26 / 43
episode"3"
episode3.2
しおりを挟む○○○
何故俺は前に出てしまったのか。そんなことしなくても、別にこの集落がどうなろうと、ましてや旅をしていてたまたま会っただけの人間——いや、アンドロイドのために、なぜ……
今も足が震えて仕方がない。その震えが伝達して、さっきの声すら震えていた。
全身の穴という穴が引き締まっているのを感じる。今からでも遅くない。引き下がって隠れてしまえば、楽、なのに——
「……ありが、とう、ございます」
「!!」
微かに聞こえた彼女、アンドロイドの声に、いやルミナの声に。全身が何かから救われたような感覚を覚える。
その声に、嬉しさを感じてしまう。
「〝ヾ、……ジョ……」
「!!」
しかし、ヤツの声に、ヤツが動き出す音に再び現実へと引き戻される。
ヤツは俺へと標的を変え、こちらへと向かって歩き出していた。
恐怖で、足がすくむ。
——ありが、とう、ございます——
「っ!そうだ、こっちだ!!」
彼女の声の力か、今まで支配していた恐怖が和らいだ。足も、動く…!
ヤツは銃口をこちらに向ける。俺は咄嗟に建物の陰へと走り出す。走り出した途端、ほんの少し前にいた場所に銃声と穴が出来上がる。
走る最中、何発か放たれた銃弾。髪にかすめた感覚を持つ。それでも、走り抜ける。
なんとか建物の陰へと身を隠すことには成功した。ここから、どうする?
「おじさん、これ!!」
その建物の屋根部分で身を隠していたタウリーが、何やら武器を投げた。
「アイツに向かって撃つんだ!まだ試作段階らしいから、一発勝負……頼むよ!」
「ああ、任せろ!」
見たところただの銃ではないらしい。そして、一発勝負——。
建物の陰へと迫る影。暗闇の中でもはっきりと見える恐怖。近づく。ゆっくりと確かでありながら、不気味に、近づく。
意を決して銃を構えながら陰から飛び出す。不意をつかれたのか、こちらに銃口も切先も向いていない。今だ——!
「食らいやがれぇ!!」
銃弾と銃声が放たれる——一瞬の静寂を経て、モノに命中した。
命中した途端、ヤツの動きが止まった。いや、鈍ったに近い。どうやらこの銃弾には相手を麻痺させる効果があるようだ。
「よし……!今だ、ルミナ!」
思わず叫び、建物であった瓦礫の方を見る。いない……?
「後は、任せてください……!」
声のする方を見ると、よろけながらヤツの背後から狙う、ルミナがいた。
「スゥ——……行きますっ!」
そう彼女が言うと、何やら彼女の関節部分から緑色の発光粒子が出始めた。そして、走り出す——刹那、既に彼女の拳は、ヤツの胸部分を貫いていた。
ヤツは動きを止め、奇妙な呟きを発することもなくなった。
「……終わり、ました」
「「「「うおぉぉぉー!!!」」」」
「やったね、ルミナ!大丈夫?怪我してない?」
各々が雄叫びを上げ、喜びを分かち合う。夜だというのに、まるで昼間のような賑わいだ。
「……終わった、のか?」
全身の力が抜ける。今まで意識にあった恐怖が消えていく。気づけば俺は、地面にへたり込んでいた。
震えはおさまった。なのに立てないでいた俺の元に、誰かが近づいて来た。
「ルミナ……あ、いやすまない。勝手に名前を呼んでしまっていた」
「……良いんです。あなたのお陰で、あのロボットを止めることが出来ました。恐らくですが、アレが今回の事件の犯人だと思います」
「……そう、か」
「立てますか?」
「あ、いや……大丈夫だ。立てるよ」
「……本当に、あなたのおかげです。……えっと——」
「"ヘール・クレス"、だ。こちらこそ、ありがとう」
「どういたしまして、です。クレス」
手を取り合い、少し屈んだルミナと握手する。あの化け物を貫いた手とは思えないほど、柔らかく、まるで本物の人間のような暖かさが、そこにはあった。
依然として暗闇。しかしそこにはもう、雨は降っていなかった。
◎◎◎
あの事件から数週間が経ち、集落には平和が訪れていた。晴れ渡る空の下に、人々の活気が蘇る。
あの雨の日以降、雨が降った夜に事件が起こることは無くなった。そして——
「ルミナ!こっち来てよー!」
「あ、ずるいぞ!僕がルミナと遊ぶんだ!」
「大丈夫です。みんなで、遊びましょう」
すっかり集落に解けこんだルミナやタウリー、クラウドは、集落の英雄として語られていた。
