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2章

主人公の影が薄い件

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 冒険者ギルド【栄光の盾】――
 貴族の援助から独立したギルドだ。
 普通の冒険者ギルドは、貴族の援助を受けている。
 だが、この栄光の盾は違う。
 自分たちの実力のみで、稼ぐギルドだ。

 当然、所属している冒険者は実力者のみ。
 冒険者にはランクがあって、最低のFランクから最高のSランクまで、強さに応じた格付けがある。
 栄光の盾に所属できる冒険者のランクは、最低でもAランク以上だ。
 所属冒険者たちのプライドは、すさまじく高い。
 生まれや家柄に頼る貴族たちをバカにしている。

(すげえデカいギルドハウスだな……)

 俺は内心、驚く。
 栄光の盾のギルドハウスは、ロンバルディアの中心にある迷宮【ギアナの大穴】の隣にある。
 ギルドハウスは、ギルドの拠点となる館のようなものだ。
 言ってみれば、冒険者たちの基地。
 で、ギルドハウスはそのギルドの稼ぎによって大きさが違う。
 栄光の盾のギルドハウスは、王国一の大きさらしい。

 俺たち4人(アルフォンス、オリヴィア、ユリウス、ジーク)は、栄光の盾のギルドハウスに足を踏み入れた。

「「「「こんにちは……」」」」

 広いホールには、鎧姿の冒険者たちがたくさんいた。
 俺たちをじっと見ているが、誰も近づいてこない。

 (かなり警戒されているな……)

 平民出身者の冒険者は、貴族に恨みを持つ者が多い。
 貴族は、魔法の使えない平民を搾取する存在だと。

「あっ! セプテリオン魔法学園の皆様ですか?」

 奥から女の子が出てきて、俺たちに話しかけてきた。
 制服のようなきちんとした格好をしているから、ギルドの受付嬢だろう。

「貴様……。王族がギルドに来てやったのに、出迎えもないのか……っ!」

 ユリウスが不機嫌な顔をする。
 ギルド内の空気が冷ややかになる。
 貴族嫌いの冒険者たちが多い中で、王族のユリウスの傲慢な態度はかなりヤバい。

「すみません。遅くなってしまいまして……」

 ジークが受付嬢に頭を下げる。

 (うん。これは原作通りだな……)

 原作のシナリオでは、平民出身のジークが冒険者たちに頭を下げる。
 ジークの謙虚な態度に、冒険者たちは好感を持つわけだ。

「いえいえ。こちらこそ気づかずすみませんでした。奥でギルマスがお待ちしています……」

 (俺がいるだけで、イベントの進行には影響ないみたいだな)
 
 ★

「なるほど……貴族のヒヨッコ4人を寄越したのか。お前らに何ができるというのだ?」

 ギルドマスターのガイウス・レオニオス。
 ライオンのようなヒゲのある、大柄の男だ。
 要するに、ガチムチのおっさん。
 スキルは重騎士で、2つ名は【鉄壁のガイウス】だ。
 頬の傷が、これまでの激しい戦歴をうかがわせる。
 声は低く、獣の遠吠えのよう。
 前世の知識で言えば、ヤク〇にしか見えない。

 (左手の小指もないしな……)

 どういう設定で小指がないのか、原作では描かかれてないからわからんが。
 とにかく……ガイウスは徹底した実力至上主義者で、能力のない冒険者は容赦なく切り捨てる。
 もともとダンジョンに捨てられた孤児から、王国で4人しかいないSSランク冒険者に成り上がった。
 今や、アルトリア王国でも気を遣うほどの、王国の影の実力者だ。
 大の貴族嫌いで、学園生の俺たちを大いに見下している。

「貴様……王族に向かってなんて口の利き方だ?」
「貴様に言っているのだ。無能王子よ」
「な……っ!」

 プライドの高いユリウスが、ガイウスに挑発に乗ってしまう。
 それからユリウスとガイウスの舌戦を繰り広げる。

 (うん。ここまでは原作のシナリオ通りだな……)

 一方、ジークを見ると、

 ガクガクブルブル「…………」

 ジークが怯えている?
 たしかにゲームの画面で見るより、ガイウスは迫力がある。
 だが、ジークはこのゲームの主人公だ。
 そんなにビビるのは、おかしくないか……?
 
「あ、あなたは……」
「……?」

 ガイウスが俺の顔をじっと見つめる。

 (やばい! 何かやらかしてしまったのか……?)

「もしかして……アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息ですか?」
「は、はい……そうですけど」
「あなたに……会いたかったっ!!」

 ガイウスが俺に、抱き着いた……!

 (な、なんだ……! いったい?!)

 すげえ太い腕だ。

 (めちゃくちゃ痛いんだが……っ!)

