上 下
1 / 1

一話完結 王女様が、逃げ出しました

しおりを挟む


「婚約なんて、破棄しますわ」

 銀髪の王女が、また、わがままを言い出しました。
 ここは王女の私室で、私は王女の侍女ギンチヨです。

「王女様、明日は王弟陛下の長男様と、婚約の顔合わせの日になります」

 本日と明日のスケジュールを再度説明します。


「王女様は、国王陛下の一人娘であり、養子をとることが定められております」

 そうなんです、一人娘で、わがまま放題に育ってきた王女なんです。


「ふん、お腹がすいたわ。ケーキを持ってきなさい」

 先ほど、朝食を頂いたばかりです。ケーキばかり食べるので、最近はスタイルが崩れ、肌にも吹き出物が出ています。

「シェフが開発したケーキを、昼食に付けるよう伝えておきます」

「だめよ、あんなの。野菜のケーキはダメ、バターと卵をたっぷり使い、クリームとジャムもたっぷり載せたケーキじゃなければ、ケーキとは認めないわ」

 ちっ、ばれたか。シェフと苦労して開発したのに。


「午後は、お昼寝よ」

「15分程度のお昼寝を組んでおります」

 食後の休憩は体に良いことなので、スケジュールに無理やり入れています。

「足りないわ、最低3時間、寝るわよ」

「午後は、明日の顔合わせの衣装合わせがあります」

 今朝も、さっきも、本日と明日のスケジュールを説明しましたよね。


 扉がノックされました。

「王女様、ケーキをお持ちいたしました」
 彼は、王女の従者です。

「貴方は、いつも気が利きますわね」

 カロリーと脂質がモリモリのケーキを口へと運び、王女の機嫌が直りました。


 でも、彼が退室すると……

「ギンチヨ、私の彼に色目を使ったでしょ、絶対に許さないわ」

 あんな腰ぎんちゃくに、私が色目なんて使うはずがありません。

 いや、その前に、王女には、明日、顔合わせする婚約者がいるでしょ!


「明日、森林浴に行くわ」

「え? 森は魔物が出たので、立ち入り禁止になっています。いや、それ以前に、明日は顔合わせです」

 この王女は、わざと私を困らせようとしています。

「言うことが聞けないの、なら、降格よ」

「どうぞ」

 私は、降格が重なり、すでに最低クラスまで落ちています。さらに、侯爵家から勘当され、家名まで失っており、貴族として、これ以上は下がる場所が無いほど落ちています。

「それに比べて、従者たちは素晴らしいわ」

 王女の周りには、イエスマンしかいません。侍女たちは全て辞めて、腰ぎんちゃくな従者たちだけが残り、そして昇格しています。

 私は、困り果てた国王から直接お願いされ、良縁を紹介するとの条件に流されて、唯一の侍女として、耐え忍んでいます。

「ギンチヨは、毎晩、従者たちと遊び歩いていると、噂を広めておいたから」

 このクソ王女が! 私は良縁が来ることを楽しみに、この苦行に耐えているのに。悪い噂で、良縁が来なくなったら、どうしてくれるの。

「貴女は、私と同じ銀髪だから、私が遊び歩いても、全て貴女がやったと言えるので、便利な侍女だわ」

 私と、王女は、同じ銀髪であり、声質も似ているので、よく間違えられます。いや、スタイルは、私の方が断然良いのですけど。

 こんな仕事が続いており、昔のことを、なにか大事なことを、私は忘れているような気がします。


    ◇


「王女様、朝です」

 翌朝、王女の寝室に行き、カーテンを開けると、王女の姿が見えません。早起きするタイプではないし、ベッドも乱れているので、心配になります。

「従者様、どちらです?」

 従者たちの姿も見えません。

「まさか……」
 部屋の中を確認します。

「ない!」
 宝石類、お金になる物が全て無くなっています。

 馬車を確認するため、王宮内を走ります。

「ない!」
 王女たちは、逃げたのですか?

    ◇

 すぐに、国王へ面会を求めます。同時に、国王の方から、呼び出しがありました。

 執務室に入ると、国王は寝間着のままでしたが、かまわずに報告します。

「大変でございます、王女様が、逃げ出しました」

「ギンチヨ、こっちには王女の置手紙があった、駆け落ちすると書いてある」

 一瞬、時間が凍り付いた気がしました。


    ◇ 


 宰相を務めているお父様が、緊急に登城してきました。現状を報告します。

「王弟陛下に全てを話すべきか……」

「弟に王位を渡すのは嫌だ。弟の嫡男に渡すのは、仕方ないが……」

 策略に長けたお二人ですが、困った顔も素敵ですね。


「宰相、いや侯爵、ここは代役を立ててはどうか?」

「国王陛下、王女と似た女性など……ここにいますね」

 二人が、私を見ました。

「ギンチヨは、少し遠いですが、王家の血を引いております。王女と同様に、おばあさまの若いころの絵姿にそっくりです」

 お父様は、国王のイトコです。


    ◇


 婚約の顔合わせが始まりました。国王陛下、王弟陛下、留学帰りの黒髪の嫡男、宰相と……立場を考えれば私だけ浮いているのは気のせいでしょうか。


 朝の騒動から、緊急で、衣装のサイズを手直しし、王族らしく化粧をしました。

 日ごろから仲良くしているメイドさんたちが、私のために、腕を振るってくれましたので、完璧に王女へと化けました。


「王弟陛下の第一子クロガネと申します。王女様の噂は、留学先にまで聞こえてきていました」

 嫡男が、王女は噂とはずいぶん違うと、遠回しに言ってきました。

「留学先でも私のことを気にかけていただき、うれしく思います」

 さらっと、受け流します。でも、この黒髪のクロガネ様と、私はどこかで会っているような気がします。

 
 突然、扉がノックされ、国王の従者が、あわてて入ってきました。

「大変でございます、王女様が森で魔物に襲われました。従者を含め、全員が食べられたとの報告がありました」

「王女はここにいる。魔物の討伐隊をすぐに出せ」

 国王陛下の一言で、従者は下がりました。

「兄上、いまの報告は、どういうことですかな?」
 王弟陛下が、国王陛下をにらんでいます。

「問題ない、追放した元王女のことだ。現在の王女は、養女にしたこのギンチヨただ一人だ。宰相の娘であり、王族の血も引いている。不足はないだろ」

 国王陛下が、すました顔で答えました。


「王弟陛下、僕は、元の王女様なら婚約を断る気持ちでいましたが、このギンチヨ嬢ならば、初等部で机を並べた仲であり、喜んで婚約したいと思います」

 あ~、思い出しました。

 この黒髪の嫡男は、初等部で、仲が良かったというか、私にプロポーズしてきた男の子です。

 ずいぶんとイケメンになっていて、気が付きませんでした。


「ギンチヨ嬢、初等部の時、私からの申し入れを覚えておりましたなら、そろそろお返事をいただけませんか」



「遅くなりました。私はクロガネ様のことを……まずは、お友達からお願いします」

 もう何年も会っていないのだから、結婚相手を決めるのは、慎重にいかないとね。



 ━━ FIN ━━




【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

処理中です...