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Ⅴ
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グリプの街で、私は産まれた。もっとも、産まれた街の名も、生家の名前を知ったのも、ずっと後になってのことだけど。
この街で最も権威ある、ハルハーゲン家。染み一つない白亜の大きなお屋敷には、主人とその妻、そして愛娘の三人で幸せに暮らしている。この街の人間にそれとなく聞いてみたけれど、屋敷の地下で暮らしていた弟のことを知るものは誰もいなかった。
そんな、幸福で理想的なハルハーゲン家に、今夜はお呼ばれしていますの。せっかくのパーティー、とびっきりおめかししなくてはいけませんわ。
だって、久しぶりに家族と再会するんですもの。感動的なものにしなくてはね?
「ねえ、ハウンド。どちらが良いかしら」
クローゼットから取り出したのは、いつも着ているような真っ白なドレス。右手に持っているのは、普段ならば着ないような真っ黒なドレス。
壁に寄りかかって退屈そうにしていたハウンドは、器用にも片眉だけぴくっと上げるも、「どっちでも良いんじゃねえの?」と投げやりな返答。
ああ、まったく。何度言っても、ハウンドは女心が分からないのだから。まあ、私も女ではないけれど。立派じゃないけれど、ついているものはついているので。
「どうせなら似合う装いをしたいでしょう?」
「そんなもんか?」
「だって、今夜は特別な夜なのよ? 最高の舞台をあなたに見せるのに、みっともない格好はできなくってよ」
「……白」
なるほど、ハウンドは白い方が好みなのね。散々「汚れんぞ、ブス」とかなんとか言っていたのは、私に白い装いが似合っていると思っていての発言だったのかしら。そういうことにしましょう、その方が気分が良いので。ハウンドったら素直じゃないのだから。
「おい、なんかおぞましいこと考えてねえか?」
「いいえ、まさか。むしろ、健全なことを考えていましたけれど」
「……健全? おまえがか?」
「私ほど健全な精神をしている人間もいないと自負しておりましてよ。だって、泣き寝入りすることなく健やかに復讐を果たしてきたんですもの」
やり方がおよそ健全ではないだろう、と言われたら返す言葉がない。残念ながら、ハウンドは「そうかよ」と肩を竦めただけだった。
本当に、残念だ。ハウンドとの会話は小気味が良くてとても好ましい。今日を最後にできなくなるのだし、もう少しだけおしゃべりしたかったのだけど。
私が復讐を果たしたとき、ハウンドはきっと私を殺すだろう。その事自体に、文句はない。
むしろ、猟奇殺人犯として手配されていた彼が、今日まで付き合ってくれていたことを思えば、報酬が足りないのでは、と不安になるくらいだ。
「おい、フロイライン」
「何かしら」
「今さら、契約をなかったことにする、なんて言わねえだろうな」
「それだけは有り得ません。そこまで恥知らずではなくってよ」
それなら良い、とハウンドが満足げに笑う。彼の頭の中で、私は泣き叫びながら殺されているのかしら。それとも、あっさり殺されているのかしら。せめて、彼を満足させてあげられたら良いのだけど。
私にとって、ハウンドは恩人で。私の願いを叶えてくれる共犯者で。どうせ死ぬのなら彼に殺されたいと願うほど、彼を満足させてあげたいと思うほど、感謝をしていて。
……なのに、どうしてかしら。死ぬのはこれっぽっちも怖くないのに、ハウンドともう会えないのだと思うと、少しだけ心臓が痛くなる。
復讐を止めるつもりはない。ハウンドとの契約を反故にする気もない。ならば、こんな未練は不要だろう。
「ハウンド、櫛で髪を鋤いてくださる?」
さあ、支度をしなくっちゃ。だって今夜は特別な夜。幸福で理想的な家族が惨たらしく死んで、名もない少女が息絶える日なのだから。
◇
今夜は、エスカランテ商会の代表が来ると父が言っていた。仕事の話をした後は食事をする予定で、そのときに失礼がないように挨拶をして、この前のドレスよりもうんと綺麗で、真っ白なドレスを仕入れてくれないかと頼むつもりだった。
お兄さんが奴隷だと知った日。まっすぐ帰る気にもなれず、街をうろうろしているうちに、また広場へと戻ってきてしまったのだ。
いる筈もない。でももしかしたら、なんて捨てきれない期待に手を引かれるように。
予想に反して、お兄さんはいた。けれど、いつもと違って、その傍らには一人の少女を伴って。
真っ白な日傘の所為で、顔立ちは分からなかった。けれど傘の下でさらさら揺れる白髪と、染み一つない真っ白なドレスから、彼女がシェスティンと同じくらいの歳で、裕福な生活を送っていることは察せられた。
大きな串焼きをじっと見つめる少女に、お兄さんは何を思ったのか、串焼きにかぶり付いた。シェスティンからは何一つ受け取らないくせに、そんな女から取るに足らない屋台の料理は貰うのか。
書き損じた手紙をぐしゃぐしゃと握り潰すような、暴力的な衝動に襲われて、シェスティンは自分の屋敷へと駆け戻った。
悔しい、憎らしい、妬ましい。私はお兄さんの隣にいないのに、どうしてあの女はお兄さんの隣にいられるの?
お兄さんに、もう一度会いたいと思った。もっとちゃんと話したら、今度こそお兄さんも分かってくれるだろう。
あの女よりもうんと綺麗なドレスを着て、自分の想いを打ち明けたなら、お兄さんもきっと応えてくれるだろう。
────なのに、どうしてこんなことになってしまったの?
床に転がるシェスティンとは対照的に、その少女は真っ白なドレスを身に纏い、煌びやかな椅子に腰掛けていた。
彼女がいる場所はハルハーゲン家の食堂で、その奥では喉を掻き毟りながら泡を噴く、シェスティンの父母。
見慣れた場所で繰り広げられる、奇妙な光景。その最たるものは、椅子に腰掛けている少女の面立ちだ。
「同じ、顔……?」
腰にまで届く真っ白な髪。血のように真っ赤な目。不気味な配色の少女は、奇妙なことにシェスティンの顔立ちとそっくりだった。さながら、鏡を覗いているかの如く。
シェスティンの疑問に答えてくれたのは、合わせ鏡のような少女だった。淡い黄金色のシャンパンが注がれたグラスを揺らしながら、彼女は明日の天気を告げるような口調で、言う。
「双子ですもの」
「ふた、ご?」
誰と、誰が? 気味の悪い目をした、目の前の少女と自分が?
少女の言葉は、到底信じられるものではなかった。だが、シェスティンの顔立ちと少女のそれがまったく同じであることは事実だ。
シェスティンの両親であれば何か知っていたかもしれないが、二人はもはやぴくりとも動かない。
凄惨な光景に腰が抜けてしまったけれど、すぐにでも逃げなくては。そんなことを、今更ながらに思った。
食堂にいるのは、シェスティンと少女だけ。食堂で給仕を担当していた使用人たちは、どれもこれも死んでいたけれど、屋敷のどこかにはまだ生きている使用人がいる筈だ。華奢な少女一人、取り押さえるのも容易いだろう。
誰か助けて、と祈った。そのとき、脳裏にシェスティンを救ってくれたあの人の背中が、色鮮やかによみがえった。
あの人なら、きっと助けてくれる。お願いだから助けにきて、と。
名も知らないあの人に助けを求めたとき、まるでシェスティンの声が届いたかのように、食堂の扉がおもむろに開いた。
こつんこつんと、規則正しい靴音が響く。淀みなく続く足音は、シェスティンの横を無情にも過ぎていく。遠ざかる背中を、シェスティンは呆然と見ていた。
「終わったぜ、フロイライン」
褐色の肌の青年が、真っ白な少女の傍らに立つ。その瞬間、青年の衣服のあちらこちらがやけに黒ずんでいることに気が付いた。その正体が何かは、すぐに知る羽目になった。
「本当に? 残りの使用人、本当に全部殺したんですか?」
「あん? 俺の腕を疑ってんのか?」
「ハウンドの実力は信じていますが……あまりにも早すぎません?」
「はァ? 相手はただの使用人だぞ。殺すのに三秒もかかるかよ」
「……嬲り殺さなかったんですか? あなたが?」
「あんまり悠長にもしてらんねえだろうが」
青年の衣服が不自然に黒ずんでいるのは、使用人たちの返り血らしい。彼の言葉はとても信じられそうにないけれど、もし仮に本当ならばこの屋敷で生きているのはシェスティン一人になる。
いや、そんなことよりも、信じられないことは他にもある。シェスティンの目に写るその人は、シェスティンを救ってくれたあの人で。シェスティンを救ってくれる筈の人で。
なのに、その青年はつまらなそうにシェスティンを一瞥し、不気味な少女をまじまじと見つめる。
「あれ、やっぱ身内か?」
「俺の双子の姉ですよ」
「へえ。あっちは何も知らず、蝶よ花よと育てられて?」
