4 / 21
4 カルダモン視点(後編)
しおりを挟む
今のは空耳だよな……。
「今なんと……?」
「養子入りは断ると言ったのだ。二度も言わせるな」
そんな馬鹿な……、ルフナに言われたとおりの行動をしたというのに。
「ふん、なんでという顔をしているな。簡単なことだ。クミンと言ったな……お前は貴族として相応しくないからだ。このまま第二夫人にでもなったらルフナ様の顔に泥を塗ることになる」
「ひ……酷いですよお父さん!」
「その発言が問題なのだ。お父さんだと? お父様と言えぬような者を貴族家の娘にできるものか」
「「……」」
「それからカルダモンよ……これ以上ルフナ様を泣かせるような行動をしたら、許さんぞ?」
父上の言葉がグサリと刺さった。
何も言い返せず、私たちはミッション不達成のまま家を出た。
♢
「カルダモンさま……どうしたらいいの?」
半ベソしながら私の腕を掴んでくるクミンは可愛い。ルフナと比べたら天と地の差だ。
ルフナが可愛くないとは言っていないぞ。
ただ、あいつはいちいち煩い女だから気に食わない。しかも、私が王宮で手を繋ごうとしたら拒否してきたのだ。それ以来彼女を見る目が変わってしまったし、冷静に考えた結果、追うよりも追われる方が気分がいいことに気がついた。
だからこそ、私のことを好きでいてくれて自由にさせてくれるクミンのことを諦めてはいけないのだ。
「なぁに、これからも君のことを愛し続けるさ」
「カルダモンさまぁ……」
「父上はルフナを泣かせたら許さないと言っていたが、要はバレないように泣かせなければいいだけなのだよ」
さすが、私の脳はいつも冴えている。言葉の裏をしっかりと捉えることができ、それに適した対策を閃くのだから。
「幸い我が家には執事や使用人がいないからな。ルフナには今後、外出を強要させよう。その間にクミンと愛を育んでいけば良い。私は偉い貴族だし、君がそばにいてくれれば、貴族としての嗜みも自然と身につくだろう。そうなったら改めて父上にお願いすれば良いのだ」
「なるほど……さすがカルダモンさまね。私だって諦めないで貴族のお勉強もしっかりやっていきますね」
相思相愛とはこういうことだろう。
一緒に協力して困難を乗り越えていく。これが愛の共同作業なのだ。
困難があるからこそ達成した暁には一層愛が深まるというもの。
ルフナとは困難が何一つなかったから愛が深まることはなかったのだろう。
よし、そうと決まれば行動しなくては。
ルフナに毎日遅くまで外出させるためにはどうしたらいいのだろうか……。
クミンとは、三日後に再び会う約束だけして、私は対策を考えながら家に帰った。
♢
「旦那様、お帰りなさい」
「あぁ、今帰ったぞルフナ。……ん? この鞄はなんだ?」
玄関前に大きな鞄が置いてある。しかもルフナは何故か化粧をしていて、夜だというのに外出する様子だ。
「急遽実家でするべき用事ができましたので、帰る準備をしていました。報告が遅くなってしまい申し訳ございません」
「そうか。どれほどの間帰るのだ?」
「一週間ほどです」
「そうか、私ならかまわんぞ」
なんというラッキーイベントなのだろうか。
つまりルフナが一週間も家を完全に留守ということは、クミンと二人っきりの生活ができるというわけだ。
くそう……会うのを明日にしておくべきだった……。
「ありがとうございます。家のことが疎かになると申し訳ないので、急遽住込で使用人を雇いましたのでご安心ください」
「へ!? 使用人!?」
「はい。お父様の協力によって、王宮に仕えていたこともある一流の方々を使用人として雇えたので、私が家事を行うよりも快適かと」
いや、むしろ迷惑だ!
「いやいやいや……、家のことなど放置でもいいだろう。それに家事なんて、帰ってきたらルフナがやればいいとは思わないか? 何よりも、一体いくらかかると思ってるのだ?」
緊急事態だ。こんな時に、私の脳裏からは次々と正当性の高い言葉が思い浮かんでくるというのが救いだ。
「一週間分の溜めた家事を行うのは流石に大変ですからね。支払いに関してはご安心ください。お父様に全面協力していただいたおかげで、旦那様が負担することは一切ありません」
……ダメだ、言葉が思い浮かばない。
更に黙り込んだ私に対して、ルフナは更に追い討ちをかけてくるのだ。
「すでに奥に使用人がいらしていますので、食べたいものや家のことであればなんなりと言いつけてください」
「そ……ソデスカ」
奥のキッチンへ連れて行かされた。
ルフナは私のことを紹介してそのまま家を出ていったのだが、まさか使用人達を雇ってしまうとは……。
おのれルフナめ……たまたまできた用事ごときで私を邪魔してくるとはふざけた真似を……。
だが、こんなことでは挫けんぞ。
なんとしてでもクミンを妻にしてみせる。
「今なんと……?」
「養子入りは断ると言ったのだ。二度も言わせるな」
そんな馬鹿な……、ルフナに言われたとおりの行動をしたというのに。
「ふん、なんでという顔をしているな。簡単なことだ。クミンと言ったな……お前は貴族として相応しくないからだ。このまま第二夫人にでもなったらルフナ様の顔に泥を塗ることになる」
「ひ……酷いですよお父さん!」
「その発言が問題なのだ。お父さんだと? お父様と言えぬような者を貴族家の娘にできるものか」
「「……」」
「それからカルダモンよ……これ以上ルフナ様を泣かせるような行動をしたら、許さんぞ?」
父上の言葉がグサリと刺さった。
何も言い返せず、私たちはミッション不達成のまま家を出た。
♢
「カルダモンさま……どうしたらいいの?」
半ベソしながら私の腕を掴んでくるクミンは可愛い。ルフナと比べたら天と地の差だ。
ルフナが可愛くないとは言っていないぞ。
ただ、あいつはいちいち煩い女だから気に食わない。しかも、私が王宮で手を繋ごうとしたら拒否してきたのだ。それ以来彼女を見る目が変わってしまったし、冷静に考えた結果、追うよりも追われる方が気分がいいことに気がついた。
