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第4話 グレース令嬢とエイダン君

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「隣国の大地との絆を結び、ついに汚れた人々を青き清浄の地へ導く」

 教室内の静寂を破り、エイダン君が語り始めました。


「グレース侯爵令嬢は、たった今、フリーに戻った」
「この時を待っていた。俺が、プロポーズしよう」

 へ? エイダン君が狂った?

「俺は、隣国の隠された王子だ」
「予言のとおり『隣国の大地との絆』を結ぶとしよう」

 彼に、隣国の王子という秘密があったなんて!

 隣の席の子が、王子様というパターンでしたか。


「エイダン王子、貴方様のプロポーズを受けます。私を『青き清浄の地』へ、導いて下さい」

 グレース侯爵令嬢が、こじらせた中等部の男子みたいになっています。こんな性格だったのですか。


 二人は腕を組んで、教室を出ていきました。


   ◇


 授業の後、私は、なぜか王宮に呼び出されました。

 急だったので、制服のまま、王宮が手配した馬車に乗り込みました。

 ここは、応接室なの?
 開けて頂いた扉の向こうに、優しそうなおじ様と、王子様がソファーに座っています。

「入りなさい、オードリ嬢」
 王子様が、招き入れます。

 おじ様が、立ち上がりました。
 私は、カーテシーをとって挨拶します。

「貴女がオードリ嬢ですか。美しい令嬢ですね」
 おじ様が社交辞令で褒めて下さいます。

「楽にして、顔を見せて下さい」

 私は顔を上げて、おじ様を見ます。

 金髪碧眼、イケメンおじ様です。これは身分の高いお方ですね。


「銀髪で青緑色の瞳、整った顔」
「さらに、希少な光魔法を使えるとは」

 イケメンおじ様が、私を高く評価してくれました。

「私が選んだ女性だ」
 王子様もうれしそうです。

「よろしいかな? ヘプバーン侯爵」

「申し分のない女性です。オードリ嬢を私の養女とします。アーロン王子、ありがとうございました」

 イケメンおじ様は、ヘプバーン侯爵?
 私が一生会えないほど高い爵位のお方です。

 あれ? ヘプバーン侯爵って、同級生のグレース侯爵令嬢のお父様ですよね?

「よろしいかな? オードリ嬢」

「ありがとうございます」
 色々と問いたい所はありますが、ここはチャンスですので、素直に受け入れました。



「侯爵様、お脚の動きが、少し……」
 明らかに、動きがおかしいです。

「私のことは、お父様と呼んで欲しいな」
 侯爵様が微笑んでいます。

「この脚は、昔の戦闘で傷ついた、勲章だよ。これと引き換えに、私は侯爵の地位を頂いた」

 お父様が、遠い目をして、教えてくれました。


「少々、失礼します」
 私は、お父様の脚に触れます。

 骨まで折れたヒドイ傷だったようです。魔法で治癒させた形跡がありますが、完全には治癒していません。

「お父様、これで、いかがでしょうか?」
 光魔法を練習した成果で、完璧に治癒できました。


「素晴らしい、若い頃の動きが戻ったようだ!」
 お父様が体を動かします。

「見事なハイキックだ、神脚のヘプバーンが蘇った」
 王子様が、目を丸くして驚いています。


「アーロン王子、オードリは王国の宝です」

「だろ? では、約束どおり」
「はい、御意のとおりに」

 二人の会話が、よくわかりません。
 密約があったようです。


   ◇


「おはよう、オードリ侯爵令嬢」
 教室で、王子様から声をかけられました。

「おはようございます、王子様」
 頭を下げます。

「私のことは、アーロンと名前で呼んでくれ」

 教室がザワついています。

 昨日まで平民だった私が、侯爵令嬢と呼ばれ、しかも、王子様の名前を呼ぶことを許されたのです。


「今日のランチも、一緒だぞ、いいな」

「はい、アーロン様」


 今日も、私一人、紺色の制服です。

 いつになったら、私の制服は、変わるのでしょうか?




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