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一度見たドラマをまた見ている。きのうより暑くなって風もなく、なんとかいう汚染の注意報のせいで外に出ないほうがいいらしい。母さんは、家じゅうの窓を締め切って、ネットで地区の情報を読んでいるけど、なかなか解除にならない。気温が下がるか風が吹かないとどうにもならないようだ。
ドラマはレモネードスタンドの所だけ選んで見た。どうやって準備するのか、売り方はどうすればいいのか、どのくらい儲かりそうか知りたかったが、肝心の所でシーンが切り替わったりするのでほとんど参考にならない。
今朝、蒲団の中で、夏祭りで友達とレモネードスタンドを出せないかなと思いついた。ドラマみたいに甘酸っぱくて冷たいレモネードを売ったら、みんな喜んで飲んでくれるんじゃないだろうか。
いつものお祭りなら地区の五、六年生が模擬店を出して、儲けを寄付する事になっているけれど、今年は上級生がいないのでどうしようかという話になっていた。
それなら、自分たちのような下級生でも店を出していいだろう。でも、どんな店を出したらいいのかわからなかった。焼きそばとか火を使うのは自分たちには許してくれそうもない。
その点、レモネードならよさそうだ。ドラマではくわしい作り方がわからなかったのでネットで調べたが、レモンシロップを作っておいて、冷たい水か炭酸水を混ぜるだけでいいみたいだった。
布をかぶせたテーブルにピッチャーをならべてレモネードを売っている自分を想像すると、ドラマの主人公になったようだ。でも、こっちは男だけでする。
「ねえ、晩ご飯、なに食べたい?」
「お肉」
なにをどのくらい用意したらいいか考えていたので適当に返事をした。
「焼肉とか」
「ううん、ハンバーグがいい」
「じゃ、そうしよっか。挽肉はあるし。買い物つきあって。玉ねぎとか買わなきゃ」
そう言いながら、割引券を転送している。こっちの返事は聞かない。ついてくるものと思っている。
「出かけられるの」
「もう解除されたって」
風が吹き、濃い色の雲がほんのわずかだけど浮いている。雨が降りそうだけれど、まだ大丈夫な空の色だった。それでも近いほうの店に行くことにして、車は出さなかった。
店の冷房は効きすぎていて寒いくらいで、半袖のシャツから出たひじが冷える。がまんして母さんの後をかごを持ってついていった。
玉ねぎ、レタス、キュウリ、トマト、胡麻のドレッシング、食器洗い用のスポンジ、ティッシュ、牛乳。かごが重くなっていくが、重いという顔はせず、入れた品物の値段を暗算で足していく。半端な値段は切り上げてちょうどよくして足してからその分を引く。二百四十八円と百三十八円なら二百五十円と百四十円にして足してから四円を引いて合計にする。
野菜と果物の棚の境目にレモンが積んであった。思ったより大きくてごつごつしている。アメリカ産と国産。見た感じも値段もまったくちがう。授業で食べ物の旬の勉強をしたけれど、レモンはいつだろう。
店を一周して買い物を済ませて出ると空気が体をくるんで蒸してきた。暖められて冷やされて、また暖められてだるい。
空は出かけた時より暗くなり、雲の量も増えている。
「お父さん、傘持ってってないんじゃない」
「折り畳みくらい持ってるでしょ。ほんと、急に真っ暗ね」
「洗濯物は」
「まだ大丈夫でしょ。そういう心配性なところは誰に似たの」
あきれたように言うのでむっとした。
結局雨は降らず、帰ったころにはむしろ明るくなってきた。日光が雲のすきまから筋になっている。
ネットで調べてみたら、レモンの旬は冬から春先頃だった。
ドラマはレモネードスタンドの所だけ選んで見た。どうやって準備するのか、売り方はどうすればいいのか、どのくらい儲かりそうか知りたかったが、肝心の所でシーンが切り替わったりするのでほとんど参考にならない。
今朝、蒲団の中で、夏祭りで友達とレモネードスタンドを出せないかなと思いついた。ドラマみたいに甘酸っぱくて冷たいレモネードを売ったら、みんな喜んで飲んでくれるんじゃないだろうか。
いつものお祭りなら地区の五、六年生が模擬店を出して、儲けを寄付する事になっているけれど、今年は上級生がいないのでどうしようかという話になっていた。
それなら、自分たちのような下級生でも店を出していいだろう。でも、どんな店を出したらいいのかわからなかった。焼きそばとか火を使うのは自分たちには許してくれそうもない。
その点、レモネードならよさそうだ。ドラマではくわしい作り方がわからなかったのでネットで調べたが、レモンシロップを作っておいて、冷たい水か炭酸水を混ぜるだけでいいみたいだった。
布をかぶせたテーブルにピッチャーをならべてレモネードを売っている自分を想像すると、ドラマの主人公になったようだ。でも、こっちは男だけでする。
「ねえ、晩ご飯、なに食べたい?」
「お肉」
なにをどのくらい用意したらいいか考えていたので適当に返事をした。
「焼肉とか」
「ううん、ハンバーグがいい」
「じゃ、そうしよっか。挽肉はあるし。買い物つきあって。玉ねぎとか買わなきゃ」
そう言いながら、割引券を転送している。こっちの返事は聞かない。ついてくるものと思っている。
「出かけられるの」
「もう解除されたって」
風が吹き、濃い色の雲がほんのわずかだけど浮いている。雨が降りそうだけれど、まだ大丈夫な空の色だった。それでも近いほうの店に行くことにして、車は出さなかった。
店の冷房は効きすぎていて寒いくらいで、半袖のシャツから出たひじが冷える。がまんして母さんの後をかごを持ってついていった。
玉ねぎ、レタス、キュウリ、トマト、胡麻のドレッシング、食器洗い用のスポンジ、ティッシュ、牛乳。かごが重くなっていくが、重いという顔はせず、入れた品物の値段を暗算で足していく。半端な値段は切り上げてちょうどよくして足してからその分を引く。二百四十八円と百三十八円なら二百五十円と百四十円にして足してから四円を引いて合計にする。
野菜と果物の棚の境目にレモンが積んであった。思ったより大きくてごつごつしている。アメリカ産と国産。見た感じも値段もまったくちがう。授業で食べ物の旬の勉強をしたけれど、レモンはいつだろう。
店を一周して買い物を済ませて出ると空気が体をくるんで蒸してきた。暖められて冷やされて、また暖められてだるい。
空は出かけた時より暗くなり、雲の量も増えている。
「お父さん、傘持ってってないんじゃない」
「折り畳みくらい持ってるでしょ。ほんと、急に真っ暗ね」
「洗濯物は」
「まだ大丈夫でしょ。そういう心配性なところは誰に似たの」
あきれたように言うのでむっとした。
結局雨は降らず、帰ったころにはむしろ明るくなってきた。日光が雲のすきまから筋になっている。
ネットで調べてみたら、レモンの旬は冬から春先頃だった。
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