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「ルフナよ、私は君に言われてしっかりと考えたのだ」
「はぁ……」

 クミンさんがまたしても旦那様の腕に胸を擦り付けながらしがみついているのですから、ろくな考えではないはずです。

「元々ルフナとは政略結婚。貴族の跡取りを作るのは大事なことは分かっている。だからこそ私も仕方なく君と結婚をしたのだ」

 貴族としての後継の話までは正論で異論はありません。私も令嬢として全うする為に結婚したのですから。

 ですが、旦那様は私のことを、子孫繁栄の道具としてしか見ていないような言い方をします。
 例え本音だとしても、もう少し言い方を考えて欲しいですね。
 私は黙って旦那様の言い分をそのまま聞きます。

「だが、クミンは私の好みのタイプだし可愛い。これこそが恋愛なのだと理解したのだよ。残念ながら第二夫人には出来ないかもしれない。だが、愛人として我が家に招き入れることとする」

 そんなことを堂々と言うなんて……もはや怒りや呆れを通り越して苦笑いをしてしまいました。
「よくもまぁ堂々とそのようなことを仰いますね……。これで離婚を申し出て多額の賠償金を請求したら、旦那様は破滅しますよ?」

「え……そうなのか?」
 知らなかったのですか……。最早貴族の嗜みの以前に、一般教養からやり直して学習するべきかと推奨したいですね。

「旦那様が愛人と仰っている以上、やっていることは不倫行為かと。当然、貴族として信頼をも裏切る行為ですので、私が離婚を申しでればそれ相応の慰謝料が旦那様に発生するかと……」

「それは困る! なんとか離婚せずに……クミンが愛人であっても大事にしたいのだ」
「ルフナさんー、私とカルダモン様の愛の絆の為になんとかしてくださいよ」

 二人に申したいですが、身勝手にも限度があります。しかも、旦那様は堂々とした態度で当たり前のように言ってきます。クミンさんは礼儀がなさすぎです。

 残念ながら私も離婚を易々と宣言できない環境下にあるのです。
 旦那様の態度がそれを見越してのものとは到底思えません。
 悔しいですけれども平和的に問題を解決する方法を暫くの間、無言で考えました。



「ならば、旦那様のご両親に頼むべきかと。クミンさんはスパイス家の養子にしていただくというのはどうでしょうか?」
「それでは義兄妹になってしまうだろう? 頭が悪くなったのか?」

 折角提案しているのに、この態度は如何なものでしょうか。それでも私は発言を続けます。

「血が繋がっていませんので法律的には問題はないかと思います。勿論貴族の方々からの異論はあるかと思いますが、これが運良く通るならばクミンさんは準男爵家の人間になります」
「だとどうなるのだ?」

「第二夫人として結婚が出来る最低限の関門は突破できるかと」

 あくまで法律の最低限の問題を解決できると言ったまでですが、旦那様はあっさりと喰いついてきました。

「なるほど! それは名案だ。褒めてやろう」
「ありがとうございます……」
「早速お願いしにいくことにしよう。ここはルフナに説得してもらいたい」

 なるほど……そう出てきましたか。それでは私の作戦が無駄になってしまいます。
 ここは何か再度、嘘のない範囲で旦那様が喜びそうな言葉を選んでいくしかありませんね。

「それはお断りします」
「なんでだ? 私の命令が聞けないと言うのか!?」

「そうではありません。クミンさんはこれから貴族になるお方です。その夫になる貴方が自らクミンさんを守って差し上げるべきかと」
「ふむ……」

 二人とも黙って聞いてくれています。どうやら上手くいきそうですね。

「ここで私が出てしまえば、周りの貴族の方々からの評価は私に向いてしまいます。無能夫と汚名を言われるようになってしまってもおかしくありませんので」

「そうかそうか! お前は私をそこまで立ててくれるのだな。ならばちょっと怖いが、直談判してみようではないか」
「頑張ってくださいねカルダモンさまぁ!」

 どうやら上手くいったようですね。

 私は決して婚約が出来るとは言っていませんよ。あくまでクミンさんが準男爵という称号を手に入れられる可能性を提言したまでです。

 旦那様……貴方は私よりも愛人のクミンさんを大事にしたいという気持ちが強いことが良くわかりました。

 離婚を申し立てることがしずらい環境である以上、今のうちに旦那様達の過失や弱みを徹底的に掴んでおくことにします。
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