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しおりを挟む朝、出勤すると、涼子さんが駆け寄ってきた。
「おはよう。足の具合どう? 大丈夫?」
「おはようございます。ご心配とご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。痛みは少し残っていますが腫れは引いてきているので、仕事には支障ありません」
「大丈夫そうならよかった。でも無理は禁物よ」
館長の計らいで、私の仕事はカウンター業務が中心だった。それに今日は利用者がいつもより少なく、それほど忙しくなかったので早めに昼休憩を取れた。
今日は学食には行かず、図書館の隣にある職員用の休憩室で持参のお弁当を食べることにした。少し遅れて涼子さんもお弁当を持って入ってきた。
ここには私たち以外誰もいなかった。そこで、昨日駅で先生に会ったんです、と言うと、涼子さんの顔がパッと明るくなり、
「ホントに!? やっと会えたのね、よかった~! きっとケガしちゃった美沙絵ちゃんをかわいそうに思った神様が会わせてくれたのね」
それから、車で送ってくれた話をすると、
「そこまで!? しかも部屋の前までちゃんと付き添ってくれたの!?」
涼子さんが目を丸くした。
「いや~普通そこまでしないと思うよ~。たとえ相手が教え子だったとしても」
「そうでしょうか…。先生は元々誰にでも優しいし、教師としての責任感?からしてくれたのでは…」
「美沙絵ちゃん、それは違う」
涼子さんの口調が変わった。
「わざわざ先生が家に戻って車を取ってきてまで送ってくれたのは、美沙絵ちゃんの足がとにかく心配で1人で帰らせてもし途中で何かあったらと思うともう居ても立ってもいられなかったから。それはただの責任感なんかじゃなく、間違いなく男としての庇護欲からよ」
そして、キッパリ言った。
「間違いなく、先生は美沙絵ちゃんことを少なからず想っている。もちろん女性としてね!」
「!」
頬が真っ赤になる。本当にそうなのだろうか…。
涼子さんには話さなかったが、あの時、よろけた私を受け止めてくれた時の先生の目には明らかに熱い何かをはらんでいたが…。
「ところで、連絡先は交換できた?」
「怖気づいて自分から中々言い出せずにいたら、先生が連絡先を書いた紙をくれました」
「自分から教えるなんて、これはますます脈アリね! でも、せっかく部屋まで送ってくれたんだからちょっと中に上がってお茶でもって言えばよかったのに」
「そ、そんなこと言える訳ないじゃないですか!」
「ふふっ…冗談よ。美沙絵ちゃんにはまだハードル高いよね。とにかく、連絡先をゲットできたのは収穫だわ」
「足が治ったら連絡をして何かお礼をするつもりです」
「そうね、まずはそこから始めるといいわ。何か考えてる?」
「まだ具体的には何も…」
「あっ、美沙絵ちゃんの手料理なんてどう? 先生独身なんだからそういうのに飢えてるんじゃない?」
涼子さんがニヤニヤしながら言った。
「もう、涼子さんってば…。でも、確かに独身だとは言ってましたが、お付き合いしている人はいるんじゃないかと…」
消え入るような声で言うと、涼子さんがハァ~と天を仰いだ。
「あのねぇ、美沙絵ちゃん…。そもそも先生に彼女がいたら自分から連絡先なんか渡さないから! ねえ、もっと自信持とう? 大丈夫だから!」
「分かりました。ありがとうございます」
「さて、先生に連絡してお礼するという次の任務が決まったことだし、とにかく早く足を治さなくちゃね!」
涼子さんの言葉に少し元気が出た。勇気を出して一歩踏み出してみよう。
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