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「うぅ……あら……義兄様ですか?」

 幻覚でも見ているのだろうか。
 確か私は道端に置いてけぼりにされてそのまま気を失った気がする。

「気がついたか、ジュリエル」

 幻覚ではない!
 この優しい声に、見慣れた懐かしい天井。

 ここは実家だ。

「私……どうしてここに? それに確か高熱だったのに……あれ、私……治ってる!?」

「俺が渡した調合薬を飲んでいたのだろう? 良かったな。ジュリエルとハーベストを偶然見かけたのだが、ジュリエルの様子がおかしかったからな。尾行していたのだ」

 どうやら義兄様に助けられたようだ。
 久しぶりに優しさを体感して、少しだけ心が落ち着いた。

「ジュリエル、病み上がりですまないのだが話がある。丁度公爵様もお見えになっているから、会ってくれるか?」
「はい、義兄様の看病と貰った調合薬のおかげですっかり。助けていただいてありがとうございます。すぐに準備します」

 ♢

「ご無沙汰してますフォルス公爵殿下。このような姿で申し訳ございません」
「いやいや、病み上がりの身体なのだろう。無理することもあるまい」

 普段は義父様と飲むことが目的で私服でお見えになることが殆どなのだが、今回は国の制服を着用していた。

「さて、ジュリエル嬢。今回はライト君から大体の話を伺って見舞いに来た。ドルチャ男爵家の御子息が君を放置して走り出した後に倒れてしまったと聞いているのだが、そうなのか?」

 思い出すだけで泣きそうになる。私はもうこの際、たとえドルチャ家から更に酷い仕打ちを受けることになったとしても、全てを話して今だけでもスッキリしてしまおうと思った。

「……あの時、私は高熱でした。ハーベスト様は私の体調よりも買物を優先していらしたので外に出ました。ですが、途中で義妹のシャロンさんが鼻水を垂らしたとの報告を受け、慌てて帰宅されてしまいました」

 お父様、義兄様、公爵様、そして後方で聞いていた使用人や公爵様の護衛の人たちまでもが顔を硬らせていた。

「あの男はジュリエルのことをなんだと思っておるのだ!」
「そもそも鼻水を垂らす程度で慌てるか!?」
「あの男はバカなのか!?」

 愚痴が始まった。
 この程度で愚痴が始まってしまうのではこの後喋ろうとしていたことが言い辛くなるではないか。

「シャロンさんは病弱と聞いてましたが、偽装していました」

 更に、ハーベスト様以外から酷い仕打ちを受けるようになったことも話した。
 ハーベスト様も婚約者の私よりも義妹のことがおかしいくらいに優先していて、私の話などまるで聞く耳を持たないことも話してしまう。
 一度話し始めたら、勢いが止まらなくなってしまった。

 今まで生きてきて十五年、私は人生で初めて弱音を吐いて助けを求めてしまったのだ。
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