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3章

レギーネの様子がおかしい件

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「レギーネか……何か用か?」

 午前1時――
 俺を訪ねてきたのは、レギーネだった。

「…………」

 レギーネは下を向いて、スカートの裾をぎゅっと掴んでいる。
 身体が少し、震えていた。

「どうしたんだ……?」

 俺はベッドで寝ながら、

 (なんだか様子がおかしい……)

「……なんでわかんないよ? 婚約者が夜、部屋に訪ねてきたの」
「……えっ? いや……そういうことか?」
「バカフォンス! あたしに言わせないでよ! もお!」

 顔を真っ赤にして、怒るレギーネ。

「ごめん。いきなりすぎて……でも、婚約者とは言え、俺たちはまだ結婚してない。だからそういうことは――」

 (レギーネとの結婚は、まだ先じゃ……?)

「……はあ?・はあ?・はあ? クズフォンスのくせに、なに言ってんのよ! アンタみたいなブタ野郎とスルわけないでしょ! 変態……っ! 死ね!」

 叫びまくるレギーネ。

「おいおい。みんな起きちゃうだろ。静かにしてくれ」
「ぐ……っ! クズフォンスのくせに~~……っ」

 レギーネは俺をじっと睨んで、唇を噛んだ。

 (理不尽すぎるだろ……)

「……で、俺に何の用だよ? 眠いんだから早く言ってくれ」
「何よ。その態度……もっと右に寄って」
「どういう意味だ……?」
「アンタが真ん中にいると邪魔なのよ! 早く右に寄りなさい!」

 (わけわからんな……)

 俺はレギーネに言われた通り、とりあえず身体を右に動かす。
 そうすると、ベットの左が空くわけだが……

「もっと、もっと、右に寄ってよ!」
「なんだよ……まったく……」

(もう寝たいのに、めんどくさいなあ……)

 俺はもっと身体を右に動かす。

「もっとよ! ギリギリまで……っ!」
「おいおい……」

 全然意味がわからないが、俺はベッドの右端まで身体を寄せる。
 落ちそうなぐらい、ギリギリの端っこまで動く。

 (いったい何がしたいんだよ……?)

「……右を向いて」
「は?」
「右を向いてっ!」
「はあ……はいはい。右を向いたよ」
「……絶対、絶対、絶対に、こっち向かないでね!」

 (こっちはダンジョン攻略で疲れてるのに……)

「おい。いい加減にして――」

 ボフっ!

「…………!」

 レギーネが俺の隣に寝転んだ。

「おい。レギーネ――」

 俺がレギーネのほうを向こうとすると、

「こっち向かないで……は、恥ずかしいじゃない……っ!」

 俺はレギーネに、頭を抑えられた。

 (マジで意味わからないな……)

 原作の設定では、レギーネはいわゆる「ツンデレキャラ」だ。
 つまり、普段はツンツンしているけど、主人公の前ではデレデレする女の子。
 だからレギーネは、ジークにだけデレることになる。
 しかも、デレるのはレギーネ√に入った時だけだ。
 レギーネ√以外だとツンが強いから、レギーネアンチのプレイヤーも多い。
 実際、ヒロインキャラの人気投票でも下のほうだ。
 だけど、ツンが強めな分、デレが凄まじいから、一部の熱心なファンがいて――
 とにかく、謎すぎる行動だ。

「……本当に何だよ。急に」
「別にいいじゃない。あたしたち、一応婚約者なんだし……」

 はあはあ……と、レギーネの息遣いが聞こえる。

「まあ……そうだけど」
「その嫌そうな言い方は何……?」
「普段の言動を考えるとね。唐突すぎて」
「………仕方ないじゃない。アンタがいつも、可愛い女の子たちに囲まれてるから――」
「えっ?」

 今のレギーネのセリフは、聞き覚えがある。
 レギーネ√で、エッチシーンの前に言うセリフだ。

 (ウソだろ……あり得ない……っ!)

 攻略√としては、オリヴィア√かリーセリア√に入っていると思っていた。
 アルフォンスへのレギーネの好感度は、かなり低い。
 原作のシナリオ通り、レギーネはジークのところへ行くと予想していたが、

「あたしはアルフォンスの婚約者なのよ。オリヴィア殿下とリーセリアとクレハに囲まれて、デレデレするアルフォンスがムカつくの……」
「それって嫉妬している――」

 ドンっ!

「痛い……っ!」

 レギーネが俺の背中を殴った。

「し、嫉妬してるわけないでしょ……! ダメ貴族のくせにハーレム作ってるアンタに、ムカついただけよ。か、勘違いないでよね……っ!」

 (すげえわかりやすい奴だな……)

「ハーレム作るなんて生意気すぎ。昔はデブった無能だったくせに……!」
「そんなもの作ってないって……」

 レギーネは昔のアルフォンスを知っている。
 アルフォンスの急激な変化を、受け入れられないのかも。

 (中身も別人格だしな……)

「どうしてそんな急に変わったの? 全然違う人みたい。魔法もすごく上手くなったし、剣も強くなったし、ファウスト将軍を倒しちゃうし……。まるで水の魔術師様みたいじゃない?」

 Q.どうしてアルフォンスは変わったのか?
 A.別人が「中の人」になったから。
 ――もちろん、絶対に言えない。
 言ったところで、信じてもらえるわけがない。

「…………」

 黙り込む俺。

「どうしたの? 何か言いなさいよ」
「……レギーネにふさわしい男になろうと思ったから」
「え……?」
「このままじゃダメだと思って、変わろうとしたんだよ」
「…………もしかして、あたしのためってこと?」
「うん。まあね」
「…………ず、ずるいわよ。そんな言い方」

 (咄嗟に言ってしまった……)

レギーネには悪いが「ウソ」だ。
別にレギーネのためじゃなかった。
 本当は、モブ悪役として破滅するからアルフォンスは変わったのだ。

「…………!」

 背中に、柔らかい感触が……
 レギーネが俺に、抱き着いてきた。
 控え目な胸が、背中にぎゅっと押し当たる。

「…………動いたら殺すから」

 俺の耳元でレギーネがささやく。
 ドキドキと心臓が鼓動する。

 (これじゃ完全にレギーネ√じゃないか……)

 原作のシナリオでも、ベッドの中でレギーネが抱き着くシーンがある。
 もちろん、抱き着く相手は主人公のジークだ。
 アルフォンスじゃない。
 本当なら今ごろ、アルフォンスは婚約破棄されている。
そして、辺境で野垂れ死んでいるはずで……

「ねえ……アルフォンス。あたし、言いたいことあるの」
「なんだよ……」
「…………」

 ぎゅうっと、レギーネは俺の服を掴む。

「………ううん。何でもない」

 ――ガタっ!

 ドアの向こうで、物音がした。

「何だ……?」

 俺は起き上がって、ドアのそばへ行く。

「誰かいたのか……?」

 なんとなくだが、人の気配が残っている。

「…………怖い」

 レギーネがひどくおびえている。

「レギーネ、何か知っているのか?」
「……何も知らないわよ。でも――」

 レギーネは涙目になって、

「今夜は……アルフォンスに一緒に寝てほしい」
 

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