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5 夜の馬車

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 要塞国家から離れ、500台以上の馬車一行は目的の場所まで休むことなく進んでいく。

「結界魔法というのは想定以上だな。まさかここまで道中モンスターが全く姿を見せないとはな」
「念のために目視できる範囲まで結界を展開させておいたので。目視できたら怖いでしょう?」
「そこまでするか……さすが俺の娘だ!」

 お父様から褒められることは滅多になかった。
 だが、私が魔女の力を手に入れてからは、しばしば褒めてくれる。
 これは私にとっては凄く嬉しいことだった。

「ありがとうございます」


 日が暮れようとしたころ、ようやく目的の場所へ到着した。
 周りは広々とした平原で所々に草木が生え茂っている。
 遠くには緑豊かな高原が見え、反対側には要塞国家デイルムーニ王国の王宮が見えるか見えないか微妙なくらいの場所だ。

「今日は予定通りに車中泊を行う。翌朝から本格的に新国家を建国する」

 お父様が馬車の中で、私に対しての最終確認をしている。
 大事なことを行う前は何度も念のために打ち合わせをするのがリンドバレル家のルールなのだ。

「明日はまずは新たにいくつか家を建て、住む場所と食の確保を優先して行う。ここでもレレーナの収納魔法が早速役に立った」
「デイルムーニ王国でお父様が運営していた資材や販売していた商品、それから食べ物、ありとあらゆるものを全て収納できましたからね」
「あぁ。魔法によって建物まで収納できるとは驚いた」

 魔女に覚醒して、結界魔法と収納魔法が早速役立ってくれている。
 収納魔法に関しては詠唱もいらず、わずかな魔力を注ぐだけで収納したり出したりできるのだから驚いた。
 しかも、今のところ制限があるのか私自身でも理解できていない。

「レレーナだけ大変な任務をさせてしまってすまないな。ある程度国ができたら、必ず相応の報酬を渡すと約束する」
「別に大変ってわけでもないので構いませんよ。それよりも、早く連れてきた皆さんが元通りの生活ができるようになれれば良いですね」

 別に見返りは求めていない。
 昔から聖女としての使命というものを王宮で学習されてきた。

 『あの内容』には今も疑問がある。
 毎日毎日、催眠術のように聴かされてくると、これが正しいのだと思い込むようになった。
 とはいえ、『人々を幸せにする』ということに関しては良いと思っているので、新国家でも引き続き役割を果たそうと考えている。

「明日は忙しくなりそうですね」
「あぁ。だがレレーナよ、絶対に無理はするな。疲れたら休むのだ。これだけは約束しろ」
「は、はい……」

 お父様は真剣な表情で言ってきたのだが、聖女としての使命を考えると、いささか矛盾しているような気もする。
 あまり深くは考えずに、目を閉じて睡眠にはいった。
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