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第六部 どこまでも此岸

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 分かっていたが、『カクブンレツ』の後ろにはマザーがいた。島のも、本土のにも。

「連絡ついた? こっちはだめ」ファーリーが聞くが、みんな首を振った。「自由に話せるようになったら向こうは黙っちまった」
「話したくないのか、話せないのか」ウォーデはあきらめたようだった。
 ぼくはまだ通信しようとしているビクタに言う。「もういいよ」
 肩の培養筋が盛り上がり、沈んだ。

 報道や噂をたどると、『カクブンレツ』社は株を買いあさっていた。核融合炉と人造人間製造関連が主だった。それはそうだろう。マザーと『臥竜鳳雛の会』の後ろ盾があるのだから。

「なりふり構ってない。ライクアハングリービースト」
 ぼくはグラフを指でたどった。「いや、獣程度の知性もない。この買い漁り方、アメーバが周りの有機物を取り込んでるんだ」
「本土の坊っちゃん、一郎っていうの、キングになりたいんじゃない?」ビクタが誰に話すでもなく、しかし独り言でもない様子でつぶやいた。

 ファーリーが頭の後ろで手を組んだ。
「どうなるんだろうね」
 疲れた目をしていた。

「マザー、今でも花子と同期してるのか」牙を見せている。
 誰も答えられないでいると、クラゲ型オートマトンが窓から入ってきた。ずっと近所に待機させてでもいるのだろうか。「不定期ですが同期はしています。しかし間隔があいてきました。一般的な報告を受けるときくらいですが、それも代理を通すようになってきています。直接の会話はしていません」
 ちょうどいい、とぼくは集めたデータを送った。「噂レベルだけど、これは事実? もし本当だとしたら狙いは何だと思う?」
「事実です。『カクブンレツ』社は高尾山近辺のごみ収集を請け負い、また、八王子の図書館や博物館などの運営にも手を上げています。指定管理者です。また、特別法の下、道路、下水道管理も行おうとしています」
「人手不足万歳だな。好き放題だ」ウォーデがさらに噂を追加する。「じゃ、狙いは自治か。ビクタの言った通り、キングになるつもりか」
「その推測は正しいでしょう。『カクブンレツ』社の五人は支配者になりたいのだと思われます」
 ファーリーは天井を見ている。あきれたのか、もうついていけないと思ってるのだろうか。「日本が黙ってる?」

 オートマトンは操作碗をゆらゆらさせている。

「そこですが、もう少し詳しく調べてみたいのです。そこでこちらの『カクブンレツ』のみなさんに協力願いたいのですが、いかがでしょう」
「協力? 何もできないのに?」
「いいえ。あなたたちは追跡されずに操作可能なオートマトンを持っていますね。それで子供たちの目的を探っていただけませんか」
「別に隠さなくても」ぼくはわざと意地悪く言ったが、そう思っている部分もあった。今さら何を秘密にしたいのだろう。

 オートマトンは頭部を傾けた。「彼らの真意を知りたいのですが、それが公になって社会が動くのは避けたいのです」
「そんな大げさな」
「『カクブンレツ』社による自治ですが、実現性はかなり高いものと推量します。本土のあなたは大活躍です」
 操作碗がぼくを指し、三人は笑った。「もうぼくじゃない。神田一郎だよ」試されたのかな、とも思う。別人格として考えているかどうかを。
「そうでした。で、この自治ですが、日本中が追従する可能性があります。『カクブンレツ』社は自治のために必要な手順や知識をまとめ、公開し、相談にも乗っています。そういう状況で五人の思想にわたしや島の皆さんが注目していると世間に知られるのはよろしくありません」

「スキズマティックニッポン」ビクタが顎に手をやった。

 分裂する日本。ぼくにはそう悪い事には思えなかった。
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