だからこそ、私のことを好きでいてくれて自由にさせてくれるクミンのことを諦めてはいけないのだ。
「なぁに、これからも君のことを愛し続けるさ」
「カルダモンさまぁ……」
「父上はルフナを泣かせたら許さないと言っていたが、要はバレないように泣かせなければいいだけなのだよ」
さすが、私の脳はいつも冴えている。言葉の裏をしっかりと捉えることができ、それに適した対策を閃くのだから。
「幸い我が家には執事や使用人がいないからな。ルフナには今後、外出を強要させよう。その間にクミンと愛を育んでいけば良い。私は偉い貴族だし、君がそばにいてくれれば、貴族としての嗜みも自然と身につくだろう。そうなったら改めて父上にお願いすれば良いのだ」
「なるほど……さすがカルダモンさまね。私だって諦めないで貴族のお勉強もしっかりやっていきますね」
相思相愛とはこういうことだろう。
一緒に協力して困難を乗り越えていく。これが愛の共同作業なのだ。
困難があるからこそ達成した暁には一層愛が深まるというもの。
ルフナとは困難が何一つなかったから愛が深まることはなかったのだろう。
よし、そうと決まれば行動しなくては。
ルフナに毎日遅くまで外出させるためにはどうしたらいいのだろうか……。
クミンとは、三日後に再び会う約束だけして、私は対策を考えながら家に帰った。
♢
「旦那様、お帰りなさい」
「あぁ、今帰ったぞルフナ。……ん? この鞄はなんだ?」
玄関前に大きな鞄が置いてある。しかもルフナは何故か化粧をしていて、夜だというのに外出する様子だ。
「急遽実家でするべき用事ができましたので、帰る準備をしていました。報告が遅くなってしまい申し訳ございません」
「そうか。どれほどの間帰るのだ?」
「一週間ほどです」
「そうか、私ならかまわんぞ」
なんというラッキーイベントなのだろうか。
つまりルフナが一週間も家を完全に留守ということは、クミンと二人っきりの生活ができるというわけだ。
くそう……会うのを明日にしておくべきだった……。
「ありがとうございます。家のことが疎かになると申し訳ないので、急遽住込で使用人を雇いましたのでご安心ください」
「へ!? 使用人!?」
「はい。お父様の協力によって、王宮に仕えていたこともある一流の方々を使用人として雇えたので、私が家事を行うよりも快適かと」
いや、むしろ迷惑だ!
「いやいやいや……、家のことなど放置でもいいだろう。それに家事なんて、帰ってきたらルフナがやればいいとは思わないか? 何よりも、一体いくらかかると思ってるのだ?」
緊急事態だ。こんな時に、私の脳裏からは次々と正当性の高い言葉が思い浮かんでくるというのが救いだ。
「一週間分の溜めた家事を行うのは流石に大変ですからね。支払いに関してはご安心ください。お父様に全面協力していただいたおかげで、旦那様が負担することは一切ありません」
……ダメだ、言葉が思い浮かばない。
更に黙り込んだ私に対して、ルフナは更に追い討ちをかけてくるのだ。
「すでに奥に使用人がいらしていますので、食べたいものや家のことであればなんなりと言いつけてください」
「そ……ソデスカ」
奥のキッチンへ連れて行かされた。
ルフナは私のことを紹介してそのまま家を出ていったのだが、まさか使用人達を雇ってしまうとは……。
おのれルフナめ……たまたまできた用事ごときで私を邪魔してくるとはふざけた真似を……。
だが、こんなことでは挫けんぞ。
なんとしてでもクミンを妻にしてみせる。
25
お気に入りに追加
1,840
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】婚約者の好みにはなれなかったので身を引きます〜私の周囲がそれを許さないようです〜
葉桜鹿乃
恋愛
第二王子のアンドリュー・メルト殿下の婚約者であるリーン・ネルコム侯爵令嬢は、3年間の期間を己に課して努力した。
しかし、アンドリュー殿下の浮気性は直らない。これは、もうだめだ。結婚してもお互い幸せになれない。
婚約破棄を申し入れたところ、「やっとか」という言葉と共にアンドリュー殿下はニヤリと笑った。私からの婚約破棄の申し入れを待っていたらしい。そうすれば、申し入れた方が慰謝料を支払わなければならないからだ。
この先の人生をこの男に捧げるくらいなら安いものだと思ったが、果たしてそれは、周囲が許すはずもなく……?
調子に乗りすぎた婚約者は、どうやら私の周囲には嫌われていたようです。皆さまお手柔らかにお願いします……ね……?
※幾つか同じ感想を頂いていますが、リーンは『話を聞いてすら貰えないので』努力したのであって、リーンが無理に進言をして彼女に手をあげたら(リーンは自分に自信はなくとも実家に力があるのを知っているので)アンドリュー殿下が一発で廃嫡ルートとなります。リーンはそれは避けるべきだと向き合う為に3年間頑張っています。リーンなりの忠誠心ですので、その点ご理解の程よろしくお願いします。
※HOT1位ありがとうございます!(01/10 21:00)
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。
入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい
音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」
「何を言ってるの……呆れたわ」
夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。
背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。
愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる