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2章

リーセリアのメイドを脅迫する レギーネ視点

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【レギーネ視点】

 ——アルフォンスたちが冒険者ギルドに向かっていた一方その頃。

「誰がリーセリアの婚約者か、言いなさい」
「ぐ……っ!」

 あたしはベンツ伯爵家のメイド——クリスティアを尋問している。
 クリスティアは、リーセリア専属のメイドだ。

 取り巻きの令嬢たちを使って、あたしの部屋に連れて来たのだ。
 親友のリーセリアのことで相談がある……と言って誘い出した。

 クリスティアを椅子に座られて、拘束魔法で腕を縛った。

「それは決して言えません……っ! もし言えば、リーセリアお嬢様への裏切りになってしまいます!」
「へえ……。これでも言えないのかしら?」

 あたしはテーブルに、皮袋を置く。

 皮袋の中には、レギオン金貨がたくさん。  

 ざっと100枚は入れておいた。

 平民は一生手に入らない金額。平民は金貨1枚さえ普通は手に入らない。
 クリスティアは、喉から手が出るほどほしいに違いない。

 (魔法で偽造した金貨なんだけどね……)

 バカな平民は気づかないから大丈夫だけどw

「う……っ。それは……」
「アンタ、お金に困ってるんでしょ? 故郷の妹が重い病だって言うじゃない。このお金があれば、治療できるわよ」

 病や呪いを治療するには、アテナ教会にお布施が必要だ。
 治癒する病が重ければ重いほど、たくさんのお布施が求められる。
 魔法が使えない平民は、アテナ教会にお布施するしかなかった。

「しかし……お嬢様を裏切るわけには——」
「大丈夫よ。もしベンツ伯爵家をクビになったら、あたしがメイドとして雇ってあげるから」
「本当ですか?」
「ええ。本当よ。嘘はつかないわ……」

 もちろん「嘘」だ。

 ベンツ伯爵家を裏切ったメイドをあたしの家(オルセン侯爵家)で雇えば、確実にベンツ伯爵家と関係が悪くなる。
 ベンツ伯爵家は、かつて世界を救った勇者の血族と言われている家柄だ。
 だから表立って対立するわけにはいかない。

 (クビになったら、全部アンタが裏切ったせいよ)

「さあ、誰が婚約者か言いなさい……っ!」
「リーセリアお嬢様の婚約者は——」
「婚約者は?」
「ユリウス王子殿下……」
「な……っ!」

 まさかユリウス王子殿下が、リーセリアの婚約者だったなんて!
 
 あたしは一瞬、驚いてしまうが、

 (まあ、あり得ないことじゃないわね……)

 ベンツ伯爵家は勇者の血を引く家柄。

 王族が勇者の血族を欲しがるのは自然なこと。

「ふーん。ありがとね……」
「では、これはいただいても——」

 クリスティアはレギオン金貨に手を伸ばすが、

「ダメよ!」

 ピシャリと、あたしはクリスティアの手を叩く。

「な、なぜですか? ちゃんと話しましたよ?」
「アンタはあたしのスパイになりなさい。リーセリアの動きをすべてあたしに報告するの」
「そ、そんなことできません……!」
「あら、いいのかしら? リーセリアに全部バラすけど?」
「それは……」

 クリスティアの表情は絶望している。

 そう。あたしはこのメイドを罠にかけたのだ。

 もしあたしを裏切れば、リーセリアに捨てられる。

 これでクリスティアは逃げられない。

 あたしは、都合よく動く駒を手に入れたのだ。

 (あはは! 哀れなメイドだこと……!)

 思わずほくそ笑んでしまうあたし。

「後はユリウス殿下にバラすだけね……!」


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