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一章
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「よし、これで終わりっと……」
納品出し作業が終わり、流れ作業のように廃棄と外掃除も終える。すでに自身の仕事を終えた虹輝は、なにやら椅子に座って自身のタブレットを神妙な面持ちで眺めている。
そこにはあの日、俺が思ってもいない批評を投げつけたイラストがあった。実際よく描けており、あの日は本当に酷いことを言ったんだなと振り返る。
俺もその横にある椅子に座ってスマホをいじっていると、虹輝がなにやら覚悟を決めたかのように、こちらに視線を送った。
「なあ、この絵どう思う?」
「はあ?どうって……」
前から一緒に描いている時間はあったが、こうして虹輝からイラストの評価を聞かれたことは初めてだ。一体どういう風の吹き回しだ……?
「なんか俺ばっかりあんな酷評したのが気に入らない。お前も好きに言ってくれ」
「あーそういう……」
よく描けている。画面に映し出されたイラストの女の子は今にも動きこちらの世界に干渉して来そうだ。最高だよ!……こんなこと、恥ずかしくて言えるわけねぇ……。
(素直に言えばいいじゃないですか~?)
「うわっ!?」
「……えなに?驚いたみたいな声出して?こっちが驚くんだけど」
……すっかり忘れていた。そういやウミカと頭の中で会話出来るんだっけ。
「なんでもない!驚かせて悪かったな」
(……思いっきり忘れてたわ、お前のこと)
(忘れてたって……酷いですね!?過去に戻したのは私なんですよ!あと、ウミカって呼んでください!)
(はいはい悪かったよ)
でもコイツなんにもしてないよな……?そう思い半ば呆れていると、横から視線が来る。どうやらそろそろ、ちゃんと批評してもらいたいらしい。さっき考えたことは口には出せないし――そう思い、俺は過去の言葉を好意的に言うことにした。
「そうだなぁ……俺は好きだぞ。お前と世間のオタクが好きそうなロリ巨乳JKが溢れんばかりの笑顔で画面に映ってるの。欲望に忠実でキモチワ……素直だなぁって」
ニヤニヤしながらそう言うと、虹輝は一瞬ポカンとしていたが、やがて声を出して笑いながらこちらに近づき、手刀を俺の脳天にかます。手にハエが止まりそうなほど弱々しいものだったが。
「欲望に忠実で何が悪いっ!」
「分かったわかったから!」
そうして戯れあっていると入店音が鳴り、客が来た。その音に気がついた虹輝がバックヤードを出て接客に向かう。一人になったバックヤードで椅子に座りながら、こうして虹輝と久しぶりに笑い合えたことを嬉しく感じていた。この感覚、本当に久しぶりである。
その充足感と喜びに打ち震えていると、視界の端に黒点を見つけた。……なんだろう、あれ。
バックヤードの隅。正社員さんの制服が入ったロッカーのすぐそばにポッと出た黒点を見つめる。あんなのいつの間に……?
(青人、どうしたんですか?)
(いや……なんか、黒い点があってさー)
(へぇ~不思議なこともあるもんですね)
お前の方が不思議だろ……。そうツッコミながらもその黒点がどうにも気になってしまい、椅子から立ち上がって、様子を見る。なんだかブラックホールみたいだ。触れたらいまにも吸い込まれてしまいそうな――無意識のうちに手が伸び、気づけばその黒点に触れていた。
「あっ」
触れたことを認識した瞬間――視界が真っ暗になって、続けて意識も落ちてしまった。
***
「――ださい」
誰かが、呼んでいる。
「―きてくださいっ」
なんだよ……気持ち良く寝てたのに。
「起きてくださいっ!」
「うわあぁ!?」
突然耳元に大声を出されたことで飛び起きた。耳の奥がジーンとして震えている。横を見ればウミカがニヤリとしていた。こ、コイツぅ……!!
「びっくりしましたよ~!突然この空間に、過去に戻った青人がソファに横になって現れたんですもん!いやぁ、無事戻ってこれて、良かったですねぇ~!」
ウミカはなにやら嬉しそうにダンスを踊っている。鼻歌交じりのダンスを見ていると、自然と拳が震えてきた。なにやらこめかみ辺りもピクピクしてくる……ブチッ。
「てめぇのせいで戻れなくなるかもしれなかったじゃねえかこのアマぁ!!!」
「ヒッ!?暴力はんたい~!!」
テーブルを挟んでぐるぐると追いかけっこをして、ひたすらウミカへの怒りを発散した。
……閑話休題っ。
「これで過去が変わったのか?」
ソファに座りながらウミカに聞く。するとウミカは無い胸を張って片手を当て、自信満々に答えた。
「もちのろん、ですっ!ま、帰ってからのお楽しみですよ~」
「……そうか」
「ほら、そんなこと言ってたらもうタイムアップです。段々透けて来ましたよ♪」
そう言われて手足を見ると……透けている。流石に二度目のことなので、驚きはしない。それよりも今は、帰ってからのことのほうが気がかりであった。それを見透かすように、ウミカは軽口を言う。
「そんな神妙な顔しなくても、ちゃんと変わってますよー」
そんなに顔に出てるのか……てか俺ってもしかして、顔に出やすい?――そんなことを考えながら、段々と意識が薄れ、やがて、世界が消えた。
眼前にはビチャビチャに濡れたデニムパンツと、完全に薄縹に染まった、空色の長袖Tシャツを着た俺の手足と、プカプカと揺れる抜け落ちた髪の毛があった。
「よし、これで終わりっと……」
納品出し作業が終わり、流れ作業のように廃棄と外掃除も終える。すでに自身の仕事を終えた虹輝は、なにやら椅子に座って自身のタブレットを神妙な面持ちで眺めている。
そこにはあの日、俺が思ってもいない批評を投げつけたイラストがあった。実際よく描けており、あの日は本当に酷いことを言ったんだなと振り返る。
俺もその横にある椅子に座ってスマホをいじっていると、虹輝がなにやら覚悟を決めたかのように、こちらに視線を送った。
「なあ、この絵どう思う?」
「はあ?どうって……」
前から一緒に描いている時間はあったが、こうして虹輝からイラストの評価を聞かれたことは初めてだ。一体どういう風の吹き回しだ……?
