上 下
1 / 1

一話完結 婚約破棄で幽霊になった令嬢

しおりを挟む


『私は、幽霊になったの?』

 王立魔法学園の高等部3年、貴族クラス、窓際の最後部の席に、私は座っています。

 体は、半透明、、、私は誰なの?
 心にぽっかり空いた穴は、何なの?


 教室の中、誰も私が見えないようで、普通に歓談しています。

 けど、隣の席の男子が、チラチラと私を見ます。

 金髪碧眼、顔もまぁまぁイケメンです。
 名前は、ジョーというのですね。

「貴方は、私が見えるのですか?」
 試しに、話しかけてみました。


「幽霊は見えないが、なぜか、君は見える」

「その席は、幽霊が座る席ではない」

 彼は、少し怒ったように答えました。


「そこは、アップルの席だ」

 この席に座るべき令嬢の名前ですね。
 不思議と懐かしいような名前です。


「彼女は、1週間前から休んでいるが、必ず立ち直って、戻ってくる」

 彼の言葉には、会えない辛さがにじんでいます。

 彼女のことを、彼は好きなようですが、なぜか彼女は学園を休んでいます。


「婚約破棄が原因だと思う」

 休んだ理由は、解っているのですね。

 この席の令嬢は、幼い頃から、王子の婚約者として、教育されてきたそうで、婚約破棄は相当ショッキングな出来事だったようです。

 彼は、彼女の幸せを願い、身を引いていたが、奪い取るべきだったと、後悔していると、語ってくれました。

 隣に座る彼の想いを、この席の令嬢は、分かっていなかったのでしょうか。
 いや、分かっていたからこそ、彼に触れないようにしていたのかも。


「アイツが、彼女との婚約を破棄した王子だ」

 席の最前列に令嬢たちが集まっていて、その中心で、栗毛のイケメンが笑っています。

「アイツは、ああやって令嬢に囲まれるのが好きらしい」

 周りに男子がいません。
 普通なら、取り巻きの男子もいるのですが。

 アイツと彼は、従兄弟の関係ですが、爵位の上下差で、強く出れないようです。


 あらら、アイツの心から、裏側に潜むゲス野郎の声が、私に伝わってきました。

 げ、令嬢を物として考えています。


 幽霊って、相手の心が伝わってくるのですね。


 あ、授業が始まりました。

 これは、けっこう難しい内容ですね。
 生徒の半分は、理解できていないようです。


 授業が終わると、彼のところに男子が集まって来ました。

「ジョー、ちょっと教えてくれ」


 彼の教えかたは、分かり易いですね、参考になります。

 周りは、ちょっとした勉強会になっています。
 彼は人気者ですね。


 勉強会が終わり、クラスの皆さんは、帰っていきます。

 彼も、帰り支度を始めます。
 ふと手を止めました。

「幽霊、明日も来てほしい」

「そして、俺の心の穴を埋めてくれないか?」

 彼の心が、泣いているのが分かります。
 失恋とは違う、相手を想う涙です。


『明日、答えます』
 そう告げて、幽霊になった私は、消えました。


   ◇


「侯爵様! お嬢様が目覚めました」
 メイドさんが、喜んでいます。

 ここは、、、私の寝室です。

「アップル、つらかっただろう、アイツはキツク罰した」
「新しい婚約者も探すから、何も心配しなくていい」

 お父様も、喜んでいます。


「お父様、明日、私は学園に登校します」
「私の新しい婚約者を探す話は、待って下さい」

 私は、目が覚めました。


   ◇


 翌朝、一週間ぶりに教室へ入りました。

 友人たちが、私を心配して声をかけてくれます。

「貴女との婚約を破棄した王子は、昨夜、王族から追放されました」
「国王は、あんな王子よりも、貴女、アップルを選んだのよ」

 採れたての情報が、矢継ぎ早に入ってきます。


 自分の席に向かいます。
 隣には、ジョーが座っています。

 満面の笑みで迎えてくれました。


「昨日の答えを、持ってきました」
 彼に告げます。

 彼は、驚いています。
 昨日の幽霊が、私だったと気が付いたようです。


「私は、貴方の心を満たしたいと思います」
 ドキドキしながら、答えを告げました。

「それは、俺のプロポーズを受けてくれるということか」
 彼の顔は、真っ赤です。

「そうです」
 私の顔も、火照っています。


「二人とも、ここに集まったみんなが、証人だよ」
 周囲には、たくさんの友人が集まっていました。

「「おめでとう」」

 私たち二人の周りに、祝福の花が降りそそぎました。

 皆さんは、この結果を望んでいたようです。


   ◇


「ジョーは、王弟陛下の後を継がないで、騎士団に入るのでしょう?」

 彼には、家を継ぐ兄がいますので、婿に行くか、騎士団に入るか、政略結婚の道具になるかしか道がありません。

 私にも、家を継ぐ兄がいますので、お嫁に行くことになっています。

 将来は、騎士様の妻か、、、なかなか面白そうです。


「そ、それが、、、アイツが王族を追放されたので、国王が王太子を探しているのだが、、、」

「国王の血筋は既婚者が多くて、甥っ子である俺に話が来た、、、」

 彼にしては、少し歯切れが悪いです。


「国王は、侯爵家と繋がりを強くしたいと考えており、、、」

「さらに、貴女をとても気に入っていて、「アップル嬢が選んだ男性を王太子にする」と、宣言した」

 それって、私に丸投げってことでしょ!


「私の心を満たしてくれたのは、貴方です」
 恥ずかしいけど、ジョーを見つめます。

 私は、幽霊から、騎士様の妻へ、そして王太子の妻へと化けました。



━━ fin ━━


あとがき
 最後まで読んでいただきありがとうございました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

行き遅れ令嬢は、落第王子の命令で、しかたなく、学園をやり直します!

甘い秋空
恋愛
「学園に戻って、勉強し直してこい」と、私が年上なのを理由に婚約破棄した王子が、とんでもない事を言います。この年で、学園に戻るなんて、こんな罰があったなんて〜! 聞いてませんよ!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...