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12 ザザンガ視点 怒鳴られた

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 どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 僕は被害者だ。
 それなのにジュリーンには慰謝料を払わなければいけない。
 これに関しては僕も納得するしかない。
 順序をしっかり守るために致し方のないことだったから。

 だが、やはりエイプリーが婚約を忘れてしまったか、もしくは誤魔化して騙してきたことは許せない。
 それにジュリーンだってどこの誰かは知らないけれど、もう婚約者ができてしまったことも腑に落ちない。
 もしかしたら僕の気が変わって、婚約破棄の破棄をするかもしれないとか考えられないんだろうか。

 そもそも順序さえ守れる世の中だったらこんなことにはならなかったはずだ……。

「父上、相談したいことがあります」
「ふむ、どうしたのだ?」
 父上はすぐに怒るけれども、相談事はしっかり聞いてくれるから頼りになるんだ。

「どうして上位貴族って順序を守れないのでしょうか?」
「……はい? 何を言っているのかよくわからんが」

 父上が首を傾げる。

「つまり、約束していたことを忘れたり、ごまかしたり、または順番を守らず割り込んで平然としている行為ですよ」
「うーむ……難しい問題だ……。つまり、ザザンガが何かされたのか?」
「えぇ、人生に関わるほどおもいっきり」

 ジュリーンとの婚約が台無しになってしまったのは、順序を守れなかったエイプリーのせいだとも言える。本来ならばエイプリーが慰謝料を払えと思うくらいだ。

「内容によっては上位貴族に高い金を支払い、味方につけその悪者を打ち首にすることもできなくはないが、余程のことでなければ当然無理だ」
「余程のことですよ!」

 あぁ、そうか。金さえ払えばそういう方法もあるよな。流石に殺すのはどうかとも少しは思うけど。
 僕は真剣に言っているのだが、父上は首を傾げたままだった。

「いや、人それぞれ価値観はあるからな……お前が余程のことと思っていても他人からしたらたわいもないことと捉えることもできるわけで……」
「僕の人生を壊した悪魔のような奴らですが」
「話してみよ」

 もうこの際だ。
 僕は婚約していた約束を忘れられて水に流されたこと、しかも婚約者がいると言われてしまったことを話した。

「なるほど、つまりザザンガの言っていた婚約者に理不尽に断られてたというのだな」
「はい! 悔しくて」
「ちなみに前から聞きたかったのだが、婚約したのはいつなのだ!?」

 だんだん父上の表情が険しくなってきている気がする。
 そりゃ僕の話を真剣に聞いてくれていたら怒るよな。

「確か五歳だったかと!」
「バカか貴様はぁぁ!!」

 また父上は大魔神のような顔をしている。
 前回の場合はそうなっても仕方がないと思う。

 だが、今回は僕に対して大魔神になるのはおかしい。

「正式に結婚しようねと言い、相手も『うん』と言ってくれたのですよ!」
「お前、まさかその話が理由でジュリーン令嬢と婚約破棄したのか!?」

「当たり前じゃないですか! たとえ五歳だろうが生まれたてホヤホヤだろうが、順序はきっちり守るべきです!」
「ばっかもーーんがああぁぁぁ!!」

 僕は胸ぐらを掴まれて気がついた時には吹っ飛ばされていた。

「お前の処遇については改めて考えることにする。勘当もありえるから覚悟しておけ!」
 そう言って父上は部屋から出て行こうとした。

「待ってください父上、こんな時間にどこへ行かれるのです!?」

「決まっているであろう! ジュリーン令嬢の両親、つまりオーガスト殿に深く謝罪しに行くに決まっている。クソバカ息子が多大な迷惑をかけたのだから親として謝りに行くのは当然のことだ」

「なんでですか!? 慰謝料を払うのですからこれできっぱり終わったはずです。順序としてはまず僕との話を──」
「順番ばかりこだわるお前には呆れて何も言えん……」

 そう言ってそのまま出て行ってしまった。

 貴族とはなんなのだ?
 こんなに理不尽な人間の集まりなのだろうか?
 勘当されたら僕はどうなる?

 僕の頭の中で怒りがどんどん増していく。
 もう怒りが限界だった。

 ──こうなったら……最後の手段だ!



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【後書き】

二日間連続になってしまいますが、昨日とは別の新作のお知らせです。

新作『魔力注入で感情がおかしくなった王子から御用済だと婚約破棄されましたので、他国と協力して世界を救います』

こちらも是非宜しくお願い致します。
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