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第四章 錆色に染まる道

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「あれが祠か。つーこーぜーのなれの果て」
 ペリジーがふざけて言った。大きな目が急ごしらえの木製三脚の上に据えられた祠を見ている。高さはだいたい大人の三倍くらいだろうか。まずは主街道沿いにぽつぽつと見かけるようになってきた。
「鬼除けって言っても犬鬼か蜘蛛鬼程度さ。なんの役に立つのやら」
 マールが傷痕にしわを寄せて馬鹿にするが、本気ではない。祠から視線が通る範囲に忌避効果が現れる。それだけでも大したものだというくらい分かっていた。
「それに魔力の消費がすごいんだろ?」
「そりゃそうさ、小僧。安上がりな鬼除けがありゃみんな使ってる」
「交通安全部の連中、巡回ついでに魔力の再充填もするんだって。灯りの油差して回る召使みたいだね」
「おい、めったなことを言うなよ。奴ら王室直属だ。偉ぶってるからな」
 ディガンがまだふざけているペリジーに釘を刺した。今日は調子いいのか火傷痕を掻かない。痒みの大小には気候の影響もあるのだろう。そのくらい今日は暑くもなく寒くもなく、旅にはいい日だった。
「だが、王室直属なんて言っても急ごしらえは急ごしらえさ。あの祠とおなじ」
 短髪の頭をぼりぼり掻きながらクロウが言うと、みんなにやっとしてうなずいた。組織作りに時間の余裕が無かったため、部隊編制はかれら運送業者の護衛運送を参考にしていた。最小単位は剣が三人に、戦闘魔法の使い手が一人。違いは荷馬車がないくらいだった。
「酒場にいたら見分けつかんな」
「おいおい、だからおやじまでめったなことを言うなって。あのご大層な紋があるだろ」
 陽気のせいかディガンまでふざけた。交通安全部の紋はなぜか魔王大戦で退治した魔獣すべての図案化だった。だから口の悪い庶民はさっそくごちゃごちゃの例えとして使っていた。使った道具はちゃんと片づけとけ! 交通安全部の紋じゃあるめぇしといった具合だ。

 山の下りにかかった時、その交通安全部に出会った。二隊八名だった。街道の端によけてお辞儀をする。制服は新しく折り目もきちんとしており、マントは例の紋をつけて意気揚々と翻っていた。装備は輝いており、軍靴が土埃で汚れているくらいだった。
 かれらの隊長がディガンのそばに来た。
「荷を改める、書類を」
 渡すとすぐに確認が行われた。七人もいるだけに手際はよかった。あっという間に終わり、書類は返された。
「ご苦労様。では道行きのご安全を」
 かれらは規律正しく去っていった。

「なんだい、ありゃ」
 声の聞こえないところまで離れるとマールが言った。
「たぶん、実地訓練をかねてる。俺たちだって新兵の頃やらされただろ? 意味のない検問」
 クロウが答え、マールは納得した。
「ああ、眠気覚ましか」
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