特にルミナは子供達にも人気なようで、決して多くない集落の子供達に引っ張りだこであった。
「あ、おじさん!おじさんも遊びたいの?」
建物の陰からルミナ達を見ていたクレスが、少女に見つかった。
「いや、俺は——」
「クレスも、遊びたいのですか?」
「ッ!いや俺はそんなんじゃ——」
少女がクレスの手を取り引っ張る。
「ほら行こ!おじさん!」
「……はぁ~……全くだ」
手を引かれ、渋々了承するクレスを見て、ルミナは静かに微笑んでいた。
そんな平和な集落の中、タウリーとクラウドは長の家へと訪れていた——。
「まさかロボットが犯人だったとは……」
「そうさね。アタシもまさかとは思ったが、こりゃ思いがけない収穫だよ。調べがいがあるってもんだ」
「他にもこの周辺で、ロボットを見た、っていう情報とかありませんか?」
タウリーが長へ尋ねるも、首を横に振るだけであった。
「しかし何処から湧いたのか……またなんで若い女達に強く執着したのか……皆目検討もつかんよ」
「ふぅ~ん……ま、アタシとしては研究材料が増えることは良いことだからね」
そうクラウドが言うと、長が再び口を開く。
「クラウドさん。アンタがこの集落の英雄ってのは少し不服だが……それでも救ってくれたことには感謝している。本当にありがとう。この集落で聞きたいことがあれば、遠慮なく聞いてくれ。旅に必要な物資も揃えよう」
そう長が言うとクラウドは怪しく笑い、一言だけ、長に言った。
「アンタ、武器か何か隠してるだろ?それを出しな」
不敵に笑みを浮かべるシワ顔を、目を見開いて捉えた長であった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~
海獺屋ぼの
ライト文芸
千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。
そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。
前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。
宇宙に恋する夏休み
桜井 うどん
ライト文芸
大人の生活に疲れたみさきは、街の片隅でポストカードを売る奇妙な女の子、日向に出会う。
最初は日向の無邪気さに心のざわめき、居心地の悪さを覚えていたみさきだが、日向のストレートな好意に、いつしか心を開いていく。
二人を繋ぐのは夏の空。
ライト文芸賞に応募しています。
ベアりんぐ奇譚詩編集
ベアりんぐ
ライト文芸
小さな結晶でも、それが大きな力を持っている時がある。
私は、ハッキリしたものが苦手だ。
常に曖昧さのさらに中間のような物の中にいる。
そんなことを考えていると、視界が晴れて、新たなる出会いの予感がした。
ーベアりんぐ詩編集ー
そう書かれたこの物体は、新たな視点を与えるようだ。どんな解釈であっても情景や感受も良しとする。
私は、一つの詩に手を伸ばす。
: 開かれし、感受を求めし少女の手記
@
これまで上げた詩や、これから上げる詩をここでまとめておきます!文章群とも繋がっているので、是非感受を求めて読んでみて下さい!
トライアルズアンドエラーズ
中谷干
SF
「シンギュラリティ」という言葉が陳腐になるほどにはAIが進化した、遠からぬ未来。
特別な頭脳を持つ少女ナオは、アンドロイド破壊事件の調査をきっかけに、様々な人の願いや試行に巻き込まれていく。
未来社会で起こる多様な事件に、彼女はどう対峙し、何に挑み、どこへ向かうのか――
※少々残酷なシーンがありますので苦手な方はご注意ください。
※この小説は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、novelup、novel days、nola novelで同時公開されています。
雪町フォトグラフ
涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。
メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。
※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる