上 下
51 / 56
第三章 第二王子

第51話 第二王子が国王に、そして軍事国家

しおりを挟む


 王宮で、第二王子から私室に呼ばれました。

「フランを、僕のメイドから外す」

 第二王子は、残念そうな顔で、私に告げました。


「国王の執務室に移られるのですね」

 王弟殿下が国王の座を蹴ったことから、唯一の王子である彼が、国王に就きます。

「実質は、侯爵が執り行うがな」

 高等部一年生の彼に、実権は与えられないようで、不満に思っているようです。


「学園も休学されると聞いております」

 私には、学園で彼を監視する仕事もありました。

「警護が大変だからな」

 これまでの警護でも邪魔だったのに、国王ともなれば、学園の開放的な雰囲気は、なくなるでしょう。


「第二王子様をお慕いしている令嬢たちが残念がるでしょうね」

 令嬢たちは、私の仕事であった第二王子のカバン持ちと盾役を、自ら進んでやってくれたので、助かっていました。


「それと、フランを側室にする話だが、侯爵家令嬢の気持ちが変って、白紙に戻った。申し訳ない」

 侯爵家令嬢が王太子妃になったら、私を側妃にする話ですね。私は、本気にしていませんでした。

「お気になさらないでください。あのような投票結果を考えれば、当然の対応だと思いますから」

 まさかの繰り上げ当選なんて、侯爵家令嬢のプライドが許さないでしょうね。


「僕は、力を手に入れたと思っていたが、ただのお飾りになったようだ」

 彼は隣国へ婿に行く予定でしたが、急に国王の話が転がってきて、喜んだのもつかの間、侯爵の操り人形だったわけですからね。

    ◇

 王弟陛下の執務室です。と言っても、彼に仕事など無く、お茶を飲みながら本を読む日々です。

「宰相、騎士団長、騎馬隊長までも、重要な役職は第一王子派が握っている」

 第一王子が国王になることを想定した人事でしたからね。

「私が王宮に来てから、いろいろな事がありすぎです」

 古株の方から話を聞くと、私が王宮に来る前、冒険者学校が廃校になる頃から、流れが急速に変わっていたようです。


「恐怖の大魔王が現れなかったから……かもな」

 彼がつぶやきました。

「現れていたら、今頃、私は勇者になっていましたね」

 大魔王を倒すため、冒険者学校で鍛え上げたのですから。

「前向きだなフランは」

 言われてみれば、私の未来は光輝いていると、ずっと思っていました。

    ◇

「フランを、俺の侍女に任命する」

 王弟殿下の執務室で発令がありました。婚約者の投票から一週間が経った日です。

 彼が、また、私をソバに正式に置いてくれました。
 しかも、メイドではなく、今度は侍女です。

「私は家名を持ちませんが、侍女でよろしいのですか」

 侍女になるためには、学歴とともに身元が要求されます。

「フランの保証人は俺になっているだろ、問題ない」

 ありがたい言葉です。

 冒険者になろうとした少女が、あれよあれよと、高等部三年生で、王弟殿下の侍女になりました。


「さてと……侯爵が、裏で第二王子を操っている」

「もう隠していないのですね」

 チョビヒゲ侯爵から、先手を取られっぱなしです。

「侯爵は、自分が国王のようにふるまっている」

「第二王子を国王に据えないのが、いまいち分からないが、何か訳があるのだろう」


「前の国王の葬儀も、1カ月延期する」

 ウワサで流れていたとおり、延期ですか。

「明日、戒厳令が出される。学園も閉鎖されるだろう」

「すでに、王宮内が騒がしくなっていますね」

 ホールは作戦会議場となり、中庭は整地されて草花が無くなりました。


「友好国への進軍が始まる」

「貴族院が黙っていないでしょ」

 数で勝る第一王子派が、抵抗するはずです。


「貴族院は、賛否が分かれ紛糾している。宰相が、鎮静化に走っている」

「騎士団も割れている。騎士団長が、仲裁に入っている」

 これは、第二王子派へ寝返った貴族がいるようです。


「友好国から勝てるのですか?」

「侯爵は、侯爵家令嬢が異世界の知識を使うから勝てると、自信たっぷりだ」

「異世界? 王宮の庭を潰して、大きな風船を作っているのは、異世界の知識なのですね」

「空を飛んで、攻め入るそうだ」

 空を飛べば、川や城壁を飛び越えられるので、戦争が有利になります。

「馬のいない馬車も作っている。馬車よりも早く走るそうだ」

「どちらも、火の魔法を使うので、冒険者“魔法使い”を招集している」

 火の魔法で、空を飛び、地を走る……そんなこと、できるのでしょうか?


「王弟殿下も出兵するのですか?」

「王族と貴族は、先頭に立つのが義務だ」

 ぜいたくな暮らしと引き換えに、命をかけて戦うのが、貴族の義務です。


「侍女であれば、戦場であろうと王族のソバに付き従う」

「とても危険な仕事であるが、フランなら付いてきてくれると考えた」

 彼と一緒なら、地獄であろうと、突き進みますよ、私は。


「戦場で、俺の中にある悪の心を、目覚めさせないようにしたい」

 悪の心、何のことでしょうか? まさか、女好きのことですか?

「俺のソバを離れないでくれ」

 もちろんです。


「私一人で、敵の大将を捕まえてくるのは、ダメですか?」

 たぶん、私ならできます。

「友好国は、戦いの準備をしていない。一方的に攻め入ることになる」

 あら、敵の大将は、友好国の王宮に残っているのですか。


「正面切って戦うだけが、勇者ではありません」

 勇者たるもの、兵士を犠牲にはしません。たった一人で敵の懐に入って、大魔王を倒します。

「私は、愛する人を守るため、この戦いを止めたいと思います」

 私の魂が、愛する人と結ばれるためには、この戦いを止めなければならないと、そう言っています。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

処理中です...