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2章

モブ悪役、決闘を挑まれる

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 次の日——

 Aクラスの講堂に向かうと、

「王女殿下に呼ばれた、ヴァリエ侯爵だ」
「いったい何者なんだよ……」
「オリビィア王女陣営か」

 やっぱりオリビィアとのことは、噂になってるな……

「……あんた。よくもあたしも巻き込んだわね」

 レギーネが、鬼の形相で俺のところへ来た。

 (めっちゃくちゃ怒ってる……)

 俺が一度、オリビィアの誘いを断ったせいで、婚約者のレギーネを連れて行くことになった。

 王位争いの話を聞いてしまった以上、レギーネも俺も、対立するユリウス陣営から「敵認定」される。

「すまん……」
「すまん、じゃ済まないわよ……っ!」
「レギーネ、お前はちゃんと俺が守るから」
「……っ! ま、守るってアンタが……?」

 突然、レギーネの顔が真っ赤になって。

 (ヤバい……。もっと怒らせてしまった……)

「ふ、ふんっ! クズ貴族のアンタが守るなんて……無理ありすぎよっ! それよりも——」

 レギーネはさらに顔を赤くして、

「も、もし、水の魔術師様を見つけたら……あたしも会わせて」
「……? 水の魔術師と会いたいのか?」
「ち、違うわよっ! 水の魔術師様が好きだとか、そんなんじゃないからね……っ!」
「水の魔術師を……好き?」
「何言ってんのよっ! 【水の魔術師様が大好きです。愛してます】なんて、誰も言ってないわよっ!」

 机をぶっ叩いて、キレまくるレギーネ。

「…………わかった。とにかくお前にも会わせるよ」

 (俺が水の魔術師だとわかったら、たぶん殺されるな……)

「そ、そうよ。本当に、めっちゃくちゃ楽しみにしてるだからね……っ!」

 レギーネは逃げるように席を戻った。

「おはよう! アルフォンス!」

 オリビィアが俺に挨拶してくる。

「お、おはよう。王女……いや、オリビィア」
「ふふっ! 昨日はありがと!」

 ぐいっと俺に、顔を近づけてくる。

 ふわっと甘い匂いがする……

「アイツ、王女殿下を呼び捨てにしたぞ……」
「王女殿下に名前で呼ばれるなんて!」
「どういう関係なんだ?」

 (めっちゃくちゃ目立ってしまった……)

 オリビィアには、もっと自分の影響力を考えてほしいというか……

「じゃ、またねっ! アルフォンス」

 笑顔で自分の席に戻っていくレギーネ。

 (やれやれ。変なことになってきたな……)

 ★

「みなさん、昨日、バルト神殿跡ダンジョンから、モンスターが出てました……」

 ロゼリア先生が、講堂に入って来た。

 開口一番、深刻な口調で話し始める。
 
 バルト神殿跡ダンジョン——王都の近くにある、古代のバルト神殿の跡地に出現した迷宮だ。

 (ダンジョン攻略イベントが来たか……!)

 シナリオでは、魔力の多い学園生が冒険者ギルドへ派遣されて、ダンジョンを攻略する。

 選ばれる学園生は、3人。

 ユリウス、レギーネ、そして、主人公のジーク

 ダンジョンの最深部に、主人公専用装備の【神剣デュランダル】がある。

 ゲームの中では最強武器で、魔王ゾロアークを倒すために必須だ。

 シナリオ攻略上、絶対に回収する必要がある。

「冒険者ギルドから、学園生の派遣が要請されました。モンスターから人々を守るのは、貴族の義務です。セプテリオン魔法学園からは、4人の学園生を派遣します」

 (4人……? 3人じゃないのか?)

 一瞬、ロゼリア先生が俺の顔を見た。

 嫌な予感がする……

「選ばれた学園生は……ユリウス王子殿下、オリビィア王女殿下、ジーク・マインドさん、そして——」

 (ま、まさか……?)

 心臓がバクバクして。

「アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵ですっ!」

 ロゼリア先生が、びしっと俺を指さす。

「おい。ヴァリエ侯爵は魔力50しかないはずだろ?」
「無能貴族のはずじゃ……?」
「やっぱりアル様は、実はすごい人なのね……っ!」

 クラスメイトたちがざわつく……

「はいはーいっ! 4人はこの後、私のところへ来て——」

 ロゼリア先生がそう言いかけた時、

「待ってくださいっ! どうしてヴァリエ侯爵が選ばれたのですかっ? ヴァリエ侯爵の魔力は平均の50しかないはずなのにっ!」

 ひとりの学園生が、声を上げる。

 ロゼリア先生に抗議したのは、ダスト・フォン・ガベイジ伯爵。

 ユリウス王子陣営の、ナンバー2だ。

 シナリオでは、平民であるジークが選ばれたことにキレて、ジークに決闘を申し込むのだが……

「……調べましたよ。ロゼリア先生は学園に来る前に、ヴァリエ侯爵の家庭教師をしていたそうですね。だから贔屓しているのでしょう?」
「いえ、決してそんなことは……」

 うろたえるロゼリア先生。

「今まで無能と言われていたヴァリエ侯爵が、いきなりギルド派遣に抜擢された。怪しすぎます」

 ダストの言うことも、一理ある。

 今まで「ゴミ」「無能」と呼ばれていた男が、突然Aクラスに来て、しかもギルド派遣にまで選ばれた。
 何かあると疑われても仕方ない。

「ヴァリエ侯爵には、実力を証明してもらいましょう。決闘を申し込みますっ!」

 ダストが俺に、手袋を投げた。

 貴族が決闘をする時は、相手に手袋を投げる。

 相手が手袋を拾えば、決闘の成立だ。  

「おい。どうした? ビビってるのか……?」

 ダストが俺をあざ笑う。

 (さて、どうしようか……?)

 原作では、ダストと決闘するのはジークだ。

 俺が手袋を拾えば、決闘が始まってしまう。

 そうなれば、たぶん実力がバレてしまう。

 (そうだ! 土下座しよう……!)

 土下座して決闘から逃げれば、俺は学園で「臆病者のゴミ」認定される。それで、アルフォンスはモブに戻れるわけだ。 

 (よし! 土下座するぞーっ!)

 俺が跪こうとすると——

「ガベイジ伯爵っ! あたしがアルフォンスの付添人を務めます。アルフォンスは絶対、あなたに勝つことでしょうっ!」

 オリビィアが、床に落ちた手袋を拾い上げた。
  
 (オリビィア……っ! 何をして……?!)

 決闘には付添人をつけることができる。

 決闘がフェアに行われているか、見守る役目だ。

「ならば、ガベイジ伯爵の付添人は、この私が務めよう」

 ユリウスが、オリビィアの前に立つ。

「「誓約魔法——オルコス」」

 2人は誓約魔法で、決闘の成立を誓い合った。

「……仕方ないですね。決闘が成立してしまいました。放課後、それぞれ訓練場へ来てください」

 決闘の成立を、ロゼリア先生が宣言した。

 (マジかよ……)
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