「なんか俺ばっかりあんな酷評したのが気に入らない。お前も好きに言ってくれ」
「あーそういう……」
よく描けている。画面に映し出されたイラストの女の子は今にも動きこちらの世界に干渉して来そうだ。最高だよ!……こんなこと、恥ずかしくて言えるわけねぇ……。
(素直に言えばいいじゃないですか~?)
「うわっ!?」
「……えなに?驚いたみたいな声出して?こっちが驚くんだけど」
……すっかり忘れていた。そういやウミカと頭の中で会話出来るんだっけ。
「なんでもない!驚かせて悪かったな」
(……思いっきり忘れてたわ、お前のこと)
(忘れてたって……酷いですね!?過去に戻したのは私なんですよ!あと、ウミカって呼んでください!)
(はいはい悪かったよ)
でもコイツなんにもしてないよな……?そう思い半ば呆れていると、横から視線が来る。どうやらそろそろ、ちゃんと批評してもらいたいらしい。さっき考えたことは口には出せないし――そう思い、俺は過去の言葉を好意的に言うことにした。
「そうだなぁ……俺は好きだぞ。お前と世間のオタクが好きそうなロリ巨乳JKが溢れんばかりの笑顔で画面に映ってるの。欲望に忠実でキモチワ……素直だなぁって」
ニヤニヤしながらそう言うと、虹輝は一瞬ポカンとしていたが、やがて声を出して笑いながらこちらに近づき、手刀を俺の脳天にかます。手にハエが止まりそうなほど弱々しいものだったが。
「欲望に忠実で何が悪いっ!」
「分かったわかったから!」
そうして戯れあっていると入店音が鳴り、客が来た。その音に気がついた虹輝がバックヤードを出て接客に向かう。一人になったバックヤードで椅子に座りながら、こうして虹輝と久しぶりに笑い合えたことを嬉しく感じていた。この感覚、本当に久しぶりである。
その充足感と喜びに打ち震えていると、視界の端に黒点を見つけた。……なんだろう、あれ。
バックヤードの隅。正社員さんの制服が入ったロッカーのすぐそばにポッと出た黒点を見つめる。あんなのいつの間に……?
(青人、どうしたんですか?)
(いや……なんか、黒い点があってさー)
(へぇ~不思議なこともあるもんですね)
お前の方が不思議だろ……。そうツッコミながらもその黒点がどうにも気になってしまい、椅子から立ち上がって、様子を見る。なんだかブラックホールみたいだ。触れたらいまにも吸い込まれてしまいそうな――無意識のうちに手が伸び、気づけばその黒点に触れていた。
「あっ」
触れたことを認識した瞬間――視界が真っ暗になって、続けて意識も落ちてしまった。
***
「――ださい」
誰かが、呼んでいる。
「―きてくださいっ」
なんだよ……気持ち良く寝てたのに。
「起きてくださいっ!」
「うわあぁ!?」
突然耳元に大声を出されたことで飛び起きた。耳の奥がジーンとして震えている。横を見ればウミカがニヤリとしていた。こ、コイツぅ……!!
「びっくりしましたよ~!突然この空間に、過去に戻った青人がソファに横になって現れたんですもん!いやぁ、無事戻ってこれて、良かったですねぇ~!」
ウミカはなにやら嬉しそうにダンスを踊っている。鼻歌交じりのダンスを見ていると、自然と拳が震えてきた。なにやらこめかみ辺りもピクピクしてくる……ブチッ。
「てめぇのせいで戻れなくなるかもしれなかったじゃねえかこのアマぁ!!!」
「ヒッ!?暴力はんたい~!!」
テーブルを挟んでぐるぐると追いかけっこをして、ひたすらウミカへの怒りを発散した。
……閑話休題っ。
「これで過去が変わったのか?」
ソファに座りながらウミカに聞く。するとウミカは無い胸を張って片手を当て、自信満々に答えた。
「もちのろん、ですっ!ま、帰ってからのお楽しみですよ~」
「……そうか」
「ほら、そんなこと言ってたらもうタイムアップです。段々透けて来ましたよ♪」
そう言われて手足を見ると……透けている。流石に二度目のことなので、驚きはしない。それよりも今は、帰ってからのことのほうが気がかりであった。それを見透かすように、ウミカは軽口を言う。
「そんな神妙な顔しなくても、ちゃんと変わってますよー」
そんなに顔に出てるのか……てか俺ってもしかして、顔に出やすい?――そんなことを考えながら、段々と意識が薄れ、やがて、世界が消えた。
眼前にはビチャビチャに濡れたデニムパンツと、完全に薄縹に染まった、空色の長袖Tシャツを着た俺の手足と、プカプカと揺れる抜け落ちた髪の毛があった。
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