勝利。うん。間違いなく圧勝だ。

「ふむふむ。わかればよろしいです」

 俺は何も言ってないが、雰囲気で納得してくれたらしい。

「こほん……! とにかく、早くボスのところへ向かいましょう!」

 俺たちは、このダンジョンのボス――アンデッド・キングのフロアへ急いだ。


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