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2章

レギーネだけは俺のもの ジーク視点

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【ジーク視点】

 栄光の盾の物置小屋――

 ガイウスとの邂逅の後、4人(アルフォンス、オリヴィア、ユリウス、ジーク)は、それぞれギルドが用意した部屋へ通されたのだが、

「クソ……なんで俺がこんなところで寝ないといけないんだ……っ!」

 【影が薄い】と言われ、俺は物置小屋に通された。
 剣やら盾やらが所せましと置いてあり、めちゃくちゃ古いのかすげえカビ臭い。
 部屋が足りないから物置小屋で我慢してくれとのこと。
 かろうじてベッドはあったのだが……

「なんで俺の部屋がないんだよ……っ! ふざんけんじゃねえ……っ!」

 こんなのおかしい。
 おかしい。
 おかしい。
 おかしい。
 普通、物置小屋で寝るのはあのモブ野郎だ――アルフォンスだろ!
 俺は主人公だぞ。
 原作のシナリオでは、主人公ジークはギルドの一番いい部屋に通される。
 それから、ヒロインの好感度によって、最初のえっちシーンがある。

 オリヴィア√なら、オリヴィアがジークの部屋を訪ねてくる。
 そこでオリヴィアは初めてのダンジョン攻略で不安がっている。
 だから、ジークが優しく慰める。
 王女殿下としての立場と、ジークへの愛の間で、オリヴィアは激しく葛藤する。
 葛藤しつつも、オリヴィアはジークにキスをする。
 それから2人はベッドで……
 俺はよく覚えている。
 実際、結構抜けるシーンだからな。
 イラストの数も多い。
 神絵師の描いた、最高のえっちシーンである。
 声優さんの演技も神がかっている。
 しかし……オリヴィアはもうダメかもしれない。
 すでにアルフォンスの毒牙にかかっている。

「もしかして洗脳魔法でも使ったのか……?」

 洗脳魔法――ドミニオン・コントロール。
 ラスボスの魔法【ゾロアーク】が使う魔法だ。
 対象者を洗脳して操ることができる。
 原作シナリオの終盤、ゾロアークは洗脳魔法でヒロインたちを操る。
 ジークとヒロインたちを戦わせるのだ。
 ヒロインたちをしっかり育成してきたプレイヤーほど、苦戦を強いられる。

「公式が鬼畜、なんだよな……」

 ヒロインたちの好感度が高くないと、洗脳は解けない。
 ジークとヒロインたちの絆の強さが試される……心憎い演出だ。

「アルフォンスは……洗脳魔法を使っているのかもしれない……」

 アイツはシナリオ序盤では絶対に使えないはずの、上級回復魔法ケアルガを使った。
 だから他の上級魔法を使えてもおかしくない。
 洗脳魔法は魔王ゾロアーク専用魔法だが……

「もしかして、チートコードを使っているのか?」

 このゲームには、公式が配布したチートコードがある。
 初回特典の特別プレゼント。
 チートコードを使えば、敵側の魔法も解放される。 

「あんなモブを好きになるのは……洗脳魔法以外ありえない!」

 アルフォンスは、なんらかの方法でチートコードをこの世界で使用して、洗脳魔法を習得したに違いない。
 それで俺のヒロインたちを誑かしているのだ。
 洗脳魔法を使わなければ、ヒロインたちは主人公のジークのもとに来ているはず。
 絶対に、そうだ。間違いない。

「俺が……洗脳されたヒロインたちを助けるんだ……」

 それが主人公ジークの役目だ。
 まだアルフォンスに洗脳されていないのが、レギーネだ。
 俺の2番目に押しているキャラだ。
 レギーネはアルフォンスに汚されていない。
 純真な、処女だ。
 オリヴィアは仕方ない。
 もうアルフォンスに汚されてしまった。
 だが、レギーネは違う。

「レギーネに、俺の愛を伝えた……」

 俺はレギーネに、ラブレターを出した。
 レギーネの部屋のドアの隙間に、ラブレターを差し込んだ。

 (今頃、読んでくれているかな……)

 それにレギーネと俺は、前世から特別な「縁」で結ばれていた――

 前世、俺はこのゲーム【ドミナント・タクティクス】を愛していた。
 ヒロインキャラで一番好きなのは、オリヴィアだ。
 神絵師の描く大きなおっぱいは、二次元なのに柔らかく感じられる。
 だが、声が一番好きだったキャラは、レギーネだ。
 レギーネの声優さん――森原めぐみ。
 最高のエロゲ声優だ。
 ドミナント・タクティクスのOPとEDを歌っていたのも、森原めぐみさんだ。
 俺は毎回、LIVEに通っていた。
 CDも50枚買った。
 Uwitterのアカウントに毎日毎日リプライを送り続けた。
 だけど……
 森原めぐみさんは、俺を無視した。
 俺がリプライを送っても返信をくれなかった。
 それどころか、フォロバすらなかった。
 LIVEに行って最前列で手を振っても、目を合わせてくれなかった……

 どうして?
 どうして?
 どうして?
 どうして、俺の愛がわからない?

