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いつまでもここに
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……三春ちゃんや智治さんと知り合ってから2年。トモくんの情報は聞かないが、それでも彼らとは交流をしていた。というより、私が夜の海に行く頻度が多くなったんだ。瀬辺地に似ていて落ち着くとか、とっても静かで居心地が良いとか……それだけの理由だが、なんだか私にとって、必要な場所なんだと思うんだ。
夜の海に行けば大抵、彼らはいる。そこで少し話して帰る。時にはご飯を食べに行ったり、休日には一緒に映画を観たりした。大学を卒業して以来、明確に友達と呼べる人が出来たのは、私にとってすごく嬉しいことだった。縁がどこに転がっているか、分からないものだ。
初めて会った時は分からなかったが、彼らは私と同年代だった。同年代と知ったとき、偶然がこんなにも嬉しかったことはない。未だに友達が出来ることは少ないし、職場でも同年代の友達と呼べる人はいなかったから。それに、彼らは微力ながらもトモくんを探してくれている。それに私はとても、感謝しているのだ。
あの日から夜の海を散歩して、彼が来ないかなぁと探しているが、当然のように来ない。当たり前ではあるけれど、二人の友人がいるこの時に彼が来てくれたら……私はもう、なにもいらないだろう。しかし2年が過ぎた。やっぱり三春ちゃんの勘が外れているとしか……。
けれどそれで良いのかも知れない。淡い期待を持って日常を過ごしていければ、幸せだと思うから。
今日は日曜日。きっと三春ちゃんも智治さんも海にいるのだろう。窓の外はすっかり暗くなって夜が来ている。あと少ししたら家を出て、暗く静かな海辺に行って、二人と話をしてご飯でも食べに行こう。明日は月曜日だけど、すぐに切り上げれば問題はないはずだ。
そう思い部屋着から秋服に着替えていると、スマホが鳴る。誰かからメッセージが来たようだ。画面には2件の表示。メッセージは三春ちゃんからだった。
一体どうしたのだろう?一緒に遊びに行くときやご飯に行くとき以外、あまり連絡は取らないのだが、今日は珍しい。スマホを開き、メッセージを確認する。
『今すぐ海に来て!』
『間違いなくトモくんよっ!』
胸がドクンと、跳ね上がる。
思わず車のキーを持って、車に飛び乗る。運転していて気づいたが、スマホを床に落としたまま出てきてしまっていた。しかし、もう止まらない。
止まれない。
果たして本人なのか、本人だとしても私を覚えているかどうか。さまざまな不安や懸念が脳裏によぎるが、そんなマイナスは振り払って前を向く。
少しでも希望があるのなら……
ハンドルを握る手が汗ばみ、少し震える。
急かす鼓動を落ち着けながら、なるべく早く着けるように運転を続ける……。
***
「智樹、さん……ですか」
「え、ええ。……人探しなら、良ければ僕も――」
「ちょっと待っててくださいっ」
「は、はぁ……」
三春、と名乗った女性は少し慌てた様子でスマホを取り出し、どこかにメッセージを送り始めた。その表情には鬼気迫るものがあって、話しかけられる状況ではなかった。……メッセージを打ち終えたのか、三春さんはゆっくりこちらを向き、真剣な面持ちで僕に再度話しかけてきた。
「いきなりですみませんが、少しだけ待っててもらえますか?」
「え、まぁ……待つのは構いませんが」
「よし!……それにしても、確かに似てる?のかなぁ~」
なんだか独り言を呟いている。僕は全く訳がわからなかったし、どうしてここで待たなければならないのだろうと思っていたが、明日が月曜日ということを除いて特に断る理由もなかった。少し胸騒ぎがするが、気のせいだろう。
しばらく三春さんと待っていると、遠くから三春さんを呼ぶ男性の声が聞こえてきた。男性は軽快に走ってこちらに近づき、手を振りながら僕らの前に来た。
「みーちゃん~遅れてごめんねっ」
「違う、智治、関係ない!」
「えぇ……いったいどういう――あれっ!?この人だれ?」
近づいて来た男性に、三春さんが強く言う。それにショックを受けつつ、男性は僕を指差す。男性と目が合う。誰かに似ていると思ったが、ところどころ僕によく似ていることに気づく。三春さんが僕をとどめていたのは彼が僕に似ていたから……?あれ、でもさっき三春さんは「違う」と言っていたよな?
三春さんと智治と呼ばれている男性が何かを話している。僕はまったくの蚊帳の外だったので大人しくしていたが、やがて二人の視線は僕に注がれ、思わずギョッとしてしまう。
「ああ~!もしかしてこの人が……!」
「間違いないわっ!どう?女の勘が当たったわ!」
「……?」
「でも、みーちゃんの勘って、あんまり当たってないような――」
「お黙りっ!智治」
「あっ、ハイ……」
なんだか痴話喧嘩をしているようだが、僕にはさっぱりであった。三春さんがこちらを向いて「もう少し待ってて!きっとすぐ来るから」と言うので、ゆっくり待つことにした。……いったい、この先なにがあるのだと言うのだろう?
……智治さんが来てから数分が経った。陽は完全に落ち、街灯のない海岸では月明かりだけが夜を柔らかく照らしていた。秋風は少し冷たくなっていたが、不思議と悪くは思わなかった。そうして待っていると、どこからか駆け足の音が聴こえてくる。
なんだか懐かしい……。似た駆け足の音をどこかで聴いたことがある。そう、あれは今日みたいな晩秋の――
「……まさか」
走ってくる人物の影が丘の上に立った時。僕が望んで止まないものは、ここにあったのだと思った。
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