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 婚約破棄の話をするのはもう少し先。
 今回はブルラインと我慢して会っている。とは言ってもこれが最後だからそこまで苦痛ではない。
 だが、ありえない頼みを言われて胃が痛くなってきた。

「はぁ……お断りします」

 私にはため息とがっかり感しかない。
 先日バレンさんが言っていたことがほぼ的中していたのだ。

「なんでだアエル。もうじき私と結婚することになる。そうしたら財産も共有、一萬紙幣を借りたところで……いや、たとえ恵んで貰ったとしても結局は変わらないだろう。つまり君の財産は私のもの同然だと思うのだ」

 この国では結婚したら、結婚後に手に入れた資産や物品は共有物になるという決まりがある。つまり、結婚前の資産は関係ないのだ。
 このような決まりごとは、貴族たるもの絶対に教育を受けているはずなのだが……。

「ブルライン様、結婚以前の資産や財産は共有物にはなりませんよ」
「え? そうなのか?」
「もしそうなら、お父様に買っていただいたティーカップや本、そういう物まで全て共有物になってしまいますよ。全て新居に運ばなければいけないことになりますね」
「そう言われてみれば……」

 気持ちが冷めきった状態で改めて話してみると、ブルラインのバ……いえ、知識のなさがよくわかる。

「そもそも、なぜそんなにお金を借りようとするのですか? そんなにお金に困る家庭とは思えませんし、ブルライン様が浪費癖があるとは思えませんが……」
「いや……その……どうしても必要で……」

 どうしてお金がないのかは知っている。でも、どういう反応をするのか興味があったので鎌をかけてみたのだ。

「正直に話してくだされば考えてもいいですけど」
「本当か!?」
「はい」

 しばらくの間無言が続き、ようやくブルラインは口を開いた。
 だが……。

「実は私の幼馴染のキャンベルがな……」
「はい……」

 まさか正直に全てを打ち明けるというのだろうか。
 だとしたらそれはそれでまずい。今日婚約破棄を告げることになってしまうのだが。

「借金を抱えているそうでな。力になってあげたいんだ」
「ん!?」

 なんという卑怯なことをいうのだこの男は。
 まさかの自分は優しいアピールと、幼馴染想いなんだというアピールを同時にしてきた。
 驚きのあまりつい変な声が出てしまった。

「まぁ、大変ですね。確か、キャンベルさんはレウジーン騎士爵の娘さんでしたっけ?」
「あぁ」
「ではすぐにでも、彼女の家に行きご両親に援助を求めるべきかと」
「いやいや、ちょっと待ってくれ……なんでそうなる?」

 わかりやすい。ブルダインの顔からはっきりと嫌な汗が流れている。

「貴族たる者、金銭面もしっかり教育すべきかと。それに私たちが貸すのではなく、まずはご両親に相談するべきでは? 貴族に限らずだと思いますが」
「それは酷いだろう。幼馴染として力になりたいんだ」
「ですから、私も同伴しますよ。ご両親に一人で告白するのは辛いでしょうし」
「う……うむ……」

 本当に行くことになったら私が辛いので、探りはここまでにしておくことにした。
 ブルラインの嘘と卑怯さがわかったので私はもう何もいうことはない。

「まずは相談してみてください。私としては二人で会われるのを良くは思いませんが」
「あ……あぁ」

 この日のブルラインはこの後、ほとんど無口だった。
 無駄なような時間がどんどんと過ぎていき、ようやく別れの時間が経ってきた。
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