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2章

あたしが霞んでしまうじゃない! レギーネ視点

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【レギーネ視点】

「ふう……ここが【栄光の盾】のギルドハウスね」

 あたしとリーセリアは、迷宮都市ロンバルディアに到着した。
 クズフォンスを追ってきたのだ。

「アルフォンスっ! 幼馴染のあたしが来てやったわよ!」
 バンっと、あたしはギルドハウスのドアを開けた。

 チラチラチラチラ「…………」

 ギルドハウスの中にいた冒険者たちは、黙ってあたしとリーセリアを見ている。

「誰だ、あいつら……?」
「どっかの令嬢だろ」
「俺らに何の用だ?」

 ヒソヒソと話すことが聞こえる。

 (貴族の令嬢が訪ねてきたのに、出迎えもない……。失礼な平民たちね)

 アルトリア王国は、貴族至上主義の国。
 平民は貴族に絶対服従が当たり前なのに……

「あんたたち、あたしはレギーネ・フォン・オルセン侯爵令嬢よ。さっさとアルフォンスを呼んで来なさい」
「ちょっとレギーネ……冒険者さんたちに失礼よ」
「いいのよ。平民どもを甘やかしたらつけ上げるから」

 ガタっ……っ!

 奥に座っていた大男が、立ち上がった。
 ゴッツイ鎧と背中に斧を背負っている。

「お嬢ちゃん、ひでえじゃねえか……俺たち平民を見下して」

 あたしに近づいてくる。

「な、なによ……アンタ。貴族のほうが偉いんだから当然でしょ!」
「なんだと……テメエ」

 ずいっとあたしに顔を近づけてくる。
 男の息が、あたしの顔にかかって。

 (酒クッサイわね……っ!)

 昼間から、酔ってるみたいね。

 (これだから冒険者って嫌いなのよ……っ!)

「……ねえ、レギーネ。冒険者さんに謝ろうよ」
「なんでこんな汚いオッサンに謝らないといけないのよっ! しかも平民なのに!」

 平民が貴族に何かすれば、死罪だ。
 だからどうせオッサンは何もできやしない。

 (平民が貴族に逆らうなんて愚かね……)

「お嬢ちゃん……冒険者の怖さをわからせてやるよ」

 オッサンが、背負っていた斧を握る。

 (えっ……ウソでしょ……?)

 薄笑いを浮かべるオッサン。

「な、なにする気よ……」
「へっへっへ、俺がわからせてやるぜ」

 オッサンが斧を振り上げる。

「え、ちょ、待って――」

 あたしは膝がガクガク震えて、

「死ねええええええっ! オラァァァ……っ!!」

 斧の刃があたしの頭上に。

 (た、助けて……っ! 水の魔術師様……っ!)

 あたしは目をぎゅっと閉じた――

「やめろ……っ!」

 (えっ? この声は……?)

「――スライム・ガード!」

 あたしの頭にスライムが出現して、
 斧を、受け止めた――

「な、なんだ……これは……」

 スライム・ガードは、水属性の防御魔法だ。
 そして、聞き覚えるある声。

 (もしかして……水の魔術師様が助けに来てくれたの……?)

「アル様……っ!」

 リーセリアが叫ぶ。

 (アルフォンスが助けてくれた……?)

「スライムが俺の斧に……う、動かねえ……っ!」

 スライムはすっぽり斧を包みこんでいた。
 一生懸命オッサンが斧を動かそうとするが、まったく動かない。

 ギルドハウスの入口に、すごく人相の悪いオッサンと、アルフォンス、オリヴィア殿下、ユリウス殿下、クレハがいた。
 それに、キモジークもいるわ……

「ノーマン……武器を収めてくれ」
「ぐ……っ! ガイウスさん、このメスガキは俺たち冒険者をコケにしたんですよ?」

 人相の悪いオッサンは、ガイウスと言うらしい。

「その2人はアルフォンスくんの友人だ。許してやってくれ」
「いや、俺は絶対に許さねえ……」

 ノーマンがあたしを睨みつける。

「幼馴染のレギーネが、失礼なことしてすみません……。なんとか収めてもらえませんか?」

 アルフォンスが、ノーマンに頭を下げる。

「えっ? アルフォンスが謝ることないのに……っ!」

 オリヴィア殿下が驚く。

「そうです! 悪いのはレギーネです! アルくんが謝ることありませんっ!」

 リーセリアが叫んだ。

 (な、なによ! まるであたしが、悪者みたいじゃない……っ!)

「……わかった。アルフォンスさんに頭を下げられたら仕方ない」

 ノーマンは斧を下げた。

「ありがとうございます」

 アルフォンスがお礼を言う。

「アルフォンスさんの頼みだからな。おい、メスガキ令嬢! 口には気をつけろよ!」
「はあ? アンタ、なに言って――」

 あたしの発言を無視して、ノーマンは外に出て行った。

「レギーネ、本当に口に気をつけろよ……」

 クズフォンスが呆れた顔で言う。

「な、なによ! アルフォンスのくせに! あたしが悪いって言うわけ?」
「うん。お前が悪い」

 クズフォンスが即答する。

 (クズフォンスのくせに何様のつもりよ……!)

