上 下
13 / 43
episode"1"

episode1.7

しおりを挟む
 空虚な建物群と、植物達の織りなすなんとも言えない美しさを感じさせる場所から、少し自然の多く繁る場所へと歩みを進めていく。

碧色の髪を揺らし、薄い服だけを身に纏い、銀の眼でタウリーを見ながらルミナが話しかける。



「この辺りは自然が、他の場所よりも多いようですね」

「そうだね……熊以外にも、危ない野生動物は沢山いるから、辺りを警戒しながら歩こう」



 特に表情を変えることなくルミナが頷く。それにタウリーが付け足す。



「それと、僕たちには武器が無い……もし遭遇したら、下手に刺激しないようにしよう。ばあちゃんが言ってた」



 真剣な表情で、タウリーはルミナを見ながら言う。そこにホープも相槌を打つように吠えた。

ルミナは表情を変えずまた頷いたが、頷いた後、ほんの少し声音を上げたような声で言った。



「あの……可愛い動物も、いますか?」

「……え?」

「可愛かったら、少し、撫でても…‥問題、無いですか?」

「ふふ!……ルミナって、ちょっと抜けてるね。あと、可愛いもの好きだ」

「……抜けてる?……身体のどこも抜けてないです」

「あっははは!!!やっぱりなんか抜けてるというか……天然というか!」

「……?」



 頭にはてなを浮かべながら、よく分からない、と言いたそうな顔でタウリーを見つめるルミナと、ルミナの言動で気を引き締めるどころか緩めることになり、ルミナの抜け感を改めて感じたタウリー。

 茂みを掻き分けて、もう道とは呼べない道を行く。老人から教えてもらった湖へと行くには、幾分かの苦労がかかっていた。

辺りにはもう構造物と呼べる物はなく、ただひたすらに無造作に、緑と茶色の木々、澄み渡る空のみが二人と一匹を見守るだけである。



 そして、動物たち——



 タウリー一行が草木を少しずつ掻き分けていると、目に見える範囲にある茂みが音を立てて揺れる。近い。

その音に気付き、警戒する。万が一熊や他の危険とされる野生動物であった場合、対処方法が刺激しないということしかない。

だんだんと揺れる草木と音が近づき、その獣がタウリー一行の眼前に現れた。



 猫である。



 にゃあ、とだけ小さく鳴きながら現れた猫は、犬であるホープを意にも介さず
ルミナの足元へと駆け寄っていった。



「なんだ猫だったのか~良かったね、ルミ——」

「かわいい」

「……やっぱり、ルミナは可愛いもの好きだね」



 足元に来た猫を少しずつ触りながら、ルミナは表情こそあまり変えないもののその顔には、確かに喜びの意思が感じ取れる。

それを見て、タウリーは表情を崩しながら呟く。その側で、ホープは弱々しく鳴き声を上げながら、足元をすりすりとしながら甘えるだけであった。












         ◎◎◎












 他の野生動物のことなど気にもかけず、しばらく猫と戯れていると、急に猫がルミナに背を向けて歩き出した。

そして立ち止まって、タウリー一行の方を見る。暫くすると、また歩き出す。

ルミナは何かを感じ取ったようにタウリーに言う。



「ついてこい、ということでしょうか」

「多分そうだね。何処かに案内してくれるのかな」

「行きましょう」



 そう言うとタウリー一行は猫の後ろに付き、不思議な猫の案内にすこしワクワクしながらついていく。

草木が覆い繁る猫の道を歩いていくと、また廃墟群のような場所へと開けた。何の建物であったかは定かではないが、とにかくそれも緑と共存、もしくは取り込まれたような見窄らしさを纏っている。