 俺は1日中、森原めぐみさんのことを考えているのに……
 だから俺は……わからせてやった。
 俺は、森原めぐみさんの家を突き止めた。
 夜、森原めぐみさんが帰ってきた時に――
 塩酸を顔にぶっかけてやった。
 ぎゃあぎゃあ叫んでいた。
 きれいな顔が、ドロドロに溶けて……

「でも、全部、森原さんが悪いんだよ……」

 俺の愛を受け入れなかったのが悪い。
 だが、世間は俺を非難した。
 「身勝手な男」の犯行だと……
 
 前世の胸糞悪い記憶はどうでもいい。
 俺は新しい世界を手に入れた。
 新しい主人公としての人生。
 やっと俺は、本来の自分として生きられる……
 そう思っていた。
 人生が報われた気がした。
 だが――

「アルフォンス……あのモブのせいで……」

 レギーネすらも、アイツに取られてしまう。
 きっとラブレターを読んで、レギーネは俺の愛に感激していることだろう。
 だが、もしも、前世みたいに俺を拒否したら……

「また、塩酸をかけてわからせないといけない」

 いや、塩酸は必要ない。
 この世界の俺は、魔法が使える。
 雷魔法で、レギーネの顔を……

「俺だって、そんなことしたくないよ」

 そうだ。俺はやりたくない。
 だが、主人公の俺を愛さないヒロインは――

「徹底的に、わからせてやる……っ!」

 だけど、まずは邪魔なアルフォンスを殺すことから始めないと……

「はあっ! はあっ! はあっ!」

 外から声が聞こえる。
 この声は……
 クレハ・ハウエルだ。
 主人公ジークの騎士となるはずだったキャラ。
 2つ名を「氷の姫騎士」
 原作のシナリオでは、栄光の盾のエース冒険者として、主人公たちの前に立ちはだかる。
 かなりレベルを上げて挑まないと、すぐに全滅させられる。
 クレハを倒せば、ジークの力を認めて仲間になってくれる。
 かなり強力な戦力だ。
 古代バルト神殿跡ダンジョンを攻略するために、絶対に必要なキャラだ。
 なのに……

「アルフォンスが取りやがった……っ!」

 許せない。
 許せない。
 許せない。

「取り戻してやる……っ!」

 俺は外に出た。

 ★

「はあっ! はあっ! はあっ!」

 深夜。
 月明りに照らされた、ギルドの鍛錬場。
 鎧を着たクレハが、剣を振る。

(汗が出ている……)

 クレハの鎧から、汗が滴っている。

「いい匂いがしそうだな……」

 俺は後ろから、ゆっくりと近づいた。

「だ、誰だ……っ!」

 クレハはすぐに気づいて、俺に剣を向ける。

「おっと。俺です。俺ですよ」
「……誰だ? 貴様。このギルドに何の用だ? 不法侵入だぞ……っ!」

 (お、俺のことを知らない……?)

 昼間、ガイウスに挨拶した時に俺も一緒にいたはずなのに……っ!
「貴様! 早く出て行け……っ!」

 クレハは、俺の喉元に剣を突き付ける。

「く、クレハさん……落ち着いてください。私はジーク・マインドです。アルフォンスと同じ学園生です」

 【アルフォンス】という名前を聞いて、クレハが剣を下した。

「…………あっ! 思い出しました。アルフォンスの後ろにいた、シークさん? でしたか……?」
「シーク、ではなく、ジークです」

 (クソ……っ! 名前さえちゃんと覚えていてくれないのかよ!)

「あ……っ! ジーク・マインドさんですね。アルフォンス様の従者の」
「従者ではありません。アルフォンスとは友達です」
「そ、そうでしたか……ははは。失礼しました」

 俺に謝りするクレハ。

 (クソ……っ! バカにしやがって!)