「で、何しに来たんだよ? レギーネ」
「それは……」

 と、あたしが言いかけた時だった。

「アル様っ!」

 リーセリアがクズフォンスの胸に飛び込んだ。

「うわあっ!」

 クズフォンスが後ろに倒れる。

「アル様が無事に帰還するか心配で……学園を休んで来てしまいました……」

 クズフォンスの胸で泣き出すリーセリア。

「そ、そうだったんだ……」
「そうよ! わざわざ幼馴染が来てやったのよ! 感謝しなさいよねっ!」
「ありがとう。リーセリア」
「ちょっと! あたしにも感謝しなさいよっ!」

 (まったくムカつくヤツだわ……)

 ★

「ちょっと……何なのよ。このハーレムは……?」

 神剣デュランダルを手に入れたお祝いに、パーティーが開かれた。

 (ファウスト将軍を撃退するなんて……クズフォンスにしてはやるじゃない)

 と、せっかく(少しだけ)褒めてやったのに、

「なによ……デレデレしちゃってっ!」

 クズフォンスの周りには、オリヴィア殿下、リーセリア、クレハがいる。

「アルフォンス、あーんしなさい。これは王女命令です」
「オリヴィア殿下、ずるいです! アル様、あーんしてくださいっ!」
「わたしはアルフォンス様の騎士です。騎士たる者、主人の口に食事を運ぶもの。あーんしてください」

 し、信じられないわ……
 美少女3人が、競ってクズフォンスに「あーん」しようとしているわけで。

(あ、あたしが霞んでしまうじゃない……婚約者なのに~~っ!)

 チラチラチラチラ「…………」

 背後から誰かの視線を感じる。
 あたしが振り返ると、後ろには――

「レギーネさん。お久しぶりです……」

 キモジークが立っていた。
 ニコニコしているけど、目が笑っていない……!

「あ、あ、あ…………」

 怖すぎて、あたしは声が出ない。
 キモジークは、あたしがボロクソ言ったことを知っている。

 (ヤバい……逃げなくちゃ……!)

 あたしは(不本意ながら)クズフォンスのテーブルへ行く。
 ファウスト将軍を倒したクズフォンスの近くにいれば、安全だと思ったからだ。
 クズフォンスに目配せして、あたしは助けを求める。

(これじゃまるで、クズフォンスのハーレムに入りたいみたいじゃないの!)

「どーした? レギーネ」

 クズフォンスがそう言うと、3人(オリヴィア、リーセリア、クレハ)があたしを睨む。

(新しいライバルだと勘違いされているわね……)

「……なによ。あたしがアンタの近くにいちゃ、悪いわけ?」
「別にいいけど……なんだか顔色悪いぞ。なにかあったのか?」
「ふん! アンタに関係ないから!」
「そうか……ならいいけど」

 一応まだ婚約者だから、あたしを気にかけているつもりなのかも……
 でも、クズフォンスの周りには、

「アルフォンス……パーティーが終わったら、あたしの部屋に来て。これは王女命令です」
「王女命令はズルいです! アル様はあたしと一緒に寝るんです!」
「ね、寝るだなんて……。なんと不埒なことを! 騎士として、アルフォンス様をお守りしなればなりませんっ!」

 美少女たちが常にいるわけで……
 しかも、王女殿下と金持ち伯爵令嬢と剣聖だ。
 みんなハイスペック――

 (婚約者のあたしを差し置いて……ひどすぎる!)

 あたしは大いに不機嫌になりながら、ワインをがぶ飲みした。
 
 ★

【アルフォンス視点】

「ふう……今日は疲れた」

 深夜――
 俺はギルドが用意してくれた部屋に、やっと帰ってきた。
 バタンと、ベッドに倒れ込む。
 結局、オリヴィアたちに付き合って、遅くまで飲んでしまった。

「明日、王都へ帰るのか……」

 俺は椅子に立てかけた、神剣ディランダルを見ている。
 原作のシナリオだと、神剣ディランダルはシャルロッテに奪われたはずだが……

「完全にシナリオをぶっ壊してしまったな」

 どんな影響がこの世界にあるかわからない。
 今からでもシナリオ修正して、ジークを主人公に戻さないとな……

「次は授爵式イベントか……」

 原作のシナリオでは、平民のジークが爵位を授かることになる。

 (ジークも騎士爵の下7位をもらえればいいが……)

 万が一、ジークが爵位をもらえなかったら、俺がオリヴィアに掛け合おう。

「そろそろ寝るか」

 俺がランプの灯を消そうとした時、

 ガタっ……っ!

 部屋のドアが開いた。

「誰だ……?」
「アルフォンス、あたしよ……」

 部屋に入ってきたのは――

「…………レギーネ?」


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