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第二章 第一王子

第38話 第一王子と伯爵家令嬢とのお見合い

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 今日の午後は、第一王子と伯爵家令嬢のお見合いが行われます。

 私と伯爵家令嬢は、その前に、王宮の応接室で、二人きりのお茶を楽しみます。

「第一王子様とのお見合いを楽しみにしておりました。フラン姉さま、ご尽力ありがとうございました」

 伯爵家令嬢は楽しそうです。


「いえ、第一王子様が、早く伯爵家令嬢様に会いたいと、積極的でしたから」

 第一王子は、辺境伯の屋敷から戻って、最初に希望したのが、伯爵家令嬢とのお見合いでした。

「実は、伯爵家令嬢様、お願いがあります」

「はい、フラン姉さまの願いなら、私がかなえます」

 まぶしいくらい純粋な令嬢です。

「王弟殿下の住まいは、王宮と離宮にありますが、皆に知られているため、この先、命の危険があります」

「そこで、王都に一つ、安全な隠れ家を確保したいと考えています」

 味方も増えたのですが、敵を少し作り過ぎました。

 国の繁栄よりも、自分の利益を優先する一派、特に、あのチョビヒゲ侯爵家と、隣国と裏でつながっている一派です。


「そこで、伯爵様の力を借りたいのです」

「王弟殿下は、伯爵家の秘密を知っているのですね、さすがです」

 伯爵家は、裏で、王族を護るカゲの役目を、古くから受け継いできています。

「伯爵家は、地下で王宮とつながっています。王宮で何かあった場合、秘密の地下通路を使って、伯爵家の屋敷の地下に避難することが出来るのです」

「伯爵家の地下にある王族用の部屋のことは、一子相伝でありますが、私は第三王子様の婚約者候補に選ばれた時、教えられました」

「え~と、秘密の通路のこと、私は初めて聞きました」


「あら、王弟殿下から聞かされなかったのですか?」

「王弟殿下からは、第一王子様と伯爵家令嬢が結ばれれば、ヒカリとカゲが融合し、平和が訪れると、それだけです」

「私は、信用されていないのかな?」

「いえ、フラン姉さまの身を案じたのだと思います」

「秘密の通路のことは、本来であれば、王弟殿下は知らないはずです」

「国王陛下と王太子が避難し、王弟殿下は、しんがりとして、王宮に残って……それが務めですから」

 しんがり……命をかけて国王を逃がす、難しい役目です。

    ◇

「王弟殿下、隠れ家を確保してきました」

 王宮の王弟殿下の執務室で、結果を報告しました。

「ご苦労だった」


「王弟殿下が、伯爵家への秘密通路を知っていたことに、伯爵家令嬢が驚いていましたよ」

「俺は、令嬢が知っていたことに驚いている」

 秘密通路のことは、限られたごく一部の人しか知らないようです。それを知ってしまった私は、これからどうなるのでしょう?

「伯爵は、王宮で何かあったら、愛する娘だけでも無事に逃がしたいと、そう考えたのだろうな」

「親心ですか。王弟殿下も、愛する娘ができたら、そうしましか?」

「俺は、愛する娘と……一緒に逃げる」

 いや、王弟殿下は、しんがりが役目でしょ? でも、彼らしいです。

    ◇

 いよいよ、王宮の中庭のガゼボで、第一王子と伯爵家令嬢のお見合いが始まりました。

「ダンスパーティー以来だな」

「あの時は楽しかったです」

「僕もだ」

 二人は、学園のダンスパーティーでペアを組み、素晴らしいダンスを披露した仲です。


「僕は、これまで逃げていた。しかし、王太子になる覚悟ができた」

「他に、友好国の伯爵家令嬢と、フランが、婚約者候補になるだろう」

 王子の婚約者候補は三名で、その中から、投票で婚約者が選ばれる習わしです。

 まだ、私の名前が入っているんだ……

「第三王子のことは謝罪する。僕は、あのような事件は起こさないと、貴女に誓う」

「王家からの謝罪はすでに終わっています。私は、婚約者候補を経験し、フラン姉さまと知り合えたことを、宝物のように喜んでいます」

 伯爵家令嬢は、第三王子の婚約者候補でした。その時に、王子の担当メイドであった私と、親しくなったのです。


「そうだな、この王国は、フランを中心に動いているのかもしれない。そんな気がする」

 気配を消していますが、私が近くに控えていること、二人は知ってるでしょう。なんだか、恥ずかしいです。


「王太子妃は、将来は王妃になるという、重要で危険な役職であり、とても大変だが、伯爵家令嬢のことは、僕が護るから」

 それって、プロポーズの言葉ですよ。


「中等部で、令嬢だけが集められ、王妃についての授業がありました」

「心無い陰口や嫌がらせがあり、命を狙われる危険があること、跡継ぎを授かるのが最大の役割だと、聞いております」

「私も、第一王子様と添い遂げる覚悟が、できております」

 それも、プロポーズを受ける言葉です。


「でも、私はデビュタントを済ませておらず、お酒をたしなめる年齢でもありません」

「まだまだ、私には至らない部分が多くあります。ですので、側妃によるサポートを、考えて下さい」

 今どきの中等部の令嬢は、そこまで考えているのですか! 驚きです。

「わかった。王弟殿下と相談し、君の願いをかなえよう」

 ん? 今の第一王子の表情は、側妃の心当たりがあるような感じでしたね。

 私の横で静かにしている王弟殿下を、チラ見します。

 こちらも、側妃の心当たりがあるようですが、複雑な表情をしています。


 まさか私ですか? 第一王子の側妃なんて、嫌ですよ!

 王弟殿下と第一王子を、こんな顔にさせた伯爵家令嬢には、すでに、王妃としての片りんを感じます。

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