 他の3人(ユリウス、オリヴィア、ジーク)もかなり驚いている。

「あの……俺が何かしましたか?」
「あっ! 失礼しました。ついついお会いできた嬉しさに、男同士で熱い抱擁を交わしてしまいました……」
「そ、そうっすか……。ところで、どうして俺のことを知ってるんです?」

 ガイウスがアルフォンスのことを知っているはずがない。
 原作のシナリオでは、ジークたちがガイウスと遭遇する前にアルフォンスは退場しているからだ。

「クレハから手紙で」
「なるほど……」

 クレハ以前、栄光の盾に所属していた。
 栄光の盾では、エース冒険者だった。
 アルトリア国王の近衛騎士団長のスカウトもあったが、断ってずっと栄光の盾に居続けた逸材。
 もちろんギルマスのガイウスのお気に入りで、副ギルドマスターでもあった。
 他の冒険者たちにも、クレハはすごく慕われていたらしい。
 そんなクレハを俺の騎士にしてしまったんだ。
 だから、ガイウスは怒っているかと思っていたが――

「ヴァリエ侯爵の実力は、クレハから聞いています。いやあ、ヴァリエ侯爵ほどの実力者に来ていただけるとは……我々は本当に助かります!」

 さっきまで険しい表情で俺たち一行を見ていたのに、今のガイウスは人の良いおじさんだ。
 イカツイ顔なのに、笑顔はすげえ無邪気でギャップに驚く。

「おい。ちょっと待ってくれ。アルフォンスはクレハと知り合いなのか?」

 ジークが血相を変えて、俺とガイウスの間に割って入った。

 (いったいどうしたんだ……?)

「ああ。実はクレハは俺と騎士契約を結んで……」
「そ、そんなバカな……」
「うん? どういう意味だ?」
「あ……いや、何でもない。何でもない。あはは……」

 (なんだか様子がおかしいな……)

 クレハが俺の騎士だと知ってから、明らかに動揺している。

「さすがアルフォンスっ! 栄光の盾のギルマスさんにまで名前を知られていたなんて……すごいですわ!」

 オリヴィアが手を叩いて喜んだ。

「……実は、貴様たちがちゃんと戦えるかどうか確かめるために、ウチの冒険者と手合わせを願おうと思っていたが、ヴァリエ侯爵がいるなら必要ないな……」
「おいおい。ヴァリエ侯爵はたしかに強いが、俺ほど強くはない。俺は王子殿下だぞ? 魔力量ならこの中では一番多くて――」

 ユリウスが不満げな表情で言うが、

「貴様……己の実力を知らんのか。貴様らの中では、ヴァリエ侯爵が一番強い。長年冒険者をやってきた俺にはわかる。誰が強者で、誰が弱者であるか。ヴァリエ侯爵が自分より強いとわからない時点で貴様は要らん。もう帰っていいぞ」

 ガイウスは、心底呆れた調子で言った。

「なんだと……! き、貴様っ! 王子である俺に向かってなんて言い草だっ! 不敬だ! 不敬! 許さんぞ……っ!」

 ユリウスは顔を真っ赤にしてキレるが、

「王族の坊ちゃん。冒険者ギルドでは実力がすべてなんだ。弱者は要らない」

 と、涼しい顔で言うガイウス。

「さあ、ヴァリエ侯爵。ウチのギルドで最高ランクの部屋を用意しています。あと、オリヴィア王女殿下にも」
「なぜだ……? どうして同じ王族の俺に部屋はなくて、オリヴィアには部屋があるんだ?」
「オリヴィア王女殿下は、ヴァリエ侯爵の実力を正しく評価している。相手の実力を正しいく測る能力は冒険者にとって最も重要な資質だ。だから俺は、オリヴィア王女殿下のことは真の【王族】として認めている」
「き、き、き、貴様~~っ! 不敬にもほどがあるぞ! 俺がアルトリア王国になったら、確実に貴様をつぶしてやる!」

 ユリウスは剣を引き抜いて、ガイウスに切っ先を向ける。

「はははっ! 王族という立場に縋らないと何もできないとはなっ!」

 ガイウスも、背中の大剣を抜こうとする。

 (マズイな……この展開……)

 ユリウスも魔力量は多いが、さすがにSランク冒険者には敵わない。
 ていうか、普通にガイウスと戦えば死ぬだろう。

「まあまあ、2人とも剣を収めてくれ。ガイウスさん、ユリウス殿下は魔法の才能があります。だからダンジョン攻略でも必ず役に立ってくれます。だから、ユリウス殿下の部屋も用意してもらえませんか?」

 俺はガイウスに頭を下げた。

「……わかりました。ヴァリエ侯爵に頭を下げられてしまったら、こちらは願いを聞かないわけにいきません」

 ガイウスは大剣を鞘に納めた。

「ユリウス殿下も、剣を収めてください。俺たちは学園の代表なのですから……」
「ち……っ! 覚えてろよ」

 ユリウスも剣を鞘に納める。

「では、ユリウス殿下の部屋も用意しましょう……」

 (よかった。なんとかこの場が収まった)

「あの……俺の部屋は?」

 小さくなっていたジークが声を出すが、

「なんだお前? まだいたのか。えーと……名前は……」
「な……っ?!」

 ガイウスは、ジークの存在に気づいていなかったようで。

「すまん、すまん。影が薄くて気づかなった……」
「…………」

 黙り込むジーク。

「ジークの部屋も用意してもらえませんか?」

 俺がそう言うと、

「はい! ヴァリエ侯爵の頼みとあれば、すぐに用意しますっ!」


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