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65 オズマの頼みごと
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偶然というものはいつでもやってくるものだ。
帰宅路にて、ミーナやオズマのことを考えていたら、私の目の前にオズマが姿を現した。
まるで待ち伏せされているかのようだった。
「ライアンよ……、話がある」
オズマが死にそうな表情をしながら私にそう告げてきた。
「なんでしょうか?」
「俺はもう終わったのだ」
「なにが終わったのです?」
どうしてオズマが死にそうな状態なのかは概ね想像がつく。
おそらく、時期に捕まるかもしれないという恐怖と後悔だろう。
幼馴染という付き合いがあったから、最後に私に挨拶くらいしておきたかったのかもしれない。
あまりにもオズマの顔色が悪いので、不本意ながら心配になってしまった。
だが……、私の想像していたこととは全く別の答えが返ってきたのだ。
「我が家には金がなくなってしまったのだ。ミーナが働いて稼いでこいとしつこくて、どうしていいのかわからない」
「はい!?」
「だから、金がないから働いて金を稼げと……」
このごに及んで今更そんなことを報告!?
ありえないんだけど。
私はオズマのことを呆れながらも、なるべく呆れている表情は出さないようにして接した。
「働けばいいでしょう?」
「いや……、俺はこれでも男爵としての名誉があるわけで、いずれは出世して公爵にでもなろうかと……」
「は!?」
オズマはそうとうテンパっているらしい。
公爵って王族にしか与えられない称号だし、普通は王族でもない人間が公爵になれるわけがないから。
それよりも、何を悩んでいるのかと思って心配になってしまった私自身がバカバカしく思えてきてしまう。
「オズマは働くのが嫌で悩んでいると?」
「あぁ。そこでライアンに頼みがある」
「……一応聞くだけならいいですけれど、もし──」
ふざけた頼みだったら今後近付かないでくれと言いたかったが、その前にオズマがかぶせるように頼んできてしまう。
「ライアンの婚約者は侯爵だろう? 彼に頼んで俺のようなヤツでも働けるような場所を提供してほしいんだ」
「ん……んーーー……」
「なぜ悩むんだ?」
そりゃ悩む。
オズマとミーナは捕まる寸前の身。
どうやらまだ本人たちは気がついていないようだし、今ここでそれを言うのは黙秘権に反くことになるのでオズマたちには言えない。
かと言って、せっかくオズマが仕事を探しているようなので、手を差し伸べたい気持ちはある。
だが……。
「きっとサバス様のような侯爵の人間が仕事を提供してくれれば、楽してても一気に稼げるような仕事を提供してくれると期待しているんだ」
「あぁ!?」
ついに私の堪忍袋の尾が破裂した。
もう無理!!
「え? 何を怒っているんだ?」
今までも婚約破棄されたり、ダリアのコンサートチケットをすり替えたりキレる要素は色々とあった。
私のことならまだ良い。
だが、サバス様のことをなんだと思っているのだこの男は!!
「もう無理!! オズマ! もう私の元に現れないで頂戴!!」
どうせ捕まるのだから現れようとしても無理だとは思うけれど。
「待ってくれ! ミーナが無茶な提案をしてきたり、わがままに付き合っていて俺の心はボロボロなんだ。もし今ライアンに愛想を尽かされたら……」
「は?」
「だから俺のことを好きじゃなくなってしまったら……」
「まさか、私が今もオズマのことを好きだと思っているとでも!?」
「違うのか!?」
どうしてこの男はこんなにも驚いた表情をしているのだ……。
婚約破棄された段階で愛情というものはすでに枯れていたんだけど。
幼馴染だからかろうじて繋がっていただけなんですが……。
「どこまでもポジティブな男ね。今後の人生もそのポジティブさを生かして償うことね」
「いやいや、俺にはライアンが必要なんだ。最近ようやく理解できた。だから、ミーナとは離婚するからライアンよ、どうか俺を捨てないでほしい」
「いえいえいえいえ!! 無理だって! 私にはすでに愛するお方がいるので。たとえ意中の方がいなかったとしても、再びオズマに接近することはないと思うけど」
ハッキリと伝えておくことにした。
このポジティブオズマにはこれくらい絶対にあり得ないと伝えたほうが良さそうだった。
「わかった」
「なら良かった。じゃ、そういうことで」
私はすぐに馬車に戻ろうとしたところ、すぐにオズマの声が聞こえてきたので再び振り向かざるをえない状況になってしまう。
「ライアンの性格だったらどうせすぐに飽きられて捨てられるだろうからな。俺はその時再び声をかけることにするよ」
「確かに私の性格には難がいくつもあるけど、サバス様はそんなことするお方じゃないので!!」
表情には出さないように我慢したが、最後に私はオズマのことを思いっきり睨みつけた。
そして、すぐに馬車へ乗り込み早急に出発させた。
「待ってくれ、ライアン!」
馬車の外からオズマの声が聞こえてきた気がするが、いちいち止めるつもりもない。
これが、幼馴染の声を聞く最後の言葉だといいんだが。
帰宅路にて、ミーナやオズマのことを考えていたら、私の目の前にオズマが姿を現した。
まるで待ち伏せされているかのようだった。
「ライアンよ……、話がある」
オズマが死にそうな表情をしながら私にそう告げてきた。
「なんでしょうか?」
「俺はもう終わったのだ」
「なにが終わったのです?」
どうしてオズマが死にそうな状態なのかは概ね想像がつく。
おそらく、時期に捕まるかもしれないという恐怖と後悔だろう。
幼馴染という付き合いがあったから、最後に私に挨拶くらいしておきたかったのかもしれない。
あまりにもオズマの顔色が悪いので、不本意ながら心配になってしまった。
だが……、私の想像していたこととは全く別の答えが返ってきたのだ。
「我が家には金がなくなってしまったのだ。ミーナが働いて稼いでこいとしつこくて、どうしていいのかわからない」
「はい!?」
「だから、金がないから働いて金を稼げと……」
このごに及んで今更そんなことを報告!?
