上 下
20 / 23
第二章 貧民街編

20 【視点】策略

しおりを挟む
 私の娘だったシャインは幼い頃の段階でなんでも言うことを聞くような人間になるよう育てた。
 シャインは、私の政略に対し全てにおいて従ってきたので、利用の価値が高かった。
 ブロンダとの結婚も成立させ、あとはブロンダの方で上手く政権を操れるようにしておいたのだが、事件が起こった。

 私が最も期待しているブロンダがシャインのくだらぬ陰謀で捕まってしまったのだ。
 そのせいでシャインは離婚となり、立場上私にも信頼的な立場が危うくなってしまった。

 ブロンダのやった行為など、バレぬように行っていればなんの問題もない。
 些細なことで私の計画を潰してきたシャインを許せるものか。

 更に、政権利用として育てた道具シャインが反抗までするようになった。
 やはり貧民街に追いやり、そこで勝手に自滅してもらうという判断は正しかったのだろう。
 加えて現在、国王という絶対的権力をもつ兄上に更なるお願いをしに王宮へきた。

「ほう、ではシャインに領主としてではなく土地そのものを譲渡。更に貧民街そのものを我がグレイ王国から分断し、シャイン一人に全てを任せてしまおうと考えているのだな?」
「えぇ。その方がよろしいかと。貧民街など我が国のお荷物のような地」
「だが、あの地には資源がある。それまでも捨てようというのか?」

 王都にはない綺麗な川、それから森林といった資源はあるのが確かだ。
 遥か昔は貧民街の地が王都だったと聞く。
 だが、今となっては成れの果て。
 現王都が栄えているのは間違いない。

「所詮資源があったところで、王都で利用してこなかったじゃありませんか。むしろ、金すら国に治めることができないような愚かな者達などをこの国に置いておく方が無駄かと」
「確かにな……。私としても貧民街においては悩んでいた。だからこそエフティーネ伯爵に任せ、管理も自由にさせていたのだが。まさか慰謝料でわざわざ貧民街をもらうとは驚いたぞ」
「すべてはシャインを追放し、全ての責任を押し付け貧民街ごとこの国のものではなくすためです」

 なんの利益にもならないような地を持っているくらいなら、管理が面倒なので復讐の材料に利用した方がいいだろう。
 だからこそ、私はあえて伯爵からあの地を奪い、シャインごと消すという選択を選んだ。

「現段階で貧民街の土地はシュヴァルムに所有権があり、生かすも殺すも任せる。お前が望みいらぬと申すのならば、シャインに全てを押し付け、国としても断絶することを認める」
「ではそれで!」
「わかった。これでひとまず貧民街問題は解決できたので……表では言えぬがシュヴァルムよ、感謝する」

 兄上は私と似たような考えをもっている。
 貧民街の領地管理をシャインに任命することも容易かった。
 あの時は周りに厄介な者達がいたから、発言を領地管理に留めておいた。

 だが、兄上と二人でいる今ならば全てを話せる。
 ここまであっさりと話が進むということは、兄上もシャインのことを相当嫌っていたに違いない。

 ブロンダは兄上とともに期待していた人材だった。
 口には出さないが、今回の騒動でシャインに対する考えも変わったのだろう。

 数日後、貧民街一体の土地はシャインに全て譲渡、国からも国交断絶となり、私たちが関与する必要が全くなくなった。
 これで気兼ねなく王都を発展できるようになったのだ。



 だが、さらに月日は流れたころ、風の噂で妙なことを聞くようになった。

「また王都の人口が減っただと?」
「民衆はなぜか貧民街を目指して国民の権利を放棄しているようです」
「ばかな……あのような地へ行っても何もならぬというのに……」

 兄上と一緒に話を聞いていた私も、二人揃って首を傾げながら宰相からの報告を聞いていた。
 さすがに民から徴収する税が高すぎて嫌気が指したのか……。
 いや、いくらなんでもそれだけでわざわざ貧乏な地へ行くとも考えづらい。

 兄上と相談の上、貧民街へ調査団を送ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

「離婚しても構いませんけど、あなたはその人に殺されますよ」

夜風
恋愛
ロクティア王国の騎士団長アリウスの妻タリアは、突然夫から離婚を突き付けられた。 女性の影があったとはいえ、まさか離婚まで考えているとは思っていなかった タリアは混乱する。 するといきなり大量の記憶が流れ込んできた。  ――と同時に思い出す。 タリアのこの人生が2回目のものであると。 完全に思い出したタリアは、夫の使者に向かって言う。 「離婚しても構いませんけど、あなたはその人に殺されますよ」 ※不定期更新。 ※短編の予定でしたが、10万文字を超えてしまったので長編にタグを変えました。

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」 わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。 派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。 そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。 縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。 ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。 最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。 「ディアナ。君は俺が守る」 内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

処理中です...