先程よりも歩きやすくなった道と呼べる道を猫が歩いていく。そこにタウリー一行もついていく。

 草木を掻き分けて進んでいたためか、二人の衣服は既にボロボロに近い状態だった。しかし着替えがないため、それで進んでいくしかなかった。

 タウリーは身震いしながら歩いていたが、ルミナの外見に特に変化はない。



「ルミナ、少し寒くない?」

「特に寒くは感じていないです。アンドロイドだからでしょうか?」

「うーん……感じ方が違うのかな?まあ人それぞれ、感じ方は違うからね」

「人によって違うのですか?」

「え?」

「……?」



 猫の後を進みながら、そんな会話をする。ルミナは本当に知らなかったようだ。



「ワンッ!」

「ん、急にどうしたホープ——って猫、居なくなっちゃった」

「本当ですね」

「猫は気まぐれだって言うからね。集落に居た子もこんな感じでいつの間にか消えちゃうんだ。でも、ここまで初対面の人に懐く子は珍しい方だよ」

「そうなのですか?」

「うん、これも猫それぞれなんだよね」

「猫、それぞれ」

「おんなじように、人も人それぞれなんだ。だから、お爺さんのように親切な人だけとも限らない」

「人も動物も同じなのですね」

「そうだね」



 先程の会話にオチをつけ、お爺さんから教えてもらった湖の方位と自分たちのいる場所を確認して、また歩き出した。

景観こそあまり変わりはないものの、時間が経っていることもあって影が既に大きく伸び始めていた。暗闇と同化するのも時間の問題である。

そんなことを感じながらタウリー一行は進んでいた。すると、先程の猫がまた現れた。現れたと思うと、急に走り出してタウリー達よりも先の道に向かって行ってしまった。



「どうしたんだろう、あの猫」

「ついていってみましょう」



 そうルミナが言い、また猫の後をついていく。

すると、廃墟群と自然が織りなす景観が一変し、道の先には突然湖が湧いていた。

青々として、空を写し出した鏡面のように輝いた湖を背に、猫が小さくタウリー一行に鳴いた。



「うわぁ……!凄い」

「綺麗、ですね……綺麗って何でしょう」

「まさにこの湖みたいなもののことだよ!」



 そう言うと走り出して、湖に向かっていくタウリー。その後にホープが続く。

猫の横を通り過ぎ、湖の縁で立ち止まってその水を触ってはしゃいでいた。

 ルミナは歩いて、寝転んでいる猫に向かっていく。そして側でしゃがみ込んで猫の顔を覗きながら撫でた。



「ここに、連れて来たかったのですか」

「にゃあ」

「……ふふ」



 猫は満足気に返事をするように鳴き、ルミナの問いに答えた。



「おーいルミナ!今日はここで寝よう!湖だから、ここで体と服も洗っちゃおう」

「はい。……あなたも行きますか?」

「にゃ」



 そうルミナが問うと猫は小さく鳴き、目的は達成したと言わんばかりにルミナに背を向けて、もと来た道へと歩いて行ってしまった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~

海獺屋ぼの
ライト文芸
 千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。  そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。  前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。

宇宙に恋する夏休み

桜井 うどん
ライト文芸
大人の生活に疲れたみさきは、街の片隅でポストカードを売る奇妙な女の子、日向に出会う。 最初は日向の無邪気さに心のざわめき、居心地の悪さを覚えていたみさきだが、日向のストレートな好意に、いつしか心を開いていく。 二人を繋ぐのは夏の空。 ライト文芸賞に応募しています。

トライアルズアンドエラーズ

中谷干
SF
「シンギュラリティ」という言葉が陳腐になるほどにはAIが進化した、遠からぬ未来。 特別な頭脳を持つ少女ナオは、アンドロイド破壊事件の調査をきっかけに、様々な人の願いや試行に巻き込まれていく。 未来社会で起こる多様な事件に、彼女はどう対峙し、何に挑み、どこへ向かうのか―― ※少々残酷なシーンがありますので苦手な方はご注意ください。 ※この小説は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、novelup、novel days、nola novelで同時公開されています。

雪町フォトグラフ

涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。 メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。 ※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...