「そう。片や弟の方は、日の光を浴びると赤く爛れる肌に化け物のような白い髪、血のような赤い瞳を宿して生まれたことから、呪われていると疎まれ暗い地下牢で八つまで過ごした」
「で? その後は人買いに売られて、薄汚え男共のチンコをぶちこまれて、殴られ蹴られ、泥と精液を啜るような生活を送った、と────これを聞いてどう思うよ、お嬢様?」
青年の瞳は、シェスティンを蔑んでいた。どうして、彼にそんな目で見られるのか分からない。だって、シェスティンは何も知らなかった。双子の弟とやらのことも、彼がどんな人生を歩んできたのかも、シェスティンには何も関係がないことだ。
そもそも、彼が青年の気を引きたくて作り話をしている可能性もある。だって、あの優しい両親がそんなことをする筈がない。
両親を身勝手な理由で殺しただけに飽き足らず、青年を弄ぶ不気味な怪物が憎らしくて堪らなかった。
「本当に、俺のことは何も知らないのね、姉さん」
「し、知るわけないじゃない、この化物!」
「まあ、漏れ聞く話を耳にする度、そんなことだろうとは思っていたけれど」
真っ白な怪物が椅子から降り立ち、少しずつ距離を詰めてきた。その一歩後ろには青年がいる。まるで付き従う騎士のように。
助けて、と声を上げようとしたとき、シェスティンの視界を遮るように、真っ白な怪物がすぐ目の前に膝をついた。
「どうか誤解しないで、姉さん。責めてはいません。むしろ感謝してるくらい」
「え……?」
「だって、何も知らず、のうのうと生きている家族への憎悪を募らせてきたから、今日まで生きて来られたんだもの」
頬をほのかに赤らめて、心底嬉しそうに笑うそれは、やはり同じ人間とは思えなかった。自分と同じ顔をしている化物の口から、おぞましい言葉がこぼれ落ちる度、吐き気がして仕方がなかった。
ぞっとするほどに真っ赤な瞳が、弧を描く。夢見るような声音で、歌うように告げる。
「姉さんのことも、直接この手で殺そうと思ったのよ。ああ、でもほら俺って見た目通りか弱くて、銀食器より重いものを持ったことがないから、毒を使うしかないのだけど」
「おまえ、その冗談好きだよな……」
「ふふ、そうかもしれないわ。そうそう、話を戻すけれど。姉さんだけはちょっと趣向を変えて、好いた男に殺される気分を味わってもらおうかなって」
え、と声にならない声が、喉の奥から滑り落ちた。今、目の前の化物は何を言ったのだろう。
呆然とするシェスティンのことなど意にも介さない化物は、ぞっとするほどに美しい微笑を湛えながら問いかけた。
「惚れた男に殺されるって、どんな気分?」
怪物がゆっくりと立ち上がる。その拍子に、真っ白なドレスの裾が揺れた。
憎らしくて妬ましい、純白。どこもかしこも不気味なほどに真っ白で、ただ一つ瞳だけは真っ赤な怪物が、青年の傍らへと立った。
「知ってたのかよ」
「あら、知らないとでも? 親切な職人さんが教えてくださったわ」
「じゃあ、この前広場に行ったのもわざとか」
「半分ってとこかしら。串焼きを食べてみたいと思ったのは本当だけれど、あわよくば姉さんがいたら良いなって思ったのも本当」
「で、都合の良いことにそれがいたから見せつけてやった、と。イイ性格してんな」
「全部分かっていて、俺のお遊びに付き合ってくれたあなたには言われたくてありませんね。ああ、でも串焼きの食べ方が分からなかったことは本当ですよ?」
ああ、やはり。分かっていたことだけれど、あのときの真っ白な少女はこの怪物らしい。シェスティンは、ふつふつと沸き上がる憤怒と憎悪で、視界が真っ赤になるのを感じた。
「そん、なッ、そんな怪物なんかの隣にいちゃだめよ、お兄さん! 私ならお兄さんを自由にしてあげられるから、私ならお兄さんを愛してあげられるから!」
だからそんな奴の隣にいないで。私の傍にいて。ずっと告げたくて堪らなかった、ちっぽけな少女の恋。
シェスティンの想いは、しかし他でもない青年の言葉によって、枯れ落ちることになる。
「テメェ、顔はそっくりなのにフロイラインとは真逆だよな。ほんっと、唆られねえ女」
「……え」
「綺麗なだけの奴になんざ、唆らねえンだよ」
青年の無骨な手が、化物の髪を一房掬い上げる。そうして、まるで愛でるようにそっと唇を落とした。
一度だって、青年がシェスティンに触れたことはない。シェスティンから何かを受け取ったこともない。
頬に涙が伝う。止めどなく溢れる涙と共に、この想いも流れてしまえば良いのに。
────それが、シェスティンの最期だった。
◇
シェスティンという名の双子の姉は、あっさり死んだ。両親のように苦しみもがくこともなく、ハウンドの獲物で喉笛を掻き切られて。
煩わしい虫を叩き潰すような、何の感慨もない殺し方だった。痛みを覚えることもなかっただろう。ハウンドにしては、随分と手早く済ませたものだ。双子の姉に何か思うことがあったのか、或いは早く報酬が欲しかったのか。なんとなく、後者のような気がした。
「なあ、フロイライン。復讐を遂げた気分はどうだ?」
ハウンドに問われ、地獄のような日々を思い返す。真っ暗な地下牢に閉じ込められ、粗末な食事を与えられる毎日。でも、人買いに売り飛ばされた後を思えば、地下牢にいた日々はまだマシだったと言える。
見目が良いから、引く手は数多だった。一番高い値をつけた金持ちのところへ売り飛ばされ、そこからは地獄のようだった。
ろくに慣らされもせずに犯されて、泣き叫んだところで止めてはくれない。殴られたり、蹴られたり、木の棒で打ち付けられたこともあった。
そのうちに、媚を売った方が優しくしてもらえると学び、自分で尻の穴を解しておいた方がまだ楽だと知り、生き延びる為の知識を少しずつ蓄えていった。
長い長い時間をかけて、ようやっと復讐をやり遂げたのだ。それは言い表しようがないほどに────。
「すっきりしました」
復讐は何も生まないと、誰かが言っていた。そんなことは大嘘だ。この復讐心のおかげで、私は今日まで生き延びられた。
エスカランテ商会を乗っ取り、より成長させた理由も、ひとえに復讐を成功させるためだ。そして、何よりこんなにも清々しい。
復讐が何も生まないと言っているのは、復讐を望むような目に合ったことがないモノか、生産性のない復讐をしてしまったかのどちらかだろう。
ああ、でも。復讐そのものに後悔はないけれど、ほんの少し未練があるとしたら、彼だ。
「約束ですから、奴隷の首輪を外しますね」
「おお、頼むわ」
普段は、私にしか分からない暗証番号付きの金庫の中に仕舞っていた鍵。鈍色に重く輝くそれは、ハウンドを戒めている証でもある。
彼が猟奇殺人犯だとしても、私にとって彼は恩人だ。いつまでも縛っていたいとは思わない。たとえ、私自身が殺されようと、他の犠牲者が生まれようと、解放することに躊躇も迷いもない。
ただ、この首輪が外れた瞬間、私と彼の雇用関係は消滅して、今までのように話をすることもなくなって、彼と二度と会えなくなることが、少し寂しいだけ。
「さァて」
ゆっくりと落ちる首輪が、かちゃんと耳障りな音を立てる。床に転がる首輪はただの鉄の塊に成り果てた。もはや、彼を戒めるものは何もない。
私を捉えて離さないハウンドの瞳は、さながら飢えた獣のよう。
「契約通り、報酬は貰うぜ。フロイライン」
「あの……後生だから、せめてこの屋敷では止めて欲しいのだけど」
憎い家族と仲良く転がるなんて、それだけは絶対に嫌だった。ここ以外ではどこでも良かったし、どんな風に殺されても文句は言わない。この程度の望みくらい、譲歩してくれないかしら。
おそるおそるうかがったハウンドは、怪訝そうに眉を寄せながら何かをぶつぶつと呟いて、かと思ったら「ああ、そういう」と得心がいったように頷いた。
一人で何を納得しているのか分からないけれど、場所を変えてくれる気はあるのだろうか。
尋ね直そうとして、喉奥まで出かけた言葉は呆気なく霧散した。私の腰に回ったハウンドの腕の所為で。私の唇を塞ぐ、ハウンドの唇の所為で。
「ッ!?」
キスをしていると理解し、同時にハウンドの舌が口内に入り込んできた。分厚くてあたたかな舌が、逃げ惑う私の舌を絡め取る。
「ん、んん、ぁ……」
舐めて、絡めて、甘く歯を立てて。足下の力が抜けそうになって、目の前の身体にすがりついたら、腰に回っているハウンドの腕により一層力がこもったような気がした。
口いっぱいに溢れる唾液を、飲み込んでしまったとき、唐突に始まった口付けは、やはり唐突に終わりを迎えた。
「……やっべ。止まんなくなるとこだった」
「………………………………」
「おい。なんだよ、無反応かよ」
まあいいか、と呟いたハウンドが視界から消えた。次の瞬間、私の足はあっさりと床から離れていて、ハウンドに抱き抱えられていた。
私の膝裏と背中を支える腕はびくともしない。確かに私はか弱いけれど、それにしたってハウンドの筋肉は異常なのではないかしら。…………って、違う! そうじゃないわよ!?
「まっ、ま、えっ!? ほ、報酬は!?」
「だから貰うっつったろうが」
「い、命って言ってませんでした!?」
「身体を貰わねえとは言ってねえだろ」
た、確かに? ハウンドは「(報酬は)テメェの命でも良いんだな?」とか「テメェの命を寄越せ」とは言っていたけれど、身体を求めないとは一度も言ったことはない。確かにない、けれど。
「そんな素振り一度も見せなかったのに!?」
「奴隷の身で、主人の尻をぶち犯す訳にはいかねえだろ」
「……い、いつから?」
「あ? 割りと最初の方だぜ。とりあえず犯してから殺してやろうってな」
まあ、早々に改めることになったが、とハウンドが溜息をついた。
私を抱きかかえているとは思えない足取りで、ハルハーゲンの屋敷を後にする。後五分もしないうちに、屋敷中に仕掛けが作動して、屋敷に火が着く予定だ。
逃げるのならば早く逃げる必要がある。だから、ハウンドの行動は正しい。正しいのだけど、何だか焦っているというか、苛々しているのはどうしてだろう。
「ったく、こっちの気も知らねえで煽りやがって……!」
「お、覚えがない……」
「次、風呂上がりに裸でうろついてみろ。問答無用でぶち犯すからな」
待って。風呂上がりに裸でうろついて、何ならハウンドに髪を拭いてもらったことは何度もあるけれど、その度に我慢していたの!?
呆然と目を瞠る私を見て、ハウンドは何が面白いのか「まあ」とにんまり笑った
「晴れて自由の身になった以上、おまえは俺のモンだ。その命も、その身体もだ。だったら、いつぶち犯そうが問題ねえよなァ?」
「……あの、誤解だったら訂正してほしいのだけど、あなた、急いで帰ろうとしているのって、つまり、そういう?」
「だったら?」
「………………嫌ではないから困るわ」
頭上に深い深い溜息が落ちた。だって、彼らしくないほどあっさりした殺しも、さっさと帰ろうとしている理由も、私を犯したくてたまらないということなら────どうしようもなく、嬉しい。
苛立しいと言わんばかりに舌を打ったハウンドが、低く唸り声を上げた。
「おまえ、その辺でぶち犯されたくなかったら、拠点に戻るまで黙ってろ」
◇
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……あァ?」
あからさまに機嫌を損ねた声を出しながらも、ハウンドは手を止めた。少し意外だった。彼にそんな従順さがないことは、重々承知しているから。
これまで、彼が私の指示に従っていたのは、最後に支払われる報酬にそれだけの魅力を感じていたからにほかならない。
「おまえ、今さらやっぱなしっつったら、どうなるか分かってんだろうな」
「さすがにそこまで不義理ではありません。ただ少し待って欲しいというか、準備の時間を……」
「は? 準備?」
「お忘れかもしれませんが、私は男です」
「知ってるっての。何度着替えを見てきたと思ってンだ」
私の望みは叶った。これ以上ないほど、満ち足りている。
ハウンドが望むのなら私の財であろうと、私の命であろうと、差し出すつもりだった。
まさか、私の身体の方を求めてくるとは思わなかったので、驚いたことは否定しないけれど、今さらカマトトぶるつもりもない。
であれば、これまでのろくでもない経験をいかし、彼の望む報酬を用意するのは当然だろう。
「結構。では、準備が必要なこともお分かりでしょう? 男は、女と違って濡れませんから。それに、返り血もついたままですし」
ハウンドは得心がいったらしく、「ああ、そういう」と呟いた。分かっていただけて何よりだ。
抱えられたままベッドルームに直行して、はっと気付いた頃には手触りの良いシーツに沈んでいたのだ。見上げた視界には、飢えた獣。
果たして、今の彼に丹念に準備をしてくれるだけの余裕があるとも思えない。ハウンドを信用していない訳ではないのだけれど、途中で焦れて突っ込んで来そう。直腸が裂けて出血多量で死亡、なんて間抜けな死に方は御免だ。
ハウンドの気が変わらないうちに、さっさと支度を済ませてしまおう、と押し退けるべく彼の肩を押す。動かない。びくともしない。
「ちょっと、ハウンド。ご理解いただけたなら、避けてください。なるべく早く済ませますから」
「いらねえよ」
「は、」
「準備なら俺がやる」
骨ばった指が、手首に巻き付いた。シーツの上に押し付けられるも痛みは感じなかった。
彼に抱いている印象とは裏腹に、その手付きはやけに優しい。そういえば、抱えられたときも、ベッドに下ろされたときも、乱雑さは感じなかったような気がする。
「…………待て待て待て待て!?」
ハウンドの手を外そうと、ありったけの力を振り絞った。面白いくらいに動かなかった。彼が本気になったら、私の腕なんて小枝のように呆気なく折ってしまえるかもしれない。
筋力も体力も、彼と私の間には天と地ほどの差がある。私の細やかな抵抗なんて、無視しようと思えばできる筈なのに、ハウンドはそうはしなかった。深く深く、まるで熱を逃がすかのように長く息を吐いて、私の手首を自由にする。
「……ンだ、おい。これ以上何が気になるってんだよ」
「………………誰が、誰の、準備をすると?」
「俺が、おまえの、穴を解せば良いんだろ」
「あの、適当に解して終わり、だとお互いに悲惨なことになるのはご存知?」
「……ああ、気になってたのはそこか。言われなくても分かってらァ」
ちゃんと解せば良いんだろ、とハウンドは事も無げに言う。
幻聴でも聞き間違いでもなかった。直腸に指を突っ込んで腸を引きずり出すつもりだ、と言われた方がまだ分かる。
呆然としている私に、ハウンドは不機嫌さを隠そうともせず、荒々しく舌を打った。
「おい、もう待たねえぞ。こっちはどれだけ待てを食らってたと思ってる」
太股に押し付けられた熱と固さに、言葉を失った。それが何なのか、想像するまでもない。私の上にのし掛かった男共は、揃いも揃って欲望を押し付けてきた。下手に抗うより気持ちが良いふりをしておいた方が、幾分か早く済むと気付いたのはいつだったか。
でも、ハウンドはこれまでの男どもとは少し違った。苛立ちを滲ませて、瞳の中に飢えた獣を棲まわせて、けれど無理やり事を進めるつもりはないらしい。
全身から力を抜いた。そこまで言うのなら好きにしたら良い、と呆れにも似た気持ちを抱いたからだ。
「趣味が悪い……」
「あァ?」
「返り血も浴びていて、準備もしていないのに」
「お綺麗なだけのお嬢様には、端から唆られねえんだよ」
「…………本当に趣味が悪い」
屋敷の人間を手当たり次第に殺させたし、殺した。最後は火を放った。今の私は、汚れひとつない雪のような少女から最も遠い姿をしているだろう。
見目にこだわりはないけれど、今日まで生き延びて来られたのはこの容姿のおかげでもあるので、些か複雑な気分だ。まあ、ハウンドがそれで良いと言うのなら、良いけれど。
「ちなみに、今日の下着はレディ・レティの新作のパンツでしてよ。もちろん、紐」
「情緒がねえなァ、おまえはよ」
「お互い様でしょう?」
「ハッ! ちげぇねェ」
ハウンドが口角を持ち上げて嗤う。とてもじゃないけれど、閨で浮かべて良い笑みではない。
けれど、ドレスの下に潜り込んで、私の太股を撫でる手付きは、驚くほどに優しかった。
「……あー、破って良いか。このひらひらを丁寧に脱がしてやる余裕がねえ」
「正直ね。構いませんよ、どうせもう着れたものではありませんから」
容易く裂かれるドレスを見ながら、ハウンドの顔をぼんやりと眺める。
後ろを解す間を待つ余裕もなく、ドレスを脱がす間すら堪えられないと言うくせに、この男はそれでも無体を働くつもりはないらしい。それどころか────。
「ん、」
血色の悪い肌を滑っていく、褐色の指。レースで仕立てられた女性用下着の中に、窮屈そうに収まっている雄の証を揶揄するように触れられた。
この男、もしかして独りよがりの性欲処理をするのではなく、私のことも好くするつもりなのか。
「潤滑油は?」
「ベッドサイドの、一番上ですけど……」
「使いきっても文句は言うなよ」
ベッドサイドのテーブルから潤滑油を取り出して、一切の躊躇いもなく瓶を逆さまにする。潤滑油が滴るほどに濡れた指。橙色の照明に照らされて、てらてらと光るさまはどこか艶かしい。
私とは何もかもが違う無骨な指が、裂けたドレスのあわいを進み、白いレースに覆い隠された雄へ再び触れた。
滑りを帯びたおかげで、先程よりも確かな熱が灯る。快楽を分け与えられるなど、本当にいつぶりだろう。
「ちゃんと、解すつもり、なんです、ね……」
「おまえ、俺を何だと思っていやがる」
「いえ、そうじゃなくて、んッ」
いつのまに下着の紐を解いていたのか、不埒な指が慎ましやかな奥へと伸びた。
エスカランテ商会を乗っ取ってからというもの、アナルセックスは随分とご無沙汰だった。入口はやはり固く閉じ切っているものの、何度となく欲の刀身を咥え込んできている。孔の周辺を撫でる無骨な指を招くことなど造作もない。
「やっぱ狭ぇな」
「……あの、こういう、とき、ッ」
「あ?」
「どう、したら……良いん、です?」
誰かが丹念に準備をしてくれたこともなければ、前戯をしてくれたこともなかった。誰かに任せるよりは自分で準備をした方が痛みも少ないと分かってからは、空しさを覚えながらも排泄器官に指を沈めた。
快楽以上に苦痛に苛まれながら、必死に感じているふりをして、一秒でも早く終わることを願っていた。