ありえないんだけど。
私はオズマのことを呆れながらも、なるべく呆れている表情は出さないようにして接した。
「働けばいいでしょう?」
「いや……、俺はこれでも男爵としての名誉があるわけで、いずれは出世して公爵にでもなろうかと……」
「は!?」
オズマはそうとうテンパっているらしい。
公爵って王族にしか与えられない称号だし、普通は王族でもない人間が公爵になれるわけがないから。
それよりも、何を悩んでいるのかと思って心配になってしまった私自身がバカバカしく思えてきてしまう。
「オズマは働くのが嫌で悩んでいると?」
「あぁ。そこでライアンに頼みがある」
「……一応聞くだけならいいですけれど、もし──」
ふざけた頼みだったら今後近付かないでくれと言いたかったが、その前にオズマがかぶせるように頼んできてしまう。
「ライアンの婚約者は侯爵だろう? 彼に頼んで俺のようなヤツでも働けるような場所を提供してほしいんだ」
「ん……んーーー……」
「なぜ悩むんだ?」
そりゃ悩む。
オズマとミーナは捕まる寸前の身。
どうやらまだ本人たちは気がついていないようだし、今ここでそれを言うのは黙秘権に反くことになるのでオズマたちには言えない。
かと言って、せっかくオズマが仕事を探しているようなので、手を差し伸べたい気持ちはある。
だが……。
「きっとサバス様のような侯爵の人間が仕事を提供してくれれば、楽してても一気に稼げるような仕事を提供してくれると期待しているんだ」
「あぁ!?」
ついに私の堪忍袋の尾が破裂した。
もう無理!!
「え? 何を怒っているんだ?」
今までも婚約破棄されたり、ダリアのコンサートチケットをすり替えたりキレる要素は色々とあった。
私のことならまだ良い。
だが、サバス様のことをなんだと思っているのだこの男は!!
「もう無理!! オズマ! もう私の元に現れないで頂戴!!」
どうせ捕まるのだから現れようとしても無理だとは思うけれど。
「待ってくれ! ミーナが無茶な提案をしてきたり、わがままに付き合っていて俺の心はボロボロなんだ。もし今ライアンに愛想を尽かされたら……」
「は?」
「だから俺のことを好きじゃなくなってしまったら……」
「まさか、私が今もオズマのことを好きだと思っているとでも!?」
「違うのか!?」
どうしてこの男はこんなにも驚いた表情をしているのだ……。
婚約破棄された段階で愛情というものはすでに枯れていたんだけど。
幼馴染だからかろうじて繋がっていただけなんですが……。
「どこまでもポジティブな男ね。今後の人生もそのポジティブさを生かして償うことね」
「いやいや、俺にはライアンが必要なんだ。最近ようやく理解できた。だから、ミーナとは離婚するからライアンよ、どうか俺を捨てないでほしい」
「いえいえいえいえ!! 無理だって! 私にはすでに愛するお方がいるので。たとえ意中の方がいなかったとしても、再びオズマに接近することはないと思うけど」
ハッキリと伝えておくことにした。
このポジティブオズマにはこれくらい絶対にあり得ないと伝えたほうが良さそうだった。
「わかった」
「なら良かった。じゃ、そういうことで」
私はすぐに馬車に戻ろうとしたところ、すぐにオズマの声が聞こえてきたので再び振り向かざるをえない状況になってしまう。
「ライアンの性格だったらどうせすぐに飽きられて捨てられるだろうからな。俺はその時再び声をかけることにするよ」
「確かに私の性格には難がいくつもあるけど、サバス様はそんなことするお方じゃないので!!」
表情には出さないように我慢したが、最後に私はオズマのことを思いっきり睨みつけた。
そして、すぐに馬車へ乗り込み早急に出発させた。
「待ってくれ、ライアン!」
馬車の外からオズマの声が聞こえてきた気がするが、いちいち止めるつもりもない。
これが、幼馴染の声を聞く最後の言葉だといいんだが。
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