上 下
11 / 27

【別サイド】兄弟の乾杯

しおりを挟む
「ジオンよ……どう思った?」
「アメリは格好はともかく、一段と可愛くなっていたな」
「違うわ!! イデアのことだ」

 時は少し戻り、イデアが倒れて医務室へ運んで手当てをした日の夜。

 アメリがしばらく滞在してもらう客室へジオンが案内したあと、クラフト国王とジオンの兄弟対談が始まった。
 この時間が完全プライベートとなり、お互いに和気藹々と雑談をするのが日課である。
 だが、この日に関してはクラフトは真剣だった。

「わかってるって。聖女なのに貧民街の者たちでも着ないような汚れた服装だし、身体もそうとうに痩せこけていたな。アメリが紹介してくれなかったら門前払いしてしまっただろう……」
「うむ、無理もない。噂に聞くブラークメリル王国の聖女とは全くの別人だったし……」
「アメリも信じられんようなボロボロの服装だった。少なくとも、アメリは優秀な御者だし使用人、護衛としても使える万能な人間だと同行していた大臣たちが言っていたではないか。一体ブラークメリル王国ではなにがあったのか兄上は知っているのか!? 」

 ジオンはアメリの見た目の変貌を見て、戸惑いを隠せないでいた。
 王宮の門でアメリを見たとき、本人かどうか一度疑ってしまったくらいだったのだ。

「詳しくは知らぬが、ロブリーと対談した日からなにかがあったことは間違いない。現にあのときの対談ですら、ブラークメリル王国の未来が心配になってしまうほどよくわからない発言をロブリーが繰り返していた……」
「全く……。苦しいのはホワイトラブリー王国だけにしとけっつうんだよ。長い年月かけて築き上げてきた世界最高峰の王国の王にはふさわしくないとは思ってしまうがな」

 兄弟揃って大きくため息を吐いた。
 ブラークメリル王国が逆境をむかえてしまうとホワイトラブリー王国にも悪影響がでてしまうのではないかと察していたからである。

 二人は一旦ワインを飲み、一息ついた。

「実際のところイデアが聖女なのかどうか、力を見ているわけではないから確信は持てないのが現状だ。だが……」
「それにしても兄上は、力そのものを見てもいないのに、よく聖女をしないかと声をかけたよな。俺も驚いたよ」
「あぁ……。国王としての行為としては甘いかもしれないがな。だが、あの子が嘘をつくような雰囲気が微塵にも感じられなかった」
「弱々しく感じたが、真っ直ぐ前を向いているような感じだったもんな……」

 二人はそれぞれイデアが意識を持っていた顔を思い出す。
 ジオンは本当に聖女だったのなら今後に期待を抱き、クラフトはイデアのことを不思議な女の子という意識を持っていた。

「医師はイデアの意識はもう回復は見込めないと言っていたが、なんとしてでも目を覚ますように祈ろう」
「兄上がそこまで真剣になるのはまだあの時の記憶を……?」
「その話はしなくともよい。仮に目が覚めたら彼女の回復を最優先させる」

 クラフトが普段の人助けをするときよりも必死だということがジオンに伝わってきていた。
 ふと、ジオンはそういうことだったのかと確信に迫った。

「はいはい。兄上がそういうならば、俺も手を引くよ」
「お前にはアメリがいるだろう? って、そもそも私はそういうつもりでは……」
「いいからいいから! 兄上がするべきことは、とにかくイデアが目を覚ますことを祈ることだな」

 ジオンにとっても、イデアはなんとか目覚めてくれないものだろうかと内面では必死である。
 クラフトが大事にしてきた人間をこれ以上失わせたくない。
 そう願いながら。

「く……ブラークメリル王国の有能な医療技術さえあれば……」
「まぁ気持ちはわかるけどよ、向こうの技術や医療に頼ってもしゃーないさ。この音声記録する魔道具だって、権限はあっちの国にあるんだし。こっちで販売したくてもできねーんだしさ。自国でできることをやっていくしか……」
「はぁ。ブラークメリル王国は素晴らしい国だがなににおいても独占し、その上妙に節約しようとする」

 他国の文句を言っても仕方がないことくらいはお互いに理解はしている。
 だが、イデアやアメリの状況を把握し、ブラークメリル王国への怒りで今回ばかりは文句を口にしていたのだった。

「どんなに優れていても、俺はあの国で暮らしたいとは思わねーけどな。貧乏国家でも、無理なくのんびり暮らせるこっちで生まれて俺はホッとしている」
「貧乏国家は余計だがな。せめて民たちだけでも貧しさから開放してあげたいものだな……」
「ま、なるようにしかならんさ」

 二人は節約のため、二杯目は水で乾杯をして夜を過ごしていく。

 ーーーーーーーーーー
【後書き】

ここまで読んでくださりありがとうございます。
「ぐわーーーー」からの勢いで描いてみた今作ですが、作者はこれ超楽しんで書いてます笑。この話を書いて予約投稿したのが7月16日の15:52です。
ストックも切れそうですが頑張ります笑。

なんだかんだでキャラや設定の深掘りが始まったので、結構長く書いちゃうかもしれません。
もうしばらくお付き合いくだされば幸いです。

また、今回のお話の最後の一行ですが、誤解を招きそうな気もしたのでここで弁明しておきます。
「夜を過ごしていく」と書いてありますが、二人は兄弟仲が良いだけで、決して禁断の行為に発展するようなものではありません(作者自身がそういう男同士系は書けない人です)
誤解や妙な妄想が生まれていたら申し訳ございません。

以上です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです

冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。 しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。 アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。 後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。 婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。 そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。 仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。 エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。

婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。

氷雨そら
恋愛
聖女としての力を王国のために全て捧げたミシェルは、王太子から婚約破棄を言い渡される。 そして、告げられる第一王子との婚約。 いつも祈りを捧げていた祭壇の奥。立ち入りを禁止されていたその場所に、長い階段は存在した。 その奥には、豪華な部屋と生気を感じられない黒い瞳の第一王子。そして、毒の香り。  力のほとんどを失ったお人好しで世間知らずな聖女と、呪われた力のせいで幽閉されている第一王子が出会い、幸せを見つけていく物語。  前半重め。もちろん溺愛。最終的にはハッピーエンドの予定です。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...