だから、前戯の間に何をしたら良いのか分からなくて、余計なことを考える暇さえあって、どうにも落ち着かない。
ハウンドは何とも微妙な顔をして、「とりあえず喘いどけ」なんて役に立たない助言をくれた。
「喘いどけって……ンッ!」
「ああ、ここか」
微かに息を溢していたときは違い、あからさまに反応が変わったことを、ハウンドは決して見逃さなかった。
彼が、獲物を前にしたときに浮かべる獰猛な笑み。ただ、私に跨がる男の笑みは、普段のそれとは少しだけ種類が違うような。
「……あッ、どう、して……そんな風に、触れるんです……?」
「はァ?」
「私は、もはやあなたの主人でもなんでもないのですし……好きにしてくれて、構わないのに……んッ!」
「好きにしてんじゃねえか」
「……でも、余裕、ないのでしょう……?」
「ねえよ」
ねえけどな、とハウンドは浅く息を吐いた。いつしか二本に増えた指。レースに覆われた雄への刺激のおかげで、違和感を覚えることはなかった。
だからこそ、疑問を抱いてならない。余裕がないと言いながら、彼は決して自分ひとりで好くなろうとはせず、私の身体を慮ってくれる。それは、何故か。
「好き勝手して勃起してる変態共と一緒にすんじゃねえよ」
「……あなたも、変態の一員に……ッなるの、では?」
「だから、一緒にすんじゃねえよ。ぶち犯すぞ」
ぶち犯すぞなんて言いながら、ハウンドの指は変わらず優しく動いて、先の言葉の通りにしっかりと解してくれていた。
時折、好い箇所に触れるものだから堪らない。最初こそ偶然だったのだろうけれど、私の反応を見てからは、意地悪げに掠めていくハウンドの指が少しだけ憎らしい。
苦痛と嫌悪以外感じない筈の行為の最中で、私はハウンドにさまざまな感情を抱いている。それは、何故か。
「性欲処理なら別におまえじゃなくても良いんだよ。むしろ、性欲処理が目的なら女の方が遥かに楽だろうが」
「……性欲処理を、するのではないの?」
「ちげえよ」
ふと、金の瞳とぶつかった。その瞬間、世界からあらゆる音が消えたような気がした。
目をそらすなと、その目が雄弁に語る。言われるまでもない。ハウンドの瞳に目を奪われて、囚われて、何も考えられなくて。
「おまえが女だろうが男だろうが傷があろうがなんだって良いんだよ。おまえならな、フロイライン」
「は、」
「分かりやすく言ってやろうか────おまえの生き様に惚れたんだよ、性格ブス」
フロイラインはいつだって誰かの物だった。性欲をぶつけられるばかりで、俺自身を顧みられたことなど、これまで一度だってなかった。
俺自身を望まれたことなど、生まれてから一度もなかった。
こんなものを愛の告白だと思うほど夢見心地ではないけれど、それでも言葉が見つからないほどに胸が高鳴ったのも事実だ。
「……ハウンド、もういいから」
「は?」
「あなたが、欲しいんです」
ハウンドが、微かに目を丸くする。それから、「こっちの気も知らねえで」と荒っぽい舌打ち。
この男にこんな顔をさせたのが俺だと思うと、ひどく気分が良くなる。今夜は特に良い気分だった。
数えるのも馬鹿らしいくらい重ねてきた行為の筈なのに、今夜に限って妙に落ち着かない。今夜に限って、目の前の男に触れたくて堪らなかった。
「……入れるぞ」
排泄器官から性行の為の器官へと変貌した孔から指を抜いて、乱雑に衣服を取り払っていくハウンドを見つめる。その時間すらも焦れったいだなんて、流石に言えなかったけれど。
腹に付かんばかりに昂り、先走りを滲ませるそれが、粘着質な水音を立てながら触れる。火傷してしまいそうな熱さに、微かに息を飲んだ。
「う、あッ、」
「あー……くッそ。堪えろよ、フロイライン」
引き下がった方が辛いのは、ハウンドだけではない。碌に解しもしないでぶち込まれた経験を思い返せば、こんなもの痛みでもなんでもなかった。
それよりも早く、一番奥深くに招き入れたかった。俺の望みを叶えてくれた男に、俺を差し出したかった。
ハウンド、と手を伸ばす。返事の代わりに深く長い吐息。僅かに身を屈めてくれた男の首に手を回した。
「ふ、」
引き締まった身体に抱きついて、馴染むまでの僅かな時を堪える。
俺ひとり抱えて動き回っても、びくともしない強靭な身体。すんっと息を吸う。血と、微かに香るのは汗の匂いだろうか。
こんな風に触れ合うことはおろか、俺に跨がる男の匂いを嗅ぐなんて、今まで一度もしたことがなかった。
これまでの行為とは何もかもが違っていて、それがなんだかおかしくて、つい肩を揺らして笑ってしまう。
「……何がおかしいんだよ」
「だって、返り血がついた服を着たままで、下半身だけ繋がってるって、情緒も何もないでしょう?」
「悪かったな、余裕がなくて」
はぁ、と熱っぽい吐息が耳を撫でる。余裕がないのは分かっている。俺を蹂躙する欲の象徴が、先ほどから脈打っているから。
けれど、これだけ余裕がないくせに、俺の身体を慮ってくれているのだから、やはりおかしいったらない。
「これまでで一番、セックスをしてるって心地だから、おかしくって」
望むがままに殺人を繰り返してきた猟奇殺人犯のハウンドが、俺のために我慢していることも。
何度となく繰り返してきた行為なのに、いつもと違う何かを見出してしまった私も。何もかもがおかしくて仕方がなかった。
腕の中のハウンドが、まるで獣のような唸り声を発する。
「…………テメェ、鳴かす。嫌ってほど鳴かしてやる」
「あら怖い」
「おまえの生涯をかけた復讐に付き合ってやったんだ。今度はおまえの番だからな、フロイライン」
……ああ、本当。情緒も色気もあったものではないけれど、俺とハウンドらしくって病み付きになってしまったらどうしましょう。
◇
「……満足したんですか」
「はァ? 一夜で満足すると思うかよ、バカじゃねえの?」
クソみてえな変態共が挙って欲しがる訳だ、と実感を伴った納得を得た。
でけえ寝台に広がる白い髪も、透けるような白い肌が快楽で朱に染まるのも、真っ赤な目が快楽でとろんと緩むのも、気持ちイイことなんか何にも知らねえって顔をしたこいつをぶち犯すのも、どれもこれもが情欲を煽る。
「…………自分で言うのもなんですけど、この身体にそれほどの価値があるとは思えませんが」
当の本人は、ある程度自分の価値を理解しているみてえだが、それでもすべてを正しく理解している訳じゃないらしい。
真っ白な喉仏に、軽く歯を立てた。皮膚が薄いのかそれだけで甘い声が上がる。せっかく収まりかけた欲が、また爆ぜるような音がした。
白い肌のあちこちに俺が吸い付いた痕やら噛み付いた痕が散らばってるし、腹やら孔には俺がぶちまけた精液で濡れている。頭の天辺から爪先まで俺のモンにしてやったという征服欲はたまらねえなァ。
「……さすがに、ちょっともう体力が保たないんですけど」
「だろうな。だからこれ以上煽んなよ」
「どこに煽られてるのか分からないのに無茶を言う……」
フロイラインが、困ったように溜息をついた。どこって、どこもかしこも煽る材料になってることに気付かねえおまえが悪い。
「とりあえず……ねえ、ハウンド。お風呂に入れてください」
「は?」
「自分の道具を整えるのは、持ち主の仕事ではなくって?」
~~~~ああ、クソ! 特に、その顔だその顔! お綺麗な容姿で、人を食ったような顔で嗤うテメェを、ひんひん鳴かせたくなんだよ!
もう一回ぶち込んでやろうとしたら、フロイラインが「ハウンド」と嗜めるように俺を呼んだ。おまえ、道具の自覚が足りなくねえか、おい。
まあ、言うことを聞いてやる俺も俺だが。重さなんかほとんどないような身体を抱き上げて、部屋に備え付いてるバスルームに運ぶ。
「……ひとつ、訊きたいのだけど。どうして白いドレスを選んだの?」
湯を張る間に、汗やら何やらを流し、俺にはよく分からん液体を塗りたくる──淑女の嗜みらしい。よくわからん──フロイラインを眺めていると、そんなことを問われた。
仇の命を奪う今夜に、白いドレスを選んだ理由か。大量殺人を行うのなら黒い方が目立たねえのは間違いない。だが、分かっていて尚、俺はこいつに白を着せた。
「今日は、おまえが生まれ直す日になるんだろ。なら黒じゃなくて白だと思ったんだよ」
「……なんだ、そんなこと。てっきりお嫁入りの意味かと思ったのに」
「嫁入り?」
「俺が、あなたに。嫁に来いってことかと思った。せっかくだから、とびっきりのドレスを仕上げましょうか?」
あなたの為に、あなたの物という証に、とフロイラインが微笑う。
こいつが俺の為に、俺のモノという証のために着飾るのは悪くねえ。悪くねえが────。
「仕上げるのは良いがな。多分、秒で脱がして抱くぞ」
俺の為に獲物が下ごしらえまでしてホイホイ近付いて来たら、そりゃあ食らい付くだろ。何言ってんだ、テメェ。
フロイラインはきょとんと目を丸くして、それから耐えきれずに声を上げて笑った。
「……ほんっと、ハウンドって」
────俺のこと、そんなに惚れ込んでいたなんて知らなかったわ。
この街で最も権威ある、ハルハーゲン家。染み一つない白亜の大きなお屋敷には、主人とその妻、そして愛娘の三人で幸せに暮らしている。この街の人間にそれとなく聞いてみたけれど、屋敷の地下で暮らしていた弟のことを知るものは誰もいなかった。
そんな、幸福で理想的なハルハーゲン家に、今夜はお呼ばれしていますの。せっかくのパーティー、とびっきりおめかししなくてはいけませんわ。
だって、久しぶりに家族と再会するんですもの。感動的なものにしなくてはね?
