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「あまーーーい!」
「よし、笑顔になったな!」

 生まれて初めて食べるヤキイモに感動した。
 熱くて冷ましながらでないと口に放れないが、想像していたよりもフカフカで、口の中に甘さが満遍なく広がってくる。

 公爵令嬢としての立場を考えることなく、無我夢中でヤキイモをかじっていた。はしたない。

「バレンさんも食べますか?」
「な!? いやいや……流石に……その……。それはアエルが口にしたものを俺がかじってしまえば……」

 バレンさんの顔が真っ赤になっていた。
 完璧なお人柄だと思っていたが、こんなところで普段見せない表情をしていて……可愛い。

 私は遠慮しているバレンさんの口元にヤキイモを近づけた。

「バレンさんなら別に大丈夫ですから。おいしいですよ」
「関節キ……わ! 何をするっ!?」

 バレンさんが、ひとかじり口の中に入れた後、私もすぐに口の中に入れた。
 あれ……さっきより甘味が増した!?

 すっかりデートに無我夢中なって満喫していたのだが、現実は甘くはなかった。


「あー! ニュースに出てた公爵令嬢様だー。ママー、お姫様が焼き芋食べてるよー」
「こら! 気安く話しかけてはいけません! あぁ……息子が無礼を……大変申し訳ございません!」

 通りすがりの民間人と思える五歳に満たないくらいの男の子に声をかけられ、一緒にいた母親はすぐに叱責をして私たちに跪き謝ってきた。

「ご……ご機嫌よう」

 私がヤキイモを頬張っているところを見られてしまって恥ずかしい気持ちが強かったので、言葉が思いつかなかった。

「ど……どうかお許しを……申し訳なく──」
「あ、どうかお気にせず顔をあげてください。今日は私もプライベートですし」

 母親は不思議そうな顔をして立ち上がった。
 たとえ子供だとしても、公の場で今のような発言をしてしまったら、おそらく周りの人間が黙っていないだろう。

 だが、無邪気な子供に悪気はないことくらいはわかるし、気にすることでもない。

「ねー、令嬢様ー、デートなの?」
「こら!! あなたって子は……」

「ふふ……構いませんよ。どうか怒らないであげてください。そうよ、お姉ちゃんはデートしてるの。君もいつか好きな人とこういう時が──」

「僕は絶対に出来ないもん! 僕の好きな女の子は偉い人だから、その子に近づくなって言われてるんだもん……。令嬢様が羨ましい」

 急に男の子は叫んで泣き出してしまった。

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