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 もう夕方になっていた。
 せっかくだから夕飯を食べていったら? とお母さんに言われたが、今日のところはこれで帰ることにした。
 
 「お邪魔いたしました。本日はありがとうございました」
 玄関先で駿さんが両親に頭を下げた。
 「先生、またいつでも来てくださいね。次は一緒にお食事しましょうね」
 お父さんも駿さんに頷いている。
 「はい、ぜひ、そうさせていただきます。ありがとうございます」
 
 駅までの道すがら、心の中で両親に感謝した。そして、私のために何度も両親に頭を下げてくれた駿さんにも…。
 「今日は私のために本当にありがとうございました。それに、父が失礼なことを言ってすみませんでした…」
 「大丈夫。ああいう風に思われるのも想定していたし、お父さんはちゃんと謝ってくれた。それに、美沙絵がすごい剣幕で俺を庇ってくれたし…。嬉しかったよ。ありがとうな」
 駿さんが私の頭を撫でた。
 「お母さんにも助けられたな…」
 私は、あの頃のことをお母さんが全て知っていたことに驚いたが、私の想いを知っていたからこそ、私たちを後押ししてくれたのだ。お母さん、ありがとう…。
 「それにしても、お母さんは明るい人だな。お前が『会えば分かる』って言っていた意味も分かった」
 「母は本当にイケメン好きなので覚悟しておいた方がいいですよ。きっとこれから会うたびにキャーキャー言われますから」
 「えっ…いや、それはちょっと勘弁してほしいな…お父さんに睨まれそうだ…」
 その心底困った様子に、私は笑ってしまった。

 私たちの最寄り駅に着いた。今日はここで解散かな…と思っていたら、駿さんに手を握られた。
 「これから俺の部屋に来ないか…?」
 「えっ…」
 「俺が昨日言ったこと、覚えているか…?」
 「…!」
 隅に追いやっていた駿さんのセリフが再び頭を擡げ、かぁ~となった。駿さんが熱の籠った目で私を見つめている。もう私たちを妨げるような障害は何もない…。
 「…はい」
 私の返事を聞くと、駿さんは私の手を引いて速足で家に向かった。途中でコンビニに寄って、食べ物や飲み物、そして化粧水などのトラベルセットなどを買った。
 
 駿さんの部屋は7階建てのマンションの5階だった。1LDKで、家具が少なくすっきりした部屋だった。
 先にリビングに通されると、後ろから抱きしめられた。
 「…美沙絵…愛している…お前の全てが欲しい…」
 耳元で囁かれ、崩れ落ちそうになる…。
 「…私も愛しています…私の初めてを駿さんに捧げます…」
 「…っ美沙絵…!」
 駿さんが私の体を自分の方に向かせると、激しく唇を貪った。
 「…! んっ…」
 吐息が漏れると、ますます口付けが深くなる。足に力が入らなくなってくると、駿さんが私を軽々と抱き上げた。
 「…!」
 いわゆる「お姫様抱っこ」を初めてされて、心臓が跳ね上がった。そのまま寝室に運ばれ、ベッドにそっと下ろされる。
 コート、カーディガンを脱がされ、ノースリーブのワンピース一枚にされると、再び唇が重ねられる。駿さんの手が背中にあるワンピースのファスナーに掛かった時、我に返った。
 「あっ…あの、お願いです、シャワーを…お借りしてもいいですか…」
 駿さんがハッとして動きを止めた。
 「…ごめん、ちょっと性急すぎたな…。今、準備するからちょっと待ってろ」
 中断させてしまって心苦しかったが、やはりちゃんと体を綺麗にしてから抱かれたかった。 
 「脱衣所にバスタオルと着替えを出してある。俺ので申し訳ないけどちゃんと洗濯してあるから、とりあえずそれを着てくれ」
 「ありがとうございます…ではお借りします…」
 自分のバッグとトラベルセットを持って浴室へ向かった。
 あまり待たせては申し訳ないので、急いで服を脱ぎ、シャワーを浴びる。メイクは、さっきの激しいキスで口紅は落ちてしまったし、駿さんの枕やシーツ類を汚してしまうといけないので落とすことにした。髪は、洗うと時間がかかってしまうのでそのままにした。急ぎながらも念入りに全身を洗い終えると浴室を出た。用意してくれたタオルで体を拭う。
 スキンケアをした後、下着を着け、駿さんのTシャツとハーフパンツを着てみると、Tシャツは太ももが隠れるくらい大きくて、ハーフパンツは紐でかなりウエストを締めないと落ちてしまいそうだった。まるで子どもだな…駿さんに笑われるかも…。でももう仕方がないのでこの格好で寝室に戻った。
 「お待たせしました…」
 私の姿を見た瞬間、駿さんが吹き出した。
 「アハハハハ…! いや、俺のだと大きすぎるのは分かっていたが…ハハハッ…お前が着ると子どもみたいだな…!」 
 やっぱり…思いっきり笑われてしまった…。
 「もう、そんなに笑わないでください…! 仕方ないじゃありませんか…」
 「ごめん、ごめん。可愛くてつい…。もう笑わないから許してくれ」
 そう言いつつ、まだクックッと笑っている…。 
 「あーでも、おかげで少し冷静になれた…。俺もシャワーを浴びてくる」
 私の頬を撫でると駿さんも浴室に行った。 
 
 「お待たせ」
 戻ってきた駿さんに目を奪われた。Tシャツにゆったりしたパンツのラフな姿もカッコよく、何より濡れた髪がとてもセクシーで大人の色気を醸し出していた…。これから私はこんな人に抱かれるんだ…。緊張が増してくる。
 ドキドキしながらベッドに腰かけていた私の隣に駿さんが座ると、私を抱きしめ頬に唇を寄せた。
 「…美沙絵、できるだけ優しくする…俺に全てを委ねてくれ…」
 そっと唇を重ねられると、やさしくベッドに横たえられた。
 
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