「ねえ、ハウンド。どちらが良いかしら」
クローゼットから取り出したのは、いつも着ているような真っ白なドレス。右手に持っているのは、普段ならば着ないような真っ黒なドレス。
壁に寄りかかって退屈そうにしていたハウンドは、器用にも片眉だけぴくっと上げるも、「どっちでも良いんじゃねえの?」と投げやりな返答。
ああ、まったく。何度言っても、ハウンドは女心が分からないのだから。まあ、私も女ではないけれど。立派じゃないけれど、ついているものはついているので。
「どうせなら似合う装いをしたいでしょう?」
「そんなもんか?」
「だって、今夜は特別な夜なのよ? 最高の舞台をあなたに見せるのに、みっともない格好はできなくってよ」
「……白」
なるほど、ハウンドは白い方が好みなのね。散々「汚れんぞ、ブス」とかなんとか言っていたのは、私に白い装いが似合っていると思っていての発言だったのかしら。そういうことにしましょう、その方が気分が良いので。ハウンドったら素直じゃないのだから。
「おい、なんかおぞましいこと考えてねえか?」
「いいえ、まさか。むしろ、健全なことを考えていましたけれど」
「……健全? おまえがか?」
「私ほど健全な精神をしている人間もいないと自負しておりましてよ。だって、泣き寝入りすることなく健やかに復讐を果たしてきたんですもの」
やり方がおよそ健全ではないだろう、と言われたら返す言葉がない。残念ながら、ハウンドは「そうかよ」と肩を竦めただけだった。
本当に、残念だ。ハウンドとの会話は小気味が良くてとても好ましい。今日を最後にできなくなるのだし、もう少しだけおしゃべりしたかったのだけど。
私が復讐を果たしたとき、ハウンドはきっと私を殺すだろう。その事自体に、文句はない。
むしろ、猟奇殺人犯として手配されていた彼が、今日まで付き合ってくれていたことを思えば、報酬が足りないのでは、と不安になるくらいだ。
「おい、フロイライン」
「何かしら」
「今さら、契約をなかったことにする、なんて言わねえだろうな」
「それだけは有り得ません。そこまで恥知らずではなくってよ」
それなら良い、とハウンドが満足げに笑う。彼の頭の中で、私は泣き叫びながら殺されているのかしら。それとも、あっさり殺されているのかしら。せめて、彼を満足させてあげられたら良いのだけど。
私にとって、ハウンドは恩人で。私の願いを叶えてくれる共犯者で。どうせ死ぬのなら彼に殺されたいと願うほど、彼を満足させてあげたいと思うほど、感謝をしていて。
……なのに、どうしてかしら。死ぬのはこれっぽっちも怖くないのに、ハウンドともう会えないのだと思うと、少しだけ心臓が痛くなる。
復讐を止めるつもりはない。ハウンドとの契約を反故にする気もない。ならば、こんな未練は不要だろう。
「ハウンド、櫛で髪を鋤いてくださる?」
さあ、支度をしなくっちゃ。だって今夜は特別な夜。幸福で理想的な家族が惨たらしく死んで、名もない少女が息絶える日なのだから。
◇
今夜は、エスカランテ商会の代表が来ると父が言っていた。仕事の話をした後は食事をする予定で、そのときに失礼がないように挨拶をして、この前のドレスよりもうんと綺麗で、真っ白なドレスを仕入れてくれないかと頼むつもりだった。
お兄さんが奴隷だと知った日。まっすぐ帰る気にもなれず、街をうろうろしているうちに、また広場へと戻ってきてしまったのだ。
いる筈もない。でももしかしたら、なんて捨てきれない期待に手を引かれるように。
予想に反して、お兄さんはいた。けれど、いつもと違って、その傍らには一人の少女を伴って。
真っ白な日傘の所為で、顔立ちは分からなかった。けれど傘の下でさらさら揺れる白髪と、染み一つない真っ白なドレスから、彼女がシェスティンと同じくらいの歳で、裕福な生活を送っていることは察せられた。
大きな串焼きをじっと見つめる少女に、お兄さんは何を思ったのか、串焼きにかぶり付いた。シェスティンからは何一つ受け取らないくせに、そんな女から取るに足らない屋台の料理は貰うのか。
書き損じた手紙をぐしゃぐしゃと握り潰すような、暴力的な衝動に襲われて、シェスティンは自分の屋敷へと駆け戻った。
悔しい、憎らしい、妬ましい。私はお兄さんの隣にいないのに、どうしてあの女はお兄さんの隣にいられるの?
お兄さんに、もう一度会いたいと思った。もっとちゃんと話したら、今度こそお兄さんも分かってくれるだろう。
あの女よりもうんと綺麗なドレスを着て、自分の想いを打ち明けたなら、お兄さんもきっと応えてくれるだろう。
────なのに、どうしてこんなことになってしまったの?
床に転がるシェスティンとは対照的に、その少女は真っ白なドレスを身に纏い、煌びやかな椅子に腰掛けていた。
彼女がいる場所はハルハーゲン家の食堂で、その奥では喉を掻き毟りながら泡を噴く、シェスティンの父母。
見慣れた場所で繰り広げられる、奇妙な光景。その最たるものは、椅子に腰掛けている少女の面立ちだ。
「同じ、顔……?」
腰にまで届く真っ白な髪。血のように真っ赤な目。不気味な配色の少女は、奇妙なことにシェスティンの顔立ちとそっくりだった。さながら、鏡を覗いているかの如く。
シェスティンの疑問に答えてくれたのは、合わせ鏡のような少女だった。淡い黄金色のシャンパンが注がれたグラスを揺らしながら、彼女は明日の天気を告げるような口調で、言う。
「双子ですもの」
「ふた、ご?」
誰と、誰が? 気味の悪い目をした、目の前の少女と自分が?
少女の言葉は、到底信じられるものではなかった。だが、シェスティンの顔立ちと少女のそれがまったく同じであることは事実だ。
シェスティンの両親であれば何か知っていたかもしれないが、二人はもはやぴくりとも動かない。
凄惨な光景に腰が抜けてしまったけれど、すぐにでも逃げなくては。そんなことを、今更ながらに思った。
食堂にいるのは、シェスティンと少女だけ。食堂で給仕を担当していた使用人たちは、どれもこれも死んでいたけれど、屋敷のどこかにはまだ生きている使用人がいる筈だ。華奢な少女一人、取り押さえるのも容易いだろう。
誰か助けて、と祈った。そのとき、脳裏にシェスティンを救ってくれたあの人の背中が、色鮮やかによみがえった。
あの人なら、きっと助けてくれる。お願いだから助けにきて、と。
名も知らないあの人に助けを求めたとき、まるでシェスティンの声が届いたかのように、食堂の扉がおもむろに開いた。
こつんこつんと、規則正しい靴音が響く。淀みなく続く足音は、シェスティンの横を無情にも過ぎていく。遠ざかる背中を、シェスティンは呆然と見ていた。
「終わったぜ、フロイライン」
褐色の肌の青年が、真っ白な少女の傍らに立つ。その瞬間、青年の衣服のあちらこちらがやけに黒ずんでいることに気が付いた。その正体が何かは、すぐに知る羽目になった。
「本当に? 残りの使用人、本当に全部殺したんですか?」
「あん? 俺の腕を疑ってんのか?」
「ハウンドの実力は信じていますが……あまりにも早すぎません?」
「はァ? 相手はただの使用人だぞ。殺すのに三秒もかかるかよ」
「……嬲り殺さなかったんですか? あなたが?」
「あんまり悠長にもしてらんねえだろうが」
青年の衣服が不自然に黒ずんでいるのは、使用人たちの返り血らしい。彼の言葉はとても信じられそうにないけれど、もし仮に本当ならばこの屋敷で生きているのはシェスティン一人になる。
いや、そんなことよりも、信じられないことは他にもある。シェスティンの目に写るその人は、シェスティンを救ってくれたあの人で。シェスティンを救ってくれる筈の人で。
なのに、その青年はつまらなそうにシェスティンを一瞥し、不気味な少女をまじまじと見つめる。
「あれ、やっぱ身内か?」
「俺の双子の姉ですよ」
「へえ。あっちは何も知らず、蝶よ花よと育てられて?」
「そう。片や弟の方は、日の光を浴びると赤く爛れる肌に化け物のような白い髪、血のような赤い瞳を宿して生まれたことから、呪われていると疎まれ暗い地下牢で八つまで過ごした」
「で? その後は人買いに売られて、薄汚え男共のチンコをぶちこまれて、殴られ蹴られ、泥と精液を啜るような生活を送った、と────これを聞いてどう思うよ、お嬢様?」
青年の瞳は、シェスティンを蔑んでいた。どうして、彼にそんな目で見られるのか分からない。だって、シェスティンは何も知らなかった。双子の弟とやらのことも、彼がどんな人生を歩んできたのかも、シェスティンには何も関係がないことだ。
