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 すでに重労働と言えるくらいの掃除、更に永遠と続く小言を聞いていたため、私は肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。
 ボーッとしながら廊下を歩いていると、シャロンさんの部屋から音がバンバン聞こえてきた。ノックをするのが当然なのだが、私は疲れ切っていてその判断ができず、無意識にドアを静かに開けてしまったのだ。

 しかし、シャロンさんのとんでもない姿を見てしまい、ボーッとしてしまっていた頭も一気に吹っ飛んだ。
 しばらくバレないように観察していたらハッキリした。

 私が見た光景は、シャロンさんが部屋で激しく筋力トレーニングやシャドーボクシングをしている姿だった。
 テーブルには体温を測定する道具も置かれていた。

「後、もう少し動けば高熱になるわね、ファイトよ。頑張って仮病生活を続けなさい私! 自分に言い聞かせるのよシャロン!」

 バレないようにそっとドアを閉めて、どうしたら良いものか必死で考えていた。

 おそらく仮病を使って閉じこもった生活をしていたのならば、この国の貴族社会においては、貴族としての嗜みを放棄する行為だろう。
 もしもそれが家族ぐるみならば更に大問題だ。
 でも、今までの行動からすると、みんな本当に仮病なのだと知らないのだろう。

 ともかく、まずはハーベスト様に自分の状況を訴えるのが先、その後にシャロンさんのことを聞くことにした。


 ♢


「どうしたジュリエルよ」

 私はすでに半泣き状態だった。
 ハーベスト様も心配してくれているようで私の手を握ってくれていた。

「実は……ハーベスト様が留守の間、この家の方々が私に暴言や酷い仕打ちをして──」

 弱々しい声で必死に訴えかけようとした矢先、ドアが勢いよく開いて邪魔が入った。

「お嬢様が体調を崩されました! 三七度六分です! 発汗と息切れも激しいです」

 使用人が突然部屋に入ってきて、すぐに出て行ってしまった。
 ハーベスト様はすぐに私の手を離して、ソファーから立ち上がる。

「大変だ! すまないがジュリエル。話は後だ! 今こんなことに構っている暇はない。シャロンが大変だ!」

 ──こんなこと……?

 シャロンさんの偽装した体温を聞いて動揺してこのようなことを言ったのだろう。

 涙さえ溢れそうな状態で必死に訴え始めていたのに、それでも義妹のシャロンさんを優先するのか。
 我慢ができずに本当のことを言ってしまった。

「シャロンさん、病気でも病弱でもありませんよ」
「なんだって!? ジュリエルよ……なぜそうやって酷いことをいうのだ?」
「え……?」

「シャロンは命に関わるほどの高熱なんだぞ、今度は三七度六分もある! 発汗も酷いし息も荒れていると言っていただろ。命に関わる非常事態だぞ! これでどこが病弱じゃないというのだ?」
「激しい運動をすれば体温は上がりますし、汗をかいて息切れを起こすのも当然です」

 今回はしっかり目撃しているのだ。シャロンさんは、激しい運動の後に体温を測って、体調不良を訴えている。

 どうしてここの家の人たちは気が付かないのだろうか。
 どうしてここまで説明しなければいけないのだろうか。

「つまりシャロンは何もせずとも、それほど酷い状態にまでなってしまったということだろう? 一刻の猶予もない! すまないが、ジュリエルの相手はまた後だ」
 全く私の話を聞いてくれなかった。

 私は放置され、ハーベスト様は部屋を飛び出してしまった。

 私の方がストレスで病気になってしまいそうだ。
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