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37 何か描いてみますか?

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「なかなかいい環境だな」
 ロック殿下が来るからと言って、仕事部屋に関しては一切片付けをしていない。作業の状態を常にキープしている。
 他人から見たら散らかった汚い部屋だ。
 だが、この状態がベストなのだ。

「絵具踏んだら足が汚れるので気をつけてくださいね」
「服のデザインを描くのに絵具を使うことがあるのか?」
「はい、これは直接ではなく、周りの背景を描くときに使っているんです」

 説明を始めると、ロック殿下は興味を持ってくれたようで、『ふむふむ』と、首を縦に振り真剣に聞いてくれている。

「避暑地や極寒地からの依頼も受けるようになりました。どうしてもその場所をイメージした背景が必要なんです。気候や環境が違う地域では何色がいいか、どういう形が望ましいか。実際に簡単な背景を書くことで閃いたりすることもあるので」

「ほう、ますます興味深い。遠回りのようでも確実に結果が出ている者の発言は勉強になるな」

「ロック殿下もファッションがお好きなのですよね? 何か書いてみますか?」
「いや、遠慮しておこう。私はあくまでシェリルさんのデザインした服が楽しみなのだ」

 ロック殿下のファッション専用部屋を見せてもらったから、興味を持ってくれているのは分かる。
 とても嬉しいし、光栄だけど、言われてみるとやはり恥ずかしかった。

「それにレムという女にも同じように書かせたのだろう? 私はあの女の二の舞になりたくはない」
「それは絶対にないと断言しておきます」

 レムさんの場合は描いた絵を自画自賛しすぎで、更に謎の自信を持っていた。おまけにいきなり商品化してしまって勝手に自滅しただけだ。

 殿下が同じことをするとは考えられない。
 むしろ、余程酷いデザインじゃない限り、商品化させたい気持ちがあるくらいだ。
 王子殿下がデザインした服というブランド力はきっと強い。

「服のデザインは遠慮したいが、せっかくだから何か絵でも描いてみよう。紙をいただけるか?」

 私はにこりと笑い、せっかくなので契約するとき用の、分厚くしっかりした紙を渡した。

 絵を描くと言っていたので、絵具と筆ペンの両方を渡しておく。

 私も仕事が残っているので、断りを入れてデザインを描きはじめた。


 無言の時間が流れ、お互いに作業をしている。
 気まずいという雰囲気は全くないし、むしろ居心地がよかった。
 いつもより作業が早い。

「よし、描けたぞ!」
「はやっ!」

 これってレムさんのときのデジャヴじゃないだろうな。少し心配になってきたぞ。

「……見てもよろしいでしょうか?」
「恥ずかしいな……」
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