上 下
13 / 21

13

しおりを挟む
 もう少しだけ二人の展開を見てみたいので、私たちは一旦旦那様の部屋から離れ、下の階にあるリビングへ移動しました。
 レミファさんには玄関前で警備をお願いしています。もちろんクミンさんを脱走させないためです。窓から飛び降りたとしても間違いなく大怪我をするのでそこまでのことはしないと思います。

 更に、幸い二階にある旦那様の部屋のすぐ近くにトイレがあります。

 その通路だけ監視をしないでおけばクミンさんが動くことができるでしょう。
 こちらから二人を困らせているのは重々承知ですが、お願いですから部屋で漏らさないで欲しいものです。


 ♢

「おい、ルフナ達よ、私はこれからトイレに行く。腹痛が激しく音を聞かれたくないから絶対に近づくんじゃないぞ!」

 なんということでしょうか。

 わざわざ私たちのいるリビングに走って来てまでこんなことを言うとは……。必死に誤魔化そうとしてきます。

 こんなことを言われたら、今まででしたら心配になって薬を持ってすぐに旦那様の元へ向かいますよ?

 ともかく、これで大惨事だけは免れたようですね。
 お互いに助かりました。

 さて、この後しばらくの間はクミンさんが部屋からトイレ以外一歩も出歩けないようにするわけですが……、一体いつまでクミンさんたちは我慢できるでしょうか。

 ♢

 翌朝、旦那様だけ朝食のため一階に降りてきました。

「おはようございます。腹痛は治りましたか?」
「あぁ、大丈夫だ。しかし、しばらく腹痛の再来がくるかもしれん」

「そうですか、部屋の環境が悪いから病気になってしまったのかもしれませんよ。今日こそ部屋の掃除をさせましょうね」
「いやー、しなくていいぞ! うん! だって私の部屋のことは私がやらないと!」

 そんな発言聞いたことありませんよ。
 今まででしたら、『ルフナよ、散らかってきたから私の部屋の掃除をしておいてくれ』と毎回言ってきたではありませんか。

「急にどうされましたか?」
「あ……いや、実はな。ルフナがいない間に私は変わったのだよ。自室からトイレの間くらいはしっかりしておこうかと。だから、使用人の監視もなくていいぞ。というか、お前が帰ってきたんだから使用人はご用済みじゃないのか?」

「いえいえ、旦那様に対しての教育が素晴らしいことがわかりましたので、暫く教育係としてお願いしました」
「な……」

 普段は、朝食となれば意地汚いくらいにガンガン食べてすぐに横になって昼寝を始める旦那様です。
 しかし、今日は全く食事に手が進みませんね。
 相当焦っているようです。旦那様の部屋に隠れているクミンさんも大丈夫でしょうか。

「ルフナ……すまんが今日は体調が悪い。部屋に持っていって食べる」
「あらあら……では食事は運びますので先に部屋に戻っていてくださいね」
「いや、私のことは私がやる」

 普段からそう言っていただけたらもっと高感度高いままの結婚生活が送れたかと思うと残念です。

 さて、もうしばらくは旦那様の焦っている姿とクミンさんのクローゼット生活を見ていたいので、およがせておきましょうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

さようなら婚約者。お幸せに

四季
恋愛
絶世の美女とも言われるエリアナ・フェン・クロロヴィレには、ラスクという婚約者がいるのだが……。 ※2021.2.9 執筆

処理中です...