これが私の兄です

よどら文鳥

文字の大きさ
上 下
7 / 28
婚約破棄編

7 コレの婚約者

しおりを挟む
「リーレル殿も顔をあげたまえ」

 公爵に命じられ、顔を声の主に向ける。
 顔立ちが整い、全身が王服で覆われ、非の打ちどころが一切ない完璧な容姿だ。
 お会いするのは舞踏会で初めて挨拶したとき以来である。

「ご無沙汰しておりますベルモンド公爵」
「うむ、舞踏会では建前上挨拶しかできずすまぬ。その上、婚約者を激怒させたようだが」
「お気になさらず。彼とは別件で先日婚約破棄されたので、何も関係がありませんので」
「ほう!」

 何故かベルモンド公爵は喜んでいるように見えた。
 無理もないか。
 マクツィアの悪評が王族まで轟いてもおかしくはない。

「ところでレオン殿たちは何をしていたのかね?」
「ウィリアムのところへ向かうところだった。ちょうど良いタイミングで会えたというわけだよ」

 コレはあっさりと嘘をついたよ……。
 本当は買い物に行く予定だったでしょう!
 今更嘘ですと言ったらお兄様の建前も悪くなるので公爵には黙っておく。

「左様か。ならば乗るが良い」
「助かる。ほら、リーレルも行くぞ」
「え!? 私がこのような煌びやかな馬車に……」
「構わぬ。リーエル殿も乗りたまえ」

 あぁ……私も共犯のようなものだな。
 まさか公爵に嘘をついて馬車に乗せていただくことになるとは……。

 馬車の中で、お兄様は何事もなかったかのように平然とした態度でくつろいでいた。
 一方、公爵はやたら私の方をジロジロと見てくる。
 私は緊張しているので目線をなんとか反らし、カーテンを見るようにしていた。
 だが、私の気持ちにお構いもせず、アレが口にした。

「ウィリアムと話せよ」
「お兄様!?」

 このような機会など、そうそうあることではない。
 私の本音をお兄様が代弁していたとも言える。
 本当は話をしたい。
 だが、私はお兄様のように堂々とした態度ができないのだ。

「申し訳ございませんベルモンド公爵! 兄と違いあなたのような高い身分のお方と接することに慣れていないもので……」
「気にせずともよい。私のことはレオン殿同様、気軽に接して構わぬ」
「いきなりハードル高すぎますよ……」

 一連のやり取りで、お兄様とベルモンド公爵との間には何かしら深い関係があるだろうと予想した。
 そうでなければ、ベルモンド公爵がお兄様のことをこれほど温厚にもてなすことはないはずだ。
 だからといって、私は公爵相手に敬語を崩すことなどできない。

「レオン殿よ、リーレル殿に例のことをまだ伝えていないように思えるが、言わぬのか?」
「むしろ、言って良いのか? まだ早いだろ」
「構わぬ。いずれ時が来れば知ることとなる。それに、リーレル殿の気持ちも理解はしているつもりだ。いきなり王族の家に招待されることなど本来はあり得ぬこと。何故私とレオン殿が親しい関係かも説明が必要だろう……」

 私が思っていたことを、公爵が全て代弁してくれた。
 それに、二人には何か秘密があるようだし……、って……!

 まさか!?

 お兄様とベルモンド公爵は……そういう関係だったのでは!?
 あくまで私の想像だが、考えれば考えるほど、そうだとしか思えなくなってきてしまった。

 お兄様は貴族界では女性からも男性からも人気がある。
 顔立ちから、よく女性だと勘違いされることもあるくらいだし、見方によっては可愛い。
 ベルモンド公爵も王族でありながら未だに婚約の話を聞いたことがない。
 お兄様の婚約相手は、私たち家族に対して未だに名前も教えてくれないし、会ったこともない。

 全ての辻褄が揃っているし……あり得る!

「……知りたいです。何か伏せているのであれば、今すぐにでも!」

 先ほどまで公爵に対して喋ることもままならなかったが、妄想が現実の可能性がわかった途端に、緊張から解放された。
 むしろ、別の意味で緊張している。

「ふむ、レオン殿は構わぬか? それとも自身の口で教えるか?」
「ウィリアムから伝えてくれ。俺よりも公爵のアンタが言ったほうが真実味が高いだろうし」
「承知した」

 私の顔を見ながら真剣な表情をしていた。
 公爵の容姿は、私のドストライクなのでお兄様が手に入れるなんて少々悔しい気分だが……。

「実は、婚約をしているのだ」
「やはり!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄の原因は私の浮気」だなんて許せません!浮気しているのはあなたの方じゃないですか!

法華
恋愛
ソフィアは婚約者から、自分が男性と手を繋いでいる写真を見せられ、婚約破棄を言い渡される。しかし、その写真はフェイクで、浮気していたのは婚約者の方だった。彼とその浮気相手が企んだ陰謀に、正義の鉄槌が下される。 ※反響ありましたら連載化を検討します。よろしくお願い致します。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

旦那様、私は全てを知っているのですよ?

やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。 普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。 私はそれに応じました。 テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。 旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。 ………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……? それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。 私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。 その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。 ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。 旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。 …………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。 馬鹿な旦那様。 でも、もう、いいわ……。 私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。 そうして私は菓子を口に入れた。 R15は保険です。 小説家になろう様にも投稿しております。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す

金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。 今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。 死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。 しかも、すでに王太子とは婚約済。 どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。 ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか? 作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。

長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

夫が大人しめの男爵令嬢と不倫していました

hana
恋愛
「ノア。お前とは離婚させてもらう」 パーティー会場で叫んだ夫アレンに、私は冷徹に言葉を返す。 「それはこちらのセリフです。あなたを只今から断罪致します」

処理中です...