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6 レオン殿下と将棋を打ちました

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「メアリーナ、早くもザグレーム達の居場所は発見されたぞ。ギルドで受付の者が発見したそうだ」
「そうですか。ではやはり王都の外へ逃亡を企んでいたのでしょうね」

「もちろん泳がせておいたぞ。ここで捕まえてしまっては面白くないからな」

 それに私たちの目的のためにはある程度逃げてもらわないと困ります。だから放置しているのです。

「できれば慰謝料の第一回支払い期限まで泳がせておきたいですね」

 今回の離婚裁判の慰謝料の支払いは高額なため、毎月の分割で払ってもらうことになっています。
 ただし、一度でも支払いが遅れた場合、その時点で重罪になるのです。

「期限まであと五日か。根をあげて自首してきそうな気もするが……」

「その時は投了ということで諦めます。ですが、ザグレームの性格ならば、最後まで足掻くんじゃないかと思いますが」

「詰んでいるがあえて泳がさせる……か。ならば一層のこと、敵陣の駒全てを奪っただけでなく、盤面に全て配置するくらい追い詰めてしまっても良いんだぞ」
「そうですね、そうしましょうか」

 レオン殿下とは意見がやたらと合いますね。おかげでスムーズにことが進みます。

「次はどう出てくると予想する? 私の推測では、貧民街へ逃げると思うのだが」
「なるほど……ですがそれだと奪った金塊のような鉄クズを換金できなくなるでしょう。貧民街の方々が金塊を買い取るとも想像できませんからね」
「ふむ……とすればメアリーナはどう動くと読むのだ?」
「金魂を売却しに取引所へ向かわれるかと思います」
「なんだと……!?」

 鉄屑の中に金魂と同じ重量になるように重い物質を入れて調整しています。
 詐欺師がよく行う手口です。
 もちろん偽物を売ろうとすれば詐欺罪ですぐに捕まるでしょう。
 ですが、ここで捕まってしまうのは困りますね。

「金取引所で鉄屑の偽物を売りつけてくる者がいても、捕らえようとしたけれど逃したという流れに持っていけませんでしょうか?」

「なるほど……窃盗罪に加えて詐欺罪も追加するのか。無論、すぐに指示を出しておこう。金取引所は王宮の人間が絡んでいるから問題はない。だが、そのような場所に本人自ら出向くとは思えんが……別の人間に代理で交換させようとしないのだろうか」

「それはザグレームならばないと思います。相当な疑い深い人でしたし、お金に執着心が強い人ですから。代理を頼めばそれだけ手元に入るお金が減ります。今の時間ならばまだ国に目をつけられているとも思わないでしょうし、直接向かうはずです」
「さすが名探偵の元一流冒険者だ」

「冒険者は卒業しましたので……」

 昔は張り切って討伐をガンガンやって稼いでいましたが、今はのんびりと生活していきたいのです。
 だからこそ、こういうイベントではただ捕まえて終わりにするのではなく、楽しんで追い込みたくなってしまうんですよね。
 悪趣味だと思われるかもしれませんが。


「メアリーナ、今日は時間まだあるのか?」
「えぇ、スローライフを送っていますからたっぷりと」
「将棋の相手してもらえないだろうか」

 レオン殿下の腕前は王都内で行われた将棋トーナメント戦で準優勝した実績があります。
 そんな方に誘われては私の胸が騒ぎます。強い方と戦えるほど嬉しいことはありませんからね。

「是非」

 私もそこそこ強い方ではありますが、全く勝てませんね。

「メアリーナ、あと十一手で詰みだぞ」
「う……。こうしているとザグレームの気持ちがよくわかりますね……」

 何度か試合は続きまして、九戦目。
 油断したのかレオン殿下は焦っていました。

「ようやく私が優勢ですね。これは勝ったも同然でしょう」
 銀、桂馬、香車をそれぞれ二枚、更に角まで奪いチャンスでした。
 敵陣の駒が飛車と金と歩兵だけなら、王を奪って勝てそうですね。

 レオン殿下は珍しく長考をしています。
 公式戦ではないので、特に長考時間に制限は設けていませんが、やたらと考えていますね。

「──そうか! わかった! この手だ!」

 まさか……飛車をとんでもない場所に動かされました。
 絶体に勝てると思ったのに。これでは……はい、負けました。

「レオン殿下は強すぎますね……」
「メアリーナも強い。だが、油断する癖がある……将棋は打ち手の性格が出やすいからな。もしもまた野獣を討伐するようなことがあったときも油断はしないほうがいいぞ。強いのは勿論承知の上だがな……」
「気をつけたいですが、癖になってしまってますね……」

 油断大敵。
 今まで油断していても問題なく任務を終えてしまってるので、どうもこの悪い癖が抜けないんですよね……。
 でも、少しは気をつけたほうがいいですね。

 結局将棋は全敗しました。
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