上 下
18 / 24

日々の鍛錬

しおりを挟む
 目が覚めると、横にはライムハルトはいなかった。
 外を見ると、日の出の時間のようで日差しが眩しい。

 光の照らす方でライムハルトが、剣術の稽古をしていた。
 こんなに朝早くから勇ましい。

「おはようございます」
「おはよう、ソフィア。勝手に出てすまぬ。これは毎日の日課なのだよ」
「毎日の鍛錬ですね。尊敬します」

 恥ずかしい話だが、私は毎日コツコツと鍛えるようなことは苦手である。
 だからこそ、欠かさずに続けようとする人のことをとても尊敬する傾向があるのだ。

「ソフィアも一緒にどうだ? 魔力の鍛錬もしているのだろう?」

 やっていることが当たり前のような表情で私に聞いてくるが、生憎稽古という行為をしたことがない……。
 私は申し訳なく思いながら首を横に振った。

「実は、魔力を鍛える訓練という行為はしたことがないんですよ……。もうしわけご──」
「はい!?」

 ライムハルトの腕の動きがピタリと止まり、驚いた表情で見つめてきた。

「聞くが、誰かに魔法を習ったことは?」
「ありません」
「では……、ソフィアの師匠という者も……」
「えぇ、いません」

 昨晩はいい感じの雰囲気だったが、今正直に話してしまったことで関係がマズくなってしまうんじゃないだろうか。
 毎日努力している人が何もしない人を見たとき、どういう反応をするのだろう……。
 少しばかり怖かった。
 だが思いの外、ライムハルトは期待に満ちたような目をしていた。

「素晴らしい……。何もしないであの魔力の数値……。相当な努力を重ね築き上げたものかと思っていた」
「申し訳ございません。毎日何かをするという行為が苦手なもので」
「ふむ、ならばソフィアが魔力の鍛錬を行えば、人はおろか生きとし生きる者の中で最強の存在になるかもしれぬな」

 そんな大袈裟な……、と苦笑いしながら心の中で思っていた。
 お父様からは、肉体も鍛えれば最強の座になれるかもしれないなどと言われたことはあったが、何もしてこなかった。
 もしかしたら、幼少期から頑張っていたら、ライムハルトと同じくらいの力を手に入れ……いや、それはさすがにないか。
 だが、ライムハルトが一生懸命やっている姿は見ていてカッコよかった。
 私も一緒にやってみようかなという気持ちになったのだ。

「明日から、お供してよろしいでしょうか?」
「もちろん構わぬ。よければ剣術も教えるが」
「考えておきますね」

 翌日から故郷へたどり着くまでの間は毎日、ライムハルトと一緒に鍛錬をしてみた。
 一人では絶対にやっていなかったことだが、二人でやると案外楽しいものだと思えたのだ。

 もしかしたらライムハルトと一緒ならば、何をやっても楽しいのではないだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。 酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。 不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。     

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

その公女、至極真面目につき〜デラム公女アリスタの婚約破棄ショー〜

ルーシャオ
恋愛
デラム公女アリスタは、婚約者であるクラルスク公爵家嫡男ヴュルストがいつも女性を取っ替え引っ替えして浮気していることにいい加減嫌気が差しました。 なので、真面目な公女としてできる手を打ち、やってやると決めたのです。 トレディエールの晩餐会で、婚約破棄ショーが幕を開けます。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

殿下は、幼馴染で許嫁の没落令嬢と婚約破棄したいようです。

和泉鷹央
恋愛
 ナーブリー王国の第三王位継承者である王子ラスティンは、幼馴染で親同士が決めた許嫁である、男爵令嬢フェイとの婚約を破棄したくて仕方がなかった。  フェイは王国が建国するより前からの家柄、たいして王家はたかだか四百年程度の家柄。  国王と臣下という立場の違いはあるけど、フェイのグラブル男爵家は王国内では名家として知られていたのだ。   ……例え、先祖が事業に失敗してしまい、元部下の子爵家の農家を改築した一軒家に住んでいるとしてもだ。  こんな見栄えも体裁も悪いフェイを王子ラスティンはなんとかして縁を切ろうと画策する。  理由は「貧乏くさいからっ!」  そんなある日、フェイは国王陛下のお招きにより、別件で王宮へと上がることになる。  たまたま見かけたラスティンを追いかけて彼の後を探すと、王子は別の淑女と甘いキスを交わしていて……。  他の投稿サイトでも掲載しています。

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

処理中です...