「ところで、クレハさんはこんな夜更けに、何をしているのです?」
「剣の鍛錬です。明日、ダンジョンに潜ることになっていますから」
「すごいですね……さすが剣聖です。でも、自分のお身体も大切にされないと」

 (クレハの身体を気遣えば、俺になびくかも……)

 しかし、俺の思惑とは反対に、

「いいえ。騎士は常に、主人を守るために鍛えないといけません。昼も夜も、アルフォンス様のために心身を鍛えなければ」

 (アルフォンスのどこがそんなにいいんだよ……っ!)

 クレハのアルフォンスへの献身ぶりに、俺はイラつく。

「ははは……クレハさんは本当にアルフォンスを慕っているのですね」
「はい! アルフォンス様は最高の男性ですっ! 魔法にも剣にも才能があります。そのくせ、傲慢にならずに謙虚です。あたしのような平民にも優しいです。アルフォンス様にお仕えすることこそ、あたしの幸せです……っ!」

 目をキラキラさせながら、アルフォンスを称えるクレハ。

 (なんでそんなにアルフォンスを持ち上げるんだよ……っ!)

 俺は内心、舌打ちした。

「クレハさんは、アルフォンスと一緒にいて幸せですか? 別の主人と騎士契約を結びたいとか思ったことはないのですか?」
「……え?」

 クレハが目を丸くする。
 まるで信じられないと言った感じの顔をしている。

「すみません。何かマズイことを聞いてしまったみたいで――」
「いいえ。アルフォンス様以外の主人にお仕えすることを考えたことなかったですし、今、アルフォンス様と一緒にいることが、最高に最高に幸せなので、アルフォンス様以外のことは考えていなかったので……」

 (頭の中は、アルフォンスでいっぱいなのかよ……)

 さっきから、「アルフォンス様」「アルフォンス様」「アルフォンス様」とアルフォンスの名前ばかり言いやがって……

「でも……何か不満はあるでしょう? 少しぐらいは?」

 (アルフォンスへの不満を引き出すぞ……)

 俺がそう言うと、クレハきょとんとした顔をした。

「……ごめんなさい。アルフォンス様への不満は何ひとつありません。アルフォンス様と出会ってから、あたしは毎日がキラキラしています。アルフォンス様はあたしに生きる希望をくれました。だから不満を抱いたことさえありません」

 クレハはきっぱりと俺に言った。

 (クソ……っ! 不満が何もないなんで絶対に嘘だ……)

「あ……っ! 不満ならひとつあります!」
「どんな不満ですか……?」

 (やった! アルフォンスへの不満があって!)

「アルフォンス様の周りには……女性が多すぎることです。それも、とてもキレイな女性ばかりです。あたしの不満は、アルフォンス様がモテすぎることです。アルフォンス様は素敵すぎて、キレイな女性たちを魅了してしまうのです。だからあたしは……一緒にいて嫉妬してしまうのです。アルフォンス様が王女殿下やリーセリア様と仲良くしているのを見ると、もうイライラしてしまって……あたし、騎士失格ですよね?」
「…………」
「? シークさん、どうかしましたか?」

 (どんだけアルフォンス様上げをしたら気が済むんだよ……クソクソクソっ!)

 ていうか、また名前を「シーク」と間違ているし……

「…………いや、本当にクレハさんはアルフォンスが好きなんですね」
「はい。あたし、アルフォンス様が大好きです。本当は騎士が主人に恋愛感情を抱くなんて言語道断なのですけど、アルフォンス様があまりにも素敵すぎて……どうしても【好き】という気持ちがあふれてしまうんです」

 クレハはモジモジしながら、顔を真っ赤にしている。

「アルフォンス様を想うと、夜も眠れないくらいドキドキしてしまうんです。もう一人でアルフォンス様を想ってあたし……あっ! ごめんなさい! 男性の前ではしたないことを言ってしまって……」
「いえ、別に……」

 (クレハも完全に、アルフォンス様に落とされていたか……)

 原作のシナリオでは、クレハはジークを想って「一人遊び」をするはず……
 つまり、すでにクレハの心の中に、ジークが入る余地などなかったのだ。

「シークさん、ありがとうございます。あたし、誰かに話したかったのです。あたしのアルフォンス様への愛を、誰かに告白したかった。感謝します」
 クレハは俺に頭を下げる。

「ははは……別にいいですよ……」

 (アルフォンス……絶対に殺してやる!)




 
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