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くろまく

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 季節は五月。桜の花びらは土に還り、青々とした葉が涼しいのか暑いのか分からない風にゆらゆらざわざわと音を立てている頃。

私はもちろんのこと学校で授業を受けていた。

 太陽となったのがついこの間のことと感じてしまっていたが、あれから一週間しか経っていない。それだけ変わり果てた日常に辟易しているということでもあるのだろう。

まさか自分が、悪い意味で学校中いや、町中で目立ってしまっているこの現実に慣れることが出来ないでいた。

こうして考えている昼休みの間ですら周りからは、眩し……とか、なんか可哀想~……とか、小さな声で言われている最中である。どうしようもないのだが……。

考えれば考えるほど、どういっても悪い方向にしか考えがいかないので、私はカラの弁当箱を閉じると同時に考えることをやめた。

 次の授業が何かを確認し、その授業の準備をしようとしていたところ、隣から何やらこちらを覗く視線が感じられた。黒田君である。

ただ授業の準備をしているだけなのに何をそんな注視する必要があるのか?全く、よくわからない人である。……それにしても、近い……。



「あ、あの~……どうしたの?」



 思わずこちらから声をかけてしまった。ちょっと不覚である。

すると黒田君はなんでもないように応える。



「いや、次の授業日本史だけど……大丈夫かなぁ~って」

「え。……なんのこと?」

「……ま、大丈夫か」



 そう言って昼休みの残り時間も少ないのに黒田君は席を立ってどこかへ行ってしまった……。……え、なに、どゆこと!?

黒田君の真意が見えず一人戸惑っていたら、頭を机の角にぶつけてしまい、痛覚としても気持ちとしても実に痛々しい、なんとも言えない状態になってしまった……。













         ◎◎◎













 四限の授業中。昼休み後だからか、ちらほら居眠りをしている生徒がいる中で、先生が発した言葉が私をどん底へと落とした。



「それじゃ資料としてある動画観るから、窓際の人はカーテン閉めて~」



 今まで居眠りをしていた窓際の生徒たちがのろのろとカーテンを閉めていく一方で私は、予想だにしていなかった展開に焦っていた。

だってカーテンを閉めても私が光ってたら…‥意味ないじゃん!!前にも同じようなことがあったのになんで気づかなかったんだ私は……!?

カーテンが閉められていく中で、明らかに異質な光が教室を充満させていく中……隣から袖を軽く引っ張られた。黒田君である。



「え……どうしたの?」

「これ、使って」



 見ると彼の手には黒い布があった。どうやらこれを使え、ということらしい。

それを貰い身体に掛ける。すると先ほどまで煌々としていた身体の太陽は、まるで雲に隠れた太陽のように光を抑えていた。

黒田君に小さくお礼を言い、カーテンを閉めて席につく。



「よし、じゃあ再生するぞー」



 そう言って担当の教師が映像を流し始めた。どうやらきちんと光に邪魔されず見えているらしい。本当に黒田君には感謝である。

その後何事もなく映像は終わり、しばらくの板書と教鞭を経て、つつがなく授業は終わりを迎えた。













         ◎◎◎













 授業が終わり小休憩の時間。私は黒田君を引き留め改めてお礼することにした。



「あのっ、さっきはありがとう。お陰で助かったよ~」

「いいよ全然。ていうか、こうなると思ってたからさ」



 ほら前にも似たようなことあったでしょ?、と微笑みながら言う黒田君を見て改めて頭を下げた。



「……もしかして昼休みに言ってたのは、これ?」

「そうだよ。事前に準備しておいて良かったよ~」



 そうやってなんでもないことのように言う黒田君に、何かお礼として出来ることはないのか、日野 緋奈……!

そう考えてもなにも思いつかなかったので、黒田君に直接聞くことにしてみた。うん、賢い選択……!



「何かお礼したいんだけど……私に出来ることならなんでも言って!」

「……ん~、あっ。……それじゃあ——」



 次の瞬間、黒田君は隣の席から座ったまま手を伸ばし、私から生えるその光る右手を、いきなり握ってきた。



……へ?ええぇぇぇ!!!???!?!?



「……へ?え、えぇぇぇ!!??!?」



 なになになになに!?!?まるで真意が理解できない!?え、どゆこと!?

そんなパニック状態である私にはお構いなしに、黒田君はふむふむ、と言いながら私より大きな手で、私の右手を包んで捕食している。……いや、何してんの!?

あらかた触りきったのか、すっと右手を離して私を見る。この時も相変わらず距離が近いのである。……いや、ホントに近い。



「身体は太陽みたく光ってるのに、体温はそのままなんだね。不思議だ」



 そう言ってまたどこかへ立ち去っていく黒田君の背中を見ながら内心、大規模なプロミネンスをボンボンと発していた私は、なにも言えず席についているままであった……。
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