そもそも、彼が青年の気を引きたくて作り話をしている可能性もある。だって、あの優しい両親がそんなことをする筈がない。
両親を身勝手な理由で殺しただけに飽き足らず、青年を弄ぶ不気味な怪物が憎らしくて堪らなかった。
「本当に、俺のことは何も知らないのね、姉さん」
「し、知るわけないじゃない、この化物!」
「まあ、漏れ聞く話を耳にする度、そんなことだろうとは思っていたけれど」
真っ白な怪物が椅子から降り立ち、少しずつ距離を詰めてきた。その一歩後ろには青年がいる。まるで付き従う騎士のように。
助けて、と声を上げようとしたとき、シェスティンの視界を遮るように、真っ白な怪物がすぐ目の前に膝をついた。
「どうか誤解しないで、姉さん。責めてはいません。むしろ感謝してるくらい」
「え……?」
「だって、何も知らず、のうのうと生きている家族への憎悪を募らせてきたから、今日まで生きて来られたんだもの」
頬をほのかに赤らめて、心底嬉しそうに笑うそれは、やはり同じ人間とは思えなかった。自分と同じ顔をしている化物の口から、おぞましい言葉がこぼれ落ちる度、吐き気がして仕方がなかった。
ぞっとするほどに真っ赤な瞳が、弧を描く。夢見るような声音で、歌うように告げる。
「姉さんのことも、直接この手で殺そうと思ったのよ。ああ、でもほら俺って見た目通りか弱くて、銀食器より重いものを持ったことがないから、毒を使うしかないのだけど」
「おまえ、その冗談好きだよな……」
「ふふ、そうかもしれないわ。そうそう、話を戻すけれど。姉さんだけはちょっと趣向を変えて、好いた男に殺される気分を味わってもらおうかなって」
え、と声にならない声が、喉の奥から滑り落ちた。今、目の前の化物は何を言ったのだろう。
呆然とするシェスティンのことなど意にも介さない化物は、ぞっとするほどに美しい微笑を湛えながら問いかけた。
「惚れた男に殺されるって、どんな気分?」
怪物がゆっくりと立ち上がる。その拍子に、真っ白なドレスの裾が揺れた。
憎らしくて妬ましい、純白。どこもかしこも不気味なほどに真っ白で、ただ一つ瞳だけは真っ赤な怪物が、青年の傍らへと立った。
「知ってたのかよ」
「あら、知らないとでも? 親切な職人さんが教えてくださったわ」
「じゃあ、この前広場に行ったのもわざとか」
「半分ってとこかしら。串焼きを食べてみたいと思ったのは本当だけれど、あわよくば姉さんがいたら良いなって思ったのも本当」
「で、都合の良いことにそれがいたから見せつけてやった、と。イイ性格してんな」
「全部分かっていて、俺のお遊びに付き合ってくれたあなたには言われたくてありませんね。ああ、でも串焼きの食べ方が分からなかったことは本当ですよ?」
ああ、やはり。分かっていたことだけれど、あのときの真っ白な少女はこの怪物らしい。シェスティンは、ふつふつと沸き上がる憤怒と憎悪で、視界が真っ赤になるのを感じた。
「そん、なッ、そんな怪物なんかの隣にいちゃだめよ、お兄さん! 私ならお兄さんを自由にしてあげられるから、私ならお兄さんを愛してあげられるから!」
だからそんな奴の隣にいないで。私の傍にいて。ずっと告げたくて堪らなかった、ちっぽけな少女の恋。
シェスティンの想いは、しかし他でもない青年の言葉によって、枯れ落ちることになる。
「テメェ、顔はそっくりなのにフロイラインとは真逆だよな。ほんっと、唆られねえ女」
「……え」
「綺麗なだけの奴になんざ、唆らねえンだよ」
青年の無骨な手が、化物の髪を一房掬い上げる。そうして、まるで愛でるようにそっと唇を落とした。
一度だって、青年がシェスティンに触れたことはない。シェスティンから何かを受け取ったこともない。
頬に涙が伝う。止めどなく溢れる涙と共に、この想いも流れてしまえば良いのに。
────それが、シェスティンの最期だった。
◇
シェスティンという名の双子の姉は、あっさり死んだ。両親のように苦しみもがくこともなく、ハウンドの獲物で喉笛を掻き切られて。
煩わしい虫を叩き潰すような、何の感慨もない殺し方だった。痛みを覚えることもなかっただろう。ハウンドにしては、随分と手早く済ませたものだ。双子の姉に何か思うことがあったのか、或いは早く報酬が欲しかったのか。なんとなく、後者のような気がした。
「なあ、フロイライン。復讐を遂げた気分はどうだ?」
ハウンドに問われ、地獄のような日々を思い返す。真っ暗な地下牢に閉じ込められ、粗末な食事を与えられる毎日。でも、人買いに売り飛ばされた後を思えば、地下牢にいた日々はまだマシだったと言える。
見目が良いから、引く手は数多だった。一番高い値をつけた金持ちのところへ売り飛ばされ、そこからは地獄のようだった。
ろくに慣らされもせずに犯されて、泣き叫んだところで止めてはくれない。殴られたり、蹴られたり、木の棒で打ち付けられたこともあった。
そのうちに、媚を売った方が優しくしてもらえると学び、自分で尻の穴を解しておいた方がまだ楽だと知り、生き延びる為の知識を少しずつ蓄えていった。
長い長い時間をかけて、ようやっと復讐をやり遂げたのだ。それは言い表しようがないほどに────。
「すっきりしました」
復讐は何も生まないと、誰かが言っていた。そんなことは大嘘だ。この復讐心のおかげで、私は今日まで生き延びられた。
エスカランテ商会を乗っ取り、より成長させた理由も、ひとえに復讐を成功させるためだ。そして、何よりこんなにも清々しい。
復讐が何も生まないと言っているのは、復讐を望むような目に合ったことがないモノか、生産性のない復讐をしてしまったかのどちらかだろう。
ああ、でも。復讐そのものに後悔はないけれど、ほんの少し未練があるとしたら、彼だ。
「約束ですから、奴隷の首輪を外しますね」
「おお、頼むわ」
普段は、私にしか分からない暗証番号付きの金庫の中に仕舞っていた鍵。鈍色に重く輝くそれは、ハウンドを戒めている証でもある。
彼が猟奇殺人犯だとしても、私にとって彼は恩人だ。いつまでも縛っていたいとは思わない。たとえ、私自身が殺されようと、他の犠牲者が生まれようと、解放することに躊躇も迷いもない。
ただ、この首輪が外れた瞬間、私と彼の雇用関係は消滅して、今までのように話をすることもなくなって、彼と二度と会えなくなることが、少し寂しいだけ。
「さァて」
ゆっくりと落ちる首輪が、かちゃんと耳障りな音を立てる。床に転がる首輪はただの鉄の塊に成り果てた。もはや、彼を戒めるものは何もない。
私を捉えて離さないハウンドの瞳は、さながら飢えた獣のよう。
「契約通り、報酬は貰うぜ。フロイライン」
「あの……後生だから、せめてこの屋敷では止めて欲しいのだけど」
憎い家族と仲良く転がるなんて、それだけは絶対に嫌だった。ここ以外ではどこでも良かったし、どんな風に殺されても文句は言わない。この程度の望みくらい、譲歩してくれないかしら。
おそるおそるうかがったハウンドは、怪訝そうに眉を寄せながら何かをぶつぶつと呟いて、かと思ったら「ああ、そういう」と得心がいったように頷いた。
一人で何を納得しているのか分からないけれど、場所を変えてくれる気はあるのだろうか。
尋ね直そうとして、喉奥まで出かけた言葉は呆気なく霧散した。私の腰に回ったハウンドの腕の所為で。私の唇を塞ぐ、ハウンドの唇の所為で。
「ッ!?」
キスをしていると理解し、同時にハウンドの舌が口内に入り込んできた。分厚くてあたたかな舌が、逃げ惑う私の舌を絡め取る。
「ん、んん、ぁ……」
舐めて、絡めて、甘く歯を立てて。足下の力が抜けそうになって、目の前の身体にすがりついたら、腰に回っているハウンドの腕により一層力がこもったような気がした。
口いっぱいに溢れる唾液を、飲み込んでしまったとき、唐突に始まった口付けは、やはり唐突に終わりを迎えた。
「……やっべ。止まんなくなるとこだった」
「………………………………」
「おい。なんだよ、無反応かよ」
まあいいか、と呟いたハウンドが視界から消えた。次の瞬間、私の足はあっさりと床から離れていて、ハウンドに抱き抱えられていた。
私の膝裏と背中を支える腕はびくともしない。確かに私はか弱いけれど、それにしたってハウンドの筋肉は異常なのではないかしら。…………って、違う! そうじゃないわよ!?
「まっ、ま、えっ!? ほ、報酬は!?」
「だから貰うっつったろうが」
「い、命って言ってませんでした!?」
「身体を貰わねえとは言ってねえだろ」
た、確かに? ハウンドは「(報酬は)テメェの命でも良いんだな?」とか「テメェの命を寄越せ」とは言っていたけれど、身体を求めないとは一度も言ったことはない。確かにない、けれど。
「そんな素振り一度も見せなかったのに!?」
「奴隷の身で、主人の尻をぶち犯す訳にはいかねえだろ」
「……い、いつから?」
「あ? 割りと最初の方だぜ。とりあえず犯してから殺してやろうってな」
まあ、早々に改めることになったが、とハウンドが溜息をついた。
私を抱きかかえているとは思えない足取りで、ハルハーゲンの屋敷を後にする。後五分もしないうちに、屋敷中に仕掛けが作動して、屋敷に火が着く予定だ。
逃げるのならば早く逃げる必要がある。だから、ハウンドの行動は正しい。正しいのだけど、何だか焦っているというか、苛々しているのはどうしてだろう。
「ったく、こっちの気も知らねえで煽りやがって……!」
「お、覚えがない……」
「次、風呂上がりに裸でうろついてみろ。問答無用でぶち犯すからな」
待って。風呂上がりに裸でうろついて、何ならハウンドに髪を拭いてもらったことは何度もあるけれど、その度に我慢していたの!?
呆然と目を瞠る私を見て、ハウンドは何が面白いのか「まあ」とにんまり笑った
「晴れて自由の身になった以上、おまえは俺のモンだ。その命も、その身体もだ。だったら、いつぶち犯そうが問題ねえよなァ?」
「……あの、誤解だったら訂正してほしいのだけど、あなた、急いで帰ろうとしているのって、つまり、そういう?」
「だったら?」
「………………嫌ではないから困るわ」
頭上に深い深い溜息が落ちた。だって、彼らしくないほどあっさりした殺しも、さっさと帰ろうとしている理由も、私を犯したくてたまらないということなら────どうしようもなく、嬉しい。
苛立しいと言わんばかりに舌を打ったハウンドが、低く唸り声を上げた。
「おまえ、その辺でぶち犯されたくなかったら、拠点に戻るまで黙ってろ」
◇
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……あァ?」
あからさまに機嫌を損ねた声を出しながらも、ハウンドは手を止めた。少し意外だった。彼にそんな従順さがないことは、重々承知しているから。
これまで、彼が私の指示に従っていたのは、最後に支払われる報酬にそれだけの魅力を感じていたからにほかならない。
「おまえ、今さらやっぱなしっつったら、どうなるか分かってんだろうな」
「さすがにそこまで不義理ではありません。ただ少し待って欲しいというか、準備の時間を……」
「は? 準備?」
「お忘れかもしれませんが、私は男です」
「知ってるっての。何度着替えを見てきたと思ってンだ」
私の望みは叶った。これ以上ないほど、満ち足りている。
ハウンドが望むのなら私の財であろうと、私の命であろうと、差し出すつもりだった。
まさか、私の身体の方を求めてくるとは思わなかったので、驚いたことは否定しないけれど、今さらカマトトぶるつもりもない。
であれば、これまでのろくでもない経験をいかし、彼の望む報酬を用意するのは当然だろう。
「結構。では、準備が必要なこともお分かりでしょう? 男は、女と違って濡れませんから。それに、返り血もついたままですし」
ハウンドは得心がいったらしく、「ああ、そういう」と呟いた。分かっていただけて何よりだ。
抱えられたままベッドルームに直行して、はっと気付いた頃には手触りの良いシーツに沈んでいたのだ。見上げた視界には、飢えた獣。
果たして、今の彼に丹念に準備をしてくれるだけの余裕があるとも思えない。ハウンドを信用していない訳ではないのだけれど、途中で焦れて突っ込んで来そう。直腸が裂けて出血多量で死亡、なんて間抜けな死に方は御免だ。
ハウンドの気が変わらないうちに、さっさと支度を済ませてしまおう、と押し退けるべく彼の肩を押す。動かない。びくともしない。
「ちょっと、ハウンド。ご理解いただけたなら、避けてください。なるべく早く済ませますから」
「いらねえよ」
「は、」
「準備なら俺がやる」
骨ばった指が、手首に巻き付いた。シーツの上に押し付けられるも痛みは感じなかった。
彼に抱いている印象とは裏腹に、その手付きはやけに優しい。そういえば、抱えられたときも、ベッドに下ろされたときも、乱雑さは感じなかったような気がする。
「…………待て待て待て待て!?」
ハウンドの手を外そうと、ありったけの力を振り絞った。面白いくらいに動かなかった。彼が本気になったら、私の腕なんて小枝のように呆気なく折ってしまえるかもしれない。
筋力も体力も、彼と私の間には天と地ほどの差がある。私の細やかな抵抗なんて、無視しようと思えばできる筈なのに、ハウンドはそうはしなかった。深く深く、まるで熱を逃がすかのように長く息を吐いて、私の手首を自由にする。
「……ンだ、おい。これ以上何が気になるってんだよ」
「………………誰が、誰の、準備をすると?」
「俺が、おまえの、穴を解せば良いんだろ」
「あの、適当に解して終わり、だとお互いに悲惨なことになるのはご存知?」
「……ああ、気になってたのはそこか。言われなくても分かってらァ」
ちゃんと解せば良いんだろ、とハウンドは事も無げに言う。
幻聴でも聞き間違いでもなかった。直腸に指を突っ込んで腸を引きずり出すつもりだ、と言われた方がまだ分かる。
呆然としている私に、ハウンドは不機嫌さを隠そうともせず、荒々しく舌を打った。
「おい、もう待たねえぞ。こっちはどれだけ待てを食らってたと思ってる」
太股に押し付けられた熱と固さに、言葉を失った。それが何なのか、想像するまでもない。私の上にのし掛かった男共は、揃いも揃って欲望を押し付けてきた。下手に抗うより気持ちが良いふりをしておいた方が、幾分か早く済むと気付いたのはいつだったか。
でも、ハウンドはこれまでの男どもとは少し違った。苛立ちを滲ませて、瞳の中に飢えた獣を棲まわせて、けれど無理やり事を進めるつもりはないらしい。
全身から力を抜いた。そこまで言うのなら好きにしたら良い、と呆れにも似た気持ちを抱いたからだ。
「趣味が悪い……」
「あァ?」
「返り血も浴びていて、準備もしていないのに」
「お綺麗なだけのお嬢様には、端から唆られねえんだよ」
「…………本当に趣味が悪い」
屋敷の人間を手当たり次第に殺させたし、殺した。最後は火を放った。今の私は、汚れひとつない雪のような少女から最も遠い姿をしているだろう。
見目にこだわりはないけれど、今日まで生き延びて来られたのはこの容姿のおかげでもあるので、些か複雑な気分だ。まあ、ハウンドがそれで良いと言うのなら、良いけれど。
「ちなみに、今日の下着はレディ・レティの新作のパンツでしてよ。もちろん、紐」
「情緒がねえなァ、おまえはよ」
「お互い様でしょう?」
「ハッ! ちげぇねェ」
ハウンドが口角を持ち上げて嗤う。とてもじゃないけれど、閨で浮かべて良い笑みではない。
けれど、ドレスの下に潜り込んで、私の太股を撫でる手付きは、驚くほどに優しかった。
「……あー、破って良いか。このひらひらを丁寧に脱がしてやる余裕がねえ」
「正直ね。構いませんよ、どうせもう着れたものではありませんから」
容易く裂かれるドレスを見ながら、ハウンドの顔をぼんやりと眺める。
後ろを解す間を待つ余裕もなく、ドレスを脱がす間すら堪えられないと言うくせに、この男はそれでも無体を働くつもりはないらしい。それどころか────。
「ん、」
血色の悪い肌を滑っていく、褐色の指。レースで仕立てられた女性用下着の中に、窮屈そうに収まっている雄の証を揶揄するように触れられた。
この男、もしかして独りよがりの性欲処理をするのではなく、私のことも好くするつもりなのか。
「潤滑油は?」
「ベッドサイドの、一番上ですけど……」
「使いきっても文句は言うなよ」
ベッドサイドのテーブルから潤滑油を取り出して、一切の躊躇いもなく瓶を逆さまにする。潤滑油が滴るほどに濡れた指。橙色の照明に照らされて、てらてらと光るさまはどこか艶かしい。
私とは何もかもが違う無骨な指が、裂けたドレスのあわいを進み、白いレースに覆い隠された雄へ再び触れた。
滑りを帯びたおかげで、先程よりも確かな熱が灯る。快楽を分け与えられるなど、本当にいつぶりだろう。
「ちゃんと、解すつもり、なんです、ね……」
「おまえ、俺を何だと思っていやがる」
「いえ、そうじゃなくて、んッ」
いつのまに下着の紐を解いていたのか、不埒な指が慎ましやかな奥へと伸びた。
エスカランテ商会を乗っ取ってからというもの、アナルセックスは随分とご無沙汰だった。入口はやはり固く閉じ切っているものの、何度となく欲の刀身を咥え込んできている。孔の周辺を撫でる無骨な指を招くことなど造作もない。
「やっぱ狭ぇな」
「……あの、こういう、とき、ッ」
「あ?」
「どう、したら……良いん、です?」
誰かが丹念に準備をしてくれたこともなければ、前戯をしてくれたこともなかった。誰かに任せるよりは自分で準備をした方が痛みも少ないと分かってからは、空しさを覚えながらも排泄器官に指を沈めた。
快楽以上に苦痛に苛まれながら、必死に感じているふりをして、一秒でも早く終わることを願っていた。
だから、前戯の間に何をしたら良いのか分からなくて、余計なことを考える暇さえあって、どうにも落ち着かない。
ハウンドは何とも微妙な顔をして、「とりあえず喘いどけ」なんて役に立たない助言をくれた。
「喘いどけって……ンッ!」
「ああ、ここか」
微かに息を溢していたときは違い、あからさまに反応が変わったことを、ハウンドは決して見逃さなかった。
彼が、獲物を前にしたときに浮かべる獰猛な笑み。ただ、私に跨がる男の笑みは、普段のそれとは少しだけ種類が違うような。
「……あッ、どう、して……そんな風に、触れるんです……?」
「はァ?」
「私は、もはやあなたの主人でもなんでもないのですし……好きにしてくれて、構わないのに……んッ!」
「好きにしてんじゃねえか」
「……でも、余裕、ないのでしょう……?」
「ねえよ」
ねえけどな、とハウンドは浅く息を吐いた。いつしか二本に増えた指。レースに覆われた雄への刺激のおかげで、違和感を覚えることはなかった。
だからこそ、疑問を抱いてならない。余裕がないと言いながら、彼は決して自分ひとりで好くなろうとはせず、私の身体を慮ってくれる。それは、何故か。
「好き勝手して勃起してる変態共と一緒にすんじゃねえよ」
「……あなたも、変態の一員に……ッなるの、では?」
「だから、一緒にすんじゃねえよ。ぶち犯すぞ」
ぶち犯すぞなんて言いながら、ハウンドの指は変わらず優しく動いて、先の言葉の通りにしっかりと解してくれていた。
時折、好い箇所に触れるものだから堪らない。最初こそ偶然だったのだろうけれど、私の反応を見てからは、意地悪げに掠めていくハウンドの指が少しだけ憎らしい。
苦痛と嫌悪以外感じない筈の行為の最中で、私はハウンドにさまざまな感情を抱いている。それは、何故か。
「性欲処理なら別におまえじゃなくても良いんだよ。むしろ、性欲処理が目的なら女の方が遥かに楽だろうが」
「……性欲処理を、するのではないの?」
「ちげえよ」
ふと、金の瞳とぶつかった。その瞬間、世界からあらゆる音が消えたような気がした。
目をそらすなと、その目が雄弁に語る。言われるまでもない。ハウンドの瞳に目を奪われて、囚われて、何も考えられなくて。
「おまえが女だろうが男だろうが傷があろうがなんだって良いんだよ。おまえならな、フロイライン」
「は、」
「分かりやすく言ってやろうか────おまえの生き様に惚れたんだよ、性格ブス」
フロイラインはいつだって誰かの物だった。性欲をぶつけられるばかりで、俺自身を顧みられたことなど、これまで一度だってなかった。
俺自身を望まれたことなど、生まれてから一度もなかった。
こんなものを愛の告白だと思うほど夢見心地ではないけれど、それでも言葉が見つからないほどに胸が高鳴ったのも事実だ。
「……ハウンド、もういいから」
「は?」
「あなたが、欲しいんです」
ハウンドが、微かに目を丸くする。それから、「こっちの気も知らねえで」と荒っぽい舌打ち。
この男にこんな顔をさせたのが俺だと思うと、ひどく気分が良くなる。今夜は特に良い気分だった。
数えるのも馬鹿らしいくらい重ねてきた行為の筈なのに、今夜に限って妙に落ち着かない。今夜に限って、目の前の男に触れたくて堪らなかった。
「……入れるぞ」
排泄器官から性行の為の器官へと変貌した孔から指を抜いて、乱雑に衣服を取り払っていくハウンドを見つめる。その時間すらも焦れったいだなんて、流石に言えなかったけれど。
腹に付かんばかりに昂り、先走りを滲ませるそれが、粘着質な水音を立てながら触れる。火傷してしまいそうな熱さに、微かに息を飲んだ。
「う、あッ、」
「あー……くッそ。堪えろよ、フロイライン」
引き下がった方が辛いのは、ハウンドだけではない。碌に解しもしないでぶち込まれた経験を思い返せば、こんなもの痛みでもなんでもなかった。
それよりも早く、一番奥深くに招き入れたかった。俺の望みを叶えてくれた男に、俺を差し出したかった。
ハウンド、と手を伸ばす。返事の代わりに深く長い吐息。僅かに身を屈めてくれた男の首に手を回した。
「ふ、」
引き締まった身体に抱きついて、馴染むまでの僅かな時を堪える。
俺ひとり抱えて動き回っても、びくともしない強靭な身体。すんっと息を吸う。血と、微かに香るのは汗の匂いだろうか。
こんな風に触れ合うことはおろか、俺に跨がる男の匂いを嗅ぐなんて、今まで一度もしたことがなかった。
これまでの行為とは何もかもが違っていて、それがなんだかおかしくて、つい肩を揺らして笑ってしまう。
「……何がおかしいんだよ」
「だって、返り血がついた服を着たままで、下半身だけ繋がってるって、情緒も何もないでしょう?」
「悪かったな、余裕がなくて」
はぁ、と熱っぽい吐息が耳を撫でる。余裕がないのは分かっている。俺を蹂躙する欲の象徴が、先ほどから脈打っているから。
けれど、これだけ余裕がないくせに、俺の身体を慮ってくれているのだから、やはりおかしいったらない。
「これまでで一番、セックスをしてるって心地だから、おかしくって」
望むがままに殺人を繰り返してきた猟奇殺人犯のハウンドが、俺のために我慢していることも。
何度となく繰り返してきた行為なのに、いつもと違う何かを見出してしまった私も。何もかもがおかしくて仕方がなかった。
腕の中のハウンドが、まるで獣のような唸り声を発する。
「…………テメェ、鳴かす。嫌ってほど鳴かしてやる」
「あら怖い」
「おまえの生涯をかけた復讐に付き合ってやったんだ。今度はおまえの番だからな、フロイライン」
……ああ、本当。情緒も色気もあったものではないけれど、俺とハウンドらしくって病み付きになってしまったらどうしましょう。
◇
「……満足したんですか」
「はァ? 一夜で満足すると思うかよ、バカじゃねえの?」
クソみてえな変態共が挙って欲しがる訳だ、と実感を伴った納得を得た。
でけえ寝台に広がる白い髪も、透けるような白い肌が快楽で朱に染まるのも、真っ赤な目が快楽でとろんと緩むのも、気持ちイイことなんか何にも知らねえって顔をしたこいつをぶち犯すのも、どれもこれもが情欲を煽る。
「…………自分で言うのもなんですけど、この身体にそれほどの価値があるとは思えませんが」
当の本人は、ある程度自分の価値を理解しているみてえだが、それでもすべてを正しく理解している訳じゃないらしい。
真っ白な喉仏に、軽く歯を立てた。皮膚が薄いのかそれだけで甘い声が上がる。せっかく収まりかけた欲が、また爆ぜるような音がした。
白い肌のあちこちに俺が吸い付いた痕やら噛み付いた痕が散らばってるし、腹やら孔には俺がぶちまけた精液で濡れている。頭の天辺から爪先まで俺のモンにしてやったという征服欲はたまらねえなァ。
「……さすがに、ちょっともう体力が保たないんですけど」
「だろうな。だからこれ以上煽んなよ」
「どこに煽られてるのか分からないのに無茶を言う……」
フロイラインが、困ったように溜息をついた。どこって、どこもかしこも煽る材料になってることに気付かねえおまえが悪い。
「とりあえず……ねえ、ハウンド。お風呂に入れてください」
「は?」
「自分の道具を整えるのは、持ち主の仕事ではなくって?」
~~~~ああ、クソ! 特に、その顔だその顔! お綺麗な容姿で、人を食ったような顔で嗤うテメェを、ひんひん鳴かせたくなんだよ!
もう一回ぶち込んでやろうとしたら、フロイラインが「ハウンド」と嗜めるように俺を呼んだ。おまえ、道具の自覚が足りなくねえか、おい。
まあ、言うことを聞いてやる俺も俺だが。重さなんかほとんどないような身体を抱き上げて、部屋に備え付いてるバスルームに運ぶ。
「……ひとつ、訊きたいのだけど。どうして白いドレスを選んだの?」
湯を張る間に、汗やら何やらを流し、俺にはよく分からん液体を塗りたくる──淑女の嗜みらしい。よくわからん──フロイラインを眺めていると、そんなことを問われた。
仇の命を奪う今夜に、白いドレスを選んだ理由か。大量殺人を行うのなら黒い方が目立たねえのは間違いない。だが、分かっていて尚、俺はこいつに白を着せた。
「今日は、おまえが生まれ直す日になるんだろ。なら黒じゃなくて白だと思ったんだよ」
「……なんだ、そんなこと。てっきりお嫁入りの意味かと思ったのに」
「嫁入り?」
「俺が、あなたに。嫁に来いってことかと思った。せっかくだから、とびっきりのドレスを仕上げましょうか?」
あなたの為に、あなたの物という証に、とフロイラインが微笑う。
こいつが俺の為に、俺のモノという証のために着飾るのは悪くねえ。悪くねえが────。
「仕上げるのは良いがな。多分、秒で脱がして抱くぞ」
俺の為に獲物が下ごしらえまでしてホイホイ近付いて来たら、そりゃあ食らい付くだろ。何言ってんだ、テメェ。
フロイラインはきょとんと目を丸くして、それから耐えきれずに声を上げて笑った。
「……ほんっと、ハウンドって」
────俺のこと、そんなに惚れ込んでいたなんて